第82話 不穏な影
アジトに来てから数日が経過した。
ベイルさんと他のメンバーは日々特訓している。みんなと分かれてるからどんな事をしてるか、詳しくはわからない。
普通の特訓してるとルミアは言っていたが。
……で、俺はというと、
ただ、ひたすら瞑想していた。
瞑想は気持ちを落ち着かせ、魔力を鍛えるのにはいいという。周防さんはそう言っていた。
だが、何日も何日もこれではとても強くなれるとは思えない。
周防さんを疑ってるわけではないが……少し、腑に落ちない。
魔力が少し高まるくらいで倒せる相手ではない。…あの帝王六騎衆は。
……しびれを切らし、この日俺は意見する。
「……周防さん。いつまで瞑想するんですか?そろそろ本格的な修行とか…」
「まあ待て」
俺の隣で、同じく瞑想していた周防さんはゆっくり立ち上がる。
「まずは万全な体にしなきゃいけないんだ。焦ることなんてない!ハッハッハッ」
「……万全?もう傷もふさがってますが…」
六騎衆のバロンにやられた傷のことなら、痛みどころか傷跡だってもうない。
完治を待つという話ならもう…
「いやいや、もう少しだ。目立つ傷はなくとも、病み上がりみたいなものだしな」
まあ、一理あるか…
「それになシン、お前は体の異常に気づきずらいんだ。痛みを感じないからな」
……痛みを、感じない?
俺が?
「…そういう事も忘れてるみたいだな。信じられんかもしれんが事実だぞ」
ふと、考えてみる。
……俺は朱雀として、力を取り戻してからは、何度も何度も魔族と戦い続けた。
……戦いに怪我はつきもの。
だが、怪我するほどの事は今まであまりなかった。
大怪我というか大ダメージはローベルトと玄武、この前のバロン相手くらいだ。
それに朱雀の能力、超速再生によりわりとすぐに治るし。さほど気にしたことはなかった。
……よくよく考えれば頭からの大量出血とか、バロンに貫かれたりもしていた。…それだけのダメージを受けてなお、痛みで動けなくなるなんて事はなかった。
あっても攻撃を受けて、咳き込むだとかその程度だった。
……俺は戦いで痛いだとか、痛みで苦しんだ事…少なくとも戦い初めてからは……なかった?
そもそも今回の傷も痛みなど最初からなかった…
※神邏の今までの戦いを読み返してもらうとわかりますが、吐血や咳き込む事はあっても、彼は痛いと一度も言ってませんし、痛みで動けないなんて状況にはなっていません。
アドレナリンが流れてるだとか、単純な話じゃない。治りが早いにせよおかしい…
「言っとくが、朱雀とこれは関係ない。お前が過去に、自ら痛みを遮断したんだ」
「遮断…?そんなこと可能なんですか?」
「さあね。普通はできんよ。ただ昔酷い事あってな…思い出させたくないから詳しくは言わんが、それがきっかけで、わりと無茶なことして痛みを感じないようになったらしい」
……よく、わからない。
何かしたって、そう簡単に痛みを感じなくなるものか?
「痛みの恐怖がなくなった事で、戦いによる恐怖も薄れちまったみたいでな。お前がわりと無茶するのはそれもあるんだよ」
……痛みを避けようとして戦いを避ける。それは俺達に限らず、普通の人も喧嘩とかに当てはめられる。
痛いのが嫌だから、自分の身が大事だから争わない…至極当然の事だろう。
……普通なら。
今までも強大な敵を相手にしても、変に度胸があり恐れなかった…それの裏付けにもなる。
とはいえ痛みがあろうがなかろうが、死は免れないのにな。
「だからって、攻撃避けないとかそういう危うさはないから、特に何も言わなかった。痛みないから気にしないなんて事なかったからな」
まあ、痛覚ないと知ってもそんなミスする気はない。
喰らうだけで致命傷になる攻撃などもあるだろうし、攻撃を避けないなんて選択肢はない。
「今回口出した理由は無理して動く事で、体に異常を起こす可能性もあるからだ。痛みがないことで気づかず動き回ったら、大惨事にだってなりかねんからな!」
……それで手足動かなくなったりでもしたら、確かにマズイ。
俺が勝手に治ってると勘違いしてる可能性もあるわけか……
すごく、理にかなってる。
なら痛みはないまま、体の異常がわかるようになればいいのかもしれない。
「だからこそ、今は無理すんなってことさ!もう大丈夫かもしれんが、戦った相手は帝王六騎衆なんだし、それくらい体に気を遣ったほうがいい!」
「……わかりました。無礼な質問してすいませんでした」
周防さんはちゃんと考えてくれていた。俺の身を。
それをなにも知らない俺などが意見など…
反省するしかなかった。
「気にするな気にするな!ハッハッハッ。万全になって、帝王六騎衆を倒せるくらいになってくれよ!奴らはいずれ人間界にも現れるだろうからな」
……それを聞くと、奴らに対抗する力がほしくなる。
だが、焦っても仕方ない。時間はあるんだからな……
♢
???side
神邏達のアジト周辺地帯。
そこに怪しい三人組がキョロキョロとしている。
誰かを探しているかのように。
三人は見たところ人間に見える容姿をしている。
ーーだがここは魔界だ。
人間が魔界に迷い込むことはあるらしいが、だからといって人間とは限らない。
魔族でも人間のような容姿をしている者はいくらでもいるからだ。
「本当に~この辺に、天界の連中いんの~」
目が隠れるほどの長い前髪、黒いセミロングヘアー。背丈は小さく、隠れた目には隈が目立つダウナー系の美少女。
そんな女が間延びしたしゃべり方でやる気なさそうに同僚らしき人物に話しかけた。
「間違いねえべ。この前の大会、あれで殿下を仕留めた奴の魔力を感じるからな」
同僚のぽっちゃりした男が答えた。なにやらパソコンみたいな物を見ながら。
大会……神邏達が出場した帝王軍選抜トーナメントに相違ないだろう。
殿下…優勝候補だったハーベルが部下にそう呼ばれていた。
その殿下を倒した男といえば南城の事だ。彼の魔力をキャッチしているというのだろう。
※60、61話参照。
この者達は、そのトーナメントで応援に来ていた連中だ。
「ん~?何で魔力キャッチできてんの~?」
「殿下の魔力の残骸だべ。殿下の力は研究に研究を重ねてたし、ほんのわずかでも残ってれば位置の特定くらいはできる」
「マジ~?発信器みたいなもんじゃん。殿下と戦いしてればいいだけで敵発見できるなんて~。もう死んだから使えないけど」
「とはいえ、この探知機ありきなうえに殿下の魔力が相手にこびりついてる必要あるのと……」
ぽっちゃりの男は辺りを見回す。
周囲は荒れ果てた大地や木々で人の気配はない。
「ざっくりとした位置しかわからんから、どこに潜んでるかはわからんべ」
「へ?なになに~?つまりこの辺しらみつぶしに探せとか?はーダル~」
あくびしてあまりにもやる気がなさそうなダウナー女子。
「帝王軍を出し抜くチャンスだべ。そうめんどくさがるな」
「「ふーん。出し抜く……ねえ?」」
背後からの声…
背筋が凍る。ぽっちゃりの男は恐る恐る振りかえると…
「どこの組織か知らないけど、帝王軍に喧嘩売るって事は、死にたいってことよねえ?」
角の生えた女魔族、前回ヒカリと戦った部隊長……七つの大罪人、色欲オニードの姿がそこにあった。
つづく
「え、不穏な影って複数ですか?聞いてませんよ。まあでも大した奴らではなさそうですけどね。ただ、このダウナー女子……まさか…」
「次回
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