第91話 提案
「ほぼ無傷か。やるな美波、完勝じゃねえかよ」
「ホントね。さすが私の旦那様」
称賛してくれたのは南城と水無瀬。
「へえ、旦那さんがいるんですかあ。どこの誰でしょうね?ま、そんなことより神邏くん、怪我は?」
水無瀬に何か言ってから、ルミアは俺の元に駆け寄ってくる。
「いや、特にないよ」
「良かったです」
ニコニコ笑顔を見せてくれる。
…癒される。
「この女、ツレの二匹よりは明らかに強かったな…」
南城は倒れてる皆木を見ている。俺はそのツレを見てないからわからないが。
「ムカつくが、オレ様ならあんなあっさりといかねえだろうな」
「…俺もあっさりと倒したわけじゃない。結果だけ見て、そう見えただけだ」
「うん?」
「短時間とはいえ、魔力を周囲に放出しつつの絶華だ。もう俺には魔力があまり残ってない」
わりと追い詰められてた方だと思う。最後の特攻が防がれてたら、負けていたのは俺だったかもな。
「厄介な奴ならなおのこと、早くトドメ差すか?」
「…待ってくれ。少し、聞きたいことがある」
俺はその後、みんなに手伝ってもらいながら皆木を動けないように魔力の紐で縛り、目を覚ますのを待つ。
…急所は外したし、少し力も抜いた。死んではいないはず。
♢
「……あれ~…?」
皆木は目を覚ましたようだ。
とりあえずアジト内に運び、ベッドの上に皆木はいる。
俺達は皆木を囲むように椅子に座っていた。
「痛たた……。何~殺さなかったの?甘いね波ちゃん」
「聞きたいことあると言ったろ」
「あーそっか…。てかさ~なんなの波ちゃん」
「何がだ」
「あんなのアリ?周囲に放出し続けて、攻撃に移れるとか魔力量どうなってんの?」
「…さあな。俺は大気から魔力を抽出したりできるからその分物持ちがいいんだろ」
「なにそれーずっこい」
…どこもズルくないだろ。
木属性の特有を利用したまでだ。
ここまで効率的に魔力を集めれるのは普通できないらしいがな。
朱雀の力のおかげかもな。
「ていうか~手当てもしてくれたみたいだね~包帯巻いてるし」
「…最低限のだがな。動けるほどは回復してないだろ」
したのは傷口の手当てくらいだ。
「いたいけな女の子の服脱がせて~おっぱい見たの~?エッチだなぁ波ちゃん。叶羽さんDカップくらいはあるし、寝てるすきに揉んだりしたんじゃないの~」
ニヤニヤと戯れ言をほざく皆木。
元気そうだな。手当てなどいらなかったか?
「…手当ては女性に頼んだ。そもそも俺に手当ての類いはできないしな」
「そーなの?ざーんねん」
「そんなことはいい。で、質問に答えてもらう」
「あーなに?」
……とりあえず、ルミアの事だな。
「お前、何でルミを切った」
「……」
なんだ?話づらいのか?珍しく神妙な顔をして……
「言いにくいなら、私が話しましょうか?」
ルミアが、少し冷ややかに皆木に聞いた。
…どことなく怒ってるようにも見える。
まあ当然か。自分を傷つけた相手なわけだしな。
「いーよ。自分で話すよ」
頭をぐしゃぐしゃかき、観念するように話し出す。
「叶羽さんさ~混血だから~まあ嫌われものなわけよ。人からも魔族からも」
…想定はしてた。人は怖がり、魔族は人の血をもつことで見下してるんだろう。
「でさ、お姉と一緒にその事隠して人として生きてたんだ~」
姉がいたのか?…忘れてるだけかもしれないが聞いたことないな。
「でもある日バレて~殺されそうになったからお姉は叶羽さんを物陰に隠して、立ち向かったんだ~。汚すのは自分の手だけって思ったんだろうね~」
…お姉さんはそれだけ皆木を大事に思ってたんだろう。妹の手を汚させないために、妹を守るために自分だけが……
…というか話それてないか?
「人間達は相手にならないし、殺しまくってたよ。でも天界軍にかぎつけられて…お姉は殺されちゃった」
「……」
「人間が殺られてた時も思ってたんだけど~お姉が血しぶきあげて死んだ時確信したんだ」
「…何を?」
皆木は…恍惚とした表情をしてから、まさかの発言をする。
「…鮮血って~綺麗だな~って」
「…はっ?」
「あの綺麗な赤がさ~、たまらなく好きになったんだあ」
姉が死んで悲しいだとか、そういう感情の前にそれか?
…どうかしてるんじゃないか?
「お姉が死んだ事は悲しいよもちろん。でもその衝撃的な光景が忘れられなかったんだ」
「…それとルミを切ったことになんの関係が…」
「焦らないでよ~。その後、引っ越して波ちゃん達と会ったの」
……かなり幼い時の話だったわけか。
俺と知り合った時もまだ幼かったはずだしな。
「きっかけは憶えてないけど、混血だってこと知られちゃったんだけど~波ちゃんは変わらず接してくれた」
…どことなく顔が赤い。
「嬉しかったなぁ~受け入れてもらえるなんて思ってなかったから」
…姉以外信用できない生活だったのかもな。
「仲良く過ごしてたけどさ~、…気づいたらこの子が間に入り込んでた」
ルミアを差す。
…間にって、友達になっただけだろ。
「…なーんか気に入らなかった。いつも波ちゃんの隣に陣どるし、叶羽さんとの仲邪魔するし」
…考えすぎじゃないのか。
「みんなの手前、特に何も言わなかったけど、仲良くはできなかったな~」
「それに対しては私も同意見でしたね。私も苦手でしたし、皆木さんのこと」
腕を組みながら冷たい視線を皆木に浴びせるルミア。
…不謹慎だが腕組むと、大きな胸が強調されて…スゴいな。
「で、中学の時さ~詳しくは言わないけど…言い合いの喧嘩になったの」
…ルミアが人と喧嘩?あまり想像つかないな。
いつもニコニコしていて、人当たりいいし。
ただ、中学の時か…
となると今より少し、口調が冷たい時代か…
あの時のルミアなら、勘違いされて喧嘩になる可能性もあるのか?
※ルミアの二面性については27話参照。
「悪いクセなんだけど~叶羽さんって、イライラすると無性に血が見たくなるの。いつもは少し指でも切って、わずかな血を見るだけで落ち着くんだけど…」
…まさかそれが理由で?
「ついね、切っちゃったんだ~。テヘッ」
…可愛く笑ったつもりだろうが、そうは思えんし笑えない。
ようはカッとなっただけか?
…………
「もういいだろ美波」
南城が言った。
「下らねえ男女のもつれ…それで簡単に人切れる奴だ。おそらく数多く人を殺してる。そんな奴生かしとく必要ねえだろ」
…そうかもしれない。証拠はないが、あの一件から姿を消し一人で生きてきたとなると…それ相応の罪を重ねているかもしれない。
「その人の言う通りだね~。殺しはそれなりにしてるよ」
…あっさり白状か。
「それにさ、叶羽さんは神条さんの後、駆けつけた波ちゃんも切ってるんだよ?自分の事傷つけたんだし関係なく許せないでしょ?」
それについては憶えてもないし、どうでもいいがな。俺はこうして生きてるし。
「だからさ、その人の言う通り殺しなよ。…ゾクゾクするなぁ。波ちゃんに殺されるなんて…自分の血も鮮やかに舞うんだろうなあ」
自分が対象であっても喜べるのか。…相当おかしい奴だな。
…ローベルトの時のような事は御免だ。また仕留めそこない面倒事にでもなれば…
※逆襲のローベルト編参照。
「
リーゼ、
…皆木は恍惚としてる。
なら、望み通りに…
「神邏くん。待ってください」
ルミアが俺の手を取り、止めた。
…何故?
「…なんで止める。ルミ」
「別に私はこの子が死のうが気にしません。でも、神邏くんの心が心配なんです」
「……?」
「曲がりなりにも幼なじみ。…悔しいですけど、仲は良かったんです二人は」
……
憶えてる限りでも、仲は良かったと俺も思う。でなければ中学まで一緒に遊んだりしないだろう。
「そんな、友達として好きな相手を手にかければ…深い心の傷が神邏くんに刻まれます。…それが心配なんです」
やけに友達としてを強調して言ったルミ。
……まあ友人を手にかけるなど考えるだけでも…いい気はしない。
だが、
「…ルミを殺しかけた相手だぞ。いいのかルミは?」
「神邏くんのためなら……水に流します。嫌いは嫌いですけど」
「また…狙われるかもしれない」
「返り討ちにしますよ。私強いんですから」
……ニコニコしている。
当人が、許すというなら…。俺にとやかく言う権利はないか。
「リーゼ悪い、戻っていいよ」
武器聖霊のリーゼに指示し、朱雀聖剣は消える。
「おい美波!」
「わかってる」
南城の言い分もわかってる。
殺しはしないってだけで野放しにするつもりはない。
「皆木、提案がある。…仲間になれ」
つづく。
「…まあ、仕方ないですかね。神邏くんのためですし」
「次回 契り …?聖獣のことでしょうか?」
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