第90話  見えない罠

「さあ~、消えた刀はどこにいったでしょうか?」


クイズだすようなテンションで聞いてきた皆木。

……普通に考えて、俺の背後に何本か刺さってるはず。

それを見えなくしただけで。


なんの意味が…?


「波ちゃん。答えてよ~」


そんな義理ない。…だが探りを入れる意味でも…


「…この場にある。見えなくしただけ…だろ?」

「……」


何故黙る。図星だからか?聞いてるくせに、答える義理はないとでも言う気か?


…下手に合ってると思わないほうがいいかもな。


どちらにせよ、刀があると思われる地点には近づかないほうが身のためか。


俺が後ろに下がり、刀がある付近に寄った瞬間実体化して、俺の体を切り裂いてくるかもしれないからな。


……ただ見えないだけで、刀がそこに罠として仕掛けてるだけなら、見える見えない関係なく風圧で刀を吹き飛ばし、罠を解除できるが…


先ほど剣のぶつかり合いが起きなかった事を考えると、見えないだけではなく、本当に…と、考えられる。


…消失、つまりを風で吹き飛ばすなどできない。

できるとしたら、実体化したタイミングだけ。


「波ちゃんさ、後ろ警戒してるみたいだけど、下がらなければ大丈夫とか思ってない?」

「……」

「そう考えてるならね~あまいよ?」


皆木はまたも刀を生成し、投擲。

だが、今回は明らかに俺に向かって投げてはいない。


あさっての方角へ飛んだ刀は俺の背後に。罠の地点へと向かう。


すると消失していた背後の刀が実体化。投げられた刀と衝突すると弾かれ、跳ね返ってこちらに向けて飛んでくる。


投擲された刀の行く末を確認していたから、俺は労せず回避。


避けられた刀の進行方向に、また消失していた刀が実体化していた。また跳ね返すつもりか?


案の定また弾かれ、俺に向かって飛んでくる。

…さっきより速くなった?


回避、するとまた実体化した刀が待ち受ける。

こいつ…反射させまくって刀を加速させているのか?


「もう~一刀!」


皆木はさらにもう一つ刀を投擲してきた。


「まだまだ!」


さらに追加で投擲。

それにより四方八方から刀が飛んでくる。


こいつ…いつの間にか周囲に反射ようの刀を、何本も何本も仕掛けていたのか……


刀の檻に閉じ込められたかのようだ……


刀包囲網ナイフデッドライン。今のところ~破られた事のない技なんだよ~。すごくない?」


自慢気に語ってきた皆木。


…いくつもの刀が縦横無尽に駆け巡る。

避けるのが精一杯なほどの数と速さ。


…そう簡単に防げるものではないな。自慢するだけの事はある。


「神邏くん…!」


ルミアが俺に駆け寄ろうとするが、ヒカリ先生が手を前に出し、止めてくれる。


「慌てないで。これくらいでやられる子じゃないから。もし危なかったら私が割って入るしね」

「……絶対ですよ?神邏くんの顔に少しでも傷つかないようにしてくださいね」

「善処するわ。まあ天界の治療、ましてや朱雀ならたとえ傷負っても跡も残らないけど」

「…それはそうでも、心配なので」

「ハイハイ」


……とりあえず、ルミアを止めてくれて助かった。


まあどちらにせよ、対処法を考えないとならない。


「「神邏、あまり考える時間はないぞ」」

「そーそー。グサッといっちゃうよ?」


二人の聖霊に急かされた。

だがその通りだ。速さは増す一方…だ。

ダラダラとしてはいられない。


「「こうなれば私の風ですべて弾き飛ばせばよいのでは?」」


…それも一つの手だ。…しかし、


「それくらい相手もわかってるでしょーこっちの戦法バレてるんだし〜」


風圧で攻撃を弾く……すでに皆木には見せている。

奴の能力…。消失剣クリアーソードで刀を消す事で風を避ける事くらいできるはず。


…この範囲と速度、防ぐなら全方位に風を吹かせる必要がある。


「風出して避けられてさ、そのスキ狙われちゃわない?どうしても風を起こした後はスキできちゃうし」


問題はそこだ。風を吹かせるタイミングを損なえば…

グサリだ。


「「だが奴がそんなに反応速度あるとも思えんし、他に方法がない」」


というか、考えてるヒマもないか。速度はそろそろ回避もできなくなるほど速くなりそうだしな。


皆木が反応できないタイミング…

刀が速くなってる以上、奴も風を避けるタイミングを損なう可能性はあるはず。

俺がいつ風を吹かすかもわからないんだからな……


…………


やるか。


「え、大丈夫なのおにーさん?」

「ああ。少し思い付いた方法もあるし」

「なになに?」

「すぐにわかるよ」


タイミングを見計らう……

刀が俺に当たる直前、皆木が反応できないタイミングで……


放出!


周囲にノーモーションで烈風を放つ。それにより刀全てを…


「あまいよ~波ちゃん」


刀が……消えた。

いや一応吹き飛ばした刀もある。


だが飛ばした飛ばさないに限らず全てを消したようだ。


「そんなことで破れる技じゃないよ~?再出現する時には普通に波ちゃんを刀は襲うよ。残念でした~」


それは飛ばし損ねた刀以外も…ということだろうか?

どちらにせよ、全部吹き飛ばすつもりだったが避けられた。

皆木の反応速度を舐めてたな。


「風が止んだら串刺しだよ~?…………あれ?」


止んだらか。

…止ませると思ったか?


俺は烈風を周囲に放出したまま、皆木に向かって特攻していた。


…そう、簡単な事だ。風を止めたスキをつかれるなら、そのスキをつかれる前に相手を倒すまでだ。


無論周囲に風を放出し続けるなど、魔力の消費はバカデカい。

短時間で決めるしかない。


「マジ~!?ちょっと想定外なんですけど!」


皆木は刀を精製し迎え撃つ構え。


なら、


俺は植物の種のような物質を作り、瞬時に投げる。


種は皆木の腕に付着。そしてすぐさま成長。

樹木となり皆木の体に絡みつき、奴の動きを封じる。


「何これ!?……くっ!」


身動き取れない事に焦り、消していた刀の罠、刀包囲網ナイフデッドラインだったか?

それを全て実体化させ、俺を襲ってくる。


失敗だったな。


俺は放出し続けている風にのり、飛ぶように宙を舞い、刀全てを避ける。


それにより一直線に俺を襲った刀の数々が、俺の前方の皆木に向かっていく。


「しまっ……」


当然刀を消す。だが意識がそちらに向き、俺の足取りを終えなかったはず。


背後……俺はスキだらけの皆木の後ろを取った。


「終わりだ皆木。…花弁のように散れ」


「「絶華・一閃」」


武器聖霊スピリットウエポンのリーゼと共に叫び、俺の最大の技を放つ。


タメ時間のない簡易版。

朱雀聖剣サウスブレイドに先ほどの放出した全魔力を瞬時に集中した、緑色の烈風斬撃。


放った衝撃で皆木の刀や、奴を縛った樹木、そして奴の纏う魔力ごと散りと化してみせた。


単純な一振りで。


皆木から黄緑色の鮮血が舞う……


「…あーあ…。負け…たよ、波……ちゃん」


皆木は地に倒れた。



つづく。



「ホッとしました。あの変な子に傷つけられなくてよかったです」


「次回 提案 ……なんの提案ですかね…?」

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