第80話  特訓

「少し、みんな休もう。こんなところでなんだけど」


こんなところ…魔界の、それも町もなにもない岩山と、原っぱしかないような田舎どころではない辺鄙へんぴな地で、俺達は休憩することにした。


とはいえ、追っ手がくる可能性もある。だから気を抜きすぎるわけにはいかない…


「…そういえば、バロンに向かってきた斧、なんだったんでしょうか?」


ふと、疑問を口にした。

逃亡中に奴に飛んでいった斧…

あれがなければ、逃げきれなかったかもしれない。


「おれの斧のことかい?」


…一人の大男がのしのしと俺の元へと歩いてくる。

誰だ?見覚えはない。


「紹介するね神くん」


ヒカリ先生が立ち上がり大男の隣に立つ。


「こいつはベイル。昔馴染みで…魔族よ」


……魔族?

いや、魔界にいる人間と考えれば何もおかしくはない。


ただ……先生の昔馴染みが、魔族ということに驚く。

でも、先生の友人……それも信頼してるようにも見える。つまり悪人ではないのだろう。


「……助けてもらい、ありがとうございます」


俺は素直に頭を下げた。

そんな姿を見て、少し意外そうにされる。


「魔族って聞いてるのに、素直に礼言われるとは思わなかったぜ」

「…関係、ありますかね?助けてもらったのは事実ですし」


人種差別なんてするつもりもないし、俺としてはごく普通な事をしたまでだ。

ただ、そういう差別的な意識を持つものも多いから、このベイルさんとやらは意外とおもったのだろうな。


「助けたのは事実でもよ、」

「…それとも、なにか裏でもあったから助けたんですか?」

「は?んなわきゃねえが」

「なら、感謝するのは当然の事ですよ」


理由はどうあれ、助かった。それは疑いようもない事実だからな。


「ヒカリ、お前が一目置いてるっつーか、気に入ってる小僧って、こいつか?」

「そう。朱雀の美波神邏くんよ」


ヒカリ先生はにこやかに俺を紹介してくれた。どうやら、俺の事を話していたみたいだな…


……気に入られてるのか俺。

嬉しいな、なんか。


「見所ありそうな小僧だな」

「当然でしょ?私のお気に入りなんだから」

「お気に入りと見所あるってのは、必ずしもイコールじゃねえけどな…」


「ちょっと、いいかい?」


西木さんが手を上げた。


「魔族?どういう事だい?いつ知り合ったんだ?そして信用できるのか?」


怒涛の質問…

いつも落ち着いた様子の西木さんらしくないな。状況が状況だから仕方ないのか?


「私生まれは魔界だから、その時にね。昔馴染みみたいな。信用…信用ねえ…まあ助けてくれたんだし多少はしてもいいと思うよ?」

「おいおい多少って…」

「悪いけど、そんなに私も信頼してるわけじゃないから」

「ひどくねえ!?」


……昔馴染みか、

仲良さそうで…少し、うらやましいな。


「別に友達ってわけでもないでしょ元々。友達の友達だったわけだし」

「会ったきっかけは確かにそうだったがよ…」

「でも一応こいつ、帝王軍に反抗してる勢力の魔族だから。利害が一致してる男よ。そこ考えれば信用にはあたると思わない西木?」


そう尋ねられると、西木さんは内心複雑そうな様子を見せるも、納得してくれたようだった。


…あまり魔族は信用できないと思っているのか?

そう考えるとダストの事もあまり良く思ってなかったのかもしれない…


「みんなも、いい?」


ヒカリ先生が他の人、南城達にも聞いた。


「…西木さんが納得してる以上、オレ様達は何も言うことねえですよ」


南城は上司に従うだけ、という態度。水無瀬もまた頷いてるから同意見の様子。


「オレももちろん文句はないぞ!…ところでこれからどうするんだ?」


と、周防さん。これからとは…?


「任務は失敗な上に、犠牲も出した。報告に天界に戻るか?大目玉くらいそうだがな!ハッハ!」

「笑い事じゃないですよ周防殿」


犠牲者をだして笑うのは不謹慎。西木さんに同意せざるおえない。


「とりあえず天界には戻りましょう。報告しないといけませんし」

「お前らは帰ろうが、帰るまいが、勝手にすればいいけどよ、この小僧は置いてけ」


…ベイルさんは俺の服の後ろ襟をつかむ。

…なんで俺?


「小僧、お前はここでオレが鍛えてやる。光栄に思え」

「…ここで?」

「ああそうだ。朱雀なんだろ?将来的に帝王軍に対抗する切り札になりえる存在、鍛えて損はない」


…申し出はありがたいが、魔界でとなると…家族を心配させる。

よほどここの修行が効率いいというのなら考えるが…


そんな俺の複雑な胸中に気づく。


「どうした?信用できねえか?まあ会ったばかりの魔族、それも強いかどうかもわかんねえ相手だしな。わからなくもねえ」

「……」

「でもよ、今までのやり方でダラダラやって勝てる相手か?あの六騎衆はよ」


……おそらく無理だろうな。

ローベルトや、玄武との戦いすらギリギリの勝利に近かった。

その二人よりはるかに格上の相手だ。奇跡でも起きないと無理かもしれない。


そのためにも、修行はいるとは思うが…


「魔界には魔力が溢れてる。人間界とちがってな。だからなんだって思うかもしれねえが、特訓の環境としてはこの上ないんだぜ?」


環境……よく、分からない。

ただ、魔界なら何も気にせず魔力を放出して修行はできるかもしれない。人間界なら周りを気にしないといけないし…


「それに他の連中もついてる。おい!そこの目つき悪いガキと嬢ちゃん!お前らもここで鍛えていけ!」


南城と水無瀬の事だ。同じく修行のスカウトを受けたが…


「…ホントに強くなれるってんなら、オレ様に依存はねえ」

「…そうね。それに神邏が残るというのなら、私も残りたいし」


……二人はあっさりと了承してしまった。

どうしたものかと、思っているとヒカリ先生が俺の頭を撫でだして…


「神くん、親御さん達には学校の勉強会とかとでも行っておくから、鍛えていったらどう?たまに帰ればいいんだから。私もここに残るし」


俺を説得しだした。


…そうか、先生は俺の通う高校の先生なのだから、そういう言い訳を作れるのか。

なら、家族に心配かけずにすむかもしれない…


…奴ら帝王軍が人間界を攻める時がくるかもしれないなら、一刻も早く強くなる必要がある。

それなら…迷ってる必要はない。


「……わかりました。先生よろしくお願いいたします」

「うん!任せて!神くんは何も心配しなくていいからね!」


そう言うと、先生は俺を抱き寄せる。

……胸の感触が気持ちいい…


「おいおい…ヒカリの言うことは素直に聞くのかこの小僧は」


……まあそう思われるか。

旗から見れば、美人の言うことだけ聞く子供と見られるよな。


「ま、いいや。なら合計六人の若手連中預かるぜ。それなりに鍛えてやるからよ。安心してあんたらは帰りな」


ベイルさんは西木さん達にそう言った……


……六人?


俺と水無瀬に南城で三人しかいないはずだが…


「ちょっと待った」


周防さんが呼び止めた。


「シンは、おれがここで直々に鍛えたい。任せてはくれんか?」


……?何故だろうか?



つづく


「特訓、特訓ですか…大変そうですね。無理はしてほしくありませんが…」


「次回 残りの三人 新キャラもでますよ~」


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