第106話  援軍到着

俺のカウンターの一撃、それは確実に奴を捉えた。


――だが、


剣は奴の周囲に舞う烈風、その風圧によりバロンに届かずにいた。


まさに風の鎧だった。


「……残念でしたねえ。カウンターくらいよんでましたよ。この風を突き破る程の一撃だったら、某を倒すこともできたやもしれなかったのに」

「くっ……」

「死ね。烈風槍ゲイボルグ


俺の風を穿ち、ドリルのように奴の烈風が回り、俺を狙う。


これでは前の戦いの二の舞いだ……

また剣を折られ、魔力を吸いつくされ……


負ける!


……もう敗北は、ゴメンなんだよ。


俺は奴の背後から樹木を生成し、バロンの腕を縛り動きを止めようとする。

だがその程度では止められまい。


さらに俺は左肩から大きな魔力で具現化した翼を生やして――


と、思っていたのだが、俺は落とし穴にでも落下したかのように地へ沈む。

だがそのおかげで奴の烈風槍ゲイボルグは空を裂くのみで空振った。

落下した事で回避できたわけだ。


一体何が……?


俺は落下した後、すぐさま地上に押し上げられた。

さっきの立ち位置とは違う。バロンとは距離が離れている。

――まるでワープしたかのようだ。


そんな俺の目の前には、師匠の周防さんの姿があった。

……周防さんが助けてくれたのか?


「シン!無事で良かった!」

「周防、さん?今のは一体……」

「おれの能力だ。影にお前を落とし、おれの前に移動させたのさ!」


周防さんの能力……確か影に潜んだりする事ができるとか言っていたな。

それで俺を影から影に移動させてくれたわけか……


「ありがとうございます、周防さん」

「礼なんていいさ。今はそれよりも、あの厄介な奴だ」


周防さんは鎌ををバロンに向ける。

奴は鼻で笑う。


「周防武意人……一応天界軍でも警戒するよう言われてる実力者ですか。とはいえ老兵、恐れるたりませんねえ」

「老兵!?おいおいこちとら50手前だぞ?老兵はないんじゃないのか?」

「全盛期から衰えたならば、戦いにおいては老兵でしょう。まあ全盛期であっても某の敵ではありませんがね」

「なら、試して見るかい?」


にらみ合う二人……


「周防さん、ここは」

「まあ待てシン。実はな、ゲートの場所見つかったと言っただろ?」


ゲート、魔界から天界に移動するための空間の事だ。

※102話参照。


「水無瀬の奴にな、一度天界に戻ってもらい援軍を要請させたんだ。相手は帝王六騎衆、それくらい必要だと思ってな」

「援軍?」

「ああ!最強の援軍をな!」


周防さんは振り返る。


「ほら、おいでなすったぞ」


周防さんの言葉につられ、俺は視線を動かす。

――瞬間、爆炎が視線の先に舞う。魔族の悲鳴と共に。


炎の中から三人の影が……


一人は全く見覚えがない。

ちょびひげと顎髭を生やしたムキムキマッチョのおじさんだ。背丈はさほど大きくはない。

年代は四十代くらいか?


もう一人は白虎かつ、俺の学園の保険教諭、そしてお隣のお姉さん、西ヒカリ先生だった。

……先生が来てくれるなんて心強い。


最後の一人は……

現、天界最強の戦士とうたわれる方、天界四将軍の西木ミズチさんだった。


西先生も四将軍だし、これ以上ない援軍だった。

今まで俺を助けに来てくれる援軍にここまでの戦力があげられたことはなかった。

ゆえに、少し驚いた。


天界の守りをおろそかにしないために、黄木司令は最高戦力を今まで援軍に回さなかった。


だから、どういう風の吹きまわしだと思われてもおかしくない。

当人の俺としてはとても助かるから、とやかく言うつもりは一切ないが。


「燕タスク、西ヒカリ、西木ミズチ。天海以外の天界四将軍揃い踏みだ!」


と、周防さんが叫んだ。

唯一知らなかった方も四将軍!?

最高戦力が三人も……

心強いなんてものじゃないな。


三人が俺の元によってきてくれた。まず、ヒカリ先生が……


「シンくん大丈夫!?怪我は!?」

「今のところは特に……」

「本当に!?相手は帝王六騎衆でしょ?」


あたふたと、親のように俺の身を心配してくれてる。

……とても嬉しい。


「おめえが朱雀こと、美波か。乱から聞いてるぜ」


と、燕さん。

北山から聞いてる?


……もしや北山が前に言っていた……


「北山の師匠の方、ですか?」

「おおそうだ。♧の零、天界四将軍の燕だ!」


北山の師匠四将軍だったのか……すごい人に修行つけてもらっていたんだな……


「朱雀、ご苦労だったね」


そして最後の一人、西木さん。


「後は我々四将軍の三人と、周防さんに任せてくれ」

「え?おれもかい?お前たち三人で充分だろう」


と、周防さんは首を振る。

西木さんは表情を変えず、言う。


「そんな甘い相手ではないですよ。帝王六騎衆は……」


西木さんは話しながらも、片時もバロンから視線をそらさなかった。

一瞬の油断が命とりとわかっているからだ。


……一方のバロンは、このそうそうたる面々を見ても恐怖や、驚きの表情一つ見せずに……笑う。


「く、くふふふふ。天界四将軍が三人、そして名将と名高い周防。全員仕留めるチャンスがこの某に回ってくるとは……かみに感謝せねばなりませんかねえ」

「てめえ……おれさま達四人を前にしても、勝てるつもりか?」


燕さんは憤る。

バロンは頷く。


「ええもちろん。現代の四将軍など脅威でも何でもないですからねえ。かの英雄、美波火人。キリングジョーカー美波修羅ならともかくね」


俺の父と……修羅あにか。

帝王軍にも名が知れわたってるとは、相当すごかったんだな。


まあ、修羅あいつなら当たり前だろうが……


「その余裕面……恐怖に歪めてやんよ!」


燕さんは大きな戟を生成。続けてヒカリ先生は武器聖霊の鉤爪。西木さんは薙刀を生成。


「シン、お前は少し休んでろ」

「周防さん?いえ、俺はまだ戦えます……」

「少しでも、奴の動きを分析するんだ。……万が一、おれたちが負けるような事があれば、逃げることも想定してくれ」


――!?

縁起でもないことを……

だが、周防さんは冷や汗をかいている。

さっきは自分が出るまでもないと言っていたのに……

強がりだったというのか?


「さあ、どこからでもかかってきなさい。返り討ちにしてあげましょう。天界四将軍」


両手を広げ、バロンはあえてスキを見せるように振る舞う。

お前達など怖くもないと、触れ回るように……


「戯れ言をほざくな!?」


まず、燕さんが飛びかかった。

そして西木さんも動く。


「奴の能力は、吸収ドレイン!奴の攻撃に掠りでもすれば、魔力を吸い取られるぞ!吸収速度も早く、下手すればこちらの能力すら奪い取られる!」


西木さんの能力、情報分析データブレイン。あらゆる敵の情報、能力を瞬時に把握し、対応策を練ることのできる能力らしい。


「なら、攻撃のスキを与えなきゃいいだけだ!殴旋風おうせんぷう!」


燕さんの戟から発せられた、魔力。それを力強くバロンに振り抜かれた。

――その瞬間、バロンの頭上にバカデカイ魔力の塊が落ちてくる。


凄まじい圧。

アジトの天井どころか、辺りの壁という壁がひしゃけで粉砕。

辺り一面がその衝撃により吹き飛び、部屋ではなくなっていた。


塊に押し潰されないように受け止めているバロン。そのスキをヒカリ先生がつく!


高電圧爪ボルティックロー!」


目にも止まらぬ超スピードによる、雷の爪撃!

その速度は音速マッハ


雷の魔力による特性、それにより奴の体はダメージだけでなく、しびれも発生する。

塊を受け止める力は抜ける。

そのため塊に押し潰されるバロン。


そして追撃は止まらない!


死神大鎌デスティニージャッジ


周防さんの大鎌から放たれる黒い、闇の一撃、さらに!


「閃・空・撃」


西木さんの渾身の薙刀の一刀が放たれた!

四人の、必殺技と思われる一撃が、全てバロンに直撃した!


それによる魔力の爆風は、この騎士実験城ナイトサイトの全てを吹き飛ばす!


何かの研究施設だったのだろうが、何から何までブチ壊れ、崩壊していく。

地割れでも起きたかのように……


辺りにいたかもしれない魔族も巻き込まれたはず。生き残りはほぼいないかもな。


ちなみに俺は前もって動き、ルミアとミラを保護し、距離をとっていた。

そのため巻き込まれる事はなかった。


――この連続攻撃は凄まじいものだった。ただじゃすまないはず。

すむわけがない。


避けられた形跡もない。

倒せなかったとしても、致命傷は避けられないはず……


だがもし、これでバロンにダメージがろくにはいっていないなんて事があれば――



「天界四将軍……くふふ。この程度、ですか」



――勝つことは絶望的かもしれない。



つづく。



「ぜ、絶望的!?そ、そんなまさか~……」


「じ、次回 死の風鎖連撃デ・スクリーム。ひ、必殺技でしょうか……?」

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