第87話  上位ランカー 西ヒカリside

「覇王九衛師団だかなんだか知らねえがな、帝王軍でもねえ連中に手こずってるヒマ、ねえんだよ」


南城は炎斧を生成する。


「殿下の仇だ。戦法は熟知しとるよ。遠距離でじわじわ蜂の巣にしてやる」

「拳銃は破壊したが?」

「マヌケめ。それで能力を封じたつもりか?」


手の平から魔力を放出、そしてそれが2丁拳銃へと姿を変える。


魔力を武器に変えたってことは、こいつの魔力属性は金か……

相性的には南城が有利ね。


「このオレの弾丸……防げるものなら防いでみな!」


銃弾を連射!何発も何発も。

弾丸の一発一発に能力が込められてるんだろうね。

ーーでも、


「アグニ!」


炎が千手観音のような姿を型どる。アグニの6本の腕が南城を包み隠し弾丸から守る。


所詮金属性の弾丸、火属性の南城の魔力をもってすれば容易く焼き尽くせる。


ギュンターの魔力が南城の魔力を大幅にうわまってるのなら話は変わるけどね。


「相性悪いのは百も承知。何も警戒せずに防ぎやがって」

「あん?」

「オレが放った弾丸……どんな能力だったと思う?」

「知るかよ。毒かなんかだろ?」

「え?」


図星かしら?言い当てられてギュンターは目を見開いてる。


「大方焼き尽くされる事を想定して、魔力を侵食する毒、もしくは破壊することで辺りに毒霧を放つとかか?」


ギュンターの顔に冷や汗がたれる。やるね南城。能力を看破したみたいじゃない。


「毒なんて、オレ様の灼熱の魔力で完全に焼き尽くせるんだよ。破壊されて効力を持つ…なんてわかりやすい能力なんて通用しねえんだよ」

「ち、なら他の……」

「遅いんだよ!炎斧投射シューティングアックス!」


斧を小型化し、円運動させながら投擲。


「クソが!」


ギュンターは銃弾を乱射し、斧を打ち落とそうとするも、弾丸は斧を包む炎に焼却される。


「しまっ……」


よって、防ぐ手立てなく直撃。


ギュンターの身体は両断され、全身を焼き尽くす。


「うぎゃああああああ!!」


絶叫の後、黒こげ、いや炭のようになって地に崩れた。


ギュンターの始末は成功ね。

やはり大した相手じゃなかった。


……彼は容易にギュンターを始末してみせた。北山くんが勝てなかった相手をね。

確かに修行の成果もあるでしょう。でもそれは北山くんも同じ。彼も南城と同じくここでベイルに鍛えられたのだから。


でも、差は歴然。

それを考えると……北山くんはこれからの戦いについていく事はできないかもね。


この程度の相手にこのザマなんだもの。厳しい事を言うようだけどね。


「あら~ギュンター殺られちゃったねえ~情けないな」


……この叶羽とかいう女、何考えてるのかしら。仲間意識がないのはともかく、この状況に恐れを感じてない。


自信があるということ?この場をくぐり抜ける。

となるとギュンターよりはるかに強いということになるけど。


「ほら、同じ九衛師団殺られちゃったよ?バネッサも戦わないと!」


同僚の露出狂女に言った。

…いやお前は戦わないのかと。


「わかったよ。次はウチの番ね」


今度はこの露出狂、もといバネッサって奴か。ギュンター程度なら恐れるに足りぬわね。

なら修行の成果みたいし…


「南城、あなたは休憩なさい」


私は南城を下がらせる。


「……なぜです将軍」

「他の者の力の確認がしたいの」


そう、練習台にちょうどいい相手だからね。


「須和。あなたがやりなさい」


彼女は少し驚くも、頷いて前に出てくる。


「西将軍、さっき自分が意見したこと根に持ってます?」

※85話参照。


「まさか。そんな器小さくないわよ私は。ただ、実力をみたいだけよ。どれだけ腕を上げたかね」


とは言うものの、意見された事はわりとイラっとしたけどね。

この子めんどくさいし、苦手だから。

でも今回の事とは別よ。


「まあいいですけどね。女の実力者は将軍と水無瀬だけではないと証明してみせます」


やる気があるようで何より。

女性の上位ランカーは私を除けば十二クイーンと十の位置に一人だけの計五人。それも男の上位ランカーと比べると力不足。


だからこそ、須和と水無瀬みたいな若手の女の子達には成長を期待してるのよ。

女だから……なんてのは天界軍には通用しないしね。


「練習台とか……不服。殺しちゃうよ!キャハハ!」


バネッサは須和が反応できない速度で飛びかかり、そして……


懐から取り出したナイフで須和の首筋を切り裂いた!

鮮血が辺りに飛び散る。

噴水のように、飛ぶ血液の量は致死量を越えているように見える。


「キャハハ!呆気ない!」


須和は傷口を抑えるが、なんの効力もなく血が吹き出る。


「ムダムダ!ウチの攻撃は治癒不可能!そして流れる血は止まらないのよ!身体中から血液という血液がなくなるまで出血は止まらない!」


……能力かしら?

確かに手遅れねこれ。


……やけに冷静だと皆思うでしょうね。でもそれは私だけに限らない。水無瀬も、南城も同じよ。

うろたえてるのは北山くんくらいね。


「せ、先生!助けねえのかよ!し、死んじまうぞ!」


私の肩を揺らす。死んじまうって……。こうなれば普通は手遅れでしょうけどね。


「な、なんでみんな平然としてんだよ!あ、あああ!!」


須和が崩れ落ちる姿を目撃し、北山くんは叫んだ。うるさいわね。

…まあ人が殺される現場なんて、いままでまともにみたことなかったでしょうし、こうやって狼狽えるのは仕方ないか。


「み、見損なったぜみんな!仲間が殺られるの黙って見てるなんて!」

「いいんだよ。黙って見てて」


南城は涼しい表情で答えた。


「何言って!」

「ほら、見てな」

「えっ?」


北山くんの視界から大出血して倒れた須和の姿がスッと消える。


「消えた!?」

「北山、お前はオレ様達上位ランカーを舐めてる」

「え?」

「上位ランカーが、こんな連中に負けるわけねえだろ?」


「そういうことだ」


須和が北山の後ろから現れた。

傷口も出血もなく、ぴんぴんした姿で。


「えええええ!!ど、どうなってんだ!?死んだんじゃ…?」

「まあ、普通にやったら今みたいに殺されてたかもな」

「へ?どういう事?」


須和は質問に答えず、バネッサの前に来る。

バネッサもバネッサで訳がわからない……そんな顔をしていた。


「へ、へ?ど、どういう事!?死んだはずでしょあんたは!」

「本来なら、そうだったかもな」

「な、何言って…」

「自分の能力、未来映像フューチャービジョン

「の、能力?」


そう、私達は須和が能力を使った事を知っていた。だから狼狽えるなんて事はしなかったわけ。


「少し先の、自らが受ける攻撃の未来を見せる能力だ。……つまり、さっきのはただの映像。お前は何もしてないのよ。

「な、なんですって?ウチは攻撃した気になってただけと?」

「そう。そしてお前はこれから選ぶの」

「選ぶ?なにを…」

「映像のように自分に切りかかるか、それとも未来を変え別の行動をとるかをね」


映像の通り切りかかる……それは須和を切り殺す未来。だが、須和は相手の動きがわかっている。ゆえに対策を練り反撃も可能。


つまり、映像通りに須和が殺されることはないでしょうね。

相手の動きがわかってるから、むざむざ切られたりはしないだろうからね。


「未来を変え、別の動きをしてもいいのだけど、その場合、お前は本来の半分以下の力での行動になる」

「なんですって!?」

「好きな方選びな」

「……」


どう動くかしらね。


「な、なあ南城」


北山くんが話しかけた。


「あん?」

「なんでペラペラ能力教えてるんだ?黙ってりゃいいのに」

「範囲の広いもの、相手を縛るものとかの、自分以外に影響与える能力ってのは魔力の消費がデカイとか、簡単に能力破る方法あったりして脆いんだよ」

「じゃあ脆いのか?」

「それを防ぐために、相手に有利な条件を与えるわけだ。能力を教えたり、相手に選択の余地を与えることでな。そうすることで、能力を強固なものにすることが可能なわけだ」


そういうこと。有効範囲のデカイ能力のデメリットよねそれが。



「さあ、どうする?」

「……ふん!同じ未来にしてやるわよ!」


映像と同じ動きを選び、バネッサは飛びかかる!


「バカな奴。来るとわかる攻撃をみすみすくらうと思ってるのか?」


映像通りに動かないとならないため、敵がどこを通るかもわかっている。だからそこに罠を仕掛ければ、簡単にかかる事になる。


鼓膜を破るかのような爆音が突然鳴り響く。


「うぎゃああああああ!!」


おそらく地雷でも仕掛けていたのでしょうね。

バネッサは魔力の爆発受けて吹き飛んだから。


その衝撃により、ナイフを落とした。映像で須和の首を裂いたナイフね。


須和はそれを拾い、爆発によりボロボロとなったバネッサの元へ。

そして奴の首にナイフを当てる。


「残念。未来は変わり、首を裂かれるのはお前になったみたいだ」

「え、……はっ!ま、待って…」

「ダメ」


須和は容赦なくバネッサの首をそのナイフではねた。


未来は無事に変わり、勝者は須和になったわね。


うん。能力の使い方や効力も高くなってた。修行の成果、見せてもらったわ。



つづく。


「上位ランカーですか。少し舐めてましたけど、強いですね」


「次回 皆木叶羽みなきかなう …私と神邏くんは彼女に会うことになります。三年ぶりに」

















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