第95話 来訪者
「西木将軍が見つけに来たら、あの人の能力ですぐアジトばれちゃいますよね……」
野原さんがびくびくしながら、上司のヒカリ先生の様子を伺うように聞いた。
先生は優しいし、そんなにびくびくしなくてもいいと思うがな。
「西木には修行の事とか伝えてるし、信用できるから、軍にアジト教えたりなんてしないでしょ。まあ他の奴が来ても見つかるのは時間の問題かもだけど」
と、ヒカリ先生はため息まじりで答えた。怒ってはいなそう。
……ヒカリ先生は西木さんを白と断言できるほど、信用してるみたいだな。
西木さんは、裏切り者とかそのへんの事を俺にも話してくれたし、優しい人物像。……普通なら信用できるかもしれないが……
俺はあの人の事をそこまで知らない。
……修羅といえば、天界に反旗を翻したとか前に言ってたな。
※30話参照。
……修羅、あいつに忠誠心あった人達は……天界に恨みをもってたりするだろうか?
修羅を討った天界に……
天界人が、敵である魔族に天界を明け渡してなんの意味があるんだと前に話したが……
それが理由だとしたら……わりと合点がいく。
考えすぎかもしれないが、修羅の部下だった人は……怪しいかもしれない。
「西将軍、個人的には他の四将軍の方に、黄木司令も信用できると思いますよ?」
九竜が補足するように、信用できるものを挙げた。彼女の勘か、近しい人だからか理由はわからないが。
「皆さん過去に多くの大戦で天界のために戦い続けた方々ですし、裏切り者ならそんなことしないかと……」
「どうだろうね。とりあえず、黄木のおっさんは微妙かな」
少し考えた後、ヒカリ先生は美しい顔を少ししかめて否定した。
対し、九竜は信じられないという形相。
「なぜです!? 黄木司令なんて特に天界のため、日夜動いてる方ですよ? 我々への任務の指示なり、信用できる方ですよ。そりゃあ慎重すぎるところはありますが……」
九竜は司令を尊敬してるのかもな。ここまで否定するなんて。
黄木司令か……
会ったのは朱雀の力を取り戻してすぐだったな。
※3話参照。
それからもいろいろ指示は受けてるが、厳しい人ってイメージで少し、苦手な人物だ。
……実の父と友人だったってことくらいしか知らないし、それだけの情報じゃ俺もあまり信用できない。ヒカリ先生の意見に賛成だ。
先生の事だ。おそらく信用できないなにかを感じとって……
「黄木のおっさん、嫌いなのよね」
……ガクッとした。
超個人的な理由で信用してないだけだった。
「ただまあ、長い事天界のために働いてる事は私も知ってるし、疑ってるわけじゃないけどさ」
「そうですって。ありえません!」
……
俺個人としては、確証あるもの以外は信用できない。
俺は南城の近くにより、小声で話しかける。
「南城、お前はどう思う」
「あ? どうって?」
「……個人的にはこの場の人以外は、グレーにしといたほうがいい」
「疑えってことか?」
俺は小さく頷く。
すると南城は少し考えてから、
「西木さんも司令も尊敬できる方だ。……だが、それとこれとは話は別だな。オレ様も同意見だ」
同じ考えの人がいてくれて助かる。
「冷静に、客観的判断のできるお前がいてくれて助かる」
「……気味悪いな。なんだお前」
少し距離をとり嫌な表情を浴びせてくる南城。……あのな。人の称賛は素直に受け取れ。
「……事実を言ったまでだ。ルミとかの友人を除けば、天界関係者で一番信用できるのはヒカリ先生とお前なんだよ」
これは俺の本心だ。
一方、南城は少し煮え切らない表情。
「やけに評価されてるな。ただここにいるからってだけじゃねえのか」
「まあそれなりに長く戦った仲だし、お前の人間性は理解してる。口は悪いし、あまり仲良くできるタイプではないが、内にある正義感は信頼に値する」
安野を助けてくれたり、北山の手助けしてくれたりと面倒見の良さはよく見てきてるからな……
南城はチラっと水無瀬を見て、
「記憶が残ってれば、周防さんや水無瀬より上って事はなかったろうがな」
「師匠と許婚だからか? ……覚えてないのは悪いと思ってる」
「まあ水無瀬には黙っててやる。面倒事はごめんだからな」
面倒事……か。許婚の俺があまり信用してないなんて残酷な話だしな……
でも、信用してないってわけじゃない。
彼女のまっすぐな好意は嬉しいし、俺などを信用してくれてる。そんな彼女の事は好ましいとは思ってる。
ここにいるから、最低限信用できてるって事ではない。本当に、良い子だと思ってる。
ただ、過ごした期間が短いってだけだ。
周防さんもそうだが、記憶が戻れば、そこら辺も解決できるのだろうがな。
俺は水無瀬をつい、見つめた。
すると彼女はすぐに気づき、ニコリと見つめ返してくれた。
……少し照れくさくなり、俺は視線をそらした。
◇
あの後、
『よし、この辺にしよう! 裏切り者とかも所詮まだ確証にはいたってねえんだ! 気にし過ぎても仕方ないしな! ハッハッハ!』
と、周防さんが締めて話し合いはとりあえず終わった。
……その通りだ。全部まだ推測。
情報屋が天界の情報を自前で用意してるだけかもしれないんだし……
「……ただいま」
食料調達に行っていたヒカリ先生が、浮かない顔でアジト内にもどってきた。
……というか、出てってたいして時間はたってなかった。
荷物もない。
……なにかあったのだろうか?
「まさか言ったそばから、出くわしてバレるとはね」
ヒカリ先生の背後から、三人ほどの人物がアジト内に入ってきていた。
様子からして天界軍団か。
帝王軍とか魔族なら、あっさり中に入れないだろうし。
「なんだい? それじゃうちらに見つかったら、まずいみたいじゃないヒカリちゃーん」
あさ黒い肌の、どことなくチャラそうな人物がタバコ吸いながら言った。……確か前に見たことが……
「ちゃん付けしないでくれる? あんたとそんな仲よくないのだけど。皇」
「うわ、冷たいなあヒカリちゃん」
皇……?
確か、父の遺産の時にあった♧の10の人か。
怪しいと言われてる特殊部隊でもあるっていう……
※21話参照。
俺の記憶を消したかもしれないって話の特殊部隊。まさか警戒すべき人が来るとはな……
他にも誰かいるな。
二人の男女だ。
女性はゆるふわの綺麗なロングヘアーで……すごい美人だ。
男なら見惚れ、魅了しかねないほどの美しい大人の女性。
スタイルもいいし、これ程の女性はなかなかお目にかかれないかもな。
まあ、俺はルミアやヒカリ先生のほうが美人だと思う。
贔屓目があるからかもしれないが。
で、もう一人の男性だが、
こちらもまた美形。穏やかに笑顔を見せている。
……今まで見てきた男の中ならトップクラスの美形だと思う。容姿が整ってるとかそんな次元ではないかもな。
死んだ兄、修邏レベルの美形かも。
――この二人、かなり仲がよさそうだな。距離が近い、というか女性のほうは男性の腕にひっついてるし。
恋人かなにかか?
南城達若手の天界軍メンバーは揃って敬礼しだす。
二人もかなりのランカーと見受けられるな……
って俺もしないと。
「皇殿に黄間殿、それに天海将軍までこられるなんて……」
九竜が少し震えてる。
将軍……? まさか、
「♧の10皇さん、♤の10黄間さん。……そして♤の零、天界四将軍の天海さんだ」
南城が補足説明してくれた。
来訪者は上位ランカーと、天界四将軍か……
――つづく。
「天海さん、確かにすごい美形ですけど、神邏くんには劣りますね。神邏くんは絶世の、世界一の美男子ですし、当然なんですけどね」
「次回 現状報告 まあ義務ですよねえ」
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