第104話 神邏対ドゥクス
神邏とミアが合流する数分前……
――神邏side。
俺はミラがルミアを連れ、
わりかし近くに降りたつもりだったが、二人は発見できなかった。
すぐに敵に発見されたため、俺は帝王軍の連中と戦いつつ二人を必死に探していた。
あらかた周辺の敵を片付けた時――
不意討ちをかけるように、背後から俺に攻撃を仕掛けてくるものがいた。
気配を感じ、大きく10メートル程ジャンプし、敵の攻撃を避ける。
そのまま距離を取って着地し、相手を確認。
顔の左半分だけ隠す、割れ目のはいった仮面をつけた2,30代くらい。
眉がなく、強面といった感じの長身の男の魔族だった。
「帝王軍の幹部かなにかか?」
「違う、覇王軍だ。てめえが追ってる女と同じな」
俺の問いに仮面の魔族は否定。
追ってる女……ミラのことか?
こいつとミラは同じ組織なのか。
「てめえな、まんまとハメられたんだよあの小娘にな。六騎衆とてめえをぶつけ潰し合わせるためにな」
「……俺に来てもらわないと困るっていうのはそういう事か」
厄介な六騎衆を俺が足止めしてる間に何かする気だったって事か。
「てめえ、あんま驚いた様子じゃねえな。恨みつらみとかなら聞いてやる気だったんだぞ?」
俺が怒った様子もないから不審に思ったか?
……まあ、そういう感情がないわけでもない。ルミアを巻き込んだからな。
怒るとしたらそこくらいだが。
「まさか、わかってて来たのか?それとも甘い戯言でも考えてるのか?」
「……なにイライラしてるんだお前」
明らかにこの男はイラついている。
変な話だ。俺はまだまともに口を聞いてない。こいつの神経を逆なでするような事は、してはいないというのに。
「人を信じ、裏切られた。その悔しいツラを拝みに来たんだよ。なのにそのすましたツラ……気に入らねえ」
「わけがわからないな。ミラへの怒りを見たかったのか?」
「そうだ。人なんて信じなきゃ良かった。あいつを殺してやる……なんて態度が見たかった。それなのに、なんだてめえは?」
こいつの情緒がわからない。
俺をあざ笑いたかったのか?
いや、というより……
――って、そんなことは今はどうでもいい。
「悪いが俺は急いでる、邪魔するつもりなら倒させてもらう」
俺は瞬時に
――が、
急に俺の右腕は跳ね返されたかのように、切りかかる方角と真逆に動いた。
そのせいで俺自身が半回転してしまう。
「スキあり!」
奴の右手から紫色の、火の弾丸が放たれる。
俺はすかさず風を放出し、弾丸を受け止める。
風は焼け、弾丸は地に落ちる。
紫色の炎か……変わってるな。
「「神邏、これは闇属性の炎だな」」
俺の魔力に宿る聖霊、イリスが言った。
「闇というと、ルミと同じ?」
「「そういえばあの小娘もそうだったな。特質三大属性、雷、光、闇。基本五大属性とは相性は関係ないから特に気にする必要はないがな」」
「ただ、今まで相手した中にはいないタイプだな」
用心に越したことはない。
ただそれとは別に、俺の、腕の動きがおかしくなった理由がわからない。
おそらく奴の能力なんだろうが……
「こねえならこっちから行くぞオラあ!」
奴は大量の火球を放つ。
とはいえ先程見た限り、大した威力ではなかった。
――故に、
「無駄だ」
全弾全て放出した風で受け止め、奴に向かって跳ね返してみせた。
奴は瞬時に反応し、大ジャンプして回避。
そのまま急降下し、俺に向かって殴りかかる。
俺はすかさず剣でガードをはかるが……
またも腕が勝手に動く。
「――っ!?」
それにより防御ができず、奴の紫色の炎拳をまともに受ける。
「まだまだ!」
奴は一撃加えただけでは止まらずに連撃。
さらに指先から糸のような物を生成し、俺を縛る。
大方それで俺の動きを封じ、タコ殴りにする気だろうな。
そうはさせないがな。
動作無しで全身からかまいたちを放ち、糸でをバラバラに切り裂き脱出。
かまいたちはそのまま奴に向かっていく。
「何!?」
奴はたまらず離れる。
俺はそのスキにある行動に出ていた。
気づかれないように……
「ち、面倒な風使いだなてめえ」
「……褒め言葉として受け取っておく」
「褒めちゃいねえよ!」
「……ところで、何か気づかないか?」
俺は奴の意識をそらすために言った。
奴は怪訝な顔をする。
「何か……だと?」
奴の視線は俺の右腕に向かうと……
「てめえ!剣はどうした!?」
奴は俺の右腕に朱雀聖剣がないことに気づく。もう、遅いがな。
背後からくるくると高速で飛んできた、朱雀聖剣が奴の背中を突き刺し腹部を貫通!
「ごばぁ!!」
奴は吐血し、倒れた。
「な、何が……どうなって……」
「大した事はしてない。ブーメランの要領だな」
「あ、ああ?」
「推測だが、お前の能力は【指定した物の進行方向を好きな方向へ変える力】ってとこだろう?」
奴は何も言わない。肯定と判断する。
「だから死角から狙ってやろうと思ってな。お前が目を離したスキに剣をあさっての方向に投げた。で、ブーメランみたいに回転させて戻って来るように操った。そして戻ってくる方向にお前が立ってた。それだけ」
ホントに大した事じゃない。あまりにも上手く行きすぎた気もするがな。
俺は朱雀聖剣を自分の手元に戻し、いつもの指輪の姿に戻す。
「リーゼ。ご苦労さま」
「へっへー」
武器聖霊のリーゼに礼を言うと、彼女は嬉しそうに返してくれた。
そのまま俺はミラの元へ向かおうとすると、
「ま、まて、お前……あの小娘追ってるのか?なんでだ?殺すからか?」
奴は呼び止めて来た。
……俺は答える。
「大事な幼なじみを連れてかれててな。救出して説教でもしに行くだけだ」
「救出……?騙した小娘もか!?」
「理由があるとしか思えない。あの子の時折見せてた辛そうな表情を見るとな」
「バ、バカじゃねえのか?会ったばかりの奴だろ?しかもハメようとしたんだぞ?」
……バカか。そうかもしれない。
会ったばかりの相手の何がわかるんだって話だろうしな。
「そんな奴、助けに行く必要……ねぇだろ見捨てろよ……」
「ただの直感だが、悪い子には見えないんだ。人を見る目はある方だと思ってるしな」
「いかれてるぜ、このまま逃げりゃいいのに……」
「忠告どうも。礼としてトドメは刺さない。あんたもそんな悪い奴に見えないしな」
「は、はあああ!?」
想定外の言葉だったか、奴は今までで一番うろたえていた。どことなく照れてるようにも感じた。
「じゃあ、俺は行く。……えっと、あんたは……」
「カイデルン……だ。覇王九衛師団の」
「そうか、じゃあなカイデルン」
俺はその場を後にした。
「マジ……理解できねえよ……裏切られてもなお、なんで人を信じられる?」
「……でも、なんかいいよな……信じてくれる奴がいるってのは、よ」
♢
――時系列は戻る。
俺はミラを見つけると、ふざけた暴言を放ち彼女を殺そうとした魔族を蹴り飛ばし、ミラを救出した。
俺は辺りを見るとルミアの姿も確認。彼女に笑いかけると、ルミアは手を振ってくれた。
……無事でよかった。
「し、しんら……なんで、助けて……くれたんだ」
ミラは子供が泣きじゃくるようにしながら俺に聞いてきた。
一見クールな子と思ってたから、少し驚く。さっきの魔族に相当なにか言われたのかもな。
……可哀想に。
「わ、ワタシはお前を罠に……」
「……そうだな。それについてはお説教だな。ルミアも巻き込んだからな」
「ご、ごめんなさい……」
「もう、俺達を罠にかけようとはしないか?」
「し、しない……ワタシは組織に捨てられたし、いや、もうそんなこと関係なく、しない!」
俺は優しく笑いかけ、言う。
「じゃあ水に流す。別に被害も出てないしな」
「あ、ありが、ありがとう!」
必死に、涙を拭いてミラは頭を下げた。
「「オイオイ被害がないって?」」
俺が蹴り飛ばした魔族が立ち上がってきた。
「これからその被害は出るんだよ朱雀」
「……お前は?」
「
幹部だったのかこいつ。
「……少し聞こえていたが、人の命に価値がないだの、混血はゴミだのくだらない戯言ほざいてたな。お前……」
俺は少し、怒りをにじみださせてドゥクスを睨む。
「あん?事実だろうがよ。弱く汚え人の血をもつ魔族だあ?気色悪くて仕方ねえさ!」
「気色悪いのはお前だろ」
俺の安い挑発に眉が動くドゥクス。
効いたのか?
「人の血とか魔族だとか、人種差別なんて流行らないんだよ。命は平等だ」
「ゴミはゴミ同士仲いいわけか。命の価値のない者同士仲良く死にな」
「価値がないものがいるとするなら、お前のような命を軽んじる悪党だろうな」
「ほざけ!」
ドゥクスは吠え、指先に魔力を集中しだす。
「
すると、何か違和感を感じる。
「これにより、てめえは遠距離技を使えなくなった。つまり、ワシとは近距離戦しかできんわけだ!」
「……」
「フフフ。八傑衆の中でも肉弾戦で、ワシの右に出る者はそうはいない。新入りの銀髪と、ネビュラくらいなものだ」
「二人もいるじゃないか」
「黙れ!!」
奴は俺のツッコミにキレ、全速力で指先を突き立てて突進。
……集中した魔力を換算すると、かなりの威力かもな。
「死ね!」
「お前がな」
俺は真っ向から迎え撃つ。
そして、朱雀聖剣で奴をカウンター気味に切り裂いた。
「……えっ?」
ドゥクスの間抜けな声が鳴り響いた後、奴の上半身と下半身は切り落とされた。
その後顔面も横に綺麗に裂かれ落ちた。
つづく。
「え!?違う奴と戦ってると思ったら、ドゥクスもこの話で倒しちゃいました!?つ、強いですよ神邏くん!カッコいい!好きです!」
「次回 バロン現る うっ、やっぱりですか……」
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