第139話  カゲツ対……?

 ――神邏side。


 俺の率いる遊撃部隊は全員、北山の元に向かっている。

 大暗黒剣を作成するための魔宝玉、それの所持者は北山。

 なんで北山が持ってるのかは不明だ。だが、そんな事はどうでもいい。

 

 魔宝玉を持つ者を、ここに来ているあらゆる勢力が狙う。

 それはつまり北山の身に危険があるということだ。

 

 ――後方支援の遊撃部隊にされててよかった。だからこそこうして本隊ではなく、北山の所に向かう事ができるからだ。


 魔宝玉は輝き、光柱として天に突き刺さっている。故に、北山のいる場所の予測は大体つく。


 待ってろ北山。今行く……


 ――殺気!?


 俺は何者かの殺気を感じる。すぐさま相手の位置を……

 敵は、複数人いる!


 突如四方八方から鎖が、森の茂みから飛び出してくる!

 俺は全方位に風圧を放つ。当然仲間には当たらないように。


 鎖を風圧により全て弾き、全員を守る事に成功……


 ドシュッ!


 地中から更なる鎖!

 その鎖は水無瀬に向かっていく! 俺は水無瀬を突き飛ばし、庇う。

 すると鎖は俺の右腕に絡まり……


「「封!」」


 何かが俺の右腕に流れ込むような感覚……


「神邏! 大丈夫!?」


 水無瀬が俺に駆け寄る。俺は大丈夫と伝え、鎖を放った相手を確認。


 茂みから数人の魔族が現れる。

 その中のリーダー格と思われる人物が口を開く。


「天界軍か?」


 その男、塩顔って言われるような切れ目の容姿。背も体つきも俺より一回りは大きい。

 服装は帝王軍の軍服とは違う。

 薄着でどことなく賊徒のよう……


 賊、つまりはグランドとかいう組織か……?

 

 黙って答えない俺に、少し苛立ちを見せる男。


「質問してんだ。答えたらどうだよ天界軍。仕方ないからこちらから名乗ってやる。グランドの副長、カゲツだ」


 副長……? グランドの二番手って事か?

 

 グランドは賊徒の集団、恐れるような組織ではないって話だったが……


 このカゲツって男、できるぞ。


 けして油断できるような相手じゃない。


「おい、こっちが名乗ったんだ。そっちも名乗……」

「水無瀬、ミラ。部隊を率いて先に北山の元に向かってくれ」


 俺はカゲツを無視して指示。

 水無瀬は何か意見しようとしていたが、


「わかった。行くぞ」


 ミラが俺の意思を尊重し、水無瀬を掴んで連れていく。

 首を左右に振り動揺する水無瀬。


「え、え? ちょっと! 何を勝手に……」

「隊長がああ言ってるんだ。部下のわたし達は従うべきだと思うが?」


 一応、この部隊を率いてるのは俺だ。それゆえに、文句も言わず従ってくれるのは大変ありがたい。

 兵の方々は俺に何かしら思うところはあるかもしれない。でも俺と共に戦わずにすむのなら、皆さん喜んで先に向かってくれる事だろう。


 実際、不服そうな態度をしてるのは水無瀬だけだしな。


「神邏はあいつをただ者でないと判断した。そう簡単に倒せる相手じゃないって事だ。そうなると北山って奴の元に向かうのが遅れる。だからわたし達を先行させるんだ。わかるな?」


 ミラは俺の心中をかわりに水無瀬に伝えてくれた。

 重ね重ねその通りだ。


 北山が今どういう状況かわからない。あらゆる組織があいつを狙ってる以上、一刻も早く助けに向かいたい所……

 だがこのカゲツって男がそうはいかせてくれない。


 なら俺が足止めし、皆を先に行かせるのが一番。

 無論、できる限り早くこいつを倒し、合流するつもりだがな。


 水無瀬はミラから俺の心中を聞かされ、納得した様子を見せた。そして一言。


「先に行って待ってるから!」


 俺は手を上げて、水無瀬に答える。

 俺の部隊は一人残らずその場を離れる。後は水無瀬辺りが率いてくれるはずだ。

 まあ、部隊に指示なんて俺には向いてないし、これで良かったのかもな。


「おやおや? 一人残してとんずらか? ひでえ連中だねえ」

「違う。あんた一人に時間とられたくないからだ」

「ってことはお前は捨て石かい?」

「いや? 俺は負けるつもり、ないからな」


 俺は仲間がいなくなったのを確認後、全方向全周囲に風の刃、かまいたちを無動作で放出。


 風圧と斬撃により、カゲツという奴の引き連れていた兵隊は裂かれ、吹き飛ばされることで一網打尽。


 潜めさせてた部下もいれて、百人くらいはいたようだな。それら全員が、断末魔をあげ倒れ散っていった。

 

 だが、カゲツという男はかまいたちをいとも簡単に弾き無傷だった。


「あれま、兵隊がこうもあっさり……。確かに賊徒の雑魚共ではあるが、こうも一瞬で全滅させられるとは思わなかった。……お前が例の、片翼の堕天使――朱雀か?」

「だったら?」

「面白い。天界の切り札ならオレ以外に太刀打ちできるものはいないしな。むしろついてる」


 ……こいつ、俺の堕天の異名知ってるなら、バロンを俺が倒したことも知ってるはず。

 なのに余裕を奴には感じる……

 

 相手の力量がわからないなんて奴にも見えない。

 

 ……警戒したほうが良さそうだな。

 後の事、考えてる余裕はない。

 始めから全力でいく。

 

 ――堕天モードでな。


 ……実は安易に使わない方がいいかもしれないと、水無瀬が前に言っていた。



―――――――――――――――


 ――数日前。


『ねえ神邏。あの堕天使の力、あれ危険だと思うの』

『危険?』

『ええ。あの姿、ルシファーって一族の力に酷似してるらしくて……』


 ルシファーとは、四聖獣の一族のような、魔族のエリート一族らしい。

 今は数を減らし、滅びかけてるらしいのだが……


 その一族はあの、帝王カオスの血筋なんだとか。


 俺に魔族の血なんてない。だから関わりなんてない。……はず。


 ……堕天の力を手に入れたきっかけは、ルミアが俺の過去の魔力を返してくれた時……

 ※108話参照。


 ルミアが俺の魔力を体内に宿し、彼女の魔力と融合したか何かであのような姿になった。

 ……そう推察されていた。


 あれから俺が全力の力を出す度に、堕天の姿へと変異する。


 もし、俺が関係ないというのなら……ルミアがルシファーの一族と関係あるという事になってしまう。

 ……それこそ考えられない話だ。彼女は人間なんだから。


 ただどちらにせよ、本当にルシファーだとかいう力なら……確かに危険性はあるのかもしれない。

 帝王と同じ力なんて、な……


 そして、水無瀬はこうも言っていた。


『神邏のお兄さん、修邏さんがおかしくなった時も……堕天使みたいな力を使ってたって聞いたことあるの』

修邏あいつが?』

『うん。だからその、怖いというか……神邏の身に危険な事がおきるんじゃないかって。だからできれば使わないほうがいいと思うの』


―――――――――――――――


 俺は修邏の弟だ。

 もし奴が……この力が原因でおかしくなったというなら……俺も、そうなる可能性はあるかもしれない。


 でも、俺はあいつとは違う。

 俺は俺だ。


 制御してみせる。


 俺は自らの頭を触り、堕天モードに変貌……


 ――できない!?


 何故だ?


「残念。何か力を使おうとしたな?」


 カゲツが不適に笑う。

 奴の仕業か?


「さっき小娘庇った時、オレの鎖に絡まれたろ?」


 ……確かに。

 何か危険な能力かと思い、最大限防御したのだが……特に何の影響もなかった。


「我が能力でな。鎖により、あらゆる能力と力は縛られ、封印される」


 封印だと!?


 能力を封じられたのはともかく、力まで封印されたと言うのか? そんなバカな。

 魔力は使えるぞ?


 ……いや、そうか。

 鎖で縛られた右腕。その右腕の魔力や力が封印されたんだな。


 右腕事態は動くが、魔力を右腕に集中することができない。

 要は能力と、縛った部位の魔力を完全に封印する能力なわけか。


 おそらく、堕天モードになるための力は右腕に集中されてたんだ。

 その右腕の魔力を使うことができなくなったことで、堕天モードになれなくなった……というわけか。


 使わないほうがいいと言われてた力を、まさか物理的に使えなくさせられるとはな……


 それも水無瀬を庇った事により封じられるとは、変な巡り合わせだな。


「どうやら能力だけでなく、かの有名な堕天使の力を使えなくなったようだな」

「そうだな」

「ならあっさりと終わってしまいそうだな」

「そうだな」


 俺の同じ返しに不服そうににらみつけてくるカゲツ。


「なんだ? その態度は? 追いつめられてるんだぞ貴様」

「そうだな」

「てめえ!」

「力を使えなくとも、お前に負けるって事にはならない」

「なに?」

「あっさり倒れるのはお前のほうかもなって事だ」


 カゲツは両腕から鎖鎌と鎖分銅を取り出し……叫ぶ。


「いい度胸だ! ならやってみてくれよ! オレをあっさりと倒してみろ!」


 ああは言ったが、そう簡単にいく相手じゃない。これで冷静さを消させ、有利に事を進めたいものだな。


 俺も、早くみんなと合流して北山を助けに行きたいからな……



 ――天界軍side。


「朱雀、何者かと戦闘に入ったもようです……相手は……



 ――つづく。



「やった~! 神邏くんの出番です! えへへ~カッコいい~。って、最後のカゲツは魔族じゃないって事です? そんなバカな……」


「次回 グランド次期頭領。そんな奴やっつけちゃえ神邏くん!」

 

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