第146話  朱雀VS覇王

「くたばれガキ共!」


 覇王の拳を、俺は即座に出した朱雀聖剣サウスブレイドで受け止める。


 ――一撃が重い!


 俺は背後のミラもろとも吹き飛ばされる。

 パワーはかなりのものだな……

 まともに受けたらただではすまないかもしれない。


 飛ばされながらも空中で回転、そしてしりもちつかずに、着地する。ミラも同様の動きをして無事着地。


 その後ミラは俺の近くに寄り、小声で……


「神邏、奴の能力だが……」

「魔力をタイヤのパンクみたいに勝手に放出させる能力だろ」

「え、なんで……」

「周りの木々が言ってる」


 ミラはきょとんとしてる。

 まあ当然か。なに言ってるんだこいつと思ったろう。


 俺自身、こうして植物の声が聞こえるようになったのはごく最近の事だ。

 堕天に覚醒した辺りだったかな。

 周防さんに植物に愛されてると言われてた意味がそこでわかった。


 ここの木々達は先ほどまでここの戦闘を見ていた。だから当然覇王の能力を見てる。

 ゆえに、俺に能力を教える事ができたわけだ。


 ……能力発動条件は、奴の魔力を秘めた拳を直撃させること。

 回避に徹するか、剣で受け止めるかすれば、さほど脅威ではない。


 要は当たらなければいいだけの話だからな。


「当たらなければ怖くない。そう言いたげじゃのう……」


 おっと、考えてる事はお見通しのようだな。さすがは覇王と言っておくか……


「ならば、」


 覇王は超スピードでミラの元に走る!


「小娘を先に狙おう!」


 ――こいつ!

 考えてる事は想像つく。おそらくミラを攻める事で、俺は守りにいくと考えたのだろう。

 ミラを守る事に徹する事で防戦一方にし、隙をついて俺を能力にかけるつもりなんだろう。


 奴の作戦にかかるわけにはいかない。だが、だからといってミラを見捨てる事も……


 ――!?

 覇王はミラの立ち位置と逆方向に曲がった?

 そうか、ミラの能力、幻想鏡像ミラージュミラーか。

 鏡のように自らを反転させることで、自分の位置を誤認させる能力……


 本来なら部下の能力。わかっていても当然。

 だが植物達が言っている。奴はミラの存在を忘れていたと。

 ゆえに、能力のことなど覚えてるわけがないんだ。


 部下をぞんざいに扱った報いだな。

 

 俺はミラに目で合図を送る。

 すると彼女は察してウインクしてきた。

 ……クールな彼女にしては意外な反応だな。まあ、かわいいけども……


 俺は覇王に向けて動く。

 奴は鏡像のミラに殴りかかる。そこには何もないという事に気づかずに。


 無論拳は空振る。何もないんだから当然だが。

 奴は理解できない表情を見せるが、すぐさま俺が近寄ってる事に気づく。

 カウンターでも合わせようとする構えを見せるが……


 俺もまた、ミラの幻想鏡像ミラージュミラーにかけられている。

 つまり、俺の姿も奴には反転して見えているわけだ。


 反転する位置は鏡をどこに置くかで変わってくる。

 ちょうど覇王の攻撃が当たらず、かつ、俺が奴に一撃を当てやすい絶妙な位置に鏡像は作られていた。


 奴はまんまと策にはまる。

 そして……その隙を逃さない!


暴風烈波弾ストームパニッシャー!」


 荒れ狂う、相手を切り刻む竜巻を引き起こし、剣撃と共に覇王に直撃させる。


「ごばあっ!!」


 奴の左腕と腹部を深く切り裂き、竜巻によって全身を切り刻む。

 そして上昇気流にのったかのように奴は上空に飛び上がっていく。


 「かはっ!」


 巨大な竜巻が穏やかに消えていくと、覇王は重力に逆らわずに地面に落ちていく。


 全身血まみれでズタズタな姿。


 ――勝負はついたか。


『あっけな!』


 武器聖霊スピリットウエポンのリーゼが拍子抜けしていた。

 ……まあ、思ったより早くかたはついたが。


「「呆気ないというより、それだけ神邏が強くなったということだ」」


 今度は魔力の聖霊のイリスが俺を褒めてくれた。


「「帝王六騎衆のバロン……あれだけの手練れを倒したんだ。この程度の相手に苦戦するはずもない」」


 ……確かに、バロンに比べれば覇王の実力はそこまでではない。

 ただ、今の俺はバロンを倒した堕天の力を使えないんだがな。

 ……単純に俺自身の戦闘能力が高まっているのかな。


 ミラがゆっくりと覇王の元に向かう。

 奴を見下ろしながら刀を向ける。


「覇王……見下してた者に殺される気分はどうだ?」


 憎悪を向けながら問いかける。

 ……すると奴は……


「た、助けて……くれ」


 まさかの……命乞いをしだした。

 当然ミラは苛立ちを隠せずに、


「ふざけるな! 貴様はそうして命乞いするような混血すら、実験材料に使ったのではないのか!」


 自分のしてきた事を考えろ。至極真っ当な発言だ。


「頼む……ゆ、許してくれ」

「ふざけるなよ!」


 怒りで頭に血が上ってるミラに、そんな言葉は通用しない。

 本心で詫びてるのか、そうでないかなど、ミラにとってはどうでもいいこと……なのだろう。


 自分だったらどうだろうか? 

 たとえ悪党であっても、命乞いする者を気にせず切り捨てられるだろうか?


 ……後で苦しもうが、後味悪かろうが、……悪は切る。そう決めたはずだ。

 同様の立場でも、今の俺なら切れる。

 後で精神的にダメージを受けようが、それは俺自身の問題。誰も苦しまないなら……何も問題ないはずだからな。


 ただミラにはその心配はなさそうだ。覇王に対する怒りしか感じられない。

 無理そうなら、俺が代わりにトドメをさしてやろうかと思ったが、必要ないな。

 それに、ミラが自分の手で殺してやりたいと思ってるようだからな。


「精々……死の恐怖を味わいながら……死ね!」

「ま、待て!……ギャアあああ!」


 覇王の首筋を刀でめった刺しにするミラ……

 返り血を気にせず何度も何度も……

 少し、狂気の表情にも見える。


 ……もう、覇王は絶命しているのに……


 俺はそっとミラの手に触れる。

 息をするのも忘れながら刺しにしていたミラだったが、ようやく息を吸い、倒れる。


「もう、終わったんだ」

「……ああ。すまない。見苦しい所を……見せた」

「……いや」


 覇王はミラを狂気にさせるほどの事をしてきたのだろう。身から出た錆び。同情の余地はない。


 ……だがいつまでもここにいるわけにはいかない。

 北山達と合流しなくてはならないからな。死んだ敵にいつまでも構っては……いられない。

 ミラには悪いがな。


 でも、彼女はどこかスッキリしてるようにも見える。


『み、ミラか? そこに、いるのか?』


 覇王の死体付近から声がする。

 奴の首に何か機械の装置のようなものがぶら下がってることに、今さら気づく。


 もしやトランシーバー的な物? 連絡装置の類いだろうか?

 相手はミラを知ってるようだが……


「Qか!?」


 ミラは驚愕しながら装置を取り外し、通信してきた者と話し出す。どうやら知り合いのようだな。


『よかった無事だったんだな。お前も大暗黒剣を?』

「ま、まあな。紆余曲折あって天界軍にくみしてるが」

『天界軍!? いや、まあそこは置いといて……た、助けに来てくれないか?』

「助け? お前今どこに?」

『そのまままっすぐ向かって来てくれ! ああ! て、帝王軍が!』

「わかった! 今すぐ行く!」


 するとミラは一直線に走り出す。――まずい!


「待てミラ! 落ち着け! 罠かもしれない!」


 俺は叫ぶもミラは振り向きもしないで、仲間と思われる者の元へ。


「いきなりこちらの位置を特定し、まっすぐ来いなんて怪しいと思わないか!」


 くそ、立ち止まってくれ!

 俺もすぐに追いかけるも……

 

 ――足元前方を急に狙撃された。否、攻撃がくると察して下がった結果、そうなっただけだ。

 気づかなければ弾丸が当たっていたかも。

 ――敵襲か?


 空から、地中から、草影から、魔族が大勢音もなく現れた。

 こいつら……いつの間に?

 

 足音が聞こえないのは当然として、風の流れや木々からも反応がなかった。

 ……


「朱雀、情報屋様からの命を受け、足止めさせてもらう」


 情報屋だと……? まさかミラを狙って!?


「――どけ」


 俺は静かに言い放ち、敵の軍勢に飛びかかった。



 ♢



 ――時間にして五分、いや十分くらいは経ったか?

 俺は情報屋の配下、百人以上の猛者共を全員蹴散らし、ミラを追っていた。


 ――しかし、見当たらない。

 気配もない。


 真っ直ぐと言っていたからには、ミラのスピードを考えたら追いつくか、背中の姿くらいはとらえられるはずなのに……


 どうなってるんだ?

 もしやさっきの連中が音もなく現れたのと何か関係が……


 ミラ……




 ♢



 

 ――ミラside。


 ミラはあの後すぐ、突然見知らぬ場所にワープしていた。


 つまり転移魔術が仕掛けられていたのだ。

 ミラは言われた通り真っ直ぐ進んだ。ゆえに、小さい転移魔術のかかった地面に足をかけ、飛ばされてしまったのだ。


 ちなみに神邏の前に現れた連中も、周囲に仕掛けられていた小さな転移魔術の地点から一人一人出てきたのだ。

 敵が現れる瞬間まで神邏が気づかなかった理由がそれだ。


 当然ミラが移動した瞬間転移魔術は消された。だから神邏が移動することはなかったわけだ。


 ミラは先ほどの地点からはるか遠くに飛ばされていた。

 ――そしてそこには……


「お待ちしてたよ。ミラージュ・アシュフォード」


 仮面をつけ、全身にローブを纏った怪しい人物……情報屋がいた。


「お前は……確か情報屋とかいう」

「会った事はないはずですが、よく知ってますね」

「覇王と取り引きしてたろ。いろいろと」

「なるほど」


 ミラは警戒し、距離をとりつつ問う。


「ワタシに何かようか?」

「……シャドに会わせてやろうと思ってね」

「――兄さんに!?」


 情報屋は、驚いてるミラを見て……笑ってるように見えた。



 ――つづく。


「あ、怪しいですよ情報屋! 素直についていったらまずいのでは? それに神邏くん、連戦しすぎて心配……え? 次は北山くん達の話? えええ!? こっちの話のが気になりますよ!」


「次回 チーム北山対大罪人。残る七つの大罪人は……怠惰と嫉妬ですか」


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る