第148話 最後の七つの大罪人
前回から時系列は少し巻き戻る。北山達が本隊の元にたどり着く二時間以上前。
――西ヒカリside。
ヒカリ、須和、南城の途中合流組。
南城はピエロンこと皇の元に向かい、ヒカリと須和の二人は魔族の集団に取り囲まれていた。
※133話からの場面。
時間稼ぎ要員と思われる魔族達を蹴散らした二人は、まずどうするか考える。
元々は周防隊と合流する手筈だった。しかし、南城を放って置くわけにもいかない。
「全く面倒な……」
ため息をつくも、とりあえず南城の元に向かう事に。
「――って思ってたんだけどね。誰?」
ヒカリは魔族の気配を感じていた。須和は全く気づいていなかった様子で、キョロキョロと辺りを見回す。
木陰からゆっくりと、女の魔族が姿を現す。面倒そうに、あくびしながら。
「どこの所属?」
「……帝王軍。七つの大罪人の嫉妬、マユラ」
「なんだ」
七つの大罪人か。ヒカリは警戒して損した。そう言いたげだった。
天界四将軍で、白虎たるヒカリにとって、部隊長程度恐れる必要などない。
マユラは目をこすり、ヒカリをよく見る。
「あれ? あんた、確か女王のところに来てた、侵入者」
「女王? あんたあそこにいたの? 見覚えないけど……」
※119話、120話参照。
「シャドが、ベイルって奴、匿ってたから、いただけ」
「シャド? ベイル? え?」
ヒカリにとっては初耳な事だった。
「ベイルがなんであそこに居たのかわからなかったけど……シャド……」
シャドの事は情報にある。
新たな帝王六騎衆の
彼の父、火人の仇の可能性がある魔族と。
かの有名な帝王軍の天界襲撃事件、南城門防衛戦。その戦で戦果をあげた魔族なのだろうと、ヒカリは推測していたが……
(ベイルを保護してたって事? なんのために? 悪党じゃないってこと? で、でも神くんのお父さんを……)
いろいろな思考がグルグルと回る。
「あのベイルって奴、バカだよね」
マユラの発言にわずかに反応するヒカリ。しかし気にもせずマユラは続ける。
「あのままシャドが戻ってくるまで部屋にいたら死なずにすんだのに、あんたら助けに行ってくたばった。バカ」
容赦ない罵声。ヒカリはくすりと笑う。
「……そうね。確かにあいつはバカね」
同意した。……しかし、どことなく怒ってるようにも見える。
「生き延びたのに、わざわざワタシ達を助けて死んだんだもの。命を大事にしないバカ。でも一番のバカはね」
マユラがまばたきした瞬間、ヒカリの姿が消えていた。
「仲間見捨てて逃げ帰ることしかできなかったワタシ自身なのよ!」
音速の速度に対応できず、車に撥ね飛ばされたかのようにマユラは回転しながら吹き飛んでいった。
決まった。そう思っていたが……
「痛い」
マユラは感情のこもってない、棒読みのようにそう言った。
彼女の体からは血が流れてる。
効いてないわけではない。
まるで神邏のように、痛みを感じないかのよう。
いや、そういうわけではない。
一応痛いとは言っているからだ。おそらく、感覚がいくらか鈍いのだと思われる。
「ずるいな~四聖獣。ずるいな~武器聖霊。ずるいな~その身長」
「は? 身長?」
四聖獣なことと武器聖霊がずるいというのはまだわかる。だか身長がずるいというのはよくわからなかった。
「ずるいな~綺麗な髪。ずるいな~大きな胸。ずるいな~綺麗な顔」
「……ありがと。あんたもかわいいわよ」
「……はあ? 嫌み? 全部、あんたよりあたしは劣化してるのに……」
感情を感じられなかったマユラに怒りの炎が灯ったように見えた。
「それら全部あったら、シャドの役にたてるのに、シャドの一番になれるかもなのに。あんたはもってて……ずるい。ずるいずるいずるいずるいずるいずるい」
マユラの魔力が高まっている事に気づくヒカリ。
「そうか嫉妬!」
マユラは七つの大罪の嫉妬と言っていた。おそらく嫉妬すればするほど魔力を高め、強くなっていく単純な能力をもっているのだろう。
「須和! 能力を……」
須和の未来視を使わせようとヒカリは指示しようとしたが……
マユラの動きが速かった!
即座に須和はマユラに殴り飛ばされてた! その速度はヒカリ並み!
マユラは
未来視は厄介な能力と判断し、先に須和を仕留めにかかったのだ。
須和は不意討ちをくらった影響で気絶。だが死んではいない。
嫉妬したことで戦闘能力は大幅に増大してると見てとれる。
前に倒した八傑衆よりも高い魔力を感じていた……
(どうなってんのよ。大罪人のが格下でしょ? 意味わかんない……)
本来の実力ならマユラは八傑衆には及ばないだろう。
だがヒカリに対し、凄まじい嫉妬の感情を持った。何個も何個も何個も。
その嫉妬の数だけ、マユラは戦闘能力を増大させたのだ。
ゆえに、前に倒した八傑衆以上の力を彼女は手にしていた。
能力を発動できるかには波がある。それゆえに大罪人の座にいたのだが……
このように力を発揮できるなら……
天界四将軍にすら匹敵する!
マユラは全速力でヒカリに迫る! ヒカリはあまりの速度に反応できず……
殴り飛ばされた。
その上飛ばされた方角にマユラは待ち受け、蹴りあげる。
さらに飛んだ方向に……
マユラの高速連撃にヒカリはなぶられる。
「が、くそっ……いい、加減に……」
「四将軍、いや、四聖獣の白虎、この程度なの? つまんない」
マユラは渾身の拳をヒカリの腹部に直撃させる。
「ごはっ!」
ヒカリは
そして地面へと落下。
その衝撃で月のクレーターかのような大きな穴があく。
「弱……いや、あたしが強いのかな? 白虎倒したって言えば、シャド、褒めてくれるかな?」
マユラはどことなく嬉しそうにしている。表情そのものは特に変わってはいないのだが。
「シャドに、褒めてもらえるなら嬉しい。白虎、倒せて良かった」
『勝手に殺さないでくれる?』
マユラはその声に驚愕し、振り返る。
クレーターの穴から痣と血にまみれたヒカリが出てきていた。
マユラは信じられないと言いたげに大口を開けていた。
「嘘、手応え……あった」
「その手応えが勘違いだっての。白虎を……四聖獣をなめないでほしいわね……」
「でも、ボロボロ。また殴りまくって、今度こそ、殺す」
「だーかーら。なめるなって」
ヒカリは目を見開き、笑いだす。
「フフフ。ハハハハ」
「何? 頭狂った?」
「いーわよ。あんた強いしいい実験材料、もとい、試すのにもってこいだわ!」
「試す?」
「そう……」
ヒカリは血にまみれた手で、自らのおでこに触れる。血が額ににじむ……
「四聖獣の覚醒を試すのにね!」
ヒカリの全身に白い魔力がおおい……
「四神転身・状態白虎!」
爆発するように魔力が破裂する!
凄まじい魔力の奔流がマユラを吹き飛ばす。
「わっ!」
マユラは木に直撃し、止まる。
すぐさまマユラはヒカリに視線を向ける。
ヒカリは全身に白い体毛が生えていた。それ以外に大きな姿の変化は見られない。
「まださ、この状態、二割かそこらしかできてないの」
「に、二割?」
マユラは驚愕する。二割のわりにはあまりにも魔力が高い。
次元が違う……
直感でマユラはそう感じた。
「強敵に力を使える……本当にいい実験よ……」
ヒカリの表情には喜びが満ちている。
喜怒哀楽の喜……
「ほら、二割の力がさらに高まるのを感じる……四割……五割」
四神転身の解放がうまくいき、自らの成長を感じられる……
それにより、更なる喜びを感じる……
喜、喜、喜、喜!
四聖獣の力の解放には喜怒哀楽の感情の爆発が一つの鍵……
ヒカリが白虎となったきっかけは喜び。ゆえに、喜の感情が一番解放にうってつけなのだ。
「礼を言うわね。あんたのおかげで……」
「――!?」
「強くなれたわ!」
目にもうつらぬ、音速……
動いただけで衝撃波が舞う。
――そして、
「
ヒカリの雷撃が、マユラを狙う。
マユラは全く反応できず、引き裂かれた。
「かっは……」
五体満足なのが奇跡的だった。
しかし、肩から足にかけて深い爪痕が激しい出血と共に刻まれた。
マユラにもう意識はない。だがかろうじて息はある。
それに気づいたヒカリは追撃を加える。
「とどめよ」
一撃で宙を舞っていたマユラに狙いをつけ、勢いよく飛びかかる。
「死ね」
次の一撃でマユラを爪でバラバラに引き裂く……
――つもりだった。
「――!?」
ヒカリの一撃は防がれた。
マユラではない。マユラはある人物にいつの間にか抱えられていた。
つまり防いだのはその人物。
キラキラと光る前髪の長い銀髪。誰もが振り向く美しい容姿をしたその魔族は……
――シャド。
シャドは自らの刀でヒカリの
ヒカリはただ者ではないと察し離れる。
(だ、誰?)
ヒカリは動悸がすごかった。
心臓の音がよく聞こえる。
シャドの顔を見たとたんにそうなった。
強さに恐れをとか、それだけではない。
(な、なに? どうしたの? 綺麗な顔してるから? そ、それもあるかもしれない……でも、)
ヒカリはその顔に既視感、面影を感じていた。
(レヴァン? 神くん? いや、違う……違うのに……なぜか、二人と似た雰囲気を……なにドキドキしてるのよわたし……)
過去の行方不明の想い人、可愛がってる朱雀の少年。
その二人の面影をなぜかヒカリは感じていた。
「……引いてくれるなら、こちらとしても追撃はしない」
シャドは口を開いた。
マユラを見逃すならこちらも見逃す。そう言いたいのだろう。
「なんで? あなた帝王軍なのよね? わたしは敵よ?」
「帝王軍に属してはいる。だが、好きで属してるわけでもない。帝王に忠誠心もないしな」
事情持ちかと察するヒカリ。
……こちらとしても大暗黒剣入手が主な任務。避けれる戦いなら避けた方が無難。
それにヒカリは感じていた。
挑めば間違いなく負けると……
(帝王六騎衆……いや、それ以上の相手かもしれない……)
ヒカリは武器の爪を下げる。
シャドはヒカリが納得したと判断すると……
「感謝する」
まさかの礼に驚く。
「あなた……本当に帝王軍? 悪い人に見えないけど……」
「見かけで判断するものではない」
「見かけだけじゃ……」
「必要とあれば誰でも殺す。そう生きてきた魔族だ。悪そのものと言っていい」
「でも今は……」
「無意味な殺しはしないだけだ」
そう言うとシャドは、マユラを抱き抱え去ろうとする。しかし、一度足を止め……
「一応名乗っておく。マユラを見逃してくれた恩人だからな。帝王六騎衆、
名を名乗ると、消えるように姿をシャドはくらました。
「シャドって神くんの言ってた……」
ヒカリの顔は少し赤くなっていた……
――つづく。
「シャド……本当に謎ですよね。神邏くんに似た雰囲気?」
「次回 南城春人の意地。あ、次はそちらのサイドですか」
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