第142話  龍の後継者。東side

 龍皇。聞いた話によると、奴は元々青龍一族の天界人。それは間違いないらしいよ。

 だからこそ、奴の血を引く僕が青龍になれたんだからね。


 奴は魔族の総統デュランと結託し、天界襲撃の手配をした。

 天界の英雄となった、美波火人って人が活躍した戦争らしい。

 襲撃に失敗した龍皇は一部の青龍一族を連れ魔界に逃亡。

 

 そして魔界で一大勢力と国を作った。

 魔界四大勢力の一つだとか。帝王軍と争ってる国らしいよ。

 四大勢力内では一番小さいらしいけど。


 奴は僕を後継者として育てるつもりだったらしい。だが悪逆そのものの龍皇に反旗をひるがえしたある夫妻が、僕を連れ人間界へと逃亡した。

 世間一般じゃ誘拐に近いのかもね。僕としてはそれで何の問題もなかったけど。


 天界ではなく人間界だったのは、青龍一族の裏切り者だったからだ。事情を話しても許してもらえないと思ったらしい。


 両親も好きで龍皇についていったわけではないらしいのにね……


 それから僕は人間として育てられ、なに不自由なく暮らした。

 僕はそんな過去知らなかったからね。自分が人間だと疑いもしなかった。


 そしてある日両親は死んだ。当時は事故と姉さんに教えられていたが、数年前に龍皇が僕と姉さんの前に現れたとき言っていた。

 自分が殺したと。

 その後姉さんの友と偽ってた魔族のせいで、姉さんは植物状態で入院。その魔族共は始末したけど、龍皇がいる限り姉さんを狙う者は後をたたないかもしれない。


 両親の仇、姉さんの恨み。

 僕はなんとしてでも、なんとしてでも……龍皇、お前を……殺す。



 ♢



 はっとする。

 僕は一瞬気を失っていたのかもしれない。

 

 今僕は龍皇に掴まれ、身動き一つ取れないほどボロボロになっていた。

 帝王六騎衆の青蓮とかいう奴にやられた傷は、確かにまだ完治してない。万全ではない。

 だがそれでも……ここまで相手にならないというのか!?


 ふざけるな!

 僕は命に変えても龍皇を殺す!

 この命を燃やしてでも……なんとしてでも!


 可能性としてはやはり、四聖獣の第四の覚醒……四神転身。

 あれを使うことさえできれば……この力の差、どうにかできるかもしれない。


 だが、どうやって……


「無様だな龍次りゅうつぎ。どうしたのだ? 敵討ちしたいんじゃなかったか?」


 耳障りな声をあげるなクソが。

 お前の声、息づかい、面構え……何もかも気に入らない。


 だが、声が出ない……

 のどでも潰されたか? 全身焼けるような痛みにおおわれ、どこがどう怪我してるかもわかりやしない……


「ふん。もう逆らう気すらなくなったようだな。結構」


 あ? これで僕が復讐あきらめたとでも思ったか?

 僕の憎しみがそんな簡単に途切れるわけないだろ。頭沸いてるのかこいつ。


「ならば、完全なる我が忠実なしもべにしてくれよう……」


 なに……を。

 ――!?

 ぼ、僕の全身に何か、何かが流れこんで……く、る……


「どうだ? 我がどす黒い闇の味は」

「――っか!」


 僕の声にならない声が、小鳥のさえずりより小さい音量でもれる。

 内部から、何かが僕の全身を突き破るかのような感覚が駆け巡る。痛いなんて、生易しい感覚とは違う。常人なら正常にはいられない……そんな……感覚。


「この闇に飲まれる事で、お前という意志、心、全てがこの龍皇の意のまま……忠実なる龍の次になるのだ」


 ああ……なんだこの感覚。

 怒りが、憎悪が……消えていってしまうような……


 あれ? 北ブツくん達が見えるよ。ハハハ。必死に僕の元に向かおうとしてるけど、女子二人に止められてるよ。

 先に行けと言ったのにさ。ほんと、話聞かない子だよ。


 ……僕がやられたら、次は北ブツくん達の出番かな。

 まあさ……別にどうでもいいけどさ……気分、悪くなりそうだよね。恩人な……わけだし。


 ……それにさ、このままやられるつもりなのか東龍次?

 お前はなんのために、お前はなんのために青龍になった? なんのために力をつけた?

 復讐のためだろ? 龍皇を倒すために……


 ならここであきらめていいのか?


 いいわけ……あるか!


 失くすな! 怒りを! 恨みを!

 憎め奴を! 憎しみの炎を燃やせ!

 忘れるな! 家族を苦しめた悪鬼を!


 僕が青龍へと目覚めたきっかけは龍皇や魔族達への怒り、憎しみ……

 そんな負の感情を忘れず燃やし続ける事で……


 僕は新たな境地に達する事が……


「できる!」


 僕は左腕を突きだし、龍皇の胸部を殴打。

 

「――!?」


 痛みでも感じたか、奴は後ろに下がり、僕をつい離してしまう。


 奴の手から解放された僕はすぐさま距離をとる。


「何……? どういう事だ」


 反撃する力などあるわけがない。……そう言いたげだね。


 まあ、僕自身も驚いてるよ。

 

 さっきまで身動き一つとれず、しゃべる事すらできなかったのに……


 今はのどがいつの間にか治り、体の傷もほとんどなくなっている。

 朱雀じゃあるまいし、この回復力には謎を感じるね。


 いや、理由はわかる。

 今僕は青龍の力の解放に近づきつつある。

 そして奴が洗脳しようと送り込んだ闇の魔力を、逆に僕の力として変換し、体の治癒をもたらしたんだ。


 今の僕は先ほどまでの攻撃では大してダメージを受けないほど頑強になった。

 それプラス闇の回復……

 今の僕はほぼ万全に近い状態になったと言っても過言ではないかも。


「我が魔力を取り込んだのか……味な真似を」

「どうもごちそうさま。失敗だったねマヌケ」

「ふん。それで? まさかその程度の強化でワシに勝てるようになったとでも言うつもりか?」


 奴は周囲に闇の魔力を発する。

 

 辺りの木々は枯れ、地面は割れて揺れ始める。


 見てる北ブツくん達は立ってる事もままならなそうだね。


「素直に洗脳されれば、痛い目に合うこともなかったというのにバカな奴だ」

「お前に従う未来のほうが、よっぽど痛い目だよ。悪夢、地獄だ」

「ぬかせ。二度と逆らう気が起きないよう、ズタズタにして持ち帰るとしよう」


 奴の背後に、黒色の龍が現れる。

 魔力の具現化? 聖霊ではないだろうし、単なる魔力が生き物の姿へと具現化なんて、余程の使い手でないとできない事だよね。


 認めたくはないけど、やはりこいつは化け物だ。

 並大抵の魔族じゃない。

 魔力のランクはSの上……SSランクはくだらないだろうね。


 帝王六騎衆……それ以上の可能性もある。

 

 前に手合わせしたキングゴルドよりははるかに格上。

 この前闘った青蓮……奴と比べたらどうだろうね? あいつも本気なんて出してないだろうし……

 ※ゴルド戦は77話、青蓮戦は123話参照。


「暗黒龍の群れ《ダークネス・イリュージョン》」


 奴がそう言い放った瞬間、瞬時に具現化した黒龍が分裂。そしてその全てが僕へと襲いかかる。


 一匹一匹が、前までの僕の龍氷撃を上回る魔力……


 こんなもの一発くらうだけで致命傷だ。


 僕は周囲に凍気を発する。

 辺りの温度は急激に下がる。

 なんか北ブツくんの寒いという声が聞こえたね。


 こうする事で僕の氷の威力を高める。そして……


「三十三式・龍氷撃アイスブリンガー!」


 僕の十八番おはこを放つ。先ほどとはうってかわって、威力、大きさ、凍結度……全てを上回る。

 皮肉にも、奴の魔力が強化してくれたんだね。


 その一撃は奴の黒龍全てを凍てつかせる。いとも簡単に……


 自分自身驚く威力だ……

 今までの僕の力とは雲泥の差。


「龍皇とは龍を統べる者。その意味、教えてやろう」


 凍結した黒龍にヒビがはいる。

 自力で氷を破壊する気……


「違う!?」


 僕は突然背後から現れた黒龍に巻きつかれ、しめあげられる。

 凍結した黒龍はただのブラフか……! こいつの存在を隠すための……

 

 一体いつの間に現れたんだ!?

 この僕が気配すら感じなかったなんて……


 地中から現れただとか、後ろから猛スピードでせまって来ただとか、そんな次元じゃない……


「龍を統べる。それは青龍も例外ではないんだよ」

「なんだと……?」

「青龍である、お前の魔力を黒龍に変換させ、貴様を襲わせたのだ」


 わ、わけがわからない……

 つまりなにか? 僕の力が勝手に奴の力になったとでも言う気か?

 そんなふざけた事、起きるわけが……


 いや、さっき奴の闇の魔力を手中におさめた僕が言えた義理ではないのか。

 理屈が同じだと言うのなら……


 だが青龍は単なる龍ではない。

 四聖獣たる神の龍だ。

 奴が龍皇だからといって、それだけで神が従わされるはずなど……ない。


 考えられる事とすれば……


 やはり僕がまだ、奴の力の領域に達していないのが理由なのかも……しれ、


「「あたくしの力を、お使いなさいな」」


 どこからか声がする。

 青龍魔槍を見る。武器聖霊のコブラの声ではない。いや、そもそもコブラは男。今聞こえたのは鈴の音のように高い、女の子の声だ。


「「聞こえてるの? 東龍次。あたくしはあなたの魔力に宿る水の魔力の聖霊ウンディーネ」」


 ウンディーネ? 魔力の聖霊って奴? 確か美波の奴も木の聖霊、シルフィードのイリスとかって子の力を使ってるとか聞いたけど……

 ※神邏の聖霊イリスは3話参照。


「「イリスと、一緒にしてほしくはないのだけど、まあそういう事ですわね」」


 心の声に反応してる? どうやら本物みたいだね。なら、力を貸してよ。


「「おまかせあれ。あたくしは龍ではないから、奴の能力の範囲外ですからね」」


 そうウンディーネが言った瞬間、僕に巻きついていた黒龍がバラバラに弾け飛ぶ。


「何!?」


 弾け飛んだ黒龍は魔力に戻り、僕のもとに返り咲く。


「残念だったね。龍を統べるだかなんだかしらないけど、これで意味、なくなったね」

「ふん。あがくな。小細工しようが貴様が青龍であることには間違いない。全ては無理でも、龍は我が前にひざまずく……」

「それも終わりだ」

「なに?」


 僕は自らの顔の左側部分に手を添える。


「青龍は四聖獣。神が龍皇ごときに縛られるわけがないんだ。僕が青龍の力を最大限引き上げれば、そんな能力、通用しない」


 四聖獣、第四の覚醒……

 

 【四神転身】


 怒り、喜怒哀楽の怒が……僕の力となる。

 青龍となったきっかけの怒りに身を震わせ、闇の魔力とウンディーネの二つがきっかけで……

 僕は、その四聖獣の領域に立つ。


四神しじん転身てんしん青龍せいりゅう変化へんげ



 ――つづく。



「え、えええ!? 四神転身!? 四聖獣の覚醒を東くんが最初に!? で、でも帝王編プロローグの神邏くんとは少し違いますね。詳しくは帝王編プロローグチェックです!」


「次回 青龍変化。それはわかってますって! 今見せたんですから!」





 


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