第94話  裏切り者

「う、裏切り者だと!? 冗談にしちゃ笑えねえよ」


 ……冗談なんかじゃない。

 確定とはさすがに言えないが、可能性は高いと踏んでる。


「……そこそこ時間は経つ。いつもなら情報屋によって居所バレそうなものだが、今のところ音沙汰はない」

「そりゃそうだが……」

「そんなときに、ヒカリ先生がお二人に天界軍に現状報告頼んでいた。……天界にはまだアジトの場所を知らせてなかったことに、そこで気づいた」


 俺は先生を見ると、彼女は頷いてくれた。


「実はね、前々からその話はあったの。西木とも話し合ってる。だから修行するって事以外は軍に黙ってたの」


 俺も前に西木さんに裏切り者の話は少し聞いていた。そのときはあまりピンときてなかったし、単なる俺に対する嫌がらせ、もしくは出世争いに対するものだと思ってたが……

 ※30話参照。


 だが今回のケースで、出世争いでの軍に対する裏切りというより、天界全てを裏切っている無法者の可能性が出てきた。


 何故なら天界を滅ぼそうと企む情報屋に、何から何まで情報を漏らしている可能性があるからだ。

 互いに利用しあってるだけの可能性もあるが、裏切り者が情報屋本人とも考えられるし……


「盲点だったわね。裏切り者の事考えて黙ってたけど、その裏切り者が情報屋と繋がってるかもって事は」


 ……そう。それなら情報屋が天界軍の情報を知りつくしてる理由付けになる。


「……もしそうなら、合点がいきます。今帝王軍にこのアジトがバレてない理由に」

「……裏切り者がアジトの場所知らねえから、情報屋にも伝わってねえってことか? 美波」


 俺は頷いた。


 先生のファインプレーのおかげで、その可能性に気づけた。


 ……さすがとしかいいようがない。


「誰が裏切り者かわからない以上、安易に天界軍に情報をもらさないほうがいいと思う」

「だろうな。オレ様も信用しないように気を付ける」

「ただ、逆を言えば今この場にいる人達は信用できると言っていい」


 なぜなら、情報屋にばれてないからだ。

 この中の誰かが裏切り者なら、とっくに帝王軍に居場所はバレてるはず。


「この場の天界メンバー……オレ様に西将軍、周防さん、水無瀬、須和か。あとの美波のツレは問題ねえだろうし」

「あたしと野原もでしょ」


 九竜は忘れてるぞと、突っ込むように言ったのだが、


「……お前らは今来たばかりだ。信用に値する証拠がねえ」


 忘れていたのではなく、あえて外したようだった。……酷な事だが、南城の言い分もわからなくはない。


「そんな! 野原はともかく、あたしは人間界で朱雀とあなた含めて、共に戦ってるじゃない!」


「ともかくって……」


 小さく突っ込みいれていた野原さん。

 まあ、気持ちはわかる……庇ってくれないのかと、ぼやきたくもなるだろう。


 誰にでも人当たりいいのに、今回ばかりは自分の潔白を証明するのに必死みたいだな。


「わりいが、それは証拠にならねえ。人間界での戦いは情報屋に筒抜けだったろ? 基本的に。故に、一緒に戦ってたお前がもらしてる可能性は消えねえ」

「な!? じゃああたしが情報をもらしていた裏切り者とでもいうの!?」

「そこまでは言ってねえよ。あくまで可能性の……」


 喧嘩になりそうだな。


「……止めろ二人とも」


 とりあえずヒートアップする前に、二人の間に入り止める。


「朱雀、あなたはどうなの!? あたしが信用できない!?」


 ……らしくないな。これだけ必死だと逆に怪しまれる気もするぞ。

 俺は疑ってなどないがな。


「……信用はしてる。あんたには世話にもなったし、そもそも朱雀の事話してくれたし」


 情報屋のスパイ、もしくは本人だったとしたら、わざわざ俺を戦場にたたせるなんて愚行はしないだろう。


 天界を潰す気なら、四聖獣という戦力を引き入れるはずないからだ。


 命令ならともかく、俺に最初に会いに来た事はあくまで独断だったようだし。

 ※一話の出来事。


「ほら見なさい南城!」

「……お前が信用するしないは勝手だが、確証はねえだろ。こういう場合は慎重に事を運ぶべきだ」


 まあ、その通りだとは思う。

 ――だが、


「……疑わしきは罰せずとも言うだろ。スパイだという確証もない」

「だがな、」

「……ならこうしよう。とりあえず二人ともここに滞在してもらう。その間帝王軍が現れなければ白ってことで」

「疑われてる状況で、情報を帝王軍に流すわけねえだろ。自分がスパイですと言ってるようなものだからな」


 その通りだ。だが、疑われるから安易に動かない。となると……


「でもま、その案には乗る。どちらにせよ帝王軍にここが知れ渡る心配はねえだろうからな。自分がスパイだって証明しようとする間抜けでもなければ、バレる事はねえだろうしな」

「……その間抜けの可能性も考えて、二人には常にここの誰かと一緒にいてもらおう。それなら万が一もないだろ」


 情報を流すような怪しい動きをさせないための見張り。そこまですれば問題はないだろう。


「……少し自由が制限されるからお二人には悪いけど……」


 少しばつが悪い、そんな俺の様子を見て二人は、


「まあ、仕方ないかな。疑いがはれるまでは我慢するわ」

「う、うちも問題ないッス」


 わかってくれたようだ。

 二人には悪いが、仕方ない事だ。


「……ただ……あのお……」


 ……? 野原さんは頬を軽くかき、苦笑いしている。そして一言。


「すいません。上に報告しちゃいました」


 ……は? 報告したって……


「ここの場所をですか?」

「は、はいい……。正確な居所つかむ前にしたので、この周辺ってことだけッスけど……すいませんッス!」


 頭をブンブン上げ下げして、平謝りしだす野原さん。


 ……まいったな……

 正確な場所までは特定されてないとしても、見つかるのは時間の問題かもしれない。


 見張られてて、このアジトから外に出る瞬間でも見られたらアウトだしな……


 食料の問題もあるし、外に出ないわけにもいかない。となると……


「アジト……変えますか?」


 と皆に聞いてみた。


 それができる最善手だと思うが……


「やめといたほうがいいぜ」


 このアジトの主、ベイルさんが止めてきた。

 今まではこの場にいたのに部外者故、黙っていてくれていたらしい。


「覇王軍って連中と派手にドンパチやったんだ。周辺に奴らが見回りにきててもおかしくねえ。変えるにしても今はやめとけ」


 ……そうか。ここも帝王軍の支配地域、騒ぎを聞きつけていてもおかしくないか……

 特に何もない地域だから気にしてなかった。


「そういえば~叶羽さん、七つの大罪人の一人始末したし、余計この辺に帝王軍連中来ててもおかしくないねえ」


 と、叶羽は今思い出したように言った。……そうなると叶羽も帝王軍に目をつけられたかもな。


「色欲とか言ってたな~。あんまり大したことなかったけど」


 色欲……

 この前帝王六騎衆が連れてた奴か……? 先生と戦ってたよな。

 ※75話参照。叶羽が戦ったのは84話参照。


「ただ、ここ以外に安全な場所見つけれるとも思えねえ。探し回ってる間に、帝王軍に見つかるかもしれねえしな」


 ……なら、天界軍に見つかるまではここにいたほうがいいだろうか……?



 ――続く。


「う~ん。まいりましたね。ここはおとなしく隠れてたほうが良さそうですかね?」


「次回 来訪者 天界軍の、って事ですよね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る