第101話 騎士の実験場
俺とルミアは今いる洞窟を拠点とし、周辺を調べ回った。
調べた結果、この地域から天界に帰ることは不可能のようだった。
そうなると、長居は無用。
他の地へ移動するべきだ。
まあ、ミラの体調の回復を待ってからだが。さすがに置いていくのは忍びない。
しかし、こんな状況になるとはな。サバイバル生活みたいなものじゃないか。……食料の調達方法はベイルさんに聞いておいてよかった。
毒物とか取ってきたら問題になるしな。さすがに似たような食事ばかりだと飽きるが、仕方ない。
キノコとかの山菜は苦手だから……なんて言ってられる状況ではないし。
まあ、魚ばかり取って食ってるんだが。
……なんか、魔界での生活に慣れてきているな。
……そろそろ家族も心配してるかもしれないな。
詩良里ちゃん達、妹弟達にも会いたい。
早く帰る方法を見つけないと……
♢
数日がたつ頃には、ミラの体調も回復していた。
なら、そろそろ別れるか……と、思っていたのだが、
「神邏、君は天界に戻りたいと言ってたな?」
ミラは言った。基本的な事情はすでに彼女に話していた。
俺は頷く。
「ああ。はぐれた仲間も探したい所だが……」
ルミアを見る。……少なくとも彼女を人間界に戻してあげたいしな。
それに仲間も独自に動き天界に戻る方法を探してるはずだしな。
幸い、全員天界に戻る鍵は持っているからな。
ミラは言う。
「ワタシはこの辺の地理に詳しい。だから、天界に戻れるゲートを作れる地点を案内できる」
「本当か?」
渡りに船とはこの事か。
「ここから近いのか?」
「わりとな。ただ、」
ミラは言葉につまる。
何か言いづらい事でもあるのか?
……
「この周辺はそもそも、帝王六騎衆、
……バロンか。一度敗れた相手……そんな奴が近くにいるわけか。
危険かもしれない。だが、しり込みはできない。多少の危険は覚悟の上……
それに前の俺じゃない。少しは、やりあえるはずだ。
「じ、実はな、そこにワタシの仲間もいるはずなんだ。攻め込む手筈だったから……」
「帝王六騎衆に挑むつもりか?無謀じゃないのか」
「まあな。でもやるしかないんだ。仲間も腹をくくってる」
帝王六騎衆の実力は身をもって知っている。
ミラの仲間がどれほどの実力者かは知らないが、反抗勢力がどうにかできる相手じゃない。
反抗勢力の覇王軍に属してた幼なじみの皆木叶羽。彼女は幹部だったらしく、帝王軍の部隊長クラスを撃ち取ってる。
※84話参照。
だが、皆木とも戦ったからわかる。帝王六騎衆には到底及ばない。
反抗勢力最大とかいう覇王軍幹部でそれだ。
ミラの所属は知らないが、似たようなものだろう。
彼女も仲間の身を心配しているのか?
……それとも。
「それで、なんだが、できれば……神邏、君にも手伝ってもらいたいんだ」
「それがゲート場所を教える条件か?」
俺が聞くと、ミラは頷いた。
するとルミアが叫ぶ。
「ちょっと!こっちは命の恩人なんですよ!?それなのに交換条件突きつけるなんて!」
俺はルミアに軽く首を振って止める。
ルミアの気持ちもわかる。だが、ミラも好きで言ってるわけではないはず。
煮え切らない彼女の表情でわかる。
「わかった。手を貸す」
「神邏くん!?」
「大丈夫。危なくなれば逃げる」
俺としてはゲートを作れる場所を教えてくれるなら、断る理由はない。
バロンを相手にする可能性がある。怖くないと言えば嘘になるがな。
「な、なら頼む!」
ミラは深々と頭を下げた。
「早速、向かおう!仲間が待ってるかも……」
ミラは急いで準備に取りかかる。
そして、一言小さい声でつぶやいていた。
「……すまない」
♢
???side。
帝王六騎衆、騎士バロンが任されてる軍事施設。
帝王軍と他国の国境付近にある重要拠点。
大量の兵糧、魔力供給用兵器などなどの戦にかかせないものが多く軍備されている。
そして捕らえた者を人体実験に使ったりもする危険な拠点だ。
だが、だからこそ帝王軍にとって重要な地。ここを落とせば、帝王軍の戦力は大幅ダウンするはず。
故に、反抗勢力はここを狙ったのだ。
今この場には反抗勢力筆頭の覇王軍、その幹部、
それだけここを落とすのに必死と見える。
九人の幹部の内、皆木は神邏達に寝返り。
二人は死亡、もう一人ハーベルは大会で死んだため、四人は欠けてる状況。
残る五人の内、三人が来ているわけだ。
その三人、一人は頭部以外鎧に身をまとったヒゲヅラの三メートルはあるかと思われる巨体の男、ゴウン。
二人目は目の焦点があってない赤肌の上半身裸の男、クラデース。
最後の一人はひょっとこのお面をつけて着物を身にまとった、おそらく女、バービエ。
この三人は九衛師団上位クラスの実力。
最強格、皆木叶羽に近い実力をもつらしい。
「アシュフォードの奴から連絡はまだこんのか?」
ゴウンが配下の青髪の男に聞いた。
男は答える。
「はっ。先程連絡がありまして、周辺に来てるとのこと」
「よしよし。朱雀とやらと騎士バロンをぶつけ、その間に我々が漁夫の利を得る作戦なのだ。アシュフォードには失敗は許さんと伝えておけ」
「は、はい……」
厄介な帝王六騎衆と神邏をぶつける作戦……
これではまるで神邏がここに来ることを知っているかのよう。
そう、アシュフォードとはミラの事だ。
ミラの手引きで神邏とバロンをぶつける……それが覇王軍の策。
つまりミラは覇王軍所属なわけだ。
元覇王軍の皆木がいたら気づいていたのに……と、思われがちだが、彼女は部下に興味ないのでミラの事も把握はしていない。
「そんなのいいからよお、ゲハハ!早く帝王軍始末してえよ!」
クラデースが笑いながら雄叫びをあげる。
敵の本拠近くにいるのに緊張感がない。
そんな仲間に苦言を
「下品ですわぞクラデース。アテクシ達は、その時を待つのみ、ですわぞ」
「相変わらず〜ビビリなやつだよなあてめえはよー。六騎衆だろうがなんだろうがぶっ殺せるっつ〜の」
よだれをダラダラ垂らす汚らしいクラデース。
こんな奴ですら魔力ランクはAクラスという恐るべき事実があるのは驚きだ。
「ミラからの連絡です!朱雀を連れ侵入したとの事!」
青髪の男が報告した。
ゴウンは笑みを浮かべ指示を開始する。
「よし!我々はまずこの場にある兵器の破壊、使えそうなものは奪取!そして厄介なバロンを朱雀と戦わせてる間に他の奴らを殲滅!そして最後には疲弊したバロンと朱雀を殺す事だ!わかったな!」
部下達は敬礼し、動き出す。
「とはいえ、バロンと朱雀が戦い始めてからだな動くのは。全て天界軍がしたことと思わせるタイミングも重要……」
「あの、ゴウン様」
先程の青髪が呼びかけてきた。
「なんだ?」
「ミラはどうするので?前線で朱雀と共にいるんじゃ危険なのでは」
「当然だろう。奴には天界軍を装い、帝王軍を撹乱させる任務があるのだからな」
「助けには?」
「行くわけなかろう。所詮捨て石だ」
「なっ!?」
上司の非常な判断に驚愕する青髪の男。
「そ、それはミラも承知なのですか!?」
「当然だ」
「そんな……」
ショックで立ち尽くす青髪の男。
そんな様子を見ていたクラデースとバービエは……
「なにが承知の上だよお。援軍回すとか女には伝えてたクセによ」
と、クラデースは笑っていた。
この発言から、ミラには捨て石だなんて言ってないとわかる。
ミラは利用されて捨てられた……そういうことだろう。
「まあ当然ですわぞ。魔と人の混血……薄汚れた血のゴミに利用価値を与えてあげたのですわぞ?感謝してもらいたいくらいでは?」
「ゲハハ!違いねえ!」
この二人は可哀想と思うどころか、当然だという態度。
混血は人にも魔族にも忌み嫌われる存在だからなのだろうか……
はたから見れば覇王軍も、帝王軍と変わらない悪の組織としか思えないだろう。
バービエがキョロキョロしだす。
「そういえばカイデルンは?」
「あいつはサボりじゃねえのかあ?同じ九衛師団じゃなければ殺してやりてえくれえだぁ……」
どうやら他にも幹部が来ているようだ。この場にはいないようだが……
「「なら、殺してやろうか?お前達も一緒にだがな」」
声がしたその瞬間、クラデースの左腕が突然地に落ちた。血を吹き出しながら……
「ぬぎゃああああああ!!」
絶叫!
気配も感じさせずに何者かが攻撃を仕掛けてきたのだ。
クラデースの視線の先には……三人の魔族が立っていた。
つづく。
「敵地突入ですか……それに第三勢力の影。神邏くん、頑張って……」
「次回
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