第107話  死の風鎖連撃

……俺は目を疑った。

天界軍のそうそうたる顔ぶれの怒涛の連続攻撃、それをまともに受けたはずなのに……


バロンは、まったくの無傷にしか見えなかったからだ。



――素人目とはいえ、並大抵な攻撃ではなかったと俺は思う。

帝王六騎衆と言われるバロンが強いことはわかっている。だがそれを差し引いても、倒すことはできないまでも、大ダメージは避けられないと思っていた。


騎士実験場ナイトサイトは魔力で守られ、そう簡単に壊せる拠点ではない。……そんな実験場を更地に変えるほどの技の応酬。

……そしてバロンは避けた形跡はない。


なのに、本当にノーダメージだと言うのか……?


ヒカリ先生をはじめ、技を放った方々全員が冷や汗を滴し、驚愕していた……

――無理もない。

全身全霊の一撃だったはずなのだから……


そんな俺達を、バロンは嘲笑う。


「天界四将軍……よもやこの程度とは、拍子抜けしましたねえ。もう少し歯ごたえあるかとおもってましたよお。ククク」

「そんなわけ、そんなわけあるかあ!」


燕さんが叫んだ。


「おれさま達の全力を受けて無傷なはずねえ!どうやって避けやがったんだ!?」

「避けてなどいませんよ?まあさすがに防御くらいはしましたがね」

「じゃあなんだよ!おれさま達の全力は、てめえの防御をまったく貫けなかったとでも言う気か!?」

「そうなりますねえ……ククク」


動揺しているのは燕さんだけではない。

周防さんも、冷や汗をどっと流し青ざめている。


「ま、まいったな……六騎衆とオレ達じゃそこまで力の差があるってえのかい?」


ひょうひょうとしている周防さんすら絶望している。そんな様子だった。


「怯むな!!」


西木さんがみんなに喝をいれた。


「僕達は天下の天界四将軍だ!うろたえるな!戦え!そして勝つ!それが天界軍でしょう!」


西木さんらしくない、大声。だがそれにより、動揺していたみんなに気合の炎が灯る。


――さすがは天界最強と言われる人だ。

この嫌な雰囲気を吹き飛ばしてみせた。


「よし、やったらあ!!」

「ワタシ達の力、見せてやるわ」

「オレは四将軍じゃねえが、若い者ばかりに任せてられねえからな!ハッハッハ!」


西木さんを除く三人は動き出す。

バロンを取り囲むように。


「何をしようが無駄。某に勝つことなど不可能」

「「ほざけ!」」


三人はバロンに一斉に襲いかかるが、


「無駄ですよ」


バロンは両腕をクロスさせ、三人の前に竜巻を出現させる!

三人は竜巻に直撃し、勢いよく切り刻まれながら、弾き飛ばされる!


「「うわあ!!」」


三人は瓦礫の山に激突する。


「無駄、無駄無駄無駄なんですよ!何度立ち向かおうがね!」


近寄ることすら困難……そんな状況だった。


どこから襲いかかろうが、瞬時に作りあげられる竜巻に弾かれる。

らしく

「飽きた。終わらせましょうか。この戦いを」


バロンは自らの右手に魔力を注ぐ。

……なにか仕掛けるつもりだ。


「まずい!全員退避……」


西木さんの叫びも虚しく、バロンは動く。


「遅い!死の風鎖連撃デ・スクリーム


右手を地に叩きつけるバロン。

その直後、地中から大量の風で形成され具現化された鎖と槍が飛び出てきた!


鎖で対象の動きを封じて、槍で串刺しにするつもりか!?


速度は恐ろしく速い!反応しきれるかもわからないのにこの数!破壊するのも不可能に近い!


「ぐっ!?」「しまっ……」「がぁっ!?」


周防さん、ヒカリ先生、燕さんが鎖に捕まり縛られる。


「先生!周防さん!」


俺は助けに向かおうと叫んだが、


「オレ達の事はいい!!回避に徹するんだシン!」

「逃げて神くん!」


周防さんとヒカリ先生が制した。

――そうは言うが、見捨てるなんて……


「おや?実力者連中はいいですが、そこの小娘共は大丈夫ですかねえ」


バロンの言葉にハッとする。

ルミアとミラ……二人は離れてるとはいえ、奴がみすみす見逃すはずなどなかった!


俺は一目散に二人の元へ向かう!


「「待て神邏!!」」


聖霊イリスが突然俺に叫びかける。


「「二人を庇うってことは、全て受けきるつもりか!?無茶だ!ただじゃ済まないぞ!?」」


心配してくれるのは嬉しい。

――だが、


俺に二人を見捨てる選択肢なんて、ないんだ。


俺は無事バロンの攻撃が届く前に二人の前に到着できた。

いや、違うな。おそらく奴は俺が庇いに来るのを読んでいた。

だからあえて俺が庇うのに間に合う速度にスピードを落としたんだ。


現に、俺が前に立った瞬間、死の風鎖連撃デ・スクリームは速度が増した。


「神邏くん!!逃げて!」「神邏!?」


ルミアとミラの叫びが聞こえた瞬間、鎖と槍が俺に向かってきていた……


ズ、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


――視界は真っ赤な鮮血でいっぱいになっていた。





――結論から言えば、無事だった。

……当然だ。なぜなら……


「無事……かい?」


俺の前には、仁王立ちして俺達三人を守ってくれた西木さんがいたからだ……


「さ、西木さん!?」


西木さんの全身は鎖に縛られたまま、おびただしい程の刺し傷。

全身は真っ赤なほどに血にまみれ、体の欠損も確認できた。


み、見るに耐えない程の大怪我……

体の穴、腕、片目……口には出せない程の……

だが俺は、俺だけは目を背けてはならない。


西木さんは俺達の無事を確認すると、ぐらりとふらつき……倒れた。


俺はかけより、謝る。


「西木さん!す、すいません。俺が無力だから……」

「気に……するな。防げなかった……僕の、落度さ。天界最強が、聞いて呆れるよね……」

「そんなことは!」


「おや、天界のトップにクリーンヒットしましたか。いいですねえ」


と、バロンは再び右手に魔力を注ぐ。

――まさか……


「では、第二波と行きますか」


死の風鎖連撃デ・スクリームをまた撃つつもりか!?


ヒカリ先生達を確認すると、三人は鎖に縛られたまま。だが槍の一撃は少ししかくらった様子はなかった。

攻撃のほとんどは西木さんに放ったとわかる。


「次の全弾は朱雀、貴殿に与えましょう」


今度も俺狙いか……


「次は誰も庇ってくれませんよ朱雀。西木は死にかけ、三人の無能は縛られ動けないんですからね」

「神くん!ワタシ達は放って逃げて!!」


ヒカリ先生が叫んだ。

続いて周防さんも叫ぶ。


「そうだ!朱雀のお前を失うなんてことはあってはならないんだからな!!」


……俺の無事を願ってくれるのは嬉しい。

だが、ルミアを人質に取られたとはいえ、結果的にここに攻め込み、皆さんを巻き込んだのは俺だ。


……自分の撒いた種は、自分で払う。


――俺は逃げない!!

ルミアもミラも、ここにいるみんなを……守って見せる!


「では行きますよ、死の風鎖連撃デ・スクリーム!!」


再びバロンは地に手を突き刺し、技を放つ。


…………

…………


――?何も……起こらない?


不発?失敗?


いや、帝王六騎衆ともあろうものがそんな事、ありえるわけがない。


「――はっ!?」

  

俺はなにかに感づき振り向くが、


「遅いですねえ」


背後の地中から大量の鎖と槍が飛び出してきた!何も前方からしかこないわけがない!

俺はマヌケだった……


だが、知ったことか!

俺はルミアとミラを庇うように、全身から烈風を広範囲に放ち、守りを固める。


ズ、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


な、なんて手数なんだ……

一本の槍すら破壊するのが容易ではない、殺傷力満載の槍、そして動きを封じる鎖……

とても守りきれるような技じゃない。


いや、ダメだ!あきらめるな!

俺が、俺がなんとかしないといけないんだ!

誰も、もう誰も俺の前で死なせてなるものか!!


「ああああああ!!」


全身全霊の魔力、風、朱雀聖剣サウスブレイド全てを生かし、俺は四方八方から襲ってくる鎖全てを切り捨てる。

だが手数不足、槍の数々は落とせない。


ならせめて、引き寄せてやる。

ルミアとミラに当たらないようにな!


血管が切れる感覚、体の限界を超える感覚。

無理だろうがなんだろうが知ったことではない。

俺は……守る。守って見せる!



つづく。



「神邏くん……無事でいて……私達のことなんていいですから……」


「次回 片翼の堕天使 一体なんの事……?」

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