第77話 好きな物と嫌いな物
「「神邏、ここはお前だけでも逃げたらどうだ?距離もあいたし、奴はお前が死んだと思ってるはずだ」」
「あーしも、さんせー」
魔力の精霊、イリスと
(逃げはするさ。…だがそれはみんなと一緒にだ)
「「他の者など気にしてる場合か?誰も責めたりはしない。むしろヒカリなら肯定するはず」」
(…見捨てる気にはならない)
「「状況的に仕方ない。他の者には悪いが、私にとってはお前の身のほうが大事だ」」
…宿主の俺に死なれたら困るだろうし、そう思ってくれるのもありがたいが…
ーーそう俺達が考えている時も皆は戦闘の最中だった。
ヒカリ先生はやられた俺を心配そうにキョロキョロ見ながら、オニードと戦闘している。
一方、
「て、てめええええ!!この氷どけろおおおお!!」
七つの大罪人、憤怒のドラムが怒り散らしていた。
奴は東によって、両腕と両足を凍らされていた。そのため動くこともままならないようだ。
「うっさいな。他の連中片付けたら君も始末してあげるから黙ってなよ」
東は凍らせたまま、ドラムを放置する。
「ふざけるなああああ!!殺す殺す殺す!!」
「ーー!?…なるほどね。確かに怒りが沸いてくる…これがこいつの能力か。カスみたいな力だね。こんなの精神力の高さでどうにでもなる」
奴の憤怒の力を意に返さず、自分の元に近寄ってくる六騎衆のゴルドに視線を向ける。
「次の相手はあんたかい?…どうやらこいつとはレベルが違うみたいだね」
「とうぜんじゃろう。ワガハイは帝王六騎衆・王のゴルドじゃぞ?最高幹部と部隊長じゃ格が違う」
「王とか騎士とかチェスの駒みたいだね」
…詳しくないが、漫画とかの知識で俺も聞いたことある。
チェスの駒の種類か…
「うむ。六騎衆の六人にはチェスの駒を異名のように名乗っておる。そこの七つの大罪人連中と同じくな」
「…あんた、王なんて大それた異名貰ってるけど、だからといって最強ってわけじゃないよね?」
ゴルドの眉がピクリと動く。
…感にさわったか?
「…確かに、異名と六騎衆の実力は関係はないのう。ただ、帝王陛下が異名を適当に授けているだけだからのう。そこは大罪人とは違うところじゃ」
「だよね。あんた程度が最強だったら拍子抜けだもん」
…安い挑発だな。
少なくとも、今俺と戦ってる騎士のバロンって奴よりは…おそらく弱い。
…だが、それでもローベルトや理暗よりはおそらく上だ。とてもなめてかかれる相手じゃないぞ東。
「…イラつかせるガキだのう。殺すぞ!」
…その安い挑発に乗るのかよ六騎衆…
だがまあ、憤怒の能力と同じく、こいつもまた冷静さを失うなら戦いやすくはなるかも…
「弱い奴ほど口が吠えてるものだよ。最高幹部、仕留めさせてもらうよ!」
東は仕掛ける。腕を伸ばし、左手でゴルドの顔面を潰そうとする。
「お前は青龍だったのう。じゃあ確か、「「龍王」」か?」
ゴルドが龍王という言葉を発した瞬間、東は急に、地に強く叩きつけられるように落ちた。
「がっ、あっ!?」
そのまま立ち上がることもできずに、寝そべったまま
…何が起きた?
玄武の理暗のような重力攻撃か?
…それにしては予備動作もなければ、周囲に重力の影響も感じられない…
「ぎ、貴様!奴、を知っているのか!」
いつもの東じゃない。…やけに冷静さを失っている。
…前も確かこんなことあったな。情報屋に何か言われた時こんな様子だった。
※26話参照。
「魔界四大勢力の一角じゃろ?敵じゃが、それくらいしか知らんわ」
「なら!なん…で……」
…何かを察するかのように黙る。
「…ああ、なるほどね」
うんうんと何かに納得する東。
…よく分からないが、冷静さは取り戻したようだ。
なんとか立ち上がろうともがく東。だが、全くと言っていいほど動けない様子。皮膚が切れ、血が流れるだけ。
東ほどの男ですら、指1本すら動かせないなんて信じられない…
「どれだけもがこうが無駄な事だのう。体がボロボロになるだけだぞう?しかもワガハイは地属性、おんしの水では相性も悪い」
ゴルドはひげを触りながら、東の前に立つ。
「そのままへばりついたまま、ワガハイのサンドバックになっておれ」
ゴルドは腕を振りかぶる。
そして魔力を集中し、勢いよく、拳を東に振り下ろす。
ドゴン!!
その衝撃で地面が割れる!
「ぐはああ!!」
東は血反吐を撒き散らし、叫んだ。骨が折れたかのようなきしむ音も鳴り響いている。…ただではすんでないかもしれない…
ただでさえ重い一発な上に、四聖獣のなかで青龍は防御力が一番薄いと聞く。
…となると、いくら東でも…
「ゴホゴホッ!…な、何?今、なんかした?」
…強がり言うだけの余裕はあるようだな。
「まだ息あんのかい…しぶといのう」
「あの程度でどうにかできるなんて…甘くみられたもんだよ」
東はゆっくりと立ち上がる。
…?さっきまではまったく動けなかったはずだが…
「おっと。効力が減ってきたかい。なら…」
ゴルドがなにやらメモのようなものを取り出す。
…なんだ?
「一応、言っとくよ」
東は指差す。
「僕はね、君らみたいなカス共大嫌いなんだよ。食べ物で言えば、焼きそばくらい大嫌いなんだ。そんな奴に負けるわけにはいかないの」
…急に好き嫌いの話してどうしたんだ?というかそんなに嫌いなのか焼きそば。こいつが毛嫌いする魔族と同等とは…
すると、ゴルドはニヤリと笑いだす。
「ふ、フフフ。情報屋の情報にはなかったワードだな。もうけもうけ」
ワード?言葉の事か?
…そういえば、奴が龍王というワードを発した結果東は地に伏せられた。
おそらく奴が恨んでいる相手の名前だろう。
恨む…つまり、嫌い?
ーーマズイ!!
「じゃあ次のワードは「「焼きそば」」だ!」
ゴルドはワードを発言した!
やはりそうか!嫌いな物、おそらくその度合いがでかければでかいほど、相手に重圧がかかり動けなくなるんだ。
となると東はまた……
…いや、
「バーカ!」
動きが鈍くなってたはずの東は、急に超スピードで動く!
今までの重圧が嘘のように…
その一瞬の出来事に反応できなかったゴルドは、東の一撃を受ける。
ゴルドの腹部に東の左拳が炸裂!そして…
「二十一式・氷烈波」
東の一言の後すぐ、左腕から凍気が発生し、ゴルドの体が凍りついていく…
「ぬがっ…なめるな小僧!「「夏」」!」
次のワードをいい放ち、東は頭から地に倒れた。
だがさっきほど強烈には感じない。やはり嫌いなワードでも度合いで強さが違うようだ。
…となるとさっきの焼きそばは。
「おんし…ワガハイの能力に気づいておったか」
ゴルドは唇を噛みしめている。
…まあ、そういう事だろうな。
「ワガハイの能力…
「対象が嫌いな物とか苦手な事の名称を魔力と共に浴びせることで…重圧をかける能力ってとこかい?」
「やはり…な。つまり、焼きそばは好きな物だったわけか」
「そうだよ。逆の大好物でも言われたら、解放されると思ってね」
…なかなか策士だな東の奴。
ここは奴に任せても大丈夫そうだな。…なら俺はもう一方をどうにか抑える事を考えるとするかな。
つづく
「な、なるほど…そういう事でしたか。結構考えてるんですね」
「次回 逃げの一手 逃亡は恥ではないですからね」
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