第79話  失態

「魔力、吸収させてもらいましたよ…」


バロンは目線を俺へと戻す。

口からは血が流れている。


「ですが、まあその…結構効きましたよ…貴様の決死の連撃」


打つ手が…ない。

俺は奴の腕を俺の左肩から抜き、手放す。そしてすぐに離れた。


すると水無瀬が駆け寄ってくる。


「神邏!?大丈夫なの!?無茶して…」


彼女は俺の左肩に手を当て、回復らしき魔術を行う。


「私、回復は下手だからまともに機能しないかもしれないけど…」

「悪い」

「…左肩、穴空いてるし、出血も酷いのに…よく平気そうな顔してるわね神邏。痛くないわけないでしょ?」

「………」


?…確かに普通は、痛くてのたうちまわるよな。

…アドレナリンが流れているからか?今にして思えば、痛みに苦しむなんて事なかったような…


…気のせい…だよな。


「のんきに目の前で回復…ですか。素直に治すの待つとお思いで?」

「…まさか」


俺は水無瀬を下がらせる。

…逃げるにしても、どうにかスキでも作らなければならない。


逃げるにも最低限の実力はいると言うしな。


「安心して神邏」


水無瀬が前に出て、


「味方はまだいるから」


バロンの背後から、どこからともなく、二人の人物が襲いかかる。


「また背後ですか…ワンパターンなんですよ!」


バロンは全身から突風を放ち、防御、だが一人の大男はものともせずに薙刀で切りかかる。


「…なに?」


自らの風を防がれた事に驚愕しつつもバロンは迎撃体勢。

風に包まれた腕で薙刀をガードする。衝撃で、バロンの立つ地面が少し割れる。


バロンは大男の顔を確認すると、


「貴様は…確か天界四将軍の西木でしたね」


そう、大男とはヒカリ先生と同じ最高戦力の四将軍、西木ミズチさんだった。

ちなみにもう一人は、前に俺を介抱してくれた周防さんだった。

※30、31話参照。プロフィールその2に名前あり。


「ふん。現天界最強と噂されてる男ですか。まさかこんなところに来ているとはね…」

「それはこちらのセリフだよ。たかが帝王軍のスカウトに六騎衆が二人も現れるとはね。…情報屋かい?」


西木さんは聞いた。…俺もそれしか考えられないと思っていた。


「ええ。胡散臭い奴ですが、奴の情報はなかなか正確で驚いていますよ」

「情報屋がいる限り、作戦もくそもないのかもしれないね…」

「しかし…西木か」

「?」


声にならないような、さえずりのように笑うバロン。


「四聖獣に加え、四将軍すら仕留めるチャンスが来るとは…来て正解でしたよ…」


これだけの数を相手にしても勝てる…そう言いたいのかもな。

手柄のチャンスとしか思ってないとはな。


「わるいが、そうはいかないんだよ。西!」


西木さんが叫ぶと、ヒカリ先生は武器の鉤爪を地に差し込む。

するとバロンの立ち位置めがけて、地中から電気が流れ…


ビシャーン!!


バロンに直撃。

そのうえ畳み掛けるように西木さんは薙刀を振るう。


「天風烈打!」


円を描き、真空の壁を作り出し放つ。


その壁に押されるように、バロンは百メートルくらい吹き飛ばされる。辺りの岩壁を貫きながら。


「今だみんな!」


岩の瓦礫を吹き飛ばし、埃を払いながら、何事もなかったかのように立ち上がるバロン。


「下らない。この程度の技、痛くも痒くもありませんよ」


そう言い、奴は俺たちの姿を確認。…もうそこには誰もいない。


…俺たちはバロンと距離が開いたスキに逃亡したのだ。

あの先生と西木さんの攻撃は倒すためのものではなかった。


「…四将軍ともあろうものが逃げるために出てきたのですか…」


般若のように怒りの表情を見せて、目にも止まらないスピードで俺たち全員を追ってくる。


ボロボロでお荷物の俺はヒカリ先生が背負って運んでくれているのだが、それを差し引いても恐ろしく速い。さすがは白虎…尊敬します先生。


西木さんは南城と水無瀬をつかみサポートしながら移動。同じく、すさまじく速い。


…だが、


「バロンの奴のほうが速い!このままでは追いつかれるぞ!」


それでも、振り切ることができない!


「ホラホラどうしました!?追いこしてしまいましょうか!?」


煽りながら、みるみる距離をつめてくるバロン。


万事休すか…そう、思ったとき、くるくると回る斧が、バロンに向かって飛んできた。


「ん?なんだこれは…」


軽くいなして避けると…

斧は弾けて煙が舞う。


「な!?にい!?新手か!?」


俺にはそれがなんなのか知るよしもなかった。

だがそのおかけで…


「ちい!!」


バロンは風を引き起こし、煙を全て払いのける。

良好になった視界の先に、もう俺たちの姿はない…


「…バカな…逃がした?この、六騎衆の某…が!?」


「ぐっ…ゴルド達も来ていれば捕らえられたかも知れぬのに!…朱雀だけでも逃がしたくはなかった。奴は今日この場で始末しなくてはいけない男だったというのに…」





俺たちはなんとかバロンを撒くことができた…命からがら。


「ここまでくれば大丈夫だろう…よくやったみんな」


労う西木さん。…汗の量がすごい。四将軍の西木さんでもそれだけ焦っていたみたいだ。


急死に一生を得たようなものかもしれない。


「…この場にいない人達は?」


兵の方々、野原さんに東達の事だ。一緒に逃げられなかったが…無事だろうか?


「バロンの狙いは我々だったからね。そちらに目が行ってる以上、逃げおおせたと思うよ逃亡することは伝えてあるし」

「七つの大罪人は一人凍ってるし、私とやりあった奴も麻痺させておいたから、王のゴルドから逃げれてれば問題ないわね」


ヒカリ先生は俺の肩に手を置く。


「でも、もし死んでたとしても気に病まないでね神くん。彼らは軍人、死くらい覚悟の上だから」

「…ですが、俺が不甲斐なかったから…」

「これはむしろ天界軍の失態よ。神くんも言ってた通り情報屋を甘く見た軍の頭脳担当どものね。

…まあ帝王軍のほうも失態でしょうけど。あれだけのメンツ立てて私たちを逃したしね」


痛み分け…いや、犠牲者は天界だけだ…敗北に近い。


「悔しいかい朱雀」


西木さんは俺に聞く。

…俺はゆっくりと頷く。


「なら糧とするんだ。君には可能性がある。奴らを倒せる可能性が」

「俺に…可能性?」

「そう。君なら、四聖獣朱雀ならできるはずさ。今日この日を糧として、騎士バロンへのリベンジをね…」

「そうだぞシン!」


いきなり背後から両肩捕まれた。

驚き振り向くと、周防さんが…

姿見えなかったがどこにいたんだ?

そもそも逃亡してるときすら姿が見えなかった…


「おっと驚かして悪いな!おれの能力で西木の影に隠れてたんだ」


影?…どんな能力なんだろうか?


「四聖獣たるもの、ここで終わりはしない。シンには可能性しかないんだからな!」


ハッハと高笑いする周防さん。


…あまり今まで意識したことはなかった。

自信があろうがあるまいが関係ない。失った命に報いるためにも、朱雀としての力を使いこなし…


バロンを、帝王軍を倒すだけだ。



つづく



「神邏くんが無事で何よりですね~とりあえずお帰りをお待ちしますね」


「次回 特訓 修行ですか?描写は少なめになるようですね」


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