深緑の朱雀

第147話 チーム北山対大罪人

　――北山side。

　負傷して気絶してる東を背負った北山、皆木、メリューサの四人は、水無瀬に言われた通り、天界軍本隊の元に向かっていた。

　四将軍が二人、他にも多くの実力者達がいる前線だ。

　戦いも激しいだろうが、上位ランカーの味方と合流できればひとまずは安心できるだろう。

　負傷してる東、覇王の能力を受けたメリューサ。

　単純に実力不足の北山。

　まともな戦力は皆木だけ。それで魔宝玉目当ての敵が何人も何人も来られたら危険すぎる。

　ならば前線でも、頼れる仲間のいる本隊の元に向かうのは理にかなっている。

　背後からは水無瀬が先に向かわせた遊撃部隊の精鋭や、中位、下位のランカーが護衛にまわっていてくれ……

『獲物……みーっけ』

　――瞬間、背後の兵隊達の首が飛ぶ。

　何者かの襲撃だ！

　後ろの精鋭達は流れ作業のように、何者かに倒されていく。

　その影は、魔宝玉を持つ北山の元に……

「メリューサ！　受け取れ！」

　北山は魔宝玉……ではなく、背負ってた東を投げる。

　これでは狙われることから逃げる事はできないのだが……

　おそらく迎え撃つつもりなのだろう。

　メリューサは東を無事にキャッチし立ち止まる。

　影はメリューサを気にせず北山目掛けてやってくる。

「来やがれ！」

　杖を前に出し、立ち止まって臨戦態勢をとる北山。

「やめときなって～」

　皆木が北山の前に立つ。

「皆木!?」

「北山くん程度じゃ～殺されるだけ～」

　刀身を消した刀を、投擲する皆木。

　襲ってきた敵は訝（いぶか）しげにその刀を見ていたが、突然刀身が生える。

　すぐさま顔を動かし刀を避けるが、刀身がいきなり現れた事で驚いたか完全に避けきれず、頬を少し裂いた。

　敵は立ち止まって、皆木をにらむ。

　皆木は敵の姿をまじまじと確認する。ちょび髭と、大きなバンダナで目を隠した魔族だった。

「えっと、七つの大罪人の怠惰（たいだ）イド……かな～？」

「ちぃ……邪魔な小娘が」

　皆木の言う通り、敵の正体は帝王軍の部隊長、七つの大罪人イドだ。

　皆木からすれば、前に自らが仕留めた色欲のオニードと同格の相手。さほど危険視する相手ではないなと彼女はほくそ笑んでいた。

　※84話参照。

「なんだよ皆木！　邪魔しやがって……」

　北山は不服そうな態度をみせるが、皆木は心底呆れたようにため息。

「あのさあ～北山くんって、覇王軍の幹部にすら勝てない実力じゃ～ん。帝王軍相手に戦えるわけないじゃん」

「や、やってみねえとわかんねえだろ！　いい加減逃げてばかりは飽き飽きなんだよ」

「ま、死にたいなら勝手にすればいいけどさ～」

「「皆木」」

　皆木の聖獣、八咫烏（やたがらす）が強めの口調で皆木を呼ぶ。

「はいはい。ナミちゃんの友達だから守れってんでしょ～」

　ヤダヤダと首を振る皆木。

　北山もさすがにイラつきだす。

「守ってくれなんて頼んでねえよ！」

　わかっている。自分は実力不足だってことは。

　でもいい加減ウンザリしてるのだ。守られてばかりで戦わせてくれないことに。

　北山は神邏（しんゆう）のために戦う事を決めた。朱雀として終わらない戦いに身を置く彼のために、少しでも力を貸すために。

　それが逃げて逃げて守られて守られて……それではなんの意味もない。

　むしろ邪魔してるだけ。

　修行はしてるんだ。今度はもっとやれるはず……

　戦えるはずなんだ。

　北山はそう信じているのだ。

　一方、イドはメリューサに目線を向けていた。

「め、メリューサ様？」

　メリューサはスパイとはいえ、帝王軍の八百万八傑衆。幹部だ。イドより偉い立場にある。

　ここはうまい言い分を考えれば、ここを切り抜けられるかも、メリューサはそう思った。

「イド、実はな、こいつらはウチの軍門に加わったんや。だから魔宝玉を帝王軍が手にし……」

「うおおおお！」

　北山は話の途中でイドに向かって特攻する！

　せっかくメリューサが穏便にすませるよう動いていたのにだ。

「バカ北山！」

「へっ」

　イドは笑うと、体からガスのようなものを放出する。

　それに気にもせず、北山は十八番（おはこ）の必殺技を放つ。

「スプラッシュ・ホーン！」

　水でできたユニコーンの角を模した一撃。それは一直線にイドに向かっていき……？

「ぎゃあああ」

　イドの腹部を貫いてみせた。

　そのまま奴は倒れ絶命？　した。

　北山は久々の勝利に大声で叫ぶ。

「よっしゃあ！　やった！　やったぜ！」

　一人大喜びする北山を尻目に、皆木とメリューサは怪訝（けげん）にイドの死体を見ていた。

(そんなバカな。大罪人があれくらいで死ぬ？　そもそも避ける素振りすら)

『良い夢みれたかい？』

　三人の背後からイドが現れる。

「いつの間に!?　じゃあ死体は偽……？」

　皆木が確認すると、イドの死体はなくなっていた。

「くそ！　もう一発！　スプラッシュ・ホーン！」

「ぎゃあああ」

　すかさず北山は第二波。そして同じようにイドを貫く。

　――しかし。

「またやられちゃったぜ。強いなあ僕ちゃん」

　またもイドは背後に！

「ど、どうなってんだ!?」

「答えは簡単。今のは怠惰な夢。理想な夢を見てただけ」

「ゆ、夢だと!?」

「そ」

　イドはバンダナをどかし、隠している目を開く。

　目には眠という字が描かれている。

「お前達はどんな攻撃でおれを倒そうとも、その全てが夢になるのだ」

「全てが夢にだと？」

「今は現実。だがおれを殺せば夢となり、倒す前にループする。永遠にな」

「そんなバカな！」

「なら今この状況をなんとする？」

　説明はつかない。

　奴を倒した手応えは確かにあった。なのに奴は何食わぬ顔で復活する。

　背後に、何度も現れる。

「おれの能力で全てが無駄に感じることだろう。怠惰な夢をみたくもなるだろう？　やる気もなくならないか？」

「やめろやめろ！」

「おれに勝てない現実なんて忘れてさ、楽勝に勝てる怠惰な夢を見ようぜ？　永遠に」

「うるせえ！」

「そんなやる気なんかだすなよ。戦いなんて忘れて怠惰な日常送ろうぜ？　勝つのを諦めるならさ、この瞬間も夢にしてやるぜ？　そしたらさ……」

　イドは指を鳴らす。そしたら北山の目の前に幻影が現れる。

　自らの恋する女性、九竜姫魅子と、武内晶子の姿だった。

　※7話や17話参照。

『北山くん』『北山』

『好き』『あたしも好き』

　好意をよせる二人からの告白。

　この上ない喜びだろう。

　――だが、こんなものまやかしだ。イドが作った物だとすぐにわかる。

「ふ、ふざけんな！　こんなもんでおれが堕ちると……!?」

　幻の二人が北山に引っ付いてくる。

「ヒューヒューお熱いねえ～いい気分じゃないの？」

「て、てめえ……」

　ぷるぷる震える北山。幻とわかってても、恋する二人に攻撃なんてできない。

　そして、嬉しくなってる自分もそこにはいた。

　好意をもつ二人が自分を好きと、身をよせてくれるのだ。気分が悪くなる者は少ないだろう。

　そして、皆木も同じく罠にかかっていた。

「うわあ……なみちゃんが叶羽さんを……それに辺りは鮮やかな血が……」

　皆木は神邏に愛されつつ、自分の大好きな人の血の流れてく様を見せられている。

　二人は怠惰な夢に落とされかかっていた……

「で、メリューサ様。あんたはどうやら裏切り者だったみたいで」

　イドはメリューサに近寄っていく。

(まずい……ウチは覇王のせいで疲弊しとる。イドに勝てる術（すべ）なんて)

「姫ちゃん、晶子ちゃん。わ、悪いけど離れて……」

　北山はなんとか寄り添ってくる二人を離させようとするが……

『嫌です』『そうよ。好きな相手と離れたくなんてない。三人で一緒にいようよ』

「あ、ああ……」

　わかっている。ここで怠惰な夢に堕ちたら終わる。なのに……振りほどけない……

『北山』

　今度は神邏が目の前に幻影として現れる。

『いいじゃないか。お前は良くやったよ。このまま幸せに過ごそう……』

「み、美波……」

　親友の神邏の優しき言葉、そして……

『乱ぇ！』『乱』『乱！』

　今度はリヴィローに殺された兄、事故で亡くなった両親まで現れた……

「兄貴……父ちゃん母ちゃん……」

『北山、休もう……もう、いいんだよ』

「美波……」

　堕ちる……

　堕ちていく……

「「堕ちるな北ブツ！」」

　北山ははっとする。

　声の主は東だった。

　東は意識をとりもどし、北山達の状況を察し、叫んだのだ。

「北ブツくん……君さ、本人でもない幻に愛されて嬉しいの？　死んだ親兄弟の幻に、騙されて……いいの？」

「東……」

「それで満足するような男だったのかい……？　死んだ親兄弟への冒涜だよ……そんなの」

「冒涜？」

「それは幻だ。本人じゃない。両親達の死から逃げるだけだ」

「……」

「それにね、そんな幻、永遠になんて続かない。その隙に奴が君を殺せば……終わる。わかってるだろ？　君ならさ……」

　北山は、魔力を全開。

　その勢いで幻を吹き飛ばす。

「そうだ！　おれの目的はイド、てめえをぶっ殺すことだ！　スプラッシュ・ホーン」

　またもや必殺技を放つ。

　――だが。

「何度やっても無駄だと……」

『そいつはどうかしら？』

　突如聞こえたこの場にいないはずの水無瀬の声。……すると、

　スプラッシュ・ホーンがイドの左腕に直撃！

「がああ！」

　イドの本気の絶叫。今度は夢にならない。

　はっとする北山。

　今北山は倒れたままスプラッシュ・ホーンを放った状態だった。

　おかしい。北山はさっきまで立ってたはず……

「世話が焼けるわね」

　水無瀬が北山を見下ろしていた。

「え？　どういう……」

「全部夢よ。攻撃が当たったら夢になるんじゃなくてね」

　そう。最初にイドが放ったガス。あれが催眠ガスだったのだ。

　それにより、北山と皆木は眠らされていた。そして都合のいい夢の中で……

　水無瀬はメリューサと話していたイドの隙をつき、北山をそっと起こそうとした。そう簡単に起きなそうだったのだか……

「急に目覚めて驚いたわ」

「東のおかげだ」

「東くん？　彼気絶したままだけど」

「えっ？」

　水無瀬の言う通り、東は気を失ったままだった。

(東……気を失ったまま、おれに喝を……サンキューな)

「催眠ガスさえ気をつければ、なんてことない相手。すぐに片付けましょう」

「おのれええ」

　スプラッシュ・ホーンを受け、負傷したイドは水無瀬に飛びかかる。

「閃光突破（シャイニングショット）！」

　水無瀬の放ったレイピアの突きが、イドの脳天をいとも簡単に貫いた。

「ごっ……ばあ！」

　イドは絶命し、倒れた。

　一瞬で片付けた水無瀬の実力を見た北山は、痛感する。まだまだだと。

　でも、東の助けがあったとはいえ奴の能力に打ち勝った。そこは自信になっていた。

「あのアホも起こさないとね」

　と、水無瀬は寝てる皆木の頭を小突いた。

　♢

　それからも襲撃はあったが、特に問題なく北山達は前線の本隊の元に合流……する事ができたのだが……

　そこには信じられない光景が……あった。

「な、なんだよこれ……」

　――つづく。

「何が起きてたんでしょうか……って、え!?　次もまた別の場面！　時系列少し戻るんですか！」

「次回　最後の七つの大罪人。あ、嫉妬……」