第105話  バロン現る

その場にいたドゥクスの配下達は唖然としていた。

八百万八傑衆、帝王軍幹部のドゥクスが一瞬で殺されたためだ。


信じられないもの、驚き声も出ないもの、夢と思ってるものと様々だった。


そんな配下連中を俺は睨みつける。


すると奴らは、


「「う、うわああ!!化け物だ!逃げろ!!」」


一目散に逃亡を始めた。

いちいち追う気はない。消えてくれるならそれでかまわない。


……とりあえず二人は無事なわけだし、周防さんに水無瀬と合流してここから離れ、



――ズガアアアアアアアン!!

突然耳を貫く程の爆音が辺りに響き渡る。


俺達はその爆音に驚き、視線を向ける。

方角からして、配下の連中が逃げた方向……

煙がまって、何も見えない……


「「やれやれ、敵前逃亡とは……情けない配下共ですねえ」」


こ、この声……覚えがある。

いや、――忘れたくても忘れられない。


煙が少しづつ晴れ、何者かが現れる。


背筋がビシッとして姿勢の良い、ダンディーな魔族。丁寧な口調からは想像のつかない残忍で狡猾な男……


帝王六騎衆、騎士ナイトバロン!


俺が、前に負けた相手だ……

※76話から79話参照。


「臆病者は我が帝王軍には必要ない。貴殿達はお分かりか?」


バロンは誰かに話しかけていた。

すると、うしろから二人の魔族が現れる。


「は、はっ!」「ワシら大罪人をはそのような事はありません!」


大罪人……?

帝王軍の部隊長とかいう奴らか?

バロンに比べれば大したことはなさそうだが……


バロンは視線を落とし、俺が始末したドゥクスの切り刻まれた死体を見た。


「……八傑衆ともあろうものが、ゴミめ。幹部の恥さらしですねえ」


ツバを吐き捨てた。

部下への配慮がまるでないな。


……帝王軍にそんなものあるとは思ったことないがな。


「しかし、久しいですねえ朱雀!どうやら前よりも強くなったようだ」

「……俺は出来れば二度と会いたくなかったがな」

「それは残念。ですがもう会うことはないですよ?」

「お前が死ぬからか?」


らしくない挑発を俺はした。

ルミアもなんか驚いてる。

俺のキャラじゃないからな。そんな態度は。


半分強がりだ。気を強く持たないと、この場をくぐり抜けられないだろうからな……


バロンは眉を少し動かす。

気にさわったようだな。これで冷静さがなくなれば都合いいが……


「面白い冗談ですねえ朱雀。この某に、帝王六騎衆に、勝てるとでも思っているのですかあ?」

「思ってると言ったら?」

「帝王六騎衆は帝王軍最高幹部、未だかつて敗北はない六人。帝王陛下を除けば、敵うものなどいない魔族なのですよ?」

「……それが?」


――一触即発の空気。

すぐにでも戦闘が始まりそうに、ピリピリとしたムード。


……はっきり言って、恐怖を感じてる。今すぐにでも逃げだしたい気分だ。


だがここにはルミアとミラがいる。全員で逃亡は不可能。

やるしかない……


俺は前よりは腕を上げたはず……もてる全てを出しつくし、勝つ。


一応、奴の吸収能力の対策技も考えてるしな。


「……癇に触る小僧ですねえ」


眉間にシワがたち、怒りの表情をバロンは見せる。


「今すぐに、あの世に送ってやりましょうか!?」


バロンから凄まじい烈風が放出された!

近くにいた配下の大罪人二人はその風に吹き飛ばされた。


「ば、バロン様ぁ!?」「うわあああ!!」


部下などお構い無しか……


俺はルミアとミラに叫ぶ。


「離れてろ!そしてスキが見えたらにげるんだ!」

「え、神邏くん!?」「神邏!?」


俺は言いたい事だけ言った後、すぐにバロンに切りかかる!


奴は前方に大きな竜巻を引き起こす。竜巻は強大で、この基地の天井をつきやぶって見せた。


俺は竜巻を避ける。だがすぐさま次の竜巻を作成するバロン。


何個も何個も竜巻が作られ、奴に近寄る事もできない。


俺は攻めあぐねていると、

背後に竜巻が発生、そして!そこからバロンの姿が!


「何!?」

「死ね」


バロンの手刀が俺を襲う。

風に包まれた強力な一撃、俺はとっさに気付き、剣で受け止める。


一撃は重い!受け止めた衝撃で俺は弾き飛ばされる。

だがすぐ背後には先ほどの竜巻が!


俺は竜巻に直撃し、切り裂かれ、バロンのいる方へ弾かれた!


「がはっ!?」

「逃げれると思わない事ですねえ!この竜巻はいわば牢獄。当たれば弾かれ切り刻まれる!某の烈風から逃げるすべはない!」


バロンは吹き飛んでくる俺にカウンターをあわせるように、風で作った槍を突き立てる!

――が、


俺は地中に風を引き起こし、体勢を整え上空へ飛び上がり回避して見せる。


「何!?」

「悪いな、風を操るのはお前の専売特許じゃないんだ」


俺も風使いだ。風の対処法くらい俺にも思いつくさ。


「ち、味な真似を……ん?」


バロンの立つ地面から樹木が生え、奴を縛りあげる。


俺は地中に風を起こした時、同時に樹木の魔力を植え付けて置いた。それが奴を縛りあげたんだ。


だがこの程度の事は、


「下らん」


バロンは烈風で樹木を一瞬で切り刻んだ。

まあ当然か。あの程度で奴を止められるなんて思ってない。


「空に逃げたとて、某から逃げることなどできないと知れ!」


また竜巻が複数発生し、俺を襲う。俺は飛行しながらうまく回避していく。


……遠距離技の精度も恐ろしく高い。俺ができる遠距離技なんてかまいたちが精々だ。

遠距離戦じゃ相手にならない……


そうなると、どうにかして近寄る必要があるわけだが……


「「接近する方法か……」」

『あーしは何も思いつかないよう』


聖霊イリスと武器聖霊のりーぜが言う。どうにか知恵を貸してもらいたいんだが……


『バロンって奴みたいに、竜巻の中にワープとか出来ないの?』


そういえばさっき奴はそんなことをしていたな。背後の竜巻からバロンがでてきた時は驚いた。


「「あんなもの、一朝一夕で出来るものか。マジメに考えろ」」

『ムッカ~!そっちは何の意見も出せてないくせに!』


「喧嘩するな二人とも……」


このままじゃじり貧。どうにか方法を思いつきたいものだが……


ん?

待て!バロンの奴どこに行った!?

いつの間にか姿を見失った!?


俺は周囲を見渡す。見つからない!


「「竜巻に潜んでるかも知れないぞ神邏!」」


さっきと同じ事か!

竜巻の数は多い……どれに潜んでるかなど判別つかない……

いや、そもそもワープできるんだ。潜んでる場所がわかった所で、またワープされたら意味がない。


……なら、奴から仕掛けてくるのを待つか?

こちらから仕掛けたら、外れを引いた瞬間のスキをつかれるだけだ……


なら座して待つのみ……

俺は地上に降りる。

――そして、剣を地に突き立て、目を閉じる。


「神邏!?何をしてるんだ!」


ミラの叫びが聞こえる。

まあ頭でも沸いたかと思われるかもな。急に止まって目を閉じたんだ。あきらめたと思われても仕方ない。


当然あきらめてなどいない。


視覚をシャットアウトし、感覚を研ぎ澄ますだけの事だ。


周防さんとの修行でおこなった瞑想。

そのお陰でいろんな感覚が鋭くなった。そして、研ぎ澄ます事で感知力をあげれる事もわかった。


今こそ……修行の成果というものを見せる時……


ドクンドクンドクン。


心臓の鼓動が聞こえる。周囲に荒れ狂う竜巻の音が鳴り響いているのにだ。

他の騒音など気にならない。


――明鏡止水、周防さんが教えてくれた境地の1つ。


………………


竜巻単体が俺を襲ってくる。

俺は目を閉じたまま、わずかな動きで回避する。

続けて何発も襲ってくるが、同じように回避し続ける。


『おにーさん……すごい』

「「見事だな……これなら業を煮やして奴も……」」


――気配!!


「「襲ってくる!!」」


俺は竜巻からワープし、背後から狙って来たバロンに、カウンターの斬撃を放った!



つづく。



「ついに始まりましたね!因縁の戦い!がんばれ神邏くん!」


「次回 援軍到着 ど、どっちの援軍ですか!?」

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