第145話  九対一

 ――美波神邏side。


 時系列を少し戻すと……


 俺はグランドの副将、カゲツと一戦交えたあと奴を追わず、北山や先に行かせた水無瀬達を追いかけた。


 そんな時、何者かの襲撃を受けた。


「しゃあ! 覚悟!」


 ――第一陣。


 能力は攻撃を受けた者の魔力コントロールをおかしくし、暴走させる能力者。簡単に言えば自分の魔力で内部から攻撃されると言ったものか。


 まあとはいえ、風圧で常に攻撃を防ぐ俺には意味のなさない能力だ。風が攻撃を受けようと、俺には関係ないからな。


 そして俺は風圧だけで防御と攻撃をおこなった。

 つまり、風圧を壁のように飛ばし、相手を押し潰したわけだ。


「え、ま!」


 待てと懇願する相手を容赦なく風圧が襲う。

 圧力で敵は骨がひしゃげて再起不能になって倒れる


 一人撃破。


「おのれ!」


 次は二人が一斉にかかる。

 ――第二陣。


 相手の能力は互いの視界をゼロにするものだった。つまり視力を失うわけだ。

 能力者と、能力をかけた者の視力が一時的に失わさせる。ということは、もう一人の仲間にはその効果はなく、視力は万全。

 仲間の能力は……


「問題だ! この魔導弾の色はなんでしょう!」


 そう言って魔力のエネルギー玉、魔導弾を放つ。

 もう一人の能力は簡単なクイズを出し、答えられない相手には確実に直撃し、甚大なダメージを与えるもの。

 見えてるなら、とるに足らないクイズ。ただ色を答えるだけだからな。だが、そのときはもう一人の能力で視界を封じられていた。


 となると、答えがわからない。当てずっぽうにでも答えるしかない……


 ――奴はそう思ったんだろうな。


「黄色」

「え、」


 俺が正解をあげると、魔導弾は弾け、敵二人に当たる。

 それにより隙を見せた二人を、俺はかまいたちで切り捨てる。


「があっ!」「な、なんで……」


 二人は同時に血を吹き出しながら、倒れた。


 残念だが、風も草木も俺の味方なんだ。視界が封じられようと、風の動きで誰がどう動くかは当然わかるとして、色合いだとかの小さな事象も感知できる。


 今回に至ってはただ単純に、ここに生えている植物達に教えてもらったんだがな。

『魔導弾の色は黄色』ってな。


 木属性だからといって、誰しもこのような芸当ができるわけではないらしい。

 修行つけてくれた周防さん曰く、『お前さんは植物に愛されてる』だそうだ。


 母親の園芸趣味手伝ったりしてたおかげかもしれない。自然や植物には感謝し続けないとな。


 ――第二陣撃破。

 二人と三人目撃退。


「おのれ!」


 ――第三陣。

 今度は三人がかりのようだ。増やせばいいってわけでもないんだがな。

 なぜか? それは……


「「死ね!」」


 味方同士、潰し合う可能性もあるからだ。


 一人は方向感覚を狂わせる能力。

 二人目は手足を麻痺させる事に特化した弾丸を放つ能力。それを何発も乱射してきた。

 三人目は、当たりさえすれば致命的ダメージを与える一芸特化の能力。その代わり攻撃速度や命中率は低い。そんな能力を混ぜ込んだ魔導弾を俺に放ってきた。


 前二人の能力で相手を動けなくさせ、三人目の力で殺す作戦のようだが……


 ――無意味。


 方向感覚が狂うとか関係ない。全方位に風を放てば関係ないし、そもそも風そのものが俺の意思を理解し動いてくれたりもするからな。

 風は俺の魔力聖霊イリスが元だ。一心同体に近い彼女ならそれくらい朝飯前。


 麻痺させる弾丸は風を放ち、風圧で跳ね返す。すると、向かってきた敵三人に直撃。当てようと何発も放ったからそうなる。


「がっ!」「バカやろう! ちゃんとねら……」「ねらった、は……」


 麻痺してるところ悪いが、一芸特化能力者の魔導弾、風で方向を反らしておいたぞ。


「あ」「え」「は?」


 お前達三人に当たるようにな。


「「ぐわあああ!」」


 三人は魔導弾に直撃し、吹き飛ばされていった。


 言った通り、複数で一斉にかかるのも考えものだな……


 ――第三陣撃破。

 四人、五人、六人目撃退。


「間抜け共……ならおれの能力で!」


 ――第四陣。

 次は二人で来るらしいな。


 七人目の能力は精神汚染系だった。俺のトラウマ、過去の嫌な経験を当時の感覚で思い出させ、精神を崩壊させるというもの。

 トラウマがないものには、さも昔あったかのようなトラウマを疑似的に作り出し、発狂させるらしい。

 むしろ精度はそちらの方が上だったんだとか。

 

 そして八人目の能力でゲームで言う所のコンボが成立する。


 八人目は人物に成り代わる能力。相手の記憶をコピーし、あらゆる人物の姿へと変わることができる。

 七人目の能力によって、呼び起こされたり作られたトラウマの元となる人物に姿を変えるわけだ。


 トラウマの元となった者が現れれば、余計に発狂し、精神崩壊をもたらす……


 俺はもう視界が回復しているというのに目を閉じ。静かに……立ち尽くしていた。

 発狂のはの字もないほど穏やかに。


「なっ!? どういう……」


 二人が動揺してる隙に、俺は一瞬で奴らの目の前に移動し、切り捨てた。


「ぐわあああ!」「バカな……」


 悪いが精神系の攻撃は俺には通用しないんだ。

 周防さんに教えてもらった、姿四刀流の心の業。無心剣。

 それにより心を閉ざし、あらゆる精神系の攻撃を無にすることができる。


 まあ、まだ練習中なんだがな。

 いずれはその上、【明鏡止水】というのを会得しようと頑張ってる所だ。

 明鏡止水についてはまたいずれ。


 何はともあれ、第四陣撃破。

 七人、八人目撃退。


「情けない連中だ!」


 最後の一人が目の前に現れた。


 単なる勘だが、一番の実力者に見えるな。


 ――瞬間、目にも止まらぬ速度の魔導弾が眼前に!

 俺は即座に放出した風で弾く。


 かなりの速度だ……

 やはり一番の手練れで間違いなさそうだった。


 ――第五陣。最後の九人目。


 こいつは聞いてもいないのに、八人の破れ去った者達の能力について、ペラペラ喋りだしていた。

 俺が戦いを思い出してる今現在、奴らの能力を詳しく説明できてるのはこいつのおかげだったわけだ。


 そしてこいつは自らの能力も話し出した。絶対的自信ゆえに。


「速く見えたろう? だが実はさほど速い一撃ではないんだよ。それが我が能力! 体感時間……それを、」


 まあいちいち聞いてる時間はないので、速攻で切り捨てたんだが。


 ――ザン!


「かっは……お、お前人の話……最後まで聞け……というか、の、能力が効いて……な、い」


 俺の全速力の斬撃に反応できなかったのか、九人目はその一撃で仕留めた。


 最後の一人の能力はよくわからない。

 予想だが、相手の体感速度を下げるだとか、一秒間に何秒分動けるだとか、そういう時間系の能力だったのだと思われる。


 まあ、それより速く動けばいいだけの単純な話。

 他には罠でも張るのもありだろうが、するまでもなかったみたいだ。

 面倒な能力者ばかりだったな。


 でも修行の成果が出せた。

 これだけ厄介な相手を早めに処理できたからな。


 周防さんやイリスに感謝しないと。


「「お前の手柄だろ。少しは余裕だったとか自信持っていいんだぞ?」」

 

 そうイリスは言ってくれたが、俺は謙遜した。

 自信を持つのはいいことだが、油断を招く危険もあるからな。ほどほどでいい。

 みんなのおかげというのは事実だったからな。


 ――第五陣撃破。

 九人目撃退。よって、新生覇王九衛師団壊滅。




 ♢




 ――そして時系列は戻る。

 それから俺はすぐ全速力で水無瀬達を追い、こうして追いついたわけだ。


「奴らは改造に実験の果て完成した最高の部下達だったのじゃぞ。そ、それをわずかな時間で……」


 認められないのか、怒りなのか、わなわなと震える覇王。


 俺はそんな奴を放っておいて、水無瀬に状況を説明してもらっていた。

 

 それにより、水無瀬とミラは北山達と合流したはいいが、この覇王と出くわしたため、先に本隊の所に向かわせたと聞いた。


 ……一足遅かったわけか。

 あの九人さえいなければ……


 だがまあ、本隊と合流できるなら心配はないか。そこまで無事にたどり着く事を祈るしかない。


 おそらく北山を狙う魔族は大勢現れるだろうし、まだ危険だからな。

 メリューサという魔族はなんとも言えないが、叶羽にみんなを任せるしかない。


 ボロボロの東は気になるがな……

 あいつほどの手練れがそんな状況になるなんて考えづらい。それだけこの大戦の規模が凄まじい証拠なのだろう。


 ……俺も早く覇王を仕留め、北山と合流したい。


「水無瀬、北山を追ってくれ。ここは俺一人でいい」

「え!? でも」


 と、一瞬水無瀬はことわりそうだったが、すぐ首をブンブン振り……


「わかった。今は一刻を争うものね。任せるわ。だから早く追って来てね」

「……ああ」


 そう答えると、水無瀬は俺に投げキッスしてからその場を後にする。……まだ余裕あるなあの娘。


「神邏、ワタシは共に戦わせてほしい」


 ミラは静かにそう言った。彼女の覇王を睨みつける視線には怒りがにじみ出ていた。


 ……確か元覇王軍所属と言っていたからな。

 奴の化けの皮が剥がれ、外道とわかったことで、ミラは自分の手で殺してやりたいと思ってるんだろう。


 先ほどの改造に実験などという話を聞く限り、非人道的行動をしていたのも頷けるからな。


「わかった。早々に片づけよう」

「ああ!」


「早々に片づけるじゃと?」


 覇王の勘にさわったか、奴は強く足を踏み込み、地面に穴をあける。


「吾輩は覇王バルシアス! いずれ魔界を制する男じゃぞ! 舐めた口叩きおって! 頭が高いわ!」

「何が魔界を制するだ。支配地域もなく、こそこそと帝王軍の敷地で隠れて活動してるゴキブリが」


 ミラ、なかなか言うな……


「お前は一生、成り上がる事なんてできない。器じゃない。それに、どうせここで死ぬんだ。無様にな」

「小娘!」


 覇王はとち狂ったようにミラに殴りかかる。

 俺はとっさに前に出る。


「とどめはミラに渡す。だからサポートを中心に頼むよ」

「……ふふ。わかった。惚れた男に言われたら従う他ない」


 惚れ……

 そういう惚れた弱みにつけこむみたいなのは嫌なんだがな。


「まあ、その件は置いておいて、倒そう。覇王を」

「任せてくれ」


 今思うと、誰かと組んで戦う経験ってあまりなかったな。うまくできるだろうか?


 こいつとの戦いに時間をかけるわけにはいかない。

 まだカゲツにやられた封印は解けてない。堕天の力なしの全力で……覇王を仕留める。



 ――つづく。



「ヒロインは~神条ルミア! ヒロインは~神条ルミアですからね皆さん!!」


「次回 朱雀VS覇王。やっちゃえ神邏くん!」

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