第19話 正体をあらわす者

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 残り時間――8時間59分  


 残りデストラップ――9個


 残り生存者――10名     

  

 死亡者――2名   


 重体によるゲーム参加不能者――1名



 ――――――――――――――――



 ヒロキ以外のゲーム参加者全員の目が、ある一点に注がれた。視線の先にいるのは、白のジャージの上下に金髪ボウズ頭をした、20代前半の男である。


 男は自らヒロキと名乗ったが、それが偽名であることが、今こうしてテレビを通じて明らかになった。


「なるほどな。だから、さっきからずっとテレビを気にしていたのか。答えが分かれば単純だな」


 瓜生が背中を向けたまま微動だにしないヒロキ――改めヒロユキに言う。


「だったら、どうだというんだ?」


 背中越しにヒロユキが答えた。腰の後ろに回した右手はゴソゴソと動かしている。


「なんで犯罪者がこのゲームに紛れ込んでいるんだ?」


「オレが答えると思うか?」


「言いたくないのならいいさ。それでこれからどうすんだ?」


「悪いが状況が変わっちまったからな。どうしようか迷っているところさ」


「俺としては、さっさとこのホールから出て行ってもらえるとうれしいんだけどな」


「おいおい、さびしいこと言うなよ。さっきまでオレのことを必死に引き止めていたじゃねえかよ。参加者全員で頑張ろうって話だったろ?」


「それこそ状況が変わっちまったからな。この状況で俺たちがお前と協力出来ると思うか?」


 瓜生とヒロユキの会話は着地点を見出せないまま続く。


「じゃあ、オレにどうしろっていうんだ?」


「そうだな。お前がさっきからずっといじっている、その背中のオモチャをそこの窓から外に捨ててくれたら、とりあえず話し合いを再開出来ると思うけどな」


「さすがにそれはムリってもんだろう。こいつはオレにとっての切り札だからな」


 ヒロユキはそう言いながら、ゆっくりと振り返った。同時に背中に回していた右手を体の正面にもってくる。


 誰とも知れないが、ホール内に息を呑む音がいくつかあがった。ヒロユキの右手に握られていたモノ――それは黒く輝く拳銃だった。


「じょ、冗談だろう……」


 スオウは我知らず言葉をこぼしていた。


「まいったことになったな」


 円城がスオウと同じようにつぶやく。


「これで計画が変わっちまったぜ。ここにしばらく隠れて、警察の目から逃れるつもりだったんだけどな。まさかこんなに早く正体がバレちまうとは」


 口ではそう言いながらも、ヒロユキの顔にはニヤニヤ笑いが浮いている。


「こうなったら、お前たちには人質になってもうらうしかないみたいだな」


「お前は計算も出来ないのか? よく見てみろよ。一対九なんだぜ」


 瓜生がヒロユキを睨みつける。言葉からは恐怖や緊張感はうかがえない。


「はあ? なんのことだ?」


「俺たちとお前との戦力差だよ」


「ああ、そういうことか。だが、その計算は間違ってるぜ。こっちにはコレがあるんだからな。コレがあれば、戦力差は『じゅう』対九っていったところだな。――『じゅう』だけにな」


 人間性を疑うようなブラックジョークを笑う者はいなかった。ヒロユキ自身以外は。


「なんだよ、急にダマっちまって。人がせっかく最高のジョークを言ってやったのに」


 ヒロユキはヘラヘラと笑いながらも、目だけは鋭く輝かせている。


「警察官から拳銃を奪うくらいだから、よっぽどのバカだと思ったが、想像以上のバカだったみたいだな」


「なんだとっ! もう一度言ってみろっ! その口に銃弾を撃ち込んでやってもいいんだぜ!」


「そいつはムリだろうな」


 ヒロユキの恫喝にも一切動じることなく、瓜生が冷静に応じる。


「いいか、お前が大事そうに握っているのは『ニューナンブM60』。一般的なおまわりさんが携帯している銃だ。装弾数は五発。最初の一発目はお前が使ったから、残りは四発。四発の銃弾で、九人の人間をどうやって倒すんだ?」


「何を言うかと思えば、そんなことかよ。お前だけ撃てばいいだけだろう?」


「やっぱりお前はバカだな。一発目を撃ったところで、すぐに他の参加者がお前を押さえ込んでくれるさ。つまり、最初からお前に勝ち目はないんだよ」


「なんだと……」


 拳銃を前にしても一切冷静さを失わない瓜生を見て、ヒロユキにも焦りが生まれたようだった。


「ほら、さっさとそのオモチャをこちらに渡すか、窓から投げ捨てるか、どっちかに決めろよ」


「くそっ……調子にのりやがって……」


 言葉だけは強気のヒロユキだったが、顔にはびっしりと脂汗が浮いている。


「調子にのっているのはお前の方だろう。そんなオモチャを持ったぐらいで王様にでもなったつもりか?」


「――いいだろう。そこまで言うなら、最初にお前を撃ってやるよ!」


 銃口が瓜生に向けられた。


「瓜生さん、そんなに挑発しなくても――」


 銃の恐怖からくる金縛りが解けたスオウは声を出した。


「大丈夫だ。君はそこを動くんじゃないぞ!」


 銃口を向けられているにも関わらず、平静さを保っている瓜生を見て、スオウは驚きよりも先に訝しさを感じてしまった。


 誰でも銃を向けられたら焦るなり、恐怖におののくはずだ。だが瓜生はそんな感情とは無縁に見える。


「いいか、オレは本気だぞ! 俺は今モーレツに腹が減っていて、スゲー気が立ってるんだからな! 本当に撃つからな! 覚悟しろよ!」


「だったら、ひとつ教えてやるよ。ズブの素人が銃を握ったところで、そう簡単には弾は当たらないんだよ。今だって銃口が震えているぜ。そんなんじゃ、天井をぶち抜くのが関の山だな」


 瓜生がさらに冷静に指摘する。銃を持っているのはヒロユキなのに、瓜生が精神的に優位に立っているように見えるくらいだ。


「ほら、その銃をこちらによこしな」


 瓜生がごく自然な足取りでヒロユキに近寄る。


 そのとき――。

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