第143話  青龍変化

 ――四神転身。


 四聖獣第四の覚醒。

 それは四聖獣の力を最大限、自らのものとする。


 だが、リスクがあるらしい。


 四神転身、それ事態にも種類あり。変化はその中の一つ。

 

 変化は自らの半身を四聖獣化。半身部分のみ、最大限四聖獣の力を発揮可能。だが、もう半分は覚醒前の力……


 それが、四神転身の変化。


 ……らしいよ。

 

 僕は四つ種類のある四神転身の中からあえて変化を選んだ。

 他三つは僕には扱いづらそうだったからね。


 ……この青龍変化は、半身だけは四聖獣の力を100%使うことができる。

 半身だろうがなんだろうが、青龍の力を100%使うことができるならそれでいい。

 この力を使って……龍皇はこの手で……倒す。


 命に変えてもね。



―――――――――――――――


「四神転身・青龍変化」


 そう言った瞬間、僕の左半身が変化する。腕や足が龍の鱗につつまれ、左側だけが青く染まっていく……

 顔も左側だけ、鱗に少しつつまれていく。

 安心していいよ。僕のハンサムの顔はそのままだからね。


 変化の時間はごくわすが。数秒にも満たない一瞬の出来事だったよ。そのスキに攻撃とかはできないだろうね。


 凍気が周囲に充満していく。それだけで辺りは凍りつく。

 龍皇の闇の影響で枯れた木々が凍る。奴の闇より僕の凍気が上かのよう……


「驚いたぞ龍次りゅうつぎ。ここまでの魔力を引き出せるとはな。ワシの後継としてふさわし、」


 ――瞬間、僕は奴の顔面を殴り飛ばした。変化した左腕でね。


 ざっと百メートルくらいは吹き飛んでいったかな? 辺りの物質、岩や木々をぶち壊し、巻き込みながら吹き飛んでいった。

 今までの僕の攻撃なら、奴は微動だにしなかったはず。


 勝てる。僕はそう自信をもって言える。

 復讐を……果たせる!


 だが、そう簡単にいく話でもない。

 僕の体に痛みが走る。


 攻撃はされていないのに。


 考えられる事とすれば……

 急な戦闘力の強化で、体がついていって……いない?


 全身がピリッとする。動くだけで痛みが走る。

 長期戦は……不利。


 なら即座に殺しにかからないとね……


「凄まじいパワー……さすが、さすがは青龍……! ふ、ふはははははは!」


 龍皇は笑いながら立ち上がり、僕の元へと早歩きで戻ってくる。

 

 効いてるはず……効いてるはずだ。

 だが、あの渾身の拳だけでは奴に致命傷を与えるには程遠いとわかる。


 三十三式……いや、奴の闇を混ぜることで更なる技へと昇華できるかもしれない。


「どうした? 急に慎重になったかのように。今一度受けよ、暗黒龍の群れダークネス・イリュージョンをな」


 またも黒龍が奴の背後から現れ、瞬時に僕に向かってくる。

 今度は先ほどよりさらに巨大な龍。

 こいつ……手を抜いていたのか?


 だがね、恐れる必要なんてない。今の僕には力が溢れてる……負ける気が……しない。


「ウンディーネ、コブラ。やるよ。僕達の、最大最強の一撃を放つ……」

「「了解」」


 僕は青龍魔槍をくるくると回し魔方陣を作る。

 龍氷撃の要領だ。


 そこに、奴から手に入れた闇、そして青龍としての最大限の力を織り交ぜ……


 ――放つ!


「六十六式・暗黒龍氷撃ダークネスブリンガー!」


 漆黒の氷の龍が放たれる。

 龍の通る道は朽ちつつ凍りつく。辺りの気温は南極以上に冷え、銀色に。


 奴の黒龍も例外なく凍結させていく。抵抗は無意味。僕の龍は、龍を統べるものすら……無力と化す。


 さらばだ。龍皇ゴミ。転生すらできないように凍てつかせ、命を砕いてやる。

 

「チェックメイト!」


 僕の一言のあと、暗黒龍氷撃は龍皇を飲み込み、凍結させて……消えた。



 ♢



「どうだい龍皇、負けた気分は」


 僕は顔を残し、完全に凍結した龍皇に笑みを浮かべて話しかけた。


 怒り狂うか? 敗北を認めないか? 命乞いするか?

 どれを選ぼうが嘲笑ってやる。

 両親、姉さん、僕の恨みを晴らすために……


「素晴らしい……」

「は?」

「素晴らしいぞ龍次りゅうつぎ。最強の龍は青龍だったわけだな。青龍こそが、龍皇……ふ、ふはははははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!」


 な、なんだこいつの反応は?

 負けたんだぞ? これから殺されるんだぞ? わけがわからない。

 なぜ笑う?

 理解が、理解ができない。


 僕はこいつの負け惜しみが見たかったんだ。嘲笑ってやりたかったんだ。こんなに笑い、満足そうなこいつを見ると虫酸が走る。

 僕はこいつに絶望を与えたかったんだ。


 許せない……

 怒れよ。命乞いしろよ!

 それを踏み潰すのが僕の生きる糧だったんたぞ!


 最後まで、最後まで僕をスッキリさせないつもりかこのクズは!


 今さらこいつを殺そうが両親は帰ってこない。姉さんが治ることもない。

 だからこそ、気分よく殺して嘲笑い、スッキリしたかったんだ!


 それなのに、それなのにこのクズはああああ!!


 僕は凍りついた奴の体を貫く。

 さらに体の内部に凍気を送りこんでやったんだ。

 痛みを刺激してやるんだ。


 痛覚をさらに刺激し、痛みと恐怖を……


「やはり、やはり龍こそが最強……天界人も魔族も、龍にひれ伏す運命なのだ」


 こいつ……痛みをものともしていないのか!? 何事もないかのように話を続けやがって!


「ふ、ふはははははは! 龍次、さらに力を、闇を手に入れ帝王カオスを倒すがいい! そして龍が最強と知らしめろ」

「何ぃ……?」

「お前は我が最大の作品。無事青龍へと覚醒したのがその証拠だ」

「……黙れ」

「お前はいずれワシの意思を継ぎ龍皇の後継者となる。ワシの組織、貴様にくれてやる」

「いらん……」


 何を言ってるんだこいつは!

 なんで僕がお前などの意思を継ぐというんだ! 

 お前は仇! お前の組織やお前の部下などいるものか! だいたい僕は魔族が嫌いなんだ! 誰が龍皇など継ぐものか!


「予言する。貴様は龍皇を継ぐ。そして天界と争う。そして……」


 龍皇はニヤリとしながら……言う。


「朱雀、美波神邏と殺しあう運命にある」


 ……美波と? 


 確かに僕はあいつが嫌いだ。

 でも嫌いだから殺すなんて、イカれた考えは僕にはない。

 今のところ争う理由なんてない。奴は魔族でもないんだしね。


 それに僕は目的である復讐の相手、龍皇を殺す事が今叶うところ。

 もう目的という目的はなくなるんだ。戦う理由すら失くなりそうなもの。

 それでなんで美波と争うことになる。支離滅裂だ。

 そんな非現実的な話するより、命乞いでもしろよ。


「……そもそもお前、美波を知ってたのか。朱雀と知ってるだけならまだしも名前まで」

「あの美波修邏の弟だろ? 情報屋からもいろいろ聞いている」


 情報屋……なんなんだあいつ……

 美波修邏? よく知らないけど名前からして美波の兄? 

 

「美波修邏……奴の弟ならば……つまり、ふ、ふはははははは! 必ず勝て! そして最強は龍」

「いい加減、その汚い口を閉じろ!」


 僕は凍結した奴の体を粉々に砕いた。

 氷となった奴の体からは、血すら流れない。血液も凍っているから当然だけど。


 バラバラとなり首だけとなった龍皇はまだ笑みを浮かべている。


「ワシの闇を取り込んだのだ。龍皇の兆しは現れる……お前は、いずれ、他の四聖獣と合間見え……」

「死ね」


 奴の頭部は凍りつき、瞬時に砕けちった。


 砕けた氷は水となり流れていき、地中に沈んでいく。


 勝った。僕は、勝った。


 復讐を、果たした。


 あいつの戯れ言なんかしらない。僕は目的を果たした。

 やった、やったんだよ。


 褒めてくれるかな? 父さん、母さん。


 目を……覚ましてよ姉さん。仇はとったよ。僕を褒めてよ。よくやったと、頭を撫でてよ姉さん。


 姉さん……姉さん……


 ――瞬間、僕は全身から血を流し、地に倒れた。



 ♢



 ――北山side。


「東! おいもういいだろ助けに行っても!」

「う~ん? いいのかな~?」


 皆木は自らの聖獣八咫烏に意見を聞く。

 

「「行かせてやれ。もちろん護衛しろよ。朱雀様のためだ」」

「ハイハイ~。あんた、なみちゃんに忠実すぎてキモいよ~」


 皆木は北山を離す。

 即座に北山は東の元に走る。皆木もつづく。


 東は完全に気を失っている。

 致死量といって差し支えないほどの出血……


「死んでんじゃないの~?」


 皆木が不謹慎なことを言うと北山はにらみつける。


「縁起でもねえこと言うな! ぶっ飛ばすぞ!」

「北山くんなんかじゃ無理~」


 舌出して挑発する皆木。

 明らかに苛立つ北山。一触即発の空気。それを止めるためにメリューサが二人の間に入る。


「争ってる場合ちゃうでしょ! うちらは狙われてる立場ってこと忘れない! すぐまた誰か来るんやで!」

「わ、わりい」


 すぐ冷静になり、北山は東を背負う。血で自分の服が濡れるのを気にしないで。


 まだ血は流れてるようにみえる。早く手当てをしないと。


 ――そう思っている矢先、足音がする。

 目線を足音の先に動かすと……


『手負いの人間……殺すには絶好の機会というものじゃのう……』


 白髪、白ひげ、白目で顔に大きな傷をつけた巨体の魔族。その背後にも数人の魔族が見える。


「だ、誰だてめえは……」


 恐る恐る北山は問う。白ひげの人物はひげをさわりながら答える。


「死に行くものに名乗っても仕方ないが、答えてやろう。覇王軍首領、覇王バルシアスとはワガハイの事じゃ」



 ――つづく。


「ええ!? 強敵倒したと思ったらまた敵ですか! やはり魔宝玉持ってるからですかね? もう北山くん手放せばいいのに」


「次回 覇王軍強襲。東くんが戦えない以上……マズイ気がします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る