第138話  盗賊団グランド

 ――伝達部隊side。


 後方で各部隊の情報、連絡、指示をつとめる部隊。

 そこを束ねる軍師的立場の各、エースの四人と♡の十三キングの風見の姿がそこにあった。


「報告! 周防隊が七つの大罪人を仕留めました!」

「わかってる。兵隊達に守護の指示した甲斐があったね」


 エースの蔵野が満足そうに頷く。

 周防隊である兵隊達の指示は彼の賜物。お陰で守りに徹し、周防は救われていた。


「だが想定外の難敵だったみたいだね……神咲以外はまともに戦えないかもしれない。少し休ませよう」

「となると本隊への援軍は燕隊に?」

「そうだね。北山って子の保護よりそっちを優先させよう。そちらは遊撃隊の朱雀の部隊に任せて」


 すると、通話連絡が入る。

 天界からだ。

 映像を写し出すと、そこには天界の守護に残った西木の姿。


『みんな、ご苦労様。戦況聞きたくて……どんな感じだい? 黄木司令の姿見えないけど……』


「黄木司令なら前線に出られた」


 風見が蔵野の変わりに答える。

 西木は血相変える。


『黄木司令が!? なんでだ!? 危険だぞ!』

「そんなこと言ってる場合ですかね西木将軍。我々としてはなんとしても大暗黒剣が必要なんだ。危険だとか言ってる場合では」

『あの方は軍の司令なだけでなく、次期天界の王、光帝につくべき方なんだぞ!?』


 最高司令は軍でトップなだけで、全ての決定権などがあるわけではない。相談役の元老院などもいる。

 しかし光帝は天界全ての最高権力者。あらゆる決定権を許される立場。

 

 先代光帝が亡くなって二年。

 そこから次期光帝候補三人に絞られた。

 黄木、天海、五竜院。


 西木は黄木派。その上周防と同じく彼に心酔する立場。故に身の心配をするのは当然だった。


 ちなみにヒカリは天海派だ。


 一方風見は亡き光帝のドラ息子、五竜院蜜則の派閥。

 ドラ息子は二年前にある失態を犯し罰せられ、軍に関わることを亡き光帝に止められ、本来はその立場にいられない男。

 だが風見らに担ぎ上げられ、次期光帝候補になっていた。


 西木は、ドラ息子を単なる傀儡政権の道具にしたいだけだと踏んでいる。

 つまりは実質風見が光帝になるようなもの。ドラ息子の派閥は風見の部下みたいな連中だらけなのも、そう思う材料として充分。


 黄木を前線に出し死ぬような事があれば、光帝候補の最有力者が消える。風見にとって都合の良い事。

 

 故に、西木は黄木を前線に出させるよう仕向けたのではないかと疑っているのだ。


「西木将軍、まあ落ち着いて」


 蔵野がなだめる。


「黄木司令は少し衰えたとはいえ、あの英雄の火人殿と並ぶ実力者です。そう簡単にやられるはずもないし、今のこの戦では重要な戦力なんです」

『ならボクや、それこそそこの風見が行くべきではないのか!?』


 血相変えてる西木に、呆れるようにため息をつく風見。


「自分はエース達と共に作戦指揮、そしてお前は天界待機と、それこそ黄木司令の指示ではないですかね? 最高司令の命令を無視すると?」

『……なら司令が自ら前線に出ると言ったのかい?』

「もちろん」

『そうさせるように仕向けたんじゃないのかい風見! 黄木司令が光帝候補で邪魔だから!』


「西木将軍!」


 言い過ぎだと言わんばかりに、蔵野は強く言い放つ。


 実際それは西木の憶測だ。

 ここのメンバーは皆、自ら前線に出ると言った黄木を見ていた。

 故に、西木が憶測で風見を糾弾きゅうだんしてるようにしか見えないのだ。


 風見は蔵野の肩に手を当て、首を振る。自分に任せろと言わんばかりに。


「軍の目的は大暗黒剣の入手。そのために最大限力を尽くすのは当然の事。それに天界の戦力たる司令をむざむざ殺すような事、するわけがない」

『どうだかね……殿下を担いで実質的に光帝につきたいお前の事だ。信用……』

「そもそも、光帝に真にふさわしいのはあの方……修邏さんだけだ。そんなこと思っちゃいないよ」


 周囲がざわつく。

 天界の大罪人かつ、神邏の兄、修邏の名があがったからだ。


 美波修邏が天界軍で率いてたジョーカーズ。そこに風見はいた。

 ジョーカーズは修邏に心酔するものが多かった。それゆえに、修邏が天界に反旗はんきひるがした時、風見はジョーカーズとして修邏についた。

 風見が立場や能力があっても、光帝候補に入れなかったのがその理由。


 西木もまた、ジョーカーズだった。しかし、彼は最後に修邏を裏切り不意討ち。

 そのおかげで天界は修邏の反逆を阻止することができたのだ。

 西木も天界最強戦士ゆえに光帝候補になれないのは、裏切ったとはいえ元ジョーカーズだからだ。


『お前……まだ修さんに忠義を』

「当然。とはいえあの方はもういない。今さら天界になにかしようなんて気、ありませんよ」


 そう言うと、風見は勝手に通信を切った。

 その後、周囲の者達に笑顔を見せる。


「さあ、そんなことよりもいくさに集中しましょう皆さん」


 そうは言うものの、変な空気が流れていた……

 風見は未だに美波修邏を慕っている訳なのだから……




 ♢




 ――本隊side。


 大暗黒剣を作成するために、魔宝玉を捧げる祭壇。その周辺に本隊のチーム天海が陣どっていた。

 そこに……


「天海ぃ!」


 別の隊を率いてた同じ四将軍かつ、北山の師匠燕がやって来た。

 天海は振り返り笑顔を見せる。


「燕さん。ご無事で?」

「当然よ。周防のおっさん達が来れなくなったからな。とりあえずおれさま達が来たわけだが……何してんだお前ら?」


 天海達は茂みに潜んだまま、何もしていなかったからだ。

 天海は首を振り、燕の視線を誘導する。

 その視線の先には……


「かあああ!」「きええええ!」


 魔族達が争ってる光景だった。


「奴らは?」

「同じく暗黒剣を狙う盗賊団のグランド、それとバビロンですよ」


 現在この地に現れてる組織。

 天界軍、帝王軍、覇王軍、グランド、バビロン。

 その中の二つが祭壇前で争ってるらしい。


「なんでこんなとこでドンパチしてんだ? 魔宝玉がねえと大暗黒剣作れねえだろ? あれはまだ北山が持ってるはずだしよ」


 空に浮かんでる文字には、未だに所持者は北山乱と書かれている。つまり、まだ北山の手から離れていない証拠だ。


「北山を襲い奪うか、ここで待ち伏せしてるってならわかるが、今ここで戦ってる意味がわかんねえ。敵が勝手に減るのは良い事だけどよ」

「バビロンはどうやら祭壇を破壊したいようですよ」

「ん? 大暗黒剣欲しくねえのか?」

「敵に渡すくらいなら……って事でしょう」

「なるほどな。おれさま達も、最悪帝王軍に渡すくらいなら破壊しろって命令だし、わからなくもねえか」


 バビロン全戦力とグランドの頭、ヴァイソンの部隊の戦闘。

 本隊は帝王軍もどこかに潜んでると思い、あえて様子を伺っていたわけだ。


「ヴァイソン! 邪魔をするな!」


 バビロンのリーダー、オーギルが叫びながらグランドの賊を始末する。


「それはこっちのセリフだな! せっかくの帝王軍対策の武器、手に入れようとしない方がバカってもんだぜ殿下! 亡き父上様が泣いてるぜ!」

「貴様が父上を語るな!」

「あんな最低野郎の事どう思うが勝手だろうが!」


 ヴァイソンは身体を変異させる。腕は竜のような鱗、鮫のような牙、とさか、大きな翼。足は極太のゴリラのようになる。


 ヴァイソンの能力、魔獣変異トランスである。魔界に生息するあらゆる魔物の性質を自分のものとする事のできる能力。


「消えろ、哀れな殿下」


 ヴァイソンは指先にモンスターの爪のような物質を乗せ……弾く!

 爪は弾丸のように飛び、オーギルの心臓付近に……


「王子!」


 腹心のナポルが身をていして庇う。

 ナポルの心臓は貫かれ、吐血。

 爪は貫通しなかったため、オーギルは無傷だったが……


「ナポル!!」


 倒れこむナポルを抱え、呼び掛ける。しかし、ナポルはすでに絶命していた……


「ナポル~!!」


 子供の頃から自らに仕えてくれていた腹心の死。そのショックは大きく、亡骸を抱きながらその場に塞ぎこむ。

 それを見逃すヴァイソンではない。


「死ね。哀れな坊っちゃん」


 魔導弾がオーギルめがけて放たれる。オーギルは視線すら合わさず、亡骸を抱きしめたまま。

 

 終わりだ……そう思った時、何者かが割ってはいる。

 その人物は盾を瞬時に生成し、オーギルをガードする。


「ああ……? 誰だてめえは。バビロンにいたか? てめえみたいな奴……」


 ヴァイソンの質問に、盾を持つ男は答える。


「何せ新入りなもんでな……。四聖獣の玄武、木田理暗だ。覚えておけ」


 理暗はオーギルを横目で見て言い放つ。


「リーダー立て! あんたの目的忘れるな! ナポルのためにも、打倒帝王軍の意志を貫け! そんなところでヘタレるような奴にオレはつかんぞ!」


 理暗の叱咤激励に、涙をぬぐいオーギルは立つ。


「そうだな。貴様の言う通りだ。……ナポル、墓は後で作る待っててくれ」


 ヴァイソンは唾を吐き散らす。

 こんなにあっさりと立ち直るとは思わなかったため、不服なようだ。


 ヴァイソンは周囲を確認する。

 

 辺りに帝王六騎衆のゴルド、そして天界軍が潜んでる事に感ずく。


(面倒な。どうせなら4つ巴の戦いにしたいところだな。覇王軍がいねえところを見ると、奴らは魔宝玉の元か?)


 だがそれはグランドも同じ事だった。


(オレはこいつらを引きつけておけばいい。カゲツが魔宝玉を手にこちらに戻ってくるまでな……)


 義理の息子たるカゲツ。ヴァイソンはそんなカゲツの実力に絶大な信頼をおいていた。


(敵本隊でもない連中がカゲツに勝てるはずがねえ。あいつはオレよりも強いんだからな)



 ――つづく。



「やられ役と思ってましたが、思ったより強いんですかね……? 次回はまた別の視点? 神邏くんはよ!」


「次回 カゲツ対……? 誰かが戦うみたいですね。誰でしょうか……?」

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