第75話  六騎衆の恐ろしさ

…俺でもわかる。この二人、特にバロンという男の魔族…今まで相対した敵の中でも群を抜いて強い。


ローベルト…いや、玄武の木田理暗すら上回る…そんな気がする。


ビリビリとくる威圧感…奴は何もしていないのに、俺はそれに押され、後退りしてしまう。


これが…帝王軍最高幹部…


「皆!神くんを援護して逃げるのよ!作戦は中止!」


ヒカリ先生が叫び、俺の元へと駆け出すーーが、


「行かせないよん」


さっきの角の生やした、オニードとかいう女魔族が先生の前に立ちはだかった。


「ウチの名前はオニード。帝王軍の上級部隊長ーー七つの大罪人の一人で色欲の…」

「いいから黙って死ね!」


先生は、有無を言わさず仕掛けた。


瞬時に自らの武器聖霊スピリットウエポンの鉤爪を生成し、


高電圧爪ボルティックロー!!」


電光石火の一撃を放った。

目にも止まらぬ速度…稲光が走ったと思ったら、先生は既にオニードの背後にいる。


雷属性の超高速爪撃…といったところか…?


あの速度…常人なら反応すらできずに絶命してるだろうが…


「あ、危ない危ない。何々~?普通話してる途中に攻撃するか?正義の味方のする事なのん?」


オニードに特に傷は見当たらない。…そして奴の余裕に見える発言からして…

ーーあれを避けたのか?


「ウソ!?…さすがに想定外ね…私の必殺技で、部隊長程度を仕留めそこなうなんて…」


ヒカリ先生は冷や汗をたらす…

先生すら読み違えるほどの実力者…こんな奴がゴロゴロいると考えると恐ろしくなる…


「まあ?直撃してたらヤバかったけどねん?さすがは四将軍ってとこねん。当たらなきゃ意味ないけっどねえ」

「…当たりはしたわよ」

「え?」


ポタリと水滴の落ちる音が鳴る。


オニードは確認。すると、自分の左腕から血がながれていた事に気づく。


「な!?な!?避けきったハズでしょ?ってか痛!」


遅れて痛みを感じだしたらしい。

奴もまた想定外だったと言うことだろう。

完全に避けたつもりだったみたいだしな。


高電圧爪ボルティックローを受けた以上、痺れてその左腕は使い物にはならないわね」

「このクソあま…殺す!」


オニードはヒカリ先生に向かっていく。

一方、残りの正さんと大場さんも動きだす。


「よいか野原!まずワシが先手をかけるからお前はサポート…」


言い終わる前にまた新手。

小柄だが、人間とはレベルの違うほど発達した筋肉をもつ魔族が、正さんの前に立つ。


…何人いるんだ。いくらなんでもいすぎだろ。


「大物は取られちまったか。ま、ええわ。このジジイで勘弁したる」


と、魔族は舐めた口をきいた。


「七つの大罪人、憤怒のドラムだぞ。よーく憶えておきな」

「黙れ!!このクソボケがあ!!」


ーー!?正さんのあまりの怒気に俺は驚いた。


血管が浮き出て、怒りで我を忘れるかのような顔を見せて、大声で叫んでいたから。


いや、仲間が殺されたのだし、頭にくるのは当然だとは思う。

それで怒り狂うのもわかるが…


少なくとも、ついさっきまではいくらか冷静に見えた。

それにこんな暴言吐くイメージもなかった。とはいえ会ったのは、この前のローベルトとの戦いの時だけだから、正さんがそういう人でもおかしくはない。


だが、あまりにも感情の変わりかたが急すぎる。

殺したのは女魔族のオニードって奴だし、そいつと戦うつもりだった訳でもない…


…考えすぎだろうか?



正さんは怒り狂った状態で、ドラムという魔族に攻撃を仕掛けていた。


冷静さの欠片もない、怒りまかせの大振り。それではまともに当たらない。現に避けられている。


「しょ、正さん!?何してんすか、らしくない!」


野原さんも驚愕していた。

他の人でも違和感感じるレベルということだろうか。


やはり何かおかしいのか?


野原さんの叫びもむなしく、正さんには届いているようには見えない。


「ムダムダ」


ドラムはチッチッと舌を鳴らす。


「もう声はろくに届かんし、冷静な判断はこいつにはつかねえよ」


…なんだと?

それはつまり、ドラムが正さんに何かしたというのだろうか?


…こいつそういえば七つの大罪人とか言っていたな…

それも憤怒だとか。


…憤怒?


まさか、こいつの能力で正さんは怒り狂わされているのだろうか?


「イリス」


俺は聖霊イリスに意見を求めると、


「「可能性は高いな」」


彼女は肯定した。

…なら、


「おっと、どこへ行くのです?」


…手助けに行こうとする俺の前に六騎衆バロン。…それにその背後にはもう一人の六騎衆もいる。


…くそ、迂闊に動けない。

下手に動けば背後をつかれる。


先生は戦闘中だし、野原さんに任せるしかないか。


「野原さん!正さんはおそらく能力におとされている!」


状況を彼女に伝えた。


「えっ!?能力!?正さんほどの方が?」


うろたえたものの、すぐさま援護に向かってくれたのだが、


「雑魚に用はねえのよ!」


ドラムが地面に向かって拳を放つと、大地が揺れた。

そして野原さんの立つ、目の前の地面から岩が飛びだし彼女に直撃。その一撃により、勢い余って倒れ込んでしまった。


「さて、邪魔者はいない。ジジイ、最後に言い残す事はあるか?」

「死ぬのは貴様じゃあ!!」

「あっそ。辞世の句がそんな言葉たあ情けないもんだねえ」


ドラムが拳を振り上げる…

マズイ!


俺は六騎衆を振りきろうと全速力で駆ける!

…だが!


「行かせないと行ったでしょう。聞き分けのない小僧だ」


俺は、バロンに思い切り蹴り飛ばされた。正さんのいるところとは逆側に。


だが俺はその状態で剣圧、風の刃のかまいたちをドラムめがけて放った。


「何をしても無駄なのですよ」


しかし、バロンもまたかまいたちを放ち俺の一撃は消し飛ばされてしまった…


かまいたち…つまり俺と同じ木属性なのか?

いや、そんなことより…


「死ね」


ーードグシャ…

鈍い、なにかが貫通するかのような音が鳴り響いた…


「正さん!」


野原さんの叫びがこだました。


…そのときの俺の眼前には、ドラムの拳が、正さんを貫いてる光景が広がっていた。


…正さんの目には光が灯っていない…

ぜ、絶命している…


…何を、俺は何をしている!

この場にいながら、二人も犠牲者をだすなんて…


何が朱雀だ。何が四聖獣だ…

やはり俺では何かを守るなどできやしないというのか?


…絶望してる…ヒマなどない。

二人のためにも、ここを切り抜けないとならない。

先生と野原さんはなんとしても…殺させはしない!


「朱雀、よく瞬時にドラムの能力に気づきましたね」


バロンは俺に話しかけてきた。

…いちいち対話などする気にはならない。だが、下手に切りかかっても勝てる相手ではない。

…様子を見るしかないのか?


「奴ら七つの大罪人はね、その大罪にのっとった能力を持つのですよ。憤怒ゆえに、相手を怒り狂わせた」

「…部下の能力をしゃべるとは、ずいぶん余裕なんだな」

「いやね、これくらいの情報はおそらく出回ってますよ。それに能力も実力も、我々六騎衆と比べれば赤子みたいな雑兵ですしねえ」


…正さんは俺より立場上の上位ランカー十一ジャックだ。

そんな方が敗れた相手を雑兵呼ばわり…

帝王六騎衆…いかに化け物なのかわからされるな…


…俺は臆さない。必ず、切り抜けてみせる。



つづく


「こ、これまずくないですかね…せめて神邏くんだけは無事にいてほしいです」


「次回 吸収 …な、何をですか?」







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