第78話  逃げの一手

…とりあえず、スキを見てヒカリ先生と合流でもするか?


もう一人の六騎衆…バロンは俺を仕留めたと思い、油断しているだろうしな。


今のところ、奴は東とゴルドの戦いを見物している。だからチャンスではあるが…


「フフフ。ゴルド、どうやら苦戦中のようですねえ…そのざまでは八傑衆に降格されますよ?ちょうど有望株が2、3人いるようですしねえ…」

「ば、バロン!黙っておれ!」

「降格があり得るのは六騎衆最弱の貴殿以外おりませんからねえ…心配してるのですよ」


…東と戦ってるほうが最弱か…

バロンはともかく、他の四人もそれ以上とはね…

六騎衆は化け物だらけみたいだな。


「「光球ライトボール!!」」


どこからともなく声が周囲に鳴り響いた瞬間、バロンとゴルドの間に、光り輝く球態の物質が放りこまれて…


弾けた!


それにより、周囲全体に目を開けていられないほどの、強烈な稲光が発生した。


「なあっ!?」「ちい!」


光そのものには攻撃能力はない。

つまるところただの目眩ましだ。


敵の視界を封じると同時に、光球を投げ込んだ少女が俺を回収し、岩影に隠れる。


少女は眼鏡をかけた美少女…俺の許嫁、水無瀬ゆかりだった。


他にも数名の軍の方々に、南城の姿もあった。

…前回の玄武との戦闘で相当ダメージを受けてそうだったが、回復早いな。

※64話参照。


「水無瀬…来てたのか」

「神邏!やっぱり無事だったのね!奴にやられてから動かないから心配してたのよ!」


…ああそうか。スキをつくことばかり考えて、ずっと倒れてたからな…事情を知らない人からすれば心配にもなるか…

…悪い事したな。


「…すまない。奴の油断をつこうと思ってたから」

「いいのよ!無事ならそれで…」

「ところで、他のみんなは?」


俺と同じく戦場にいた、ヒカリ先生、野原さん、東の三人の事だ。


「私なら大丈夫よ、神くん」


と、俺の近くにヒカリ先生が寄ってきた。

どうやら、あの光の発生に乗じて先生も逃げおおせたようだ。


「水無瀬が目眩ましするって情報が私の脳内に伝わってたからね。上手く逃げの一手はうてたの」


…そういえば、そんなことができると南城が前に言ってたな。伝令部隊がどうのとか。

…俺には来てないけどな。

※11話参照。


「念のため、兵隊を待機させておいて良かったわね。おかげで隠れられたし。…でも、六騎衆…それも二人もいるなんて想定外にもほどあるわ」

「信じられないほどの…化け物ですね。少し、恐怖を感じました」


…はっきりと、俺は死の可能性を感じた。

今まではなんだかんだ強敵だろうとそんな感情芽生えたことはなかったのに…だ。


鈍いだけなのか、それとも勝てる見込みがあると思えてたからかはわからないが…死ぬなんて今までは微塵も思わなかった。


…だが、今回は違う。

格上なんてレベルじゃない…

帝王六騎衆…末恐ろしい奴らだ。


「無理もないわ神くん。相手は天界トップの四将軍でも勝てる見込みない相手だもの。私も無理よ」


…それはつまり、今の天界軍では帝王軍に勝てないという事…なのだろうか?

…まあ、だからこそ少しでも情報を得るために、今回の作戦を練ったのかもしれない。


「とにかく、今は逃げの一手よ。作戦は失敗したんだからね」


「ーーそう、上手く行きますかねえ?」


俺たちの隠れ蓑にしていた大岩が一瞬で弾けとんだ。

それによって、かくれていた俺達の姿があらわとなってしまう。


…バロンには居所がばれていたようだな。


「一人たりとも、逃しはしませんよ」


…バロンはゆっくりと近寄ってくる。


「ちい!」


南城が一人、飛び出していく。

そして、炎の塊を作り投擲…


「邪魔なんですよ」


炎ごと、南城はいきなり吹き飛ばされる。…バロンは特に何かした素振りはない。

なんの構えもなしに放たれた烈風が、南城を弾き飛ばしたのだ。


「雑魚に用はないのですよ。なにせ、四聖獣の二人は確実に始末せねばなりませんからね。とはいっても全員殺すので早いか遅いかの違いですけどねえ」

「させるわけないでしょ…」


ヒカリ先生が前に出る。


「…最悪、私が命をかけてでも神くんだけは逃がしてみせるから。安心してね」


…先生は振り返り、俺に可愛くウインクした。


…気持ちはありがたい。本当に。

だが、俺には先生を見捨てるような事はできない。…絶対に。


俺はすぐさま立ち上がり、バロンを超スピードで、


「ーー!?」


切り捨てた。


…と言っても、奴の顔の薄皮一枚切ったにとどまるがな。

それにリーゼ…朱雀聖剣サウスブレイドは折れたままだ。

リーチの短さもそうだが、切れ味も落ちている。

折れてる影響で刀身を長くも短くしたりすることもできないし…


だからこそ、この程度しか傷つけられなかったわけだが…


「…血?」


バロンは自分の顔から流れる血にわずかな動揺を見せた。

…?この程度の傷、気にするような事か…?


自分の顔に自信でもあったのだろうか…?


「…生きていた。それもまあ驚きました。それで油断しましたしね」


…本気で俺を仕留めたと思い込んでいたのか。

なめられたものだな。


「それを計算に入れても、折れた剣で傷をつけられるとは思いませんでしたよ。傷…一体いつぶりでしょうか」


…傷を受けたことすら久々とはな…

なら、


「…お望みなら、もっと傷つけてやろうか?次はもっと深いやつをな…」


無論、倒せるなら傷どころじゃすまさないがな…


「ますます、朱雀、だけは今!この場で始末しなくてはならないと!実感しましたよ!」


…二人称変わってるぞ。

貴殿が貴様になってる。


それだけ頭にきたってことか。

意外に短気なんだな…


「させないっての…」


ヒカリ先生がバロンの背後に回り、仕掛ける!


高電圧爪ボルティックロー!」

「貴様は後回しですよ!」


ヒカリ先生の攻撃が当たる前に、バロンは小さな竜巻を作成。

先生は勢いそのままに竜巻に激突し、弾き飛ばされる。


「キャ!」


車にでもはね飛ばされたかのような勢いで、ヒカリ先生は50メートルほど吹き飛ばされた。


「先生!」


俺はつい先生に視線を向け、バロンから意識をそらしてしまった。

そんなスキを逃すような相手ではない…


「死ね」


風の槍が、俺めがけて放たれる。


一瞬反応が遅れた事で完全な回避は不可能だった。

…だから俺はあえてカウンターをあびせるように、折れた剣をバロンに突き出した。

死なばもろともってわけではないが、あえて攻撃にうつった。


剣は奴の首筋に突き刺さり、奴の槍は俺の左肩に刺さる。


左肩は貫通し、出血がひどい。

一方のバロンは大した出血はない。…効いてないのかもしれない。…だが、かまうものか!


俺はバロンの腕をつかみ逃げられないようにして、全力で縦に、奴を切りつけた!


折れていようがかまわない。リーゼの力と俺の力を何発もぶつけてやる。この至近距離だ。いくらかはこたえるはず…


「ぬっ…ぐ、」


怯んだ?…なら、続けるまでだ。

奴が倒れるまで!


連続で、何回も何回も切りつける。右へ左へ上から下から…

逃れようとしようが、俺は奴の腕を離さない!


「ぐ、ぎ、貴様!」


勝機!


俺は奴の顎めがけて切り捨てた。

少しの血しぶきが舞い、奴の顔が天を向く…


そのスキをつき、全魔力と、周囲の大気を剣に集中させ…絶華を放つ準備を…



「…!?」


その時、俺の魔力はいつの間にかほとんどなくなってしまっていた…

…しまった…奴の、能力か!?



つづく


「…あ、吸収されてしまったのでしょうか!?そ、そんな…」


「次回 失態 いや、これは神邏くんの事ではないはずです!」











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