第109話  堕天使対騎士

片翼の堕天使……?

帝王六騎衆、騎士バロンは俺の姿を見てそう言った。


俺は四聖獣の朱雀ではあるが、堕天使などではない。

……まあ何故か姿は変わってしまったが。


服や髪などは真っ黒、片翼の翼……まあ朱雀としての力を開放したときも、翼は片方だけ出現していたか。

あの時はこんな紫色のリアルな翼ではなかったが。

※1話part4参照。


「なんなのです?その姿は……」


驚愕しているバロンは俺に問いただした。


何と言われてもな……俺自信、何がなんだかわかっていないんだ。


俺はただルミアに――


―――――――――――――――――――― 


――数分前。


『預かっていた力を、神邏くんに返しました』


ルミアは俺に大量の魔力を送り込んだ。

その瞬間、俺は今の姿へと変貌。


『二年前のある出来事、その時、神邏くんは朱雀へと覚醒したらしいです。見てたわけではないですが』

『……』

『勝手な事ながら、私は神邏くんが戦いから逃れられるチャンスと思い、魔力を抜き取っておいたんです』

『魔力を……抜き取る?』

『はい。その後、軍の人に神邏くんは記憶を消されたそうです』


――そんな事可能なのか?

それこそバロンの魔力吸収能力のようなものでもなければ、不可能としか思えない。


ルミアの能力は確か、信用してる者以外、彼女に触れる事ができないという防御系能力と、前に言っていた。

……とても魔力を抜き取る能力ではない。


『抜き取ったとはいえ、その魔力を私が使えたりはしませんけどね。何故できたかとか、詳しい話は後でします』


まあ確かに、細かい説明を受けてる暇はないしな。


『……抜き取った事で、神邏くんの魔力は僅かなものになりました。それにより、天界軍に朱雀に覚醒した事実を隠せたんです』

『魔力が減ってたから俺の記憶を消せた……前に西木さんが言ってた事に合点がいくな』

※30話参照。


朱雀だということの隠蔽、記憶を消せた事。それらは裏切り者の可能性がある特殊部隊の仕業と考えられていたが、ルミアが少し絡んでいたのか……

彼女に悪気はないのだろうが、結果的に裏切り者の協力をしてしまってたわけか……


『何かの陰謀が渦巻いてたのは知ってました。でも、私にとっては神邏くんが戦わずにすむなら、それが一番いいと思ってました。……でも、結局あなたは戦う事を選んだ。記憶は戻ってないのに』


俺はそんなルミアの思いを無下にしたわけか……

その気持ちはとても嬉しい事だ。


『私が奪ったのは何も魔力だけじゃありません。眠っている朱雀の力そのもの。今それを返せば、今の神邏くんなら使いこなせるかもしれません』

『朱雀の力?』

『四聖獣の力の解放は四段階にわかれてます。今の神邏くんは二段階、多分これで三段階目の解放が可能』


四聖獣の力の解放が進むということか?なら、バロンに太刀打ちすることができるかも……


今の今まで力を返さなかったのは、俺が耐えきれるかわからなかったから……そういう事だろうな。


『……実は、少し賭けでもあるんです。元々神邏くんにあった力とはいえ、今の神邏くんが耐えられる保証はありませんし』

『……どうせ勝てるかわからない状況、そのくらいの賭けには勝てなきゃな』

『無理そうなら逃げる。約束してください。神邏くんさえ生きていてくれれば私はいいんですから』


ルミアの手が震えてる。

俺はそんな手を優しく握り、不器用に笑いかける。


……ルミアのためにも、やるしかない。

どこまでできるかはわからないがな。


――そして、魔力の移動が完全に終わった事を確認する。

俺はルミアの頭を軽く撫でた後、ルミアとミラ二人に言う。


『勝ってくる』



―――――――――――――――


――で、俺はバロンの元にやって来ただけだ。

力を取り戻しただけで、この異様な堕天使のような姿の理由はわからない。


「某は、その姿に似ている存在を知っていますよ……堕天使ルシファー」


堕天使ルシファー?


「天界人の四聖獣の一族のようなものですよ。魔族でいうね」

「……魔族のエリートの血筋って話か?」

「ええ。ルシファー一族がその堕天エネルギーを前に出した時の姿に酷似してます」


……だろ。

俺はそんな一族でも、魔族でもない。関係はまったくない。

要はただ似てるだけ。

そんな驚く事じゃない。


「今はその血筋は帝王陛下の家系のみのはず。となると陛下を除けば、後は子供の三名のみ。だから、おかしいんですよ」

「おかしいもなにも、俺は魔族でもない。偶然似てるだけだろ」

「偶然?その翼の形、色、どす黒い魔力!どれをとっても似すぎてるんですよ!」


……だからなんだと言うんだ。

姿が変わった事の理由なんてどうでもいい。


一方、俺の変貌に驚いていたのはバロンだけではなかったらしい。


瀕死の重症をおっている西木さんもまたその一人だった。


「な、なにかおかしい。確かに四聖獣の力の解放で姿が多少変化することはあるらしいが、そ、それは最後の四段階……の時のみのはず……」

「私の闇の魔力に、返した朱雀の力が当てられたせいですかね?」


ルミアが西木さんの元に来て、回復術で治療しだす。


「いや、それくらいでああも変わるものかな……?」

「さあ?どうでしょう。ただまあ……」


ルミアは遠目で俺を見て一言。


「カッコいいからいいですよね♡」

「――は?」

「いつもの神邏くんも素晴らしいですけど、黒コートのような服に黒く長い髪型、胸元が少しはだけてるところも……はああ……やっぱり宇宙一カッコいい男の子ですよねえ神邏くん……」


恍惚としてるルミアに半ば呆れ気味な西木さん。


――そして、同じく俺を見ていたミラは冷や汗を滴しつぶやいていた。


「ルシファー……」



視点は俺とバロンに戻る。

奴はよくわからないルシファーがどうのとうろたえてる。

ここでスキをつくのも一つの手だが、そう簡単にいく相手では……


「――!?」


逆に、バロンの方から仕掛けていた。


俺の両脇から二つの竜巻が発生し、襲いかかってきていた。

うろたえてるのはただの演技。むしろバロンの方から不意討ちをかけてきていた。


だがな、

今の俺には不意討ちにならない。


俺は一瞬で、両脇の竜巻を朱雀聖剣で引き裂き、かき消してみせる。


バロンは想定外だったか、目を見開く。


「なっ!?」

「帝王六騎衆ともあろうものが、不意討ちか?」

「く、クフフ、いつまでもくっちゃべってる理由が某にはありませんからね。ただまあ、容易に倒せる相手ではなくなったようですねぇ……」


おそらく、完全に不意をついたと思ってたのだろう。そして今の二撃で仕留められると。


「ですがね、少々力が増した程度で……帝王六騎衆の騎士たる、このバロンに勝てるとでも?」

「いや、そもそもこの力なくとも、お前を倒すつもりだったしな」

「な、にぃ!?」


この力は今初めて手に入れたものだしな。計算外の事だ。


「貴様……元々某を倒せる、そう思っていたとでも!?」

「だから、……そう言ってる」


さすがのバロンも、堪忍袋の緒が切れたか、眉間にシワ、血管が浮き出て憎悪の表情をみせる。


「その判断!今すぐ後悔させてくれるわ!クソガキがああ!!」


丁寧口調はなりを潜め、俺への憎しみ、怒りがあらわになる。


――これでいい。

俺はわざと挑発した。

奴の冷静さを少しでも鈍らせるために言ったこと。ここまで上手く行くとは思わなかったがな。


けして俺は奴を侮ってはいない。

一度は負けた相手だ。甘くなんて見るわけがない。

油断なんてもっての他。


少しでも、勝率を上げる行動をとり……倒す。今度こそは。


「かああああああああ!!」


バロンは魔力を全開する。

周囲に風が巻き起こる。あらゆる物質は切り刻まれ消失。

離れた地点に倒れてるヒカリ先生達もあまりの衝撃に吹き飛ばされていく。ただ、魔力を開放しただけなのに――だ。


並みの者なら立つどころか、この時点で全身バラバラにされて殺されてるはず。


俺以外のみんなは目もまともに開けられていない。立ってられるのは今は俺だけ……


「お、おにーさん。マジで勝てるの?」


朱雀聖剣のリーゼが俺に質問してきた。……不安になるのも当然だろうな。彼女は一度折られているし。※76話参照。


俺は安心させるように言う。


「大丈夫……そのためのとっておきの技、開発したろ」

「あ!があるね!」


「「確かに、アレなら倒せるかもな」」


風の聖霊イリスが同意してくれた。ただ、少し心配げに……


「「だが、決めれるか?」」

「ああ。……もう、負けは許されないからな」



――つづく。



「新技でもあるんでしょうか?激戦必死ですね!頑張って神邏くん!」


「次回。吸収封じ。そうです、これが厄介なんですよね」

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