第141話  この時、この瞬間を待っていた!

 僕の目的って知ってるかい?


 魔族の殲滅? まあ魔族は嫌いだし、滅んでほしいとは思うけど、それに生涯かけてまでやり遂げようなんて頭はないよ。


 悪党の成敗? まあ、目にうつったり、聞いたりした悪党は小者含めて退治はするよ。

 でもそんな正義の味方的考えなんかじゃない。気に入らないから悪党は潰すだけ。人間含めてね。

 目的なんてもんじゃないよ。


 強さを求めて? まあ強くなる事に意義はあるよ。でもそんな理由もなく力を求めてはいないよ。

 目的を達するための力は求めてるけどね。


 じゃあなにかって?


 簡単だよ。両親を殺し、姉さんをあんな目に合わせた龍皇……


 奴を殺す事が、僕の目的だ。



 ――東龍次side。(東視点)


 どれくらいの時間が経っただろうか? 

 僕、北ブツくん、皆木って子、それとメリューサって魔族の四人は、襲ってくる魔族供を殺し尽くし、祭壇ってとこを目指してる。


 今北ブツくんが持ってる魔宝玉? って物を奪おうと野蛮な連中が何回も来るけど、いい加減ウンザリだね。軽く千人以上は始末したかな?

 盗賊団か帝王軍か知らないけど、雑魚がどれだけ束になろうが無駄なんだよね。

 現に僕たちは傷一つないし。


 祭壇ってとこに北ブツくんが持ってる物捧げれば、その例のなんとか剣手に入るみたいだけど……このまま何事もなければあっさり達成できそうだね。


 ま、賢い奴は祭壇で罠でも仕掛けてそうだけど。祭壇付近には敵もわらわらいるかもね~


 あれなら僕が預かってもいいんだけどね魔宝玉。北ブツくんが狙われる事なくなるだろうし。


 祭壇も魔宝玉と同じく輝いて、光の柱が建ってるから場所はなんとなくわかる。

 でも慎重に動かないと何があるかわかったものではないからね。


 ……なんて言ってたら新手の気配。


「ゲハハ! 待て! おれ様はグランドの幹部ノベ……」

「うるさい」

「ギィやああ!」


 自己紹介し終わる前に、左手で心臓を貫き、そのまま体を引き裂いてやった。

 あー返り血キモ。


「おのれよくもノベ……」

「はいしゅうりょ~」


 皆木って子が、今仕留めた奴の仲間っぽい魔族を切り落とした。

 この子、なかなかやるよね。天界軍で上位クラスの実力はあるんじゃないかな?


 それと、帝王軍のスパイとかいうメリューサ……

 彼女もこちらを裏切る素振りなく、手助けしてくれてるね。

 とはいえ魔族。信用ならないよ。


「くそ、また出遅れた」


 北ブツくんが悔しそうにしてる。出てくる敵、僕らが討ちもらさずに仕留めてきてるからね。北ブツくんの出る幕はほぼない。


 でも雑兵ならともかく、今の幹部的な奴は北ブツくんに任せる気はないけどね。万が一もあるし。


 口には出さないけど、この四人の中では北ブツくんは群を抜いて弱い。

 多分僕たちがいないで一人だったとしたら、もう魔宝玉を奪われて殺されてるところだろう。


 ま、別に感謝しろなんて言うつもりはないけどね。

 彼には世話になったし、ついでで手助けしてるだけだからね。恩を感じる必要もないよ。感じてるかは知らないけど。


 それからしばらくすると、敵の流れが止まる。雑兵の打ち止めかな?

 奪いに僕たちの元に走ったバカ共は全滅したってことだろうか?

 もしそうなら、むしろここからが本番だね。

 手練れが待ち構えているかも。


 慎重に、周りを警戒しながら走っていると、多数の魔族の死体が転がっているのを発見する。


 ……僕たちがやった連中ではない。当然だけどこの場に来たのは今だからね。


 仲間割れにも見えないし、他の組織同士で潰しあいかな?

 

 ――!? 莫大な魔力の圧を感じる。

 近くに手練れがいるね。


 僕は三人に止まるよう指示。

 強敵なら避けて通りたいところだけど、魔宝玉がこうも輝いてるとそうもいかない。どうあっても敵にバレるからね。


 なら魔宝玉を持ってない僕が先に様子を伺い、先制攻撃でもかけようかな。


 僕は茂みに隠れながら、ばかでかい魔力の持ち主を探す。


 ……魔族の悲鳴が聞こえる。

 戦闘中か? おそらく手練れのほうが雑兵を始末してるんだろうね……


 そっと、僕はその場に視線を向ける。



 ……

 ふ、ふふふふ。


 そうか、まさかこんな所にいるとは思わなかったよ……

 復讐相手がね!

 

 僕が目にした人物は、青い髪をした長身の魔族。怨みつらみ重なる、龍皇そのものだった。

 見た目を簡単に説明するとしたらそうだね……


 僕を三、四十台くらいの外見にしたような男かもね……

 そう。僕に似てるんだよ。

 

 腹が立つことにね……


「北ブツくん達さ、あいつは僕が抑えるから先に行ってくれないかい?」


 僕はそうみんなに伝えた。

 すると予想通り北ブツくんが口を開く。


「相手つえー奴なんだろ? なら複数でかかったほうがいいんじゃね?」

「つえーなんてレベルじゃないよあいつは」


 ニヤつく僕に、メリューサは感づく。


「知り合いか何かなん?」

「まあね。殺したいほど憎い仇だよ」

「仇?」


 僕は簡潔に、奴と僕の関係を話した。

 両親の仇、奴を殺すために生きてきたとね……


「そういうわけなんで、北ブツくんならわかるでしょ? 仇とったことあるんだからさ」


 北ブツくんの表情には悩む様子が見えた。

 

 ま、そりゃそうだろうね。

 復讐なんてもの、当人にしか気持ちはわからない。たとえ復讐しようと思ってる者、復讐を達成した者でも、他人の事となると話は変わってくる。

 北ブツくんは奴に恨みがあるわけではない。僕の怒りの程はわからないんだからね。


「恨みあるならよ! おれらも手伝うぜ! その方が効率もいいし!」


 足手まといなんだよ。と、言いたいところだけど、気持ちは嬉しいしね。そこまでは言わないよ。

 それに、この復讐は僕の物……できれば邪魔なんかされたくない。

 

「最重要なのは大暗黒剣ってのでしょ? あいつがここにいるってことは、狙いも同じだ」

「でもよ」

「僕が負けるって言いたいの? まあ、あの帝王六騎衆に無様に負けたし、信用できないか」

「そ、そうは言わねえよ!」

「ならさ、信じてくれない……」


 言いかけた時、復讐の相手はこちらに視線を向けている事に気づく。

 茂みなどで見えないとは思われるが……この様子だとバレたとしか思えない。


「四の五の言ってる場合じゃなくなったね。スキ見せたら……逃げてよ!」

「待てあず、」


 僕は北ブツくんの制止を無視して戦場へと飛び出す。


 ああ……待ち望んでたよこの瞬間。

 強くなり、青龍として魔族と戦い続けてたのは今この瞬間のため。

 奴を殺せるなら、ここて散っても悔いはない……


 僕は、この時、この瞬間を待っていたんだ!


龍皇りゅうおう! 貴様を殺すこの瞬間をな!」

「ほう、龍次りゅうつぎか。久しいな」


 奴は笑みを浮かべ僕を呼んだ。


「僕をその名で呼ぶなあああ!」


 先手必勝、青龍魔槍イーストランスを呼び出し、三十三式・龍氷撃アイスブリンガーを僕は放つ。


 回した槍が型どる魔法陣から放たれる青白い、氷の龍。

 あらゆる全てを凍結し破壊する僕の最大奥義……


「王龍牙」


 龍皇は掌底を放つ。

 手のひらから魔力の圧力で作られたかのような、大きな龍の牙の衝撃波。

 それが僕の龍氷撃アイスブリンガーと激突すると……


 いとも簡単に龍氷撃アイスブリンガーは砕けちる。氷の破片すら目に見えない程粉々に……


 驚愕する僕。

 そして威力そのままに、牙の衝撃波が僕めがけて飛んでくる。

 僕の奥義とぶつかったというのに、全く勢いが衰えない速度で……


 僕の左腕を吹き飛ばした。


「――!?」

「東ぁ!」


 北ブツくんの声が響く。

 まだいたのか。早く去ればいいものを……


 僕の左腕があった部分にすぐさま氷が生える。その氷は腕の形を作り上げると同時に……溶ける。


 すると僕の左腕は何事もなかったかのように復活する。


 青龍秘術……十式・氷腕形成……

 自らの体を氷とすり替える防御技さ。つまり、先ほど落とされた左腕は氷とすりかわったんだ。

 現に落とされた左腕を見てみると、もうそれは腕ではなく、氷となって溶けはじめている。

 要するに、左腕は落ちてないって事。


「ほう、青龍としての能力、よく身につけられてるではないか。さすがは我が後継者……


 だから龍次りゅうつぎ ? ふざけるな。僕の両親はすでに亡くなってるんだ。貴様によってな!


 僕はあずま龍次りゅうじだ……そんな名前じゃない……


「青龍として、成長をとげたようだな。よくやったと褒めてやろう。我が息子よ。さあ、その力、この龍皇に渡してもらおうか!」


 奴は龍の牙、爪、尾の衝撃波を何発も何発も放ってくる。


「この力は貴様の命を奪うためのもの! 欲しいなら貴様の体に直接ぶちこんでやるよ!」


 僕は魔力を全開にし、真っ向から立ち向かう。

 だが、衝撃波の一つ一つが重すぎる……青龍魔槍イーストランスを持ってしても……弾ききれない!

 

 尾が僕の骨を折り、爪が体を引き裂き、牙が僕の体を砕いていく。

 

 凍気を放っても、槍で受け止めても……防ぎきれない。

 奴の単純な攻撃一つ一つすら防げない。


 ……僕は、


 僕は、


 こんなにも弱かったのか?


 嫌だ。負けるわけにはいかない。

 死ぬとしても……この男だけは……道ずれにしてでも殺す。


『龍くんは生きなきゃダメ!』


 姉さんの言葉……こんな時に思い出すなんてね。

 植物状態から目を覚まし、姉さんとまた会話したいけどさ……


 僕はこの時この瞬間、復讐を遂げるために生きてきたんだ。


 今日この日、龍皇を殺す。

 例え僕がここで死ぬことになったとしても……




 ――つづく。



「す、すごいことになってきましたね……まさか東くんの復讐相手が……か、勝てるのでしょうか? 心配ですね……」


「次回 龍の後継者。東くんは不服でしょうけどね」


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