第103話  鏡像

――ミラside


ミラとルミアは空から騎士実験場ナイトサイト侵入。

爆風のおかげか、神邏達の侵入地点より大分離れた場所に着地。


故に、すぐに神邏達と合流はできないと思われる。


周りには帝王軍の兵隊の数々。


「――で?どうするんです?」


ルミアは冷めた目でミラを見た。

ミラは冷静に言う。


「どうも何も、戦うだけだ」

「この数を相手にですか?」


周りには数百人はいると思われる魔族。

だがミラは動揺の一つも見せない。


「お前、ワタシの実力を舐めてるだろ?言っておくがな」


ミラは刀を抜き、自分達を囲んでる魔族数人の首を一瞬で、落として見せた。


「そこらの兵隊にやられるほど、弱くはないのだよ」


その、見事な剣技を見たルミアだが、冷めた態度はそのままだった。


「多分、神邏はすぐには来れないと思いますけど、一人でどうにかする気ですか?」

「当然だ。……そもそも神邏には悪いが、彼にはバロンと戦ってもらうために、小細工をさせてもらった」

「小細工?」


ミラは再び兵隊に切りかかる。

兵は手甲のような物を装備しており、それで刀を受け止めようとする。


だが、何故かミラが切りかかる方角と逆の方に手甲を構えた。

それにより、兵は刀を止められずあっさりと切り捨てられた。


「うぎゃあ!!」


意味がわからなかった。何故兵は逆方向に防御を?


「見たか神条?ワタシの能力、幻想鏡像ミラージュミラー


ミラの能力、幻想鏡像ミラージュミラーとは、相手が捉える視界を反転させる能力。

簡単に言うと、鏡を見てるかのように逆に見えるのだ。全てが。


それにより、ミラの攻撃は本来右からくるものだとしても、相手は左からくると錯覚するわけだ。

何もそれは視界情報には限らない。音や気配までもが反転してしまうのだ。


なら逆と思って戦えばいいと思われがちだが、そうなると能力をわざとといて、視界通りに攻撃したりもする。


要は引っ掛け能力みたいなのものだ。


それにより、神邏達はミラとルミアのいる地点と真逆に落ちてしまっていた。


ミラの計算では、バロンの部屋付近だ。

神邏をバロンと戦わせるために……


それを聞いたルミアはため息をつく。


「最低ですね。助けてもらった恩を仇で返すなんて」

「……なんとでも、言ってくれ。それだけワタシ達覇王軍はこの戦に賭けてるんだ。それに、神邏の無事は祈ってるさ」


口ではなんとでも言える。

ルミアはそう思ってた。


ミラと帝王軍の戦いはつづく。

ルミアは完全に静観してた。助ける気は微塵もない。当然だが。

自分に攻撃してくるものがいない限りは動かないつもりのようだ。


(とはいえ、神邏とは合流したいところですね。でも、もしバロンと戦闘になってたら、私の存在は邪魔になってしまうかも……)


神邏には自分の事など気にせず戦ってもらいたい。ルミアはそう思っている。

自分が無事とは伝えつつも近くにいないようにしたいと考える。

実際ルミアが近くにいたら彼女の安否を気にして、神邏は戦いに集中できないだろう。


そう考えている間に――


「――あれ?全員倒したんですか?」


ふと視線を戻すと、返り血に染まったミラ一人が立っていた。

周囲の兵隊は全員死亡している。


あれだけの数を一人で倒しきるとは、ミラの実力を侮っていたルミアは驚いていた。


「「ミラ!」」


誰かのミラを呼ぶ声。

明らかに神邏の声ではないため、全く視線をそらさなかったルミア。


ミラは声のした方を見る。


呼びかけてきたのは、短髪青髪の冴えない容姿の魔族だった。


「Q」


ミラはそう呼んだ。彼女の仲間のようだ。


「ミラ、まずいぞ!九衛師団が殺られた!」

「何!?どういう事だ!?」

「作戦がばれてたんだ!帝王軍の幹部連中にみんな殺られちまった……おいらだけ命からがら逃げてきたけど、他のみんなは……」


唇を噛み締めるミラ。

憎き帝王軍に一泡ふかせる、絶好の機会と思っていたからだ。


「こうなりゃ作戦失敗だ。逃げよう!」

「……わかった。なら神邏にバロンの足止めを任せる必要はなくなったわけだな」


ミラは神邏が降りたと思われる地点に向かおうとする。


「おいミラ!どこ行くんだよ!そっちは出口じゃねえぞ!」

「……朱雀を助けに行く。もう帝王軍を引き付けておく理由がないからな」

「はあ!?そんな野郎ほっとけよ。むしろ帝王軍と共倒れしてもらったほうがいいんだからよ!」


ミラは足を止めた。


「こちらとしちゃ、どっちもくたばってほしいところだよな……」


その発言にキレたルミアが攻撃を仕掛けようとする――その前に、


ミラがQの胸ぐらをつかんで睨み付けた。


「次、そんな下らないこと言ったら殺す」

「は、はあ!?な、なんできれてんだよ!どっちも敵だし、死んでもかまわないカス野郎だろ!?」

「……黙れ、神邏の事、何も知らないくせに……」


ミラの凄む静かな怒りに気圧され、Qはそれ以上何も言えなくなる。


神邏とミラの過ごした時間などたかが知れてる。

でも、ミラにとっては心地よかった。

信用できるものもろくにいない環境で生きてきたミラ。

そんな彼女が自分の境遇を知ってなお、手助けしてくれた神邏に、悪い感情などあろうはずなかった。


だからこそ、こんな騙す事をして心が傷んだ。


許してもらえないとは思う。でも、もう騙す必要ないなら、助けに行く。

ミラの頭にはそれしかなかった。


「「おや?ゴミ共同士の仲間割れかい?」」


また別の人物の声。

ミラ達がふと視線を向けると……

複数の兵隊を引き連れた、長い横髪が顔を隠した魔族の姿が。


「八傑衆ドゥクス!?」


仲間の覇王軍を殺しつくしたドゥクスの登場に、Qは腰が抜けてたおれる。


連れてた大罪人二人の姿はないものの、幹部の一人がこの場に現れた事にQは絶望したのだ。


「ピンポンパン!ゴミ共に残念なお知らせ、覇王軍のお仲間は君ら以外全滅でーす!」


ドゥクスのバカにするようなアナウンス。まあQに聞いてたから驚きはなかったのだが。


「で、す、が、悲しむ事はございません!すぐに後を追うことになるのですから!」


そう言った瞬間!ドゥクスの姿が消えた!


ミラの目の前にいつの間にかドゥクスの姿が!

そしてQもろとも、重い蹴りを腹部にくらわされた!


「ごはっ!」「がっ!?」


Qは衝撃で飛ばされ、壁を何枚もぶち破り、別の部屋に飛ばされてしまった。

ミラはその場に座り込むように、痛みに悶える。


「ほう、君はなかなか見所あるようだねえ。のゴミにしてはね」

「こ、混血……だと、何故知ってる……」

「覇王軍所属なんだろ?察しはつく、というか奴らが言ってたぞ。ってな。君の事だろ?」

「す、捨て石……?」


ミラは、ドゥクスがなに言ってるか理解できなかった。


「覇王軍ってのは、ゴミの混血連中の受け皿になってるって聞いたことある。だが蓋開けりゃていのいい捨て石なだけみてえなだな」

「なに……言って、」

「セコい連中だよな。どこにも居場所のないゴミ共に、甘い戯れ言吐いて、忠誠心を持たせたところで行き着くところはただの捨て石。ゴミとはいえ同情するよ」


ミラは思い出す。


『我々覇王軍は差別意識の高い悪の帝王軍とは違う正義の組織。人だろうが、混血だろうが、我々は受け入れる!帝王軍を倒し、バラメシア帝国を差別のない、誰もが幸せに暮らせる理想郷を作る!それが我が野望!皆、そのために力を貸してくれ!そして立ち上がるのだ!悪を滅するために!』


……覇王の過去の演説の一部だ。


(別に全て信じてたわけじゃない。でも、ワタシら混血に居場所がある……それだけで嬉しかったんだ)


ミラの手が震える。


(元は兄を探すため、所属した組織だった。でも、同じ混血もいたし、居心地がよかった。だから失いたくなかった。だから、……神邏をはめた)


だが、捨て石にされた。

今までの全てを否定された気分になるミラ。


(今思えば、少しずつ混血の仲間が減っていっていた。みんな捨て石にされたのかもな……)


覇王の言葉は嘘八百、その可能性は頭にあった。でも、信じたくなかったのだ。

初めての居場所だったから……


「言ってたぞ奴らは。【混血なんてゴミに価値を与えてやったんだから感謝しろとな】」


敵の言ってること。だが、実際事実。そしてミラ自身も嘘とは思えなかった。


信じたくなかった事実を突きつけられ、ミラは絶望のふちにいた。


「な、なんで、わざわざワタシにそんな酷い事実を突きつけるんだ……」


悲しみにくれるミラは思った。

いちいちこんなこと言う必要なかっただろ、と。

ドゥクスはほくそ笑み、


「なんでって、面白いから。ゴミが、我々に歯向かった罰を与えようと思ってね」

「最低だな……」

「生きる価値のないムシケラがなにほざいてる」


ドゥクスは人差し指に魔力を集中し、ミラに突きつける。


(終わりか……せめて神邏に謝りたかった)


覚悟を決めたミラは目を閉じる。


(生きる価値……ホントにないのかなワタシ達混血には)


目には涙が浮かぶ。


(お父さん、お母さん……今そっちに行く。兄さん、ゴメン)


「この世に生まれてきてゴメンなさいって謝んな!混血のムシケラが!」


ドゥクスはミラにトドメをさす……


『命の価値を、お前が決めるな!』


突然響いた声と同時に、ドゥクスの顔面に何者かの膝蹴りが直撃した!


車に撥ね飛ばされたかのような勢いで、50メートルほどの距離を、地を削りながらドゥクスは吹き飛んだ。


蹴りをお見舞いしたのは……

深緑の髪を風になびかせた美青年……


朱雀、美波神邏みなみしんら


「し、しんら~!」


ミラは目を開けると涙ながらに彼にかけよった。



つづく。


「あれ?私を追って助けに来てくれたはず……あれ?影薄くないですか!?」


「次回 神邏対ドゥクス み、見物なんでしょうけど……ヒロインはルミアちゃん……」

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