深緑の朱雀

第76話 吸収

少なくとも、先生は大罪人にやられはしないはず。そう考えると心配なのは野原さんだけか…

「野原！！」

先生が野原さんに大声で呼びかけた。

「神くんも私も、手が離せない！あんたも軍人…いや、ランカーなら自分の身は自分で守るの！」

「そ、そんな…将軍！」

野原さんは絶望するかのような表情をしていた。…無理もない。上司が、いとも簡単に殺られたんだ。荷が重いとおもうだろう。

なら、

「俺らは気にせず、逃げて下さい」

と、俺は言った。

…荷が重いなら無理して戦う事はない…

逃げて、援軍でも要請してもらったほうがいいだろう。この状況なら尚更。

「逃げる？だと？させるわけがないだろがあ！！」

大罪人のドラムは野原さんに飛びかかる。

一一だが、奴は何者かに後頭部を掴まれて、頭から地面に叩きつけられた。

「ぬがあ！？」

ドラムを叩きつけた男は、奴を踏みつける。

…こいつは…

青髪の、学園一のモテ男…

青龍　東！

…なぜ東がここに？

「ふ～んなんか、ヤバそうな状況みたいだね」

奴は周りを見て、他人事のように笑った。

「東くん！グッドタイミング！」

先生は親指たてて、称賛した。

…先生が呼んでいたのか？俺に協力するなんて、嫌がりそうなあいつがよく承諾したものだな…

「言うほどグッドかな？二人ほど死んじゃってるみたいだけど」

「いや、指示してないのに来てくれたし、充分よ。全滅したわけでもないしね」

「それならそれでもいいけどね。前回は結局何もしなかったし」

…東の実力は折紙つきだ。

あいつが野原さんのサポートするなら心配は無用だろう。

…俺は六騎衆に集中できる。

「ふむ。まだ虫がいたようですねえ…」

六騎衆のバロンは東を見て、ため息をついた。

「ドラムだけでは手にあまりそうだ。ゴルド、手伝ってやりたまえ」

「なんだよ。手柄一人じめするきかよ？」

「東とかいう小僧も四聖獣ですよ。情報によるとね」

「そいつを聞いて安心したぜ。なら手柄は山分けだなあ」

…東の事も知られてるようだな。

東には悪いが、相手が減るなら好都合だ。

…とはいえ、一人でも勝てるかわからないがな。

逃げ腰…ってわけじゃない。無論負けるつもりはない。

だが、勝ち目は薄いかもしれない。…それだけの相手だ。

先生も撤退の指示をだしたわけだしな。

「さて、そろそろこちらも始めましょうか」

バロンの周囲に竜巻が巻き起こる。…俺も負けじと全身から烈風を放つ。

だが、俺の烈風は奴の竜巻に弾かれ、消えてしまう。…それもあっさりと。

「どうです？貴殿と自分の風、どちらが優れてるかよく分かったでしょう？」

「…知ったことか」

「生意気ですねえ。そんな小僧にはお仕置きといきましょうか…」

バロンの右腕に竜巻が集中していく…ドリルのように風が渦舞いて。

「…遠慮させてもらうよ」

俺は朱雀聖剣（サウスブレイド）に木属性の魔力を集中し、真っ向勝負に出る。

突進し、バロンに切りかかる！

だが、剣は空を裂く。

避けられた…

いや、そもそも姿が見えない。

風と共に俺の眼前から消えた…

…どこへ行った？

すると、竜巻が俺の周り四方に出現した。

…どれか一つに奴が、バロンがいるのだろうか？

もしそうなら、選択を間違って攻撃した瞬間、背後をつかれるかもしれない。

「「どうするつもりだ神邏」」

(…全部に攻撃する)

「「全部とはいっても同時に全て攻撃は無理だろう？一つ切ったスキをつかれるかも」」

…確かにな。

だが遠距離技ならさほどリスクはないはず。距離が離れてるわけだからな。

俺は、その場で回転しながら風の刃、かまいたちを放つ。

かまいたちは四発。出現している竜巻四つ全てに攻撃を放ったわけだ。

当然この程度の一撃で倒せるはずはない。ただ、いぶりだすためにやったまでだ。

ーーその瞬間、俺の背後の竜巻からバロンが飛びだしてきた！

無論かまいたちを弾きながらだ。

ただ、背後の竜巻から来るのは想定内、むしろ思いどおりだ。

…あえて背後に一つ竜巻を置いておいたんだ。後ろから襲わせるようにしむけるためにな。

そう、ここまでは想定内だった。

「死になさい」

バロンのドリルのように回る風は槍のように伸びて俺を襲う。

「烈風槍（ゲイボルグ）！」

「…させるかよ」

俺はカウンターするように、剣をバロンに振り上げた…

「何をしようと、無駄なのですよ！」

バロンの風の槍は…一直線に伸び、朱雀聖剣（サウスブレイド）をへし折り、俺の腹部を貫いた！

「がはっ！」

俺は吐血。…完全に槍は俺の腹を貫通している。

いや、そんなことより朱雀聖剣（サウスブレイド）が折られた！？俺にとってはそちらのほうが重要だった…

「もろい。あまりにもろいですねえ…聖霊も朱雀である貴殿もね」

俺は風の槍が逃れようと、もがく。だが、抜けない…

…！？なんか力が抜けていく？

そんな感覚を俺は感じていた。

「異変に気づいたようですねえ。ですが、もう何もかも手遅れ」

バロンが指を鳴らす。

その瞬間、烈風は弾けて俺の全身を切り刻んだ。

衝撃で俺はバロンから数十メートルほど吹き飛んでいった。

…血にまみれながら。

衝撃の勢いが止まるまで、地面に肌を削られるように転がる。

2、3秒ほどして勢いは止まり、地に倒れ伏せた。

「弱い。この程度ですか。…冥土の土産に教えておきましょう。我が能力は吸収（ドレイン）。対象の魔力や生命力などなどを奪う強大な力。力が抜ける感覚を感じたのはそのためですよ」

…奴は独り言をぶつぶつ話し出した。

「とはいえ、死んでしまってはこの答えを聞けてはいないでしょうがね」

…死んだものと判断してるらしいな。勝手に殺すな。

…まあいい。死んだと思ってるなら、どこかのタイミングで不意をついてやる。

…それよりも。

(リーゼ…大丈夫なら返事してほしい…)

朱雀聖剣（サウスブレイド）が折れた…武器聖霊（スピリットウエポン）のリーゼの身がどうか俺は心配だった。

「…大丈夫だよおにーさん」

小声で返事してくれた。

…彼女が無事ならそれでいい。

気が気でなかったしな。

「折られるくらいじゃ、あーし達武器聖霊（スピリットウエポン）は死んだりしないよ…それなりに痛みはあるけどね…」

(無事なら良かったが…大丈夫なのか？)

「悪いけど…この戦闘中に修復は無理だよ」

この戦闘中に、か…つまり修復そのものは可能なわけか。

それなら問題ない。とりあえずここは逃亡するわけだからな。

…殺られた二人の仇はとる。だが現時点では…勝ち目はない。

それならば悔しさを糧にして、逃げの一手しかない。

しかし、吸収（ドレイン）か。面倒な能力だな。…逃げるにしても、突破口をこじ開ける必要がある。

先生と野原さん、あと東と合流して、…どうにかするしかない。

…そのどうにかが、問題なんだがな。

つづく

「…逃げる事も勇気ですもんね。無事に帰って来てくれれば私はそれで構いません」

「次回 好きな物と嫌いな物 …何の話でしょうか？私こと、ヒロインのルミアちゃんは神邏くんが好きですけどね！というかその辺はプロフィールに書いてますけどね」