第102話  八百万八傑衆

九衛師団の一角、クラデースに全く気づかれずに腕を落とした魔族。バンダナで両目を隠してるチョビ髭の、長身男だった。


「た、たしか奴は……七つの大罪人、怠惰たいだのイド!」


同じ九衛師団のゴウンが言う。……つづけて、


「もう一人は強欲ごうよくのラッカス」


そっちは壮年の魔族だった。同じく七つの大罪人。


こいつらは帝王六騎衆のバロンとは戦いを避けた。だがさすがに大罪人程度の部隊長なら戦う可能性を考えてた。


――しかし、

最後の一人、その男は想定外だった。


ゴウンは震える体を押さえるように……言う。


「ま、まさかこんな奴まで守護にいるとはな……八百万八傑衆やおよろずはちけっしゅうのドゥクス」


そのドゥクスという魔族、横髪が異様に長く、目元を包んでいる変な髪型をしている。

背丈は普通だし、人で言えば3、40代くらいの男。あまり強そうには見えない。


だが大罪人以上、六騎衆以下の階級。

バロンに比べれば格下だが。


……それでもこいつら覇王軍としては戦いを避けるべき相手だった。

八傑衆は全員魔力ランクがSを越える魔族。

Aランクより上なのだ。


九衛師団にSランクはいない。

故にこの状況……詰みだ。


ゴウンはすぐさま行動に出る。


「バービエ!能力を使え!」


(そのスキに逃げるしかない!)


指示を受けバービエはドゥクスに能力を使用。


「アテクシの能力の前なら八傑衆など恐れる事などありませんね!」


ドゥクスの頭部に向かって……


「さあ!脳波をいじって……」


何か仕掛けた……はずだったが、


ゴウンが瞬きした瞬間、バービエの左半身が吹っ飛んでいた。


「なっ!?」


ドゥクスの攻撃は瞬きしたせいとはいえ、全く見えなかった。

何をしたのか?


ふとドゥクスの腕を見ると、奴の人差し指が血に染まっていた。


実はドゥクスは指一本でバービエの左半身をぶち抜き、彼女を殺して見せたのだ。


「ワシに、下手な能力など通じん。八傑衆の能力くらい調べておけ無能が」

絶対命令ルールブック……」


ゴウンは能力名を言った。どうやら知っていたようだ。


「なんだ。知ってるではないか。【ワシが決めたルールを、互いに必ず守るよう厳守させる能力】今のルールは能力の使用を禁ずるという物」

「ぐっ……応用で能力の無効化も可能というわけか!」

「能力使う使わないに限らず、貴様ら無能がワシに勝つことなどありえん事だが……」


ドゥクスは指を鳴らす。

大罪人のラッカスとイドが近寄る。


「後は貴様ら二匹で仕留めろ。5分以内にな」

「「はっ!」」


「ちぎじょー!舐めんな!」


クラデースがよだれを蒔き散らしながら殴りかかるが……

イドは瞬時に斧を出し、それで……


一刀両断!


「ぎいゃあああああ!!」


クラデースも一撃で殺された。

実力差は歴然……


それを見た覇王軍の者たちは一斉に……


「「うわあああああ!!」」「「逃げろお!」」


逃亡を図る。――が、


「逃がすと思うか?一匹残らず処刑だ。ワシら帝王軍に逆らうものがどうなるか……身をもって知れ!!」


――数多くの悲鳴と叫びがその瞬間、周囲に響き渡った。


神邏とミラはその騒動を知るよしもなかったが……



――神邏side。


俺達は騎士実験場ナイトサイトの目の前まで来ていた。

目の前といっても、そこを見渡せる少し高い岩の崖の上なのだが。


そこから騎士実験場を確認すると、当然入口には門番というか見張りがいるわけだが……


「どうするミラ」

「突っ込む」


……これはまた、強引な戦法だな。

見張りがいようと関係なしってわけか。


まあ、最悪それはいいんだが……

問題はルミアだ。

彼女は巻き込みたくない。かと言ってここに待たせるってのも危険だ。一人にはしたくない。


俺はそうやって心配しながらルミアを見る。

彼女はそんな俺にニコリと微笑む。

……少し照れる。


そうやっていつまでもここでじっとしていたら、思わぬ出来事が起きた。


「シン!」


俺を呼ぶ声……

振り向くとそこには、シャド襲撃で別れた仲間の一人、師匠とも言える人周防さんの姿をがあった。

後ろには許婚の水無瀬もいた。


まさかここで仲間と合流できるなんて……ついてるな。


「探したぞシン!まさかこんな所にいるとはな!敵の本拠みたいなとこだぞ?」

「ええ。知ってます。攻める気だったんで」

「なに!?」


驚愕する周防さん。まあ当然だろうな。無謀にもほどがあるし。


「事情話すと少し長くなるんですが、」


俺は今までの出来事を二人に話した。

何故攻めるのか。ゲートを教えてもらうためにミラに協力するという事を……


「なるほどな。だが、その必要はないぞ!ゲートを作れる地点は発見したからな!」


それは朗報だ。ならルミアを無事に人間界に帰せる。


「そこのお嬢さんには悪いが、無理して攻める必要はなくなった。とりあえず皆で帰ろうじゃないか!南城達は他の軍の者に探させるし……」


「「待て!」」


ミラの突然の叫びに俺達は彼女へ視線を向ける。

……ミラはルミアに刀を突きつけていた。


静かに、俺は問う。


「……なんのつもりだミラ」

「すまない……どうしても神邏、お前には来てもらわなきゃいけないんだ」


本当に、彼女はすまなそうにしている。不本意なのは間違いないのだろう。

……だが、この行動はいただけない。


「ミラ、ルミを離せ。……ルミに怪我をさせるつもりなら、悪いが容赦するわけにはいかない」


冷たい視線を俺はミラに向けた。今まで彼女に向けた事のないほどの冷徹な……


ミラは血の気が引くような顔をするが、怯まない。


「だ、ダメだ。お前にはなんとしても来てもらわないといけないんだ……」

「で、どうするつもりですか?」 


刀を突きつけられてるルミアは、平然とした態度で聞いた。


「私を連れてここに侵入する気ですか?無駄ですよ。私の能力でのですから」


触れられない能力?

そもそも能力もっていたのかルミア……


おそらく常時発動してるものなのだろうな。

俺が聞くまで気づかなかったのは、信用されてて、彼女に触れられたからか……


こんな状況だが、ルミアに信用されてると実感できて嬉しいな。



触れられないから、掴んで連れてく事はできないわけか。ミラができるとしたら、こうやってこの場でルミアに刀を突きつけるだけか。


ジリ貧だろうな。


「なら、こうするまでだ!」


ミラは足元に魔導弾を放つ!

あまりの至近距離なため、爆風でミラとルミアは吹き飛んだ!


二人が立っていた崖が崩れ、落下していく!


俺はすかさず手を伸ばすも……届かない!


落下する二人は騎士実験場の内部へと落ちていく。


「「侵入者だ!出会え出会え!」」


しまった……帝王軍にも気づかれた!


俺はなりふり構わず、崖を降り二人を追おうとする。


「待てシン!」


周防さんが俺を止めるが、構わず飛び出す。


「軍に連絡をとってるんだ!すぐに援軍が来る!だから待て!二人共落ちたくらいは平気だ!」


すいません……そういう問題じゃないんです。帝王軍が、あのバロンがいる場所へルミアが落ちたんだ。心配で気が気じゃない。


援軍など待ってる暇なんて……ない!


「くっ……仕方ないか!よしおれ達も追うぞ水無瀬……」


周防さんが言い終わる前に水無瀬もまた駆け出していた。


「神邏!わたしも手伝う!だって未来の奥さんだもの!」


……奥さんかどうかはともかく、戦力は少しでもほしい。ここは水無瀬の言葉に甘えるだけだ。


「世話のかかる弟子だなまったく!」


周防さんも飛び出してきてくれた。


心の中で二人へ感謝を告げ、俺はルミアとミラを追った。

バロンと出くわす前に……二人を、

助けないと!



つづく。


「あれ!?これヒロイン助けに行くみたいな王道なパターンですよね!?やった!」


「次回  鏡像  題名意味わからないですけど!王子様がお姫様助けに行くみたいでいいですよね!」

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