第93話  八咫烏

「契約はするけど~、さっき言った条件聞いてよ」

「なんだ」

「結婚して~」


 ……あのな。

 またルミアと水無瀬がキレ気味の表情あらわしてるし、もう変な事は言わないでもらいたい。


「さすがに無理だ」


 キッパリ断る。まあ冗談くさいが。


「じゃあーお付き合いから」

「ダメだ。悪いがそんな目で見れん」


 俺のやや冷たい態度にルミアと水無瀬は少し笑ってる。

 ……満足そうならよかった。


「じゃあーギュッと抱きしめてよ」

「……セクハラにならないなら、まあそれくらいしてもいいが」


「「えっ!?」」


 ……また二人が反応。


 いや、軽く抱きしめるくらいならそんな問題でもないだろ……


「後~チューしてよ~」

「……手とかおでこなら別に」


「「ちょっ!?」」


 二人ともどうしたんださっきから……

 結婚や付き合いよりは、はるかに問題ないだろうに……


「あともうひとつ~。叶羽さんと~セ…」


 言い切る前に、ルミアのかかと落としが皆木の頭にクリーンヒット。勢いのまま地面に頭をごっつんこした。


 ……かなり早かったな。というかルミアがすぐ手を出すとは珍しいな。手というか足だが。


「神邏、やっぱり殺しましょうかこの子……」


 笑顔だが、ふーふーと息キレキレで怒りのオーラが漂ってるように見えるルミア。

 しかもいつの間にか昔の冷徹感ある性格に戻ってるし。

 それだけキレたのかもな。


「落ち着けルミ。皆木も、条件複数は反則だ。冗談もあるかもしれないが」

「冗談なんかじゃないんだけどなあ」


「「いい加減にしろ。朱雀様の命に従え。でなければお前は死ぬしかないのだからな」」


 八咫烏さんはしっかりしてて助かる。この子が皆木についていてくれるなら、安心かもしれない。


「わかったよ。でも~OKもらったやつは~してもらうからね。いつか」


 渋々皆木は契約準備に取りかかった。


 その様子を見物しようとしていたら、ルミアに引っ張られる。

 ……?


「なに?」

「どれやるつもりか知りませんけど、あの子なんかにチューとかするくらいなら私にもするべきだと思います」

「……? してほしいなら、まあいいが」

「えっ、本当ですか!?」


 別に嘘なんかつかない。俺なんかにされてもいいのならな。


「神条さんだけはズルくない?」


 と、水無瀬。だがお前の場合は……


「……してもいいが、それで勘違いとかはダメだぞ」


 一度彼女の好意は断ってる。うぬぼれてるかもしれないが、好意を持ってくれてる相手に対し、その気もないのに、迂闊な事するのは失礼にもなる。


「わかってるわ。それとこれとは別でしょ? ま、あきらめてはいないけどね」


 可愛くウインクしてくる水無瀬。

 ……まあかわいいよなやっぱり。


 誰にも言わないが、好みではあるんだよな……


「終わったよ~」


 皆木が手を振ってる。

 北山の時といい早いな。


 ……なんか、かなりの魔力をかんじる。何もしていなくても、ビリビリくる。


 当然か……

 さっきまでは聖獣もいないのに、俺に近い実力を持ってたんだ。

 それで聖獣の分プラスされたというのなら……


 戦力としても、かなり頼りになるかもしれないな。


「あらためて、よろしく頼む。帝王軍との戦いには少しでも戦力がほしいところだったからな」

「あ、帝王軍に喧嘩売ってるんだ~? それは楽しみ~。殺しもあいつら相手ならアリなんだろうし」


 ……本当に危うい発言するやつだな。まあいいが。


 とりあえず、俺と皆木は握手した。ルミアが許したことだし、全て水に流す。

 昔の……友達にこれで戻ったんだ。

 俺と皆木は。


「そうだ~。一番してほしいこと忘れてた」

「なんだ」

「名前で呼んでよ。友達に戻れたんだからさ」

「わかった。……叶羽」

「うん!」


 ……初めて、心の底からの笑顔を見た気がする。叶羽の。


「と、こ、ろ、で~」


 ヒカリ先生が少し怖い顔をして、九竜と野原さんに寄っていく。


 この二人、いつの間にここに来てたんだ?


「あっさり覇王軍に捕まって~このアジトバレた責任とろうか?」


 肩を捕まれた二人はブルッと震えた。


「お、お手柔らかに……西将軍」

「い、いえでもあたしたちの責任ですし」

「ちょっと九竜!」


 両腕を組み、二人を見下ろすヒカリ先生。


「……とりあえず、二人はあまり戦力にもならないし、お使い頼める?」


 戦力にならないって……

 地味に酷いですよ先生。


「お、お使い?」

「というか酷くないです? あたしは朱雀と共に人間界で戦ってたのに……」


 確かに。

 九竜は最初に会って、朱雀の力の事などを説明してくれた恩人。

 長い事戦い続けた同士でもある。


「……今回の戦いはね、そんなレベルの低いものじゃないの。だからお願いね」


 諭すように、優しく説得した。

 ……体験したからわかる。

 帝王六騎衆……奴らは今までの比ではない相手。先生の言い分もわかる。


 ……九竜も渋々頭を下げ納得。


「ちなみにお使いってのはね、天界にここの事、」


 ――!


「先生、天界には、」


 俺は口を挟んだ。何故なら……



 ♢



 俺達は全員で集まり、一つの話し合いを行った。


「もっと前に話しておくべきだったのですが……みんな、情報屋って奴、聞いたことありますよね?」


 俺はみんなに聞いた。

 情報屋……ローベルトや帝王軍に天界の情報を売っている謎の人物。

 前に会った時はローブをまとい、仮面をつけて、声も変声器かなにかで変えてるように聞こえた。

 要するに身分も正体も隠してる怪しい奴だ。


 そいつのせいで帝王軍にこの前の作戦がバレ、失敗した。

 ※74話参照。


 ローベルトとの戦いでもそうだった。奴に天界の動きがバレて厄介な事が多すぎた。


 情報屋の事は皆知ってる様子だった。まず、南城が口を開く。


「天界の事を魔族に売ってる奴だよな。それがどうしたよ」

「そう。南城は奴がどうやって天界の動きつかんでるか、わかるか?」

「知るかよ。わかりゃ苦労しねえ。奴の能力かなにかかもな」


 考えられる事の一つではある。


「叶羽さんも知ってるよ~。覇王軍にも情報売りにきてたし。よくもまあいろいろ知ってるものだよ」

「叶羽の言う通り、いくらなんでも知りすぎてる。変に思いませんか?」


 皆もそれについては納得してくれていた。


「ただ、不可解な事もある」

「なんだよ」

「奴は常に動きを察知し、対処してきた。今回といい、ローベルトの時といいな」

「確かにな」

「……奴が能力かなにかで前もって知れるとしたら、今この状況っておかしいと思わないか?」

「回りくでえな。簡潔に早く言えよ」


 南城に急かされたため、俺は本題を話す。


「……なぜ俺達の居場所、帝王軍にバレてないんだろうな?」


 その発言に、南城は驚愕の表情を見せた。南城だけでなく、だいたいの人は同じような様子だった。


 帝王軍は、逃がした俺達を血眼になって探してる可能性がある。

 なら情報屋はなぜ教えない?

 普通に考えれば、奴は俺たちの居どころがわからないからと考えられる。


 もしそうなら、何から何でも、天界の事を知り得るわけではないということになる。


「叶羽、さっき教えてくれたが、ここにくる前に帝王軍と会ったんだよな?」

「うん~。波ちゃん達の事探し回ってたよ。居場所の検討はついてなかったっぽい」

「……となると、奴らは俺達が魔界にとどまってる事だけは知っていた。だが居所はつかめてなかったわけだ」


 魔界にはいる。……ただ、それだけの情報を帝王軍に売ったのだろうか? 少し舐めた情報だ。


 今まではピンポイントに天界軍の情報をバラしてきた奴が。


「覇王軍がここを見つけたことと、情報屋は関係ないんだよな?」

「そだよ~。叶羽さん達の力で見つけたんだもん」


「確かに、変な話だな」


 南城も不信に思ってくれた。


「アジトだけは、こんだけ時間たってもつかめないのか? あんだけ情報持ってる奴が?」

「……そこで、俺は一つ気づいたんだ。その事については先生や周防さんにも聞いたから間違いない」


 ……少し、言いづらいがな。


「今までと今回で違う事……それは、

「は?」

「今までの作戦は当然ながら天界軍は知ってる。だがこのアジトの場所、実は軍には報告してないんだ」

「なんで報告してないんだ?」

「この仮説が正しいなら……天界軍に裏切り者がいるってことになるからだ」



 ――つづく。



「あれ? 急に話動きだしましたね。まあ皆木さんの話なんていつまでも引っ張る事ないですしね!」


「次回 裏切り者 ……誰がそうかわかってないと困りますね」


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