第5話 ゲームルール説明
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残り時間――13時間。
残りデストラップ――13個。
残り生存者――13名。
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テレビに映し出されたのは、真っ白い壁を背にして立つ男の姿だった。『死神の代理人』こと――紫人である。
「お集まりのみなさん、こんばんは。『死神の代理人』である紫人です。全員欠けることなくお集まりいただいたみたいで大変感謝しております」
サラリーマン然としたスーツ姿と、その馬鹿丁寧な口調は相変わらずである。
「今宵、みなさまがたには、自らの命をかけた壮大なゲームに挑戦していただきます。そのゲームの名は――『デス13ゲーム』」
初めてゲームの名称を聞かされた参加者たちの口から、声にはならない小さなどよめきが起きた。
「今から『デス13ゲーム』についてご説明をいたします。――『デス13ゲーム』のルールは単純にして明快であります。これからこの病院で、13時間無事に生き残るか、あるいは13時間の間にランダムに発動する13個のデストラップを無事にすべて回避して生き残るか、あるいは13人の中で最後の1人として生き残るか、以上の三つのルールの内、どれかひとつでもクリアした者が勝者となります。つまり、13時間が経過していなくとも13個のデストラップをすべて回避した時点で、あるいは、13時間が経過していなくとも生き残った参加者が最後の1人となった時点で、ゲームは終了となります。それと、これは言うまでもないことですが、外部に助けを求める行為は全面禁止とさせていただきます。──以上で簡単ではありますが、ゲームの説明は終わりとさせていただきます。では、なにかご質問のある方がいたら、どうぞご遠慮なく申し出てください。教えられる範囲内のことであれば、こちらは包み隠さずすべてお話しします」
「ゲームのルールはだいたいのところ分かりました。ただ、あなたの言ったデストラップというのが分からないのですが?」
参加者の中で自然とリーダー格になっていた五十嵐が、最初に口を開いた。テレビに向かって話しかけると、部屋のどこかに隠しマイクが仕込まれているのか、画面内の紫人が答える。
「デストラップというのは、文字通り『死の罠』です。デス13ゲームは命をかけたゲームですから、トラップにかかった者はかなりの高確率で死ぬと思ってください」
「死ぬ……! いや、確かに命をかけたゲームであるとは聞かされてはいたけど……」
五十嵐が言葉に詰まる。顔色も冴えない。
「で、そのデストラップがどんなものなのかは、もちろん俺たちには教えてくれないんだよな」
五十嵐に代わって、瓜生が話を再開した。
「ええ。それを話してしまったら、ネタバラしになってしまいますから」
「でもよ、俺たちが相手をするのは、本物かどうかは別として、死神様なんだろう?その死神様が用意したデストラップを、俺たちみたいな人間ごときが回避出来るものなのか? それが出来ないと、このゲームは始めから結果が見えているようなものになっちまうぜ」
「そうよ。ただの人間が死神を相手にしてに敵うわけないじゃない!」
以外にも大きな声を出したのはミネだった。この中では一番体力的に不安がある参加者であることは間違いない。
「瓜生さんと小金寺さんのご指摘はごもっともです。ですから、デストラップにはひとつ参加者側に対して、アドバンテージが設けられております。参加者側に有利な点を示すことによって、死神との絶対的な差を無くす措置があるということです」
「それって具体的にどういうことなのさ?」
瓜生が先を促す。
「デストラップが発動する際には、その前に必ずそれと分かるなんらかの『前兆』が起こります。その『前兆』を見逃さないことです。それによってデストラップへの前準備が出来るというわけです」
「なるほどね。つまり、赤信号の前に点灯する黄信号みたいなものってことか。デストラップが発動する前には、必ず注意を喚起する黄信号に似た前兆が起こるってわけだな」
「はい、そういうことになります」
「たしかにそれならば、こちら側にもなんらかの対処の仕様があるわけだ」
瓜生もようやく納得したらしい。
「では、他にご質問はありますか?」
テレビ画面の中で紫人が、参加者全員の顔を見回すように頭を左右に振る。
「デストラップは死神が起こすものと言ったが、物理的な限界はあるのかな?」
ソファから立ち上がって質問したのは、あの異彩な雰囲気をまとった白髪の男だった。
「物理的と言うのはどういう意味でしょうか?」
「相手が死神だとしたら、突然なにも無かった空間に炎を起こしたり、突然バケモノに襲われたり、そんな風にされたら、いくら前兆があったとしても、こちらとしては防ぎようがないと思ってね」
「そういう心配はありませんので安心して下さい。デストラップはあくまでも現実世界における物理法則にのっとり発動いたします。突然ドラゴンが現われて、参加者が食べられてしまってゲーム終了、というような理不尽なことは起きません。仮に、突然炎が生まれたとしたら、そこには炎を生み出すだけのなんらかの要素があったときだけです」
「いいだろう。その言葉を信用することにするよ」
白髪男はそれで満足したのか、ソファに座り直した。
「では他にデストラップについてのご質問はありますか? 無いようでしたら、デストラップ以外の質問を受けますが――」
「はい。いいかな」
スオウは教室でもないのに挙手をした。
「どうぞ。どのようなご質問でしょうか?」
「勝者の報酬について詳しく聞きたい。あんたはおれに命をかけたゲームに勝利すれば、妹の命を救えると言ったが、それは間違いないんだよな?」
「はい。前に言ったことに間違えはございません」
「ゲームに勝利したら、すぐに助けてもらえるのか?」
「はい、準備が整い次第、すぐに実行します」
「分かった――」
スオウが納得しかけたとき、女性の声が割って入ってきた。
「私もどうしても聞きたいことがあるの!」
今までテレビの画面を食い入るように見つめていた女性が、テレビが置かれた壁際まで駆け寄っていく。自己紹介がまだ済んでいない女性の内の1人である。年齢は20代半ばくらい。体のラインに余裕を持たせたような、ゆったりとした上品な花柄のワンピースを着ている。
「命を救えるということは、もちろん、体の怪我や障害も治してくれるって理解していいの?」
「はい、大丈夫ですよ。敢えて詳細に話すことはしませんが、ここにいるみなさんが望むことについては、それぞれ調査済みですので、間違いなく実行出来ると断言いたします。もちろん、それにはゲームの勝者になることが絶対条件ですがね」
「分かりました……」
女性は理解したのか、お腹の辺りをさすりながらテレビから離れていく。
「そういえば勝者の人数に上限ってあるの? さっきのルール説明だと、13人全員が生き残る可能性もあると思うんだけど」
イツカがさらっと話に割り込んできた。
「あっ、それを忘れていました」
「これって、すごく重要な事項だと思うんだけど」
「はい。あの……すみません」
まるで上司と部下のような2人のやりとりである。
「勝者の上限ですが――13人です。つまり、みなさん全員が勝ち残る可能性もあるということです。その場合はもちろん全員の望みを叶えることが出来ます」
「13人が協力してゲームをクリア出来たら、死神の負けゲームっていうわけね」
「はい、そうなります」
「じゃあ、わたしも頑張らないと」
まるで緊張感が感じられない声でイツカが言う。
「では、そろそろゲームを始めることにいたしますが、みなさん準備の方は大丈夫ですか?」
ホールにいる全員に緊張感がはしる。
スオウは知らぬうちに両手の拳を強く握り締めていた。
「それではただ今から、命をかけた『デス13ゲーム』を始めます。これ以降の連絡はすべてわたくしからのメールのみになります。では生きていらっしゃれば、ゲーム終了時にまたお会いしましょう。わたくしはこれで去ります。死神は特等席でゲームを観覧していますので、みなさまのご活躍を期待していますね」
紫人の言葉が終わると同時に、テレビの画面が元のニュース映像に切り替わった。
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