第149話  南城春人の意地

 ――南城side。


 一方、ヒカリ達の元を離れ親友の仇たる皇、もとい七つの大罪人、暴食ピエロンを追い返り討ちにあった南城の所……

 ※133話からの流れ。


「ブレボスが、周防隊に負けた!?」


 ピエロンは、配下からの連絡を受けていた。

 七つの大罪人最強たる、傲慢のブレボスなら万が一にも周防隊に負けることなどないと思っていたピエロン。

 ゆえに、驚愕していた。


 通信を切ると、少し焦った様子を見せる。


「バカな……なにやってるんだあいつ……周防なんかに殺られやがって!」

「へっ……ざまあみやがれ」


 地に倒れたままの南城は吐き捨てるように、ピエロンを煽る。


「大罪人なめるなとかほざいてたが、お前こそ天界軍をなめるんじゃねえよ。数々の大戦や苦境を乗り越えてきた正義の軍……お前らごときに、負けるわけ」


 言い終わる前にピエロンは南城の背を強く踏みつける。


「がっ! はっ!」


 あまりの痛みに意識を失いそうになる南城。だが耐えて、歯を食いしばってピエロンをにらむ。


「死にたくなければなめた口、きかんこったね」

「……死が怖くて、戦いなんざできねえよタコ」


 南城の背を踏みつけてる足に、さらに強く力をいれる。


「がっ……ぐ、」

「よう痛みに耐えるねえ。泣きわめいても誰にも聞こえんよ? 助けて下さいとかさ、命ごいでもしたら?」

「誰……が!」

「あ、そ」


 さらに力をいれるピエロン。背が足で貫かれそうな感覚に襲われる南城。


(こいつは! オレ様を生かして何か企んでやがる……まだ殺さないとかほざいてやがったからな)


 その企みがなにかはわからない。

 だが、そこにつけ入る隙があると南城は思った。


(こいつはもう、オレ様に戦う力は残ってないと思ってるはず……)


 南城はズタボロで、足蹴にされても抵抗できない。そんな素振りではそう勘違いしてもおかしくはない。


 だが南城にはまだ多少は力が残っている。


(残った魔力、拳にすべて集中してぶつけてやる……だが普通に殴りかかっても当たるはずはねえ)


 ピエロンが完全に油断する……そのタイミングを待つ。


 その間どれだけ痛めつけられようが、どれだけ煽られようが耐えるしかないわけだ。


(こうして、抵抗できるのは口だけ……そう思わせておけばいい。来る時まで……)


 攻撃する力がないから、口だけ吠えてる。そう思わせるために、度々南城は煽っていた。

 おそらく、ピエロンは騙されてるはず……


(だからといって、隙ついたくらいでどうにかなる相手じゃねえのは百も承知。決定的な何かが起こるまでは動かないほうが身のためだが……)


 だが南城を使い何か企んでる以上、そういつまでも待ってはいられない。


 どうすれば……

 

 ――そんな時だった。


「そうそう、お前の親友のアゼル。あいつ魔族だったんだな」

「……それが?」


 察してはいた。アゼルは何かをずっと隠していた。それを後ろめたく思っていたことも。


 ローベルト配下との一戦、あの時アゼルが出したケルベロスの力。

 ケルベロスは聖獣ではない。魔族のみが従えられる存在……魔獣だった。

 その時、なんとなく察したが何も言わなかった。


 魔族だろうがなんだろうが、アゼルは親友。そこに変わりはない。

 それにアゼルの天界への忠義はすさまじかった。特に最高司令たる黄木に対して。


 おそらく黄木も事情を知っていてなお、アゼルを天界に招いたのだろう。だからこその忠義と南城は思っていた。


 魔族でも、天界のために働くアゼルはれっきとした仲間。

 だからピエロンにそんなこと言われようが、動揺のひとつもするわけがないのだ。


 ピエロンはそんな南城の心情に気づいてるのかは不明だが、話を続ける。


「いやね、驚いたよ。魔族なのに天界のために働くなんてさ。おれも魔族だから理解できなかったわけ」


 なるほど。南城はそうに落ちた。

 皇ことピエロンもまた、アゼルと同じ身の上だったのだろう。


 だがこの男は救われた恩を忘れ、天界を裏切ったわけだ。

 親友とはまるで違う、恩を仇で返す最悪の魔族……南城はそう理解した。


「魔族に生まれ天界に忠義を捧げるなんて、魔族の風上にもおけない。でもま、ケルベロスの力を手に入れられたことには感謝するがね」

「け、ケルベロス……だと?」

「そ、おれの与えられた能力は暴食。死した相手を喰らうことで、相手の持つ力を我が物にできる能力さ。ほうら……」


 ピエロンは常人なら顎が外れるほどに、大きく口を開ける。

 そして自らその口に手を突っ込むと……

 

 魔力の塊のような光る物質を口の中から取り出してきた。


「これが、ケルベロスの力、アゼルちゃんの魔力だよ。ひーっひっひっひっ!」


 常人なら、身の毛もよだつような甲高い声で笑うピエロン。


 ――南城はこの瞬間しかないと思った。


「うらああああ!」


 全魔力を込めた、炎を纏った拳! それが高笑いするピエロンの腹部にヒットした。


「ごふっ!」


 防御もろくにせず、まともに一撃を受けた。さすがのピエロンでも、その痛みに悶える。

 ――が、


「ふ、不意討ちする力……残ってるとは、意外じゃないの……」


 効いてはいるが、致命傷にはほど遠い。

 追撃する力は残っていない。全てを拳に込めたから……


 万事休す……


 そんな時、南城の視線がピエロンからそれる。

 視線の先にはケルベロスの魔力の塊……

 ピエロンは今の一撃で塊を手元から落としていたのだ。


 南城は即座にそれを拾い、地面に転がる。


「なによ。確かにそれないとケルベロスの力は使えないけどさあ……それくらいでボロボロの南城くんなんかに負けないぜ?」

「だろうな……なら、」


 南城は塊を自らの口元に近づけると……


「こうしたらどうなる?」

「なっ!?」


 大きく口を開けて、塊を飲み込んだ。

 噛んだりせず、一飲み。


 ――瞬間!


「ああああああああああ!」


 南城は自らの胸元を強く引っ掻きだす。胸部からは血が……


「バカめ。おれの能力で作り上げた代物だぞ? おいそれと他の奴が食ってパワーアップなどするものか。だいたい魔族の魔力と天界人が適応するわけ」


 ほくそ笑むピエロンだったが、異変に気づき、表情が変わる。


「待てよ……なんだこの魔力は……」


 ピエロンは相手の魔力の強さに敏感だ。魔力ランクの判別は当然として、さらに細かく分別もできる。


 いや、多少わかるような者でもこの変化には気づく。

 魔力がほぼゼロだった南城の魔力が、急激に増大。元々の南城の魔力すら数段上回るほど高まっている。


 南城の体から魔力が放出される。魔力は彼の聖獣アグニ……ではなく、ケルベロスの姿をかたどる。


 獄炎を纏った赤き三頭狼ケルベロス……


「んなバカな……適応したと言うのか?」

「そういえば昔……オレ様瀕死の重症負ったことがあってな」


 突然南城は過去の話をしだす。

 首をかしげるピエロンをよそに、話を続ける。


「アゼルに輸血してもらったことがあるんだ」

「魔族の血をだと!?」

「一刻を争うから賭けとして自分の血を輸血したんだとよ。運良くオレ様は助かったんだが……今回もそのおかげかもな」


 アゼルの血を体内に宿す南城だからこそ起きた奇跡なのかもしれない……

 過去魔族の血に耐えたのも、今回のケルベロスの魔力を適応させたのもまた奇跡。


 南城春人……天下の奇才と呼ばれし彼の才能は、奇跡すら呼び起こしたのだ。


獄炎狼フレイムケルベロス


 南城がそう言いはなった瞬間、彼は拳を振るい、赤き三頭狼ケルベロスがピエロンを襲う!


「ぎ、ぎいやああああ!」


 灼熱の獄炎に焼かれ、仮面は消失。全身のスーツは一部焼け、体は大火傷。

 しかし直撃は避けたか、死に至るほどのダメージではなかった。


 南城も初めての技だったため、手元が狂ったのだ。


 ピエロンは察する。

 今の南城の戦闘力は自分をはるかにしのぐと……


 アグニとケルベロスを融合させた聖獣……単純計算で聖獣二匹分の魔力……

 そんな化け物、ピエロン程度で手におえるはずもないのだ。


 ピエロンは必死に逃亡をはかる。


「待ちやがれ!」


 南城は逃がしてなるものかと、ピエロンを追う。


「な、なんて失態……あの方になんとお詫びすれば!」


 あの方とは主人たる情報屋の事だ。

 帝王軍に属してはいるも、ピエロンが忠誠を誓うのは情報屋。

 南城を使い何か企んでいたのもまた情報屋だったのだ。


 その命令に失敗した。この上なく焦るピエロン。


「こうなれば誰かを食ってパワーアップせねば……」


 逃亡の道中、ブレボスを倒し休んでいた周防隊が目にうつる。

 ――しかし、


「か、数が多い……!」


 疲弊した周防だけならいざしらず、神咲やダストに九竜……幹部級が揃っている。

 これでは返り討ちに合うだけ。

 そう思いピエロンは周防隊を無視して逃亡を続ける。


 南城もまた周防隊を発見すると……


「周防さん! 奴は皇だ! 捕らえてください!」


 叫ぶ。周防達はすぐさま反応し、ピエロン確保に動こうとするが!


 突然周防隊の目の前にビートル兵と言われる帝王軍の兵隊が大量に、出現!

 音もなくいきなりだ。


『状況はワからんガ、邪魔させてもらうゾ周防隊……イや、神咲』


 ビートル兵の中に混じった全身鎧の大男が神咲を指す。この魔族は……


「……八百万八傑衆のビート、でしたっけ?」


 と、神咲。

 ビート……アゼルの死んだ前回の天界襲撃を指揮していた魔族の事だ。

 ※113、114話参照。


 前回神咲が仮面を割っていたが、新しい仮面を顔につけ、この場に現れている。


「この前の借リ、返させテもらウ。誘拐がウまくいかなかったからナ。ワざワざ来てやっタ」


 周防がブレボスと戦闘してた時、神咲は魔族に連れ去られていたのだが……


「なるほど、あんたの差し金でやがりましたか」


 神咲は腕に巻き付けてた包帯をほどき、ぶらぶらと揺らめかせる。


「いいでしょう。受けてたってやりますよ!」



 ――つづく。


「ええ! 次から次へと状況が! 今度はお義姉さんの戦いですか!」


「次回 ガルーダ対蟲王。が、ガルーダ?」


 


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