第110話  吸収封じ

「片翼の堕天使、美波神邏対帝王六騎衆、騎士ないとバロン。第二ラウンド開始!」


 ……と、朱雀聖剣サウスブレイドのリーゼが実況さながらにアナウンスしだした。

 この子、そういうの好きだったのか。なら前の大会とか内心ウキウキだったのかな……


 まあでも、そんなお遊びする余裕があるならよかった。折られた経験で恐怖でも感じてないか心配だったしな。


 リーゼとイリスの相棒聖霊二人が万全で、新しい今の俺の力が合わされば……バロンに勝てる。そう思えてくる。


「さあ、まず手始めに……」


 バロンは指を振るう。さながら曲の指揮をするかのように。


 ――瞬間、俺の周囲全てに竜巻が発生する。逃げ場はない。隙間1つなく烈風が渦巻いている。 


 そして竜巻は俺めがけて襲いかかってくる。辺りの瓦礫やら地面を抉りながら。

 だが今の俺にそんなものは通用しない。


 俺は軽く剣を一振りする。その一振りは鋭い緑色のかまいたち。

 その鋭利な刃は、奴の竜巻を容易くぶち抜き無風の穴を作り出す。俺はその穴に飛び込み、竜巻の檻から逃げ出してみせる。


 勢いそのままに、俺はバロンの周囲を高速でグルグル回る。


「……お返しだ」


 俺はかまいたちを全方位、全方向からバロンめがけて放つ。


「ぬるい!」


 バロンは自らの身を守るように、竜巻の壁を生成。竜巻はかまいたちを全て飲み込み消し去る。


「この程度で、某に一撃くわえられるとでも?」


 余裕の笑みを浮かべた後、奴は竜巻の防御を解く……その時!


 風がなくなったその瞬間に、かまいたちが奴めがけて飛んでいく。

 カメレオンの擬態のように、竜巻が第二波のかまいたちを見えなくしていた。よって、目では第二波が飛んできていることには気づかなかったはず。


 「下らん戦法だな!」


 風の槍が地中から湧き出し、すべてのかまいたちを貫き、消し飛ばしていった。

 

 ……かまいたちはブラフだ。


 奴がかき消したかまいたちから、何かの種が射出される。

 一部はバロンに付着、一部は急成長して樹木に、さらに一部は地中へと入り込む。

 

「――!?」

百花繚乱ひゃっかりょうらん・紙吹雪」


 バロンに付着した種は芽が出て華が咲き、樹木はバロンの体に絡みついていく。

 華は対象の魔力を吸う。樹木もまた、相手を縛りあげつつ魔力を奪っていく。

 

 付着していない部分からも華が咲き、乱れ舞う。縛りあげてる樹木からも……

 

 百花繚乱の名の下に、華が咲き乱れていく。バロンの魔力という栄養を元に。


「下らん下らん下らん下らん下らん下らん下らん!!」


 バロンは体からかまいたちを発生させ、華と樹木を切り刻んでいく。だがその程度で俺の植物達は行動を停止したりはしない。魔力を吸い、自己再生をしていくからな。


 切られた部位同士が再び付着し、華も樹木も治っていく。再生に使われる魔力は俺のではなく奪った魔力。故に俺にリスクはなにもない。奴が自爆するように魔力を消費していくだけだ。


「味な真似を!」


 バロンは手刀にドリルのような竜巻を集める。それにより華や樹木が今以上にバラバラに切り裂かれていく。

 烈風槍ゲイボルグとかいうやつか。


 俺の憶測では、あの槍は発動した時点で周囲のものが切り刻まれ、魔力として奴に吸収されていく技。

 吸収と攻撃を同時におこなうため、本来の威力以上の一撃になる。

 なぜなら、吸収した魔力がそのまま攻撃に換算されていくからだ。

 相手が魔力で防御なり、攻撃技で対抗してくるなら、技の魔力、防御の魔力が吸収され、威力が下がってしまう。


 ……攻防一体の技と見て間違いない。これほど厄介な技は今まで見たことない。


 奴の能力、吸収ドレインの真骨頂。


 それに対抗するために俺と聖霊達が考えた対抗策の一つが、この百花繚乱・紙吹雪。


 吸収には吸収で返す。木属性魔力の中でも樹木による攻撃には僅かながら、物質から魔力を吸い取る性質がある。もちろん奴の能力に比べれば精度や速度など雲泥の差がある。


 それでも吸収する物質が多ければ多いほど、それ相応の精度にはなる。

 百花繚乱・紙吹雪にいたっては、相手の魔力を吸い取る事で巨大化。そしてさらに種を植え付け芽吹き、数を増やす。おまけに再生能力も完備している。

 

 バロンは俺と同じ木属性。それ故に吸い取った魔力をそのまま再生や種の生成、成長に使うことができるのも大きい。


 ……質で対抗できないなら、莫大な数で攻めればいい。これだけの数なら奴の吸収能力にいくらか対抗できる。

 まず、これが対策その一だ。


 木属性はなにも風だけじゃない。樹木の力もある。奴は風に全振りしてるようだがな。

 風単体で勝てないなら、この樹木や華の力を生かし対抗してやるまで……


 「面倒な技ですがね、これほどバラバラにしたらもう、再生は不可能でしょう?」


 烈風槍ゲイボルグによる風撃で、華や樹木は細切りというレベル以上に切り刻まれ散った。

 

 ……たしかに、そこまでバラバラにされたら不可能だ。

 

 だがな、何か忘れてないか?


「――!?」


 地中から種の射出、樹木、華が時間差で芽吹いていく。

 俺は地中にも種を仕込んでいた事、忘れてたわけじゃないだろ?


「同じ手を、何度も何度も!うざったいんですよ!!」


 烈風槍ゲイボルグの烈風が巨大化し、風圧が強化される。そしていとも簡単に、すべてが細切れにされていく。


「これでわかりましたか!?無駄なんですよお!!」

「わかったよ。……無駄じゃないって事がな」

「なにい!?」


 俺は奴の懐に飛び込み、朱雀聖剣サウスブレイドに魔力を集中し切りかかる。

 当然奴は反応し、烈風槍ゲイボルグで迎え撃つ。


 風の剣と風の槍がぶつかりひしめき合う。


 そして、俺は口元に笑みを浮かべ問う。


「吸収能力はどうした?」

「――ちい!!」


 今のこのぶつかり合いで、吸収能力は発動していなかった。俺の剣の魔力を吸収できていないのだ。故に力負けせずにいられる。


「吸収能力……。おそらく吸収の精度を上げれば上げるほど、次の吸収までタイムラグが発生する。……違うか?」

「……」


 奴は黙っているが、眉間にシワが寄せられる憤怒の表情で察せられる。ビンゴだ。


 元々対象の能力分析に光る西木さんの能力でわずかに特徴はわかっていた。それによる情報と照らし合わせ、見つけられた唯一のスキ……。それこそが吸収封じの対策その二だ。


 タイムラグの間ならこちらの攻撃を吸収される事はない。その間に奴に、ダメージを与える……

 それが、バロンを倒す唯一の方法。


 俺はなりふり構わず、剣の連撃を放つ!

 奴もまた、連撃に対抗するように槍を放つ。


「なめるなあああああああああ!!」 


 連撃と連撃のぶつかり合い。衝撃がもれ、辺りに被害が出ていく。地は割れ、岩が崩れ、雲は消し飛ぶ。

 今この場には、何者もこの場に割り込むことなどできないはず。


「ふっ!!タイムラグは終わりだ!!」


 ほんの数秒しか経っていないが、もう能力発動可能なのか。だがそれならまた……


「百花繚乱・紙吹雪」


 発動するまでだ。


「いい加減うっとおしいんだよ!!」


 バロンは技だけでなく、俺の魔力も奪おうと大きく吸収能力を発動する。ならば距離を取るまでだ。


「――!?」


 吸収能力も射程距離がある。吸収速度や効力を強化すればするほど、離れた相手には通じづらい。

 

 ならば相手を追いかけるか、発動を一旦止めるところだが、それは百花繚乱・紙吹雪が発動してるためそれを許さない。

 追いかける事は樹木などが邪魔をするため、離れた俺と一瞬で距離を詰める事はできず、能力の解除をすれば百花繚乱・紙吹雪により魔力を吸い取られる。


 そしてまた吸収能力使用後のタイムラグが発生すれば、また俺は接近して切りかかる。

 

 ヒットアンドアウェイ戦法……

 これなら時間はかかるが安全に能力を封じつつ戦える。


 しかし、一瞬の油断が生命とりになる。神経を研ぎ澄まし、冷静に戦うまで……


 俺は再び接近し、連撃をおこなう。バロンもまた迎え撃つ。


 そしてまたも、何者も邪魔できない風と風のぶつかり合いがひしめき合う。

 連撃のぶつかり合いは互角……けして負けてはいない。

 後は重要な……


 

「決め手が……ない」


 ルミアに治療されてる西木さんが口を開いた。それに驚くルミア。


「どういう……ことですか?」

「簡単な事だよ。一見いい勝負に見えるけど、朱雀には……決め手となる技がない。逆にバロンには死の風鎖連撃デ・スクリームがある。スキをみせた途端ジ・エンドだ」

「神邏くんにだって、絶華かが……」


 絶華ぜっか一閃いっせん。俺の最大の奥義だ。何よりも信頼できる必殺技だが……


「絶華なら……撃てない」



――つづく。


「ええ!?撃てないってなんでですか!?じゃあどうすれば……?」


「次回。鳳凰烈華ほうおうれっか。こ、これはまさか……新技!?」

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