第88話  皆木叶羽

神邏side。


俺は今日の修行メニューを終え、アジト内の皆の集まる居間……というか大きな部屋に入る。


だいたいここで休憩、食事などをとる……のだが、


「……誰もいないな。まだ修行してるのか?」


俺と他のメンバーは修行内容が違うため、修行場も違う。

俺はアジト内の奥にある小部屋を使ってるが、他のみんなは基本外だ。


外だから敵に見つかる危険性もあるため、慎重にしてはいるが。


「ヒカリ先生もいないのは妙だな…」


皆の監督するといいつつ、常にアジト内にいてくれてるのだが、先生の姿は見えない。


「……敵襲か?」


前にやりあった帝王軍の連中が、まだ俺達を探してる可能性もある……


……軽い胸騒ぎがしたので俺はアジトの外へそっと出る。


なにやら声が聞こえるな。

洞窟を抜け、恐る恐る外の様子を確認する。


そこにはヒカリ先生達の姿が確認できた。……なにやら戦闘中に見える。敵襲ならなぜ俺に声かけなかったのだろうか。


敵の姿を確認しようと少し近づく。二つの死体と一人の女の姿が見えるな。


……………


この、女は……


頭の中でいろんな映像が駆け巡る。見覚えのないものから昔の事……走馬灯ではない。


ならなんなんだこれは…?

……もしや俺が忘れている、いや眠った記憶が、今この場で呼び起こされようとしているのか?


……いや、まだ思い出せてはいない。ただ、…この女は少し覚えている。


なぜか?

それはこの女が、俺の昔馴染みの一人だからだ。


昔馴染みなのに……うろ覚えなのはどういう事なんだろうな?

忘れてる記憶に何か関係があるって事なのか?


「神邏くん」


背後からの声に驚き、すぐさま振り返る。


……幼なじみの神条ルミアだった。…あまり驚かさないでほしい。


「ルミか…驚いたぞ少し」

「ごめんなさい。ただ、」

「ただ、……なんだ?」

「この戦いには参加しないでほしいな…って」


……?仲間に任せ、黙って見てろって事か?それとも違う意図が?


「……なぜ?」

「あの子と戦う事になれば、神邏くんが傷つくかもしれないので…精神的に」


精神的……に?

…知り合いと戦うからか?


ルミアが俺の事を気遣ってくれるのは嬉しい。だが、知り合いだろうがなかろうが、敵なら関係ない。倒すだけだ。


ただまあ、先生や南城達でも充分なら、わざわざ俺がやる必要はないかもしれないが……


「神邏くんが傷つくの見たくないので……他の人に任せましょう」

「……」


ルミアがここまで心配してくれてるなら、ないがしろにはしたくない。……そう思っていたが、


「シン、行ってこい」


俺を師事してくれていた、周防さんがアジトから出てきて、言った。


「このジジイ!余計な事言わないで下さい!」


ーー!!…ルミアの暴言なんて初めて聞いたかもしれない。


常日頃、敬語で話す女の子だし。

友人相手には砕けた敬語だったりするときもあるが、親にも敬語を使うルミアが、ジジイなんて言葉使うとは思わなかった。


……それだけ、俺のために怒ってくれた証拠でもあるか。それはそれで嬉しい。…って思うだけで、注意しようとは思わなかった俺は、結構ルミアに甘いのかな?


「ハッハッ。血気盛んなお嬢さんだなシン!」


笑って許してくれる周防さん。…大人で助かる。


「だがな、あの敵の小娘見たところ…なかなかの手練れだ。練習相手には丁度いい」

「練習相手って!」

「別にお嬢さんが心配するような事は起きんさ。今のシンなら十中八九、負けやせんさ」

「生死の心配もありますけど…それだけじゃ……ないんです!」


ルミアのごくわずかな周囲から、ピリピリと稲妻のような残絵が見えた。…怒ったことで、魔力が漏れたのか?


「…たまげた。もしやお嬢さんがシンの彼女これって噂の神条さんか?」

「そうですけど何か?」

「大した魔力、それと能力だね」

「能力は別に大した事ないとおもいますけどね」


……については否定しないのか。

周防さんに一目おかれるレベルなのか…

それだけ強いとなると、俺のように危険な戦いに駆り出されそうで心配になるな。


というかこの二人会話もろくにしてなかったのか?初対面みたいな感じだ。修行初めてそこそこたつというのに。


まあ周防さんは俺にほぼ付きっきりなせいもあるかもだが。当の俺はルミアとしょっちゅう話したりしてたが。


「……事情言わないと許してくれなそうだから言います。…できれば神邏くんには思い出させたくないから気は進みませんが」


……ルミア。俺の忘れてる過去、どれだけ…知ってるんだ?

何から何まで…知ってるような素振りに見える。


「あの、敵の女…皆木叶羽みなきかなうは神邏くんの昔からの幼なじみです」


幼なじみ…?昔からの?

……幼い頃、幼稚園辺りからか?なっちゃんくらいしか思い浮かばないが…

※夏目円佳の事。


いや、違う。確かに…いた。

うろ覚えになっているが…そんな幼い頃からの仲で、中学まで一緒だった人物がなっちゃん以外にも……二人いた。


忘れてたというより、記憶の片隅においてあったかのように……気づいた。


なぜだ。忘れてる記憶となにか関係でもあるのか?


「私より前からの知り合いで、その……仲はよかったはずです。でも、」


俺を見て、少し言いづらそうな表情をする。


だが、俺は知りたい。その覚悟を見せるため、俺は頷き、じっと彼女を見つめる。


……少し照れくさいが。


ルミアもそうだったか、急に顔を真っ赤にし、ほんの少し視線を下げた。……いちいちかわいいな。


そしてルミアは深呼吸して、心を落ち着かせるようにして、口を開く。


「あ、あの子は……ある日、神邏くんを切ったんです」


…俺を切った?

すると、俺の頭の中がフラッシュバックする。


…皆木叶羽に切られた映像。それは……


「その辺の事情なら前に、シンから聞いてる。その出来事が切っ掛けで、中2の時俺に弟子入りしたんだからな」


……周防さんに話した事があるのか。記憶を失う前に。


「だが、トラウマを乗り越えてこそだ。戦う意味はあるさ」

「それだけじゃないんです!皆木叶羽は神邏くんの友達だったし、そんな相手と戦うなんて、」


「……確かに、それだけじゃないな」


俺はルミアの話を遮った。


「俺を切った。……それだけじゃないだろ?」

「し、神邏くん…まさか思い…」

「その前に、ルミを切ったよな。皆木は」

「あ……」


ルミアの顔が今度は青ざめた。

……浮かんだ記憶ではルミアも切られていた。むしろ最初に浮かび上がっていた。


俺が切られた事はおまけ程度に最後に浮かんだだけだ。


「……弟子入りした切っ掛け…か。少し腑に落ちた。復讐…もしくはもう同じことを繰り返さないために力を欲したからか」


俺がやられた事ではなく。ルミアが傷つけられた事でだ。


……憶測だが、そんなとこだろう。俺自身が戦うなんて、大それた事思う切っ掛け…それくらいの大事でもないとありえないだろうしな。


今みたいに朱雀だったならともかく、当時は何にでもなかったはずだからな。


……俺は戦闘中の、みんなの元へと歩きだす。


「し、神邏くん!?」


……悪いルミア。わかった以上…捨て置けない。


皆木の事は。


俺は仲間と、皆木の前に姿を現す。


俺に気づくと……皆木は笑っていた。…まず、挨拶でもするか。


「……久しぶりだな。皆木」


久しぶりの友に浴びせるような優しい視線ではなく、冷たく…睨むように俺は声をかけた。


すると、奴は。


「ほんと久しぶりだね~なみちゃん。フフフ相変わらずカッコいいね~惚れ直しちゃう」


戯言の後、自らの刀を舐め初めて…


「殺したいほど愛してるよ~。あは、アハハハハハ!」



つづく。



「ちょっと…ドン引きなんですけど…元々皆木は苦手なんですけどここまでヤバかったんですね。…会わせたくなかったです」


「次回 消失剣クリアーソード …戦わせたくありません」














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