第81話 残りの三人
ベイルさんは俺に特訓させると言った。だが周防さんが待ったをかけ、自分で俺を鍛えると言ってきた。
……まあ、俺としては強くなれるならどちらでもかまわないが。
「誰か知らねえけど、朱雀は切り札になりえる人材だぜ?どこの馬の骨かわからねえのに任せるってのもねえ」
「それはこっちとしても同じことなんだ。知らん相手、それも魔族となるとどこまで信用していいやら……」
ぴりぴりするムード…
一触即発、ってほどではないが空気が重い。
まあ、互いの言い分はわかる。二人とも初対面ならそんな反応になるのも頷ける。
パン!と大きく手を叩く音が鳴る。叩いたのはヒカリ先生だ。
「このおじさんは周防っていう大先輩で、神君のお師匠さんなの。だから任せてもいいと思うわ」
師匠?…そうだったのか。
天界の記憶が未だにないから知らなかった……
「師匠だろうが、強くできる保証は……」
納得できなそうに否定したと思いきや、
「待てよ、周防?確かニ、三十年くらい前のデュラン総統との戦争で…」
「お、昔の話を知ってるか!いやはや照れるなあ。今やただのおっさんだけどな」
…デュラン総統?戦争?聞いたことない話だが……
…察するに、昔の大きな戦争で周防さんは活躍したってことか?
「三銃士、いや昔の四将軍か…隠居したか、くたばったかと思ってたが」
「おいおい勝手に殺すな。衰えとかはともかく、まだ死ぬような年齢じゃないぞ?……火人殿は亡くなり、黄木殿は隠居に近いからそう思われるのも当然だがな」
「……そこまでの奴が師匠ってんなら確かにおれの出る幕はねえか。わかった朱雀は任せる」
「話がわかるじゃないか!さすがは西の友人だな!」
高笑いしながらベイルさんの肩をバシバシ叩く。
……しかし、周防さんの素性を知るとあっさりと了承したな。
それだけすごい人……だったのか。知らなかったが。
「じゃあ朱雀以外の五人はおれが鍛えるってことで文句はねえみたいだし、とりあえず修行場、もといおれのアジトへ案内するぜ」
俺達はベイルさんのアジトへと向かう。
……五人、後の三人は誰なのだろうか?
♢
結局西木さんだけ天界に報告に戻った。そして俺達は案内され、無事にアジトへと到着。
「着いたぜ。さあ入りな」
……着いた。といわれても、そこはただの洞窟だ。
中は暗いしわかりにくい。
そんな俺の様子を察すると、
「って、わかんねえか。ついてきな」
中に案内される。
分かれ道もそこそこに、歩いていくと…
行き止まりに行きつく。
どういう事かと思っていたが、ベイルさんは壁に触れる。すると、床から穴が空き階段が見えてくる。
地下にアジトがあるのか…
ここまで厳重ならバレづらいかもな。
階段を下ると、そこにはいくつも部屋のある、地下室のようなアジトがそこにはあった。
一つの部屋もそれなりに広いし、これだけの大人数でも狭い思いをすることはなさそう。
一人で作ったとしたら相当すごいな…
冷蔵庫みたいなものもあるし、明かりもあるから電気も通ってるようだ。
電線とかも見当たらないし、どういう原理かは知らない。まあ人間界とは勝手が違うだろうしな。
「とりあえず、みんなこっちこいや」
みんなは一つの大部屋に案内される。
そこには先客のすがたが見えた。
三人ほど見えた…と、思ったら一人だけそそくさと隠れだした。
……今、隠れたのは…
遠目でもすぐにわかった。
まあ、その娘はとりあえずおいておいて、残りの二人だが…
一人は知らない人だったが、最後の一人は……
190センチ強の短髪の大男、彼は…
「き、北山?」
俺の友人、
※45話参照。
「よ、久しぶり美波」
いつもの、明るい笑顔を見せてくれた。
「北山、お前……ここにいるってことはもう、大丈夫なのか?」
「おう、なんともねえよ。退院直後に先生に誘われてよ、ここで一足先に修行させてもらってたんだ。師匠いるから断ろうかとも思ったけど、せっかくだからな」
「完治は難しい…って聞いてたが、無理してはいないよな?」
もし、完治もせずに戦線に復帰しようとしているなら止める。ここからの帝王軍との戦いに連れてくわけにはいかないから。
…今回は今までの相手とはわけが違う。
「……そもそも、復讐は果たしたんだ。もう無理に戦う必要…ないんじゃないか?」
「何言ってんだよ。復讐うんぬんの前に軍に入ってるじゃんか。金貰ってるしやれることはやるぜ。それにとんでもない相手なんだろ?」
「まあ、そうだが……」
軍人な以上、そうは言っていられないか。だから簡単に入隊決めるなと思ったんだがな。
…先生が戦えると判断したから誘ったのだろうし、怪我のほうはまあ、大丈夫か。
本人がやる気な以上、こちらとしてもとやかく言う権利もないしな…
俺はさっき隠れた女の子がいると、思われる方角に視線を向ける。
「ルミ、出てきな」
ため息交じりに、俺は呼びかけた。
……遠目でもすぐわかった。隠れたのは幼なじみのルミアだと。
俺の一言の後、ゆっくりと出てくる女の子。綺麗な桃色の髪をなびかせ、目立つ大きな胸が視界に入る。
やはり、神条ルミアだった。
「えへへ…さすが神邏君、よくわかりましたね。愛の力だったら嬉しいですね」
「……そうかもな」
「えっ?…ホントですか!?」
……普通に流しただけなんだが、食いつかれたな。
話変えよう。
「ところで、先生に誘われたのか?」
「え?はい。神邏君の力になりたくて…」
先生を横目で見る。
俺の視線に気づくと先生は手を振ってくる。……まあ、いいか。
「……なんで隠れた?」
「あ、いやその…家に連れ戻されるかと思いまして…とはいえ神邏君も来るっていうから来たんで、ずっと隠れてるつもりはなかったんですけど」
「まあ、ルミが自分で決めたことなら…尊重はする。戦ってほしくはないが、力を得ることは悪くないしな」
「心配性ですね。私強いから大丈夫ですよ?」
「強くても、あまり戦ってほしくはない」
「それはお互い様ですね。私も神邏君に戦ってほしくないですし」
……互いに譲れないわけか。
似た者同士なのかもな。意外と。
「あ、そうそう!神邏君、紹介しますよ」
ルミは俺の手を引っ張り、最後の見覚えない人物の元に連れていく。
その人物は、綺麗な黒髪のロングヘアー、軍服に身を包んだ凹凸のないスタイルをした、中性的な美人だった。
多分、女性だよな?
「須和さん。彼が、朱雀こと美波神邏君です。絶世の美男子でしょ?」
……恥ずかしいから褒めなくていい。
「美男子は置いといて、…美波です」
軽く頭を下げると、彼女は敬礼し、
「お初にお目にかかります。僕は
手を差し出されたので、握手する。
…これで六人か。
このメンバーを鍛えるって話なわけか。
つづく。
「はい!メインヒロイン、ルミアちゃん合流!めでたいですね!一緒に特訓しましょう!」
「次回 不穏な影 え?何か、いや誰か現れるのでしょうか?」
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