第89話  消失剣

……ルミアと俺を切った事情は知らない。いや、まだ思い出せないだけだろうか?

どちらにせよ、理由があろうと許される事ではない。


……とはいえ怒りに身を任せるわけにはいかない。…冷静さを保つために、まず対話を選ぶ。


「…舌でも切りたいのか?」


俺は世間話でもするように、刀を舐めてる皆木に聞いた。


「ん~ん?これはねえ…唾液つけてるの~。叶羽さんの唾液のついた刀で波ちゃん切ったらさ、間接的に波ちゃんを舐めてる気になって~興奮するでしょ?」


……何言ってるんだこいつ。

明らかにおかしな発言だ。気でもおかしくなったのか?


周りの仲間達も明らかにドン引きしてる様子だった。


「でも~血か~。叶羽さんの血を波ちゃんにつけるのも悪くないかな?どーしよ」


下らない事を悩みだすな。

対話がまともにできるとは思えなくなる。


「おい美波、あのイカれ女知り合いなのか?」

「私も気になるわ。許嫁として」


南城と水無瀬の問い。答えようとすると、


「美波の幼なじみだよ。なあ?」


座り込んでる北山が代わりに答えてくれた。

……やけに傷だらけじゃないか。

やられたのか北山…


「そうだが……。北山、酷い怪我だな。大丈夫か?」

「オレの事はいいんだよ。だらしなかっただけだし」


とは言ってもな…結構重症にみえるが…


「大丈夫よ神くん。命に別状ないし、手当てはしたから」


と、ヒカリ先生。

先生が治療してくれたなら大丈夫か…


「神くんの手を煩わせる相手ではないし、ここで見てたら?知り合いならやりづらいでしょうし」

「…だから俺を呼ばなかったんですか?」

「知り合いだとは知らなかったけどね」

「…気遣いには礼を言います。でも、こいつは俺がやらないと…」


俺の覚悟を感じると、おそらく戦闘してたと思われる、須和さんが下がる。


「やりたいならやればいいさ。止めはしない。朱雀の実力…見てみたいしな」

「ちょっと須和!」


ヒカリ先生が呼び掛けるもスルーして下がっていった。


こちらとしてはありがたいがな。


「まだ~?久々の再会なのに待たせるとか酷くない~?早くさ…切り合おうよ」


口元だけ笑みを浮かべている皆木。…目は笑ってなく、濃い隈が不気味に感じる。

…恐れはないがな。


「…所々、俺は昔の事忘れててな。俺が勝ったら質問に答えてもらう」

「いいよ~。じゃあこっちも勝ったらなにか条件つけさせてよ」

「…ものによるが、なんだ?」

「そうだな~叶羽さんとセッ○○するとか…」


「「はぁっ!?」」


ルミアと水無瀬のバカデカイ声が響いた。


「……今すぐ私が殺してやりましょうか……」

「あんたとは気が合わないし、ライバルだけど……今度ばかしは同意見ね。協力して始末する?」


美少女二人が物騒な発言してる。

まあ、いきなりの下品な発言だし彼女らが怒るのも無理はない。ただ、冗談を真に受けるな…。


……冗談だよな?


「てか神条ちゃんか~君もいたんだね~。…相変わらず鬱陶しい子」


ニヤニヤしてた顔が急に冷ややかになった。……ルミアを切った女だ。彼女を何かしら気に入らないと思ってるのは想像に容易いか。


気に入らないから切ったとは限らないがな。…明らかにまともではないし。

……態度から見て嫌ってるのは間違いないだろうが。


ルミアもトラウマにでもなってたら可哀想だし、会わせるべきではなかったかもしれない。

と、思ってたが今の怒りの様子を見るに、そんなことはなさそうでよかった。


「いいんだよ~?他の条件に変えたってさ。例えば、……波ちゃんの綺麗な顔が欲しいから首から上頂戴とかさ」


「「はぁっ!?」」


また同じ反応する美少女二人。

…気が合ってるのか?


「どれもこれも却下です。…逆にあんたの首落としてやりますよ」

「同意見ね。串刺しもいいわ」


……心配してくれるのは嬉しいが、話が進まないから俺は答える。


「…負け=死なら最後の条件の拒否権は俺にはなくなるな」

「そだね~。まあセッ○○でもいいけどね叶羽さんは」

「…話が進まないからどれでもいい」


「神邏くん!」「神邏!」


二人の美少女の抗議に対し、手を前にだし、ちょっと待ってくれと合図。


「…ところでだ、ここは魔界なわけだが、…ここにいるって事は、お前は魔族だったと言うことか?皆木」


魔界に人が迷い込む事はよくある事。だから必ず魔族とは言いがたいが、魔界の軍に入ってるとなると話は変わってくる。

ただの人間が入れるとは思えんしな……


皆木はキョトンとしてる。


「なに今更。知ってるでしょ?叶羽さんが魔族と人間の混血ハーフだってさ」


混血ハーフ……

だから魔力を昔から操れて、ルミアと俺を切れたわけか?

ただの銃刀法違反で刀用意しただけかもしれないが。


…いやそれのほうが無理あるか?


…そういえば、前にしたダストとの対話…。実の父、火人が作っていた全種族の暮らす世界の話をしていた時だ。俺は人や魔族には必要なくとも、混血の人種には差別のない、人も魔族も天界人も暮らせる世界は必要と、なにか知ってるかのように…断言してた。

※29話参照


まさか、心の奥底に皆木の事を覚えてたからか?


もしそうなら……混血故に、皆木が苦しんでた事を知っていた?


…全て憶測にすぎないが…


「な~んか変だね波ちゃん。とにかく殺ろうよ早くさ」

「…そうだな。…武器聖霊スピリットウエポン…リーゼ」


互いに剣を取り出す。


俺はリーゼを呼び、朱雀聖剣サウスブレイドを顕現。

皆木は手から魔力を放出し、刀を生成した。


魔力を武器に変換させたという事は金属性か…

木属性の俺とは相性悪いな。


「フフフ~。お手並み~拝見!」


皆木はゆらゆら横移動しながら、急に一直線に、ダッシュして俺に切りかかる。


俺は迎えうつ。

剣をこちらも振る。


互いの剣が交差しようとしている。刃が、当たる……


そう思ったのもつかの間、突如皆木の刀が消える。

消えた事で交差せず、朱雀聖剣サウスブレイドは空を切り、皆木の肩付近に刃が向かう。


と思っていたら、皆木の刀がまた出現した。

だが朱雀聖剣サウスブレイドはすでに交差するはずだった地点にはない。


するとどうなるか…


皆木の刀は無防備な俺の体に向かってくる!


「ーーっ!?」


瞬時に風を放出し、風圧により皆木の刀の進行方向を曲げ、俺自身も上半身を下げ、無理矢理回避する。


…薄皮少し切られた程度にとどまった。


一方、俺の朱雀聖剣サウスブレイドも皆木に向かっていたため、奴の肩を少し切りつけた。


俺と違い、皆木は回避行動をあまりとれずに直撃。


……結果的には、俺は掠り傷で皆木にはダメージを与えた事になる。


都合のいい結果になったが…驚いた。普通ならこっちが切り殺されてた可能性もあった。


……とりあえず俺はすぐに距離をとるため、皆木から離れた。


「おにーさん……今あいつの刀消えなかった?」


武器聖霊スピリットウエポンのリーゼが今起こった事を確認してきた。


「…ああ。皆木の能力かもな」


刀を消す能力…か?

しかし互いに切りかかった瞬間に消すとはな…。

自分も切られるリスクをなんとも思ってないのだろうか?


「あ、アハハハハハ!いったーい!血、血が出て止まらないよ~アハハハハハ!」


手元くるったから、そんなに深くは切り込んではいない。

それでも確かに奴の肩からは出血している。


…ただそれで笑ってるその神経が理解できない。


「それっ」


皆木は刀を投げてきた。

軽く避けてみせる。

すぐさま刀をまた生成。


…すぐに作れるから刀を投げて攻撃してるのか?

そんな攻撃当たるわけがない。


「はいはいはい!」


また投擲。それを普通に避けたり、風で弾いたりする。


「アハハハハハ!やっかいだね、その風!」


何が狙いだ……


はっとする。

俺は後ろを振り向くと…投擲された刀の姿がない。


「叶羽さんの能力、消失剣クリアーソードの恐ろしさ特と味わうといいよ」



つづく。



「…イライラしますねこの女。私の神邏くんにちょっかいだすな」


「次回 見えない罠 手助けして一緒にぶっ倒したいです」






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