第100話 謎の美少女
──神邏side。
俺たちは分断された。
別れた者たちの居所は現時点ではわからない。
誰が誰と一緒かも、当然わからない。
誰も一人になってなければいいが……
♢
俺はルミアと一緒に、河川敷のような場所に飛ばされていた。
もちろん見覚えのない場所だ。
元いた場所から近いか遠いかもわからないな……
ただまあ、ルミアと一緒だったのは救いだ。
彼女を一人にしたくなかったし、離れていたらルミアの安否で気が気でなくなるしな。
二人でこんな知らない地にいては何があるかわからない。
ルミアに何かあってはいけないし、天界か人間界に帰る方法を探さないといけない。
天界と人間界に入る鍵はもっている。…だが、鍵があればどこからでも帰れるわけではない。
詳しくはわからないが、異世界をつなげるゲートを作れる地点でないとダメらしい。
…その作れる地点がよくわからない。少なくとも今いる地点では作れなかった。
前のアジト近くに戻れれば、ゲートを作れる地点がわかるのだが……
いずれにせよ、ここにとどまっていても帰れないって事だ。
敵に見つからないように慎重に、ゲートを作れる地点を探すしかない。
「なにはともあれ、神邏くんと一緒で良かったです!」
ルミアがニコリと、笑いかけてくる。
俺は頷いて、
「同感だ」
「えっへへ〜ふたりっきりですねえ」
「そうだな」
ニコニコしてるし、不安がらせてなくて良かった。ルミアのためにも、早くゲート地点を……
「「おい!いたか!」」「「いやいない」」
人の大声が聞こえた。声のした方角は上の方から。
視線を上げると、橋が見えた。
声はその橋から聞こえている。
相手の顔は見えない。
「「ちっ、逃がしたか?」」「「橋の下か?」」
マズイ。敵の可能性も大きいし、俺達のいるところに降りてこられると厄介だ。
そう思い、俺はルミアを連れ離れようとした矢先……
「…人?」
川の浅瀬に倒れてる女性が見えた。川から流れて来たのか?
…先ほどの声から察するに、奴らはこの女の子を探していた?そして彼女は必死で逃げて……
…放ってはおけないな。
「助けよう」
「え?神邏くん!?」
「手、貸してくれルミ」
ルミアは少し膨れるが、しぶしぶ手伝ってくれた。
「もう、せっかくふたりっきりでしたのに」
◇
どこか休める場所を探し回り、身を隠せそうな洞穴があったため、俺達はそこで一息ついた。
女の子の手当てはルミアにしてもらった。どうやらそこまで深手を負っていたわけではないらしい。
…敵の可能性はある。だが、貴重な情報源にもなり得る。だから油断はせずに、彼女が目を覚ますのを待った。
そして、その時は来た。
「う、うーん……」
「目、覚めたか」
「え、――はっ!?き、貴様誰だ!帝王軍か!?」
女の子は、警戒して飛び起き離れた。
まあ、同然か。
ただ俺を帝王軍と思い敵意を向けるってことは、少なくとも彼女は帝王軍ではないってことになるな。
「ちょっと、失礼ですよ!命の恩人に向かって!」
ルミアはぷんすかしてる。
それを聞いた女の子は首をかしげる。
「お、恩人?そ、そういえばワタシは帝王軍と戦闘していて……橋から、」
ということは、やはり橋の上でこの子を探していた奴らは帝王軍か。
俺は安心させるために言う。
「とりあえず、俺らは帝王軍じゃないとだけ、言っておく」
「そ、そうかもな……帝王軍ならとっくに殺されてるだろうしな」
納得してくれたみたいだ。
警戒心を少し解いてくれたように見える。
俺は聞く。
「帝王軍に追われてたみたいだが……」
「ああ、奴らとは敵対してるしな。そうか、川に落ちた所をお前が……川?」
女の子は自分の服を見る。
ああ、濡れてたから着替えさせたんだよな。
「お、お前!ワタシの服は!?というか脱がしたのか!?」
ああ、そういう事か。顔真っ赤にして怒ってるな。
「安心しろ。服は乾かしてるし、着替えさせたのは彼女だ」
と、俺はルミアを指した。
ルミアがいるのに、俺が衣服脱がすわけないだろ。
ちなみに服はルミアの予備。最低限の物は持ち歩いてたからな。
まあ、ルミアの胸のサイズがでかすぎる事で彼女にとってはブカブカそうだが。
女の子は納得して座る。
「そ、そうか。すまない……と、ところでお前達何者なんだ?魔族には見えないが……」
当然の疑問だな。
ただ、信用できるかわからない人に、素直に素性を明かすのは……
「天界軍です」
ズルッと転けそうになる。
ルミア……なんで素直に答えちゃうんだ。
俺の視線に気づいたルミアは、はっとして口を抑える。…もう遅いよ。
「て、天界軍……」
一瞬、女の子の顔が曇った。が、すぐに表情を戻した。
俺はその一瞬を見逃さなかった。
天界を良く思ってないのは確定か。敵になり得るかはわからないが、少し警戒しておいたほうがいいかもな。
…個人的には、信用できそうには見えるがな。勘だが、悪い子には見えない。
「と、ところで名前は?聞いていいか?」
名前か。…天界軍とはバレたし、偽名使っても仕方ないか。
「俺は
「そうか。ワタシはミラージュ。ミラでいいぞ」
「なら、俺も神邏でいい。よろしく」
「あ、ああ」
俺とミラは軽く握手した。
「ところでミラ。なんで帝王軍に狙われてるんだ?」
俺は事情を聞いたが、ミラはどことなく話づらそうにしていた。
「言いたくないならいいが……」
「あ、いや、その……奴らの支配地域に住んでいてな……圧政から逃げたというか、なんというか」
「…奴隷扱いでもされてたのか?」
「ま、まあ似たようなものかな」
ベイルさんや、皆木の所属してた反抗勢力があるわけだな。帝王軍のやり口はおそらく相当酷いものなのだろう。想像もしたくない。
俺は聞く。
「苦労、してきたのか?」
「え?」
「帝王軍の圧政に苦しめられたんだろ?」
「あ、ああ……そうさ。ひ、酷いものだったよ」
…なんか怪しい。何か隠してるようにも見える。だが、あえて言及はしなかった。
「と、ところで、お前らワタシが魔族ってわかってるよな?」
ミラが聞いてきた。俺は頷く。
「魔界にいるんだしな。むしろ人だとは思わないさ」
「でも、お前天界軍なのだろ?魔族を取り締まる……なのになんでワタシを助けた?」
…俺から言わせれば、何故そんな疑問を持つのかと思う。
とりあえず、俺は思いの丈を伝える。
「傷ついて倒れてる人、見捨てるほうが気分悪いだろ。ただそれだけだ理由なんてない」
「魔族だぞ?それに、悪人かもしれない」
「その時はその時。何か仕掛けてくるなら迷わず切る。どうせ弱ってるし大した危険はないとも思ってた。それに、人を見る目はあると思ってるしな」
さすがに、明らかに賊みたいな奴だったら見捨ててた。見かけで判断するわけではないが、俺一人ならともかく、ルミアがいるしな。
状況も状況だったし、人間界ならともかく魔界。敵だらけの状況でそんな余裕はない。
なら何故ミラは助けた?
…ただの直感だ。悪い子ではない。そう何故か思えたから。
女だからとかじゃない。ミラが男だったとしても同じように助けた。
「変わった奴だな……天界軍にお前みたいな奴がいるなんて。全員魔族は殺せと思ってると思ってた」
「全員そうだとは思わない事だな。少なくとも俺はそんな偏った思考していない」
「なら、混血も気にしないのか?」
「もちろん。何か違うのか?」
そう言うと……ミラは笑みをこぼした。
とても可愛らしかった。
「そう……か。お前みたいな人が多ければワタシ達もこんな目には……」
「え?」
「いや、なんでもない。変わった天界人がいるものだと思ってな」
するとルミアがキョトンとして訂正する。
「いえ?私と神邏くん人間ですけど」
「に、人間!?」
さらに驚くミラ。
まあ俺は天界の血も入った混血だがな。
…そういえばさっき混血がどうのと言ってたが……ミラはもしかすると。
まあ、今はいいか。
「本来なら人間とわかれば警戒する所だった。でも、お前の人間性がわかった後で良かったよ」
ミラはまた笑った。
…人間と魔族の関係は最悪だ。
それを考えれば当然だろうな。
魔族を恐れる人間が、弱った魔族になにするかなんて恐ろしくなるだろうし。
クスクス笑うミラは本当に美しかった。
美人だとはわかってたが、さっきまでの警戒心からの仏頂面からの笑顔、ギャップに驚く。
無垢な美少女。汚れを知らないかのような1輪の花のよう。
流れる銀色の髪が美しさを際立たせる。
…銀髪?
いや、まさかな……
つづく。
「し、神邏くん、まさか見惚れてます!?そ、そんな!私のほうがカワイイですよ!」
「次回
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