第71話 木田理暗
DJも観客もほぼいなくなってる。
いるのは戦ってた俺と理暗、そして天界関係者やルミア達だけだ。
…どうすればいいのだろうか。
そう、俺が思っていると…
観客席上の電光掲示板というかスクリーンに【勝者サウス、よって今大会優勝者はサウス選手】と、映りだした。
…誰かいる気配はない。コンピューターかなにかが勝手に結果を発表したのだろうか…
その後電光掲示板に、後日帝王軍から連絡が来ると表示された。
…どうやって連絡が来るのだろうか?という疑問はすぐに解消される。
続いて電光掲示板に日程と細やかな場所の指定が表示される。
…俺にはその場所はわからない…がおそらく魔界内部な気がする。
聞いたことのない地名だからだ。
まあ、その辺は天界軍の方が案内でもしてくれるだろうからあまり心配はしていない。
しかし、大々的にやっていた大会がこれで終わりとは拍子抜けに感じる。
ルミアと水無瀬らが観客席を降りて俺の元へやってくる。
まあ、もう誰もいないからかまわないだろう。
「…これで終わりなんですか?」
ルミアも拍子抜けして、可愛く首をかしげている。
「優勝コメントとか、優勝賞品とか、拍手喝采とか何もないなんてふざけてますね~」
…いや、優勝コメントはなくていいよ。こんな事で目立つコメントなんてしたくないし。
水無瀬が俺の目の前に近寄ってくる。かなり近い…
顔が当たりそうになるから少し後退りするも、水無瀬はその分さらに近づいて…
「さすがね神邏。信じていたわ」
…どことなく顔が赤い。
そんな水無瀬を引き剥がしにかかるルミア。
「な、なにするのよ…」
「いえいえお気になさらず~」
「…いや、気にす…」
代わりにルミアが俺の目の前にたち、
「神邏くん、怪我とかないですか?私、みますよ?」
心配してくれる。嬉しいが…ルミアもまた近い。嫌ではないが…少し照れる。
「ちょっとどいて…」
「嫌です~」
女子二人がいざこざを起こしてる時…
ゆっくりと理暗が立ち上がってくる事に気づく…
…なんて奴だ。
あれをくらってまだ立ち上がれる気力があるとはな…さすが玄武。凄まじい防御力だ。
だが今さら立ち上がっても遅い。
結果は出たわけだしな。…これ以上戦う理由など…ない。
それがわかっているのかいないのか、奴は構える…
「…よせ、決着はついた。俺の優勝らしい。」
「…そうか。…で?」
「だからもう、俺とお前が争う理由ないだろ。」
この戦いは帝王軍入隊を決めるためのもの。実際に入るつもりはないが、入隊の権利を得たのが俺な以上、戦っても仕方ない。
「入隊…まあ一応それも目的ではあるが、今となっては…どうでもいい」
「…なに?」
「これほどの…血沸き肉踊る戦いは久しい。…憎しみとかそういう感情のない純粋な戦い、好敵手との出会いの前では帝王軍入隊なんて些細な事…」
何を…言っているんだこいつは。
戦闘狂ってやつか?…俺などとの戦いがそんなに楽しかったというのか?
…楽しかった、つまり…楽の感情…それがこの男の玄武覚醒のきっかけなのかもな。こんな性格してるわけだからな。
「さあ、優勝も、入隊の権利もくれてやるから…続き…やろうぜ」
…そうは言うが、理暗は頭部や体から激しい出血。左腕も曲がって折れてるように見える。
立ってはいるが肩で息をして震えている…どう見ても戦える状態ではない。
「その体では無理だろ…」
「…たたかえ」
「嫌だ」
「戦え!」
「理由がないと言ってるだろ」
…うっとおしいな。俺は戦いが好きなわけではないし、理由がない限り戦いなどしないというのに。
言い合いをしてる最中、突然女性が俺と理暗の前に割って入る。
前髪が長く目元の見えない大人の女性…確か奴の
彼女は理暗を庇うように立ち、
「理暗、ここまでにしとこうよ。」
…どうやら説得してくれるようだ。
「…断る」
「なんで?もう、力、残ってないよ?理暗も、ウチも!」
彼女もまた
なら、尚更止めるよな。
「うるさいんだよ…部外者は黙ってろ、武器になれねえと言うのなら下がって見てろ」
「ぶ、部外者…?酷い…」
…彼女少し傷ついたように見える。…あまり見てていい気分にはならないな、こういうの…
「…心配してくれる人に対してその態度、…気に入らないな」
「気に入らないなら戦えよ。おれを、殺す気でな!…ゴホゴホッ」
…血反吐吐きながらなに言ってるんだ。自分の状態わかってないのか?
「第一、憎くねえのか?」
「…憎い?」
「準決勝で叩きのめした奴、仲間だろ?」
…南城のことか。
確かに仲間が傷つけられてるのだから、そういう感情がないわけではない。
だが今回のケースは大会のまっとうなルール内での決闘で、必要以上に痛めつけられたわけでも、殺されたわけでもない。それなのに恨むなんてのは筋違い。
…南城はやられたとはいえさほど重症でもなかったらしいと聞く。
優勝候補のドゥパンがされたことと比べれば天地の差がある。
…そう考えるとこいつ、悪人に対してだけ冷徹になったのか?
「…ここまで言ってもまだ戦おうとはしねえのかよ…甘ちゃんなのかビビりなのか知らねえがよ」
「挑発にものらん。…この戦いは俺の勝ちで終わりなんだよ」
「勝敗は…生死かかって決まるもの」
「…それこそ戯言だ。お前の価値観なだけだろ」
「なにィ!?」
キレられようが、何言われようが知ったことではない。これ以上俺自身戦う理由ないのだからな。
だからこそ俺は冷たく言い放ったまで。
「…それとも死にたいのか?」
俺はできる限りの冷ややかな目で睨みつけると…
「や、止めて!」
奴の
その彼女が俺に頼むように言った。
あの視線で俺が理暗を殺すと思ったのだろうな。…まあ別に殺そうと思ったわけではないが、そう捉えかねないよう言ったからな。
…理暗は少し笑う。
「やる気になったのなら…結構だぜ…」
「り、理暗!ここで死んだら目的、果たせなくなるのよ!だから」
「……」
目的…?何かしら事情がありそうだな。
帝王軍を潰す事とかか?
「お願い…朱雀、彼を…殺さないで」
亀良々さんは泣きそうになりながら懇願。
…何度も言うが俺にその気はない。
「……」
俺は黙って
剣を収めたわけだ。…この行動でする気はないとわかってくれるだろう。
亀良々さんはホッとしている。
だがやはり理暗に納得の表情はない。
「き、貴様…」
「聖霊の気持ち、汲んでやれ」
「…ちい、その甘さ…後悔させてやる。傷が癒えたらリベンジだ。覚悟し…」
「断る」
バッサリと俺は切り捨てた。
誰がそんなもの受けるか。
「こ、断る…だと!?」
「リベンジなどに付き合う理由など俺にはない」
「勝ち逃げする、つもりか!?」
「…まあ、そうなるか」
別にどっちでも良いがな。
「貴様…もしおれが貴様の嫌いな悪党でもそうするつもりなのか?」
「いや、悪党ならここで始末するだけだ。それとこれとは関係ない。」
「ふ、ざけるな…このままで…」
面倒なヤツだな…
「…そんなに再戦したいのか?」
「当然…だ」
…俺は一つ提案してみる事にした
「なら…俺達の仲間にでもなるか?」
「…はっ!?」
今までで一番大きな理暗の声が響いた。
つづく
「…なるほど〜それを条件にするんですね〜いい考えですね~さすが神邏くん!やりませう〜」
「次回 大会終了 次で第一部完です!情報屋も何か動いてくるやも!」
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