第70話  暴風烈波弾

四聖獣にはそれぞれ奥義があるらしい。

その名は四大秘技。


青龍は龍空撃ドラゴンブリンガー


白虎は千黄爪牙サウザントクロー


玄武は爆水昇波デ・スプラッシュ


そして朱雀は……


暴風烈火ブレイジングストーム……?」

「「そう、四聖獣朱雀の切り札と言われているらしい。全てを焼き尽くす、炎の竜巻を引き起こす大技。攻撃範囲もかなりのもの」」

「…と言われて、すぐにできるほど俺は器用ではないが」

「「いや、できる。四聖獣ならば無条件で使えるはずだ」」


…そこまで言い切れるというのなら……

それを信じるしか俺にはなかった。


「「奴、玄武の最後の技はおそらく今言った四大秘技――爆水昇波デ・スプラッシュ。それを自己流にアレンジした技と見える。とてつもない水圧で対象を押しつぶし爆発する奥義。これもまた単純な技だが、抜群の威力を誇る大技」」


となると水圧部分が、地属性の重力波に変わった一撃と言ったところだろうか……?


余談だが、青龍・東が使っていた、三十三式・龍氷撃アイスブリンガーもまた四大秘技・龍空撃ドラゴンブリンガーをアレンジした物……らしい。



玄武闇盾ノースシールドに集まるドス黒い魔力は、盾を包み隠してしまう。


そして黒い球体となったそれは、ゆっくりと空へと浮かぶ。


強力な重力により、辺りの物は引き寄せられていく。それは俺も例外ではない。


剣を地に突き刺し、足に魔力を集中し引き寄せられまいと抵抗。だがずっとこんな事をしていたら、攻撃にうつれやしない。


そう判断し、重力に耐えながら剣に魔力を集中していく……

足に最低限の魔力、そして剣にはめいっぱいの魔力を注ぎ、四大秘技を放つ準備をする。


絶華と違い、周囲の風や木々の魔力を集める必要がないため、放つ準備は簡単だった。


…簡単だが、果たしてこれで勝てるのだろうか?


感じる魔力は、あちらのほうがはるかに上。

いかに相性のいい木属性魔力とはいえこれでは……


いや、やる前から弱気ではしょうがない。こういうのは気の持ちようが大事なはず。


「「いよいよ、私自身を使う時が来たのかもしれないな」」


イリスが言った。俺は意味がわからず問う。


「イリスを使う?どういう事だ?」

「「前にも言ったろ?私はお前の魔力に宿った精霊だと」」


…だいぶ前の話だがな。

※3話参照。


「「木属性魔力の精霊である私を使う事で、本来の魔力の質、速度、回復力、属性の強化も行える」」

「…そんなことが?」


なら何故最初から言わないんだ……。と思いがちだが、彼女が今まで言わなかったという事は、前までの俺ではできなかったということなのだろうな……


ローベルトらとの激戦で、俺自身もパワーアップしているはず。忘れていた力の使い方も、だいぶマシになってきている。そんな今の俺なら使えるかもしれない。そう思ったのだろう。


「「だが私を宿した一撃は、そう何発も撃てる代物ではない。これからもいざという時だけ、私の名を呼べ。さすれば私は神邏に力を貸そう」」


名を呼ぶ。ただそれだけでいいのか。


「「技発動前に私の名を呼ぶんだ。その後、技名を叫び、とっておきの一撃を奴にお見舞いしてやれ」」

「わかった。…信用してる」

「「…任せろ」」


相棒との最初のコンビネーション技。それで負けは許されないな。



一方、理暗はどす黒い球体の魔力を完成させていた。先ほどよりさらに強大になっている。


「準備、いいか?朱雀」


理暗は俺に質問した。


「…ああ。いいよ」

「そうか、なら」


理暗は右腕を勢いよく前に出した!


「死ね!」


グオオオオオオオオオオ。


どす黒い球体は発射された。


球体が通った空間が歪み、瓦礫もろもろが引き寄せられ、チリとなる。


そして球体は俺の間近に!


「全てを押しつぶす玄武の重圧プレッシャー。…チリとなれ!重殴波撃デス・グラヴィティ!」


理暗の叫びと同時に球体は弾け、重力の奔流となり襲いかかってくる!


「ジ・エンド!」


俺もまたその瞬間に動く。


「イリス!」


俺が叫んだその瞬間、俺から透き通るほど美しい長い髪をした美女…イリスが放出され、瞬時に朱雀聖剣サウスブレイドに宿る。


そして俺は剣を横薙ぎで振るい叫ぶ。


暴風裂波弾ストームパニッシャー!」


剣から放たれた烈風……それは竜巻を形どった斬撃。


周囲は荒れ狂う風圧により、観客席の人たちは目もまともにあけられなかったはずだ。


竜巻は上昇していき、重力の奔流を全てぶちぬき、切り裂いてかき消す……


曇りが一瞬のうちに快晴に変わるかのように、黒い重力そのものが何もかも消え去っていった。


そして、竜巻は威力を失わないまま、理暗めがけて落ちてくる。


…理暗はボー然としていた。

信じられない。そんな顔をしていた。

それだけ自信のある一撃だったのだろうな。


でも、悪いな。


「GAME OVERだ」


ズガアアアアアン――

とバカデカい爆風の音が響く。


竜巻は理暗に直撃すると、理暗ごとまた上空へと上昇。…そして天高く舞い上がると、竜巻は消え去り晴天の青空だけが残った。


上昇していた理暗は、血しぶきを蒔き散らしながら急速に落下。


ドザァン!!


地へと落下し、瓦礫にまみれた。


瓦礫に沈まった事で姿は見えなくなったが……。死んではいないだろう。

戦った俺だからわかる。この程度で死ぬような男ではない。



「「初めてにしては上出来だな神邏」」


イリスが剣から出て、俺の背にもたれかかる。


「「なかなかの属性値だ。絶華ほどの威力ではないが、相性のいい土属性相手ならこちらのほうが効果的かもしれないな」」

「…そうだよな。相性よかった相手……だったんだよな」


その割には今までで一番苦労した相手だった。…玄武、木田理暗。とんでもない奴だ。


もし相性有利でなければ、俺は負けていたかもしれない。…世の中はまだ広い、な。


「「しかし、久々の外の空気だな。お前と会った日以来だからな地上に出るのは」」

「自らの意思で出れるなら、これからも出て構わない」

「「いいのか?」」

「俺の中にずっといるのも退屈だろうからな」


するとイリスは微笑みだす。…俺のようにあまり顔変えない子だと思っていたから意外だ。


「「なら、お言葉に甘えようかな。…それよりどうだ久々の私の姿」」

「どうとは?」

「「相変わらずの美女だろう?」」

「そうだな」


うん。とても美しい美女だ。魔力だから全身が薄い緑色をしているものの、それでも容姿端麗スタイル抜群の女性としか見えない。


…イリスは少し顔が赤い。


「「お、お前簡単に肯定するんだな」」

「いや、事実だし。…照れてるのか?」

「「う、るさい…」」


…カワイイとこあるな。


「しーんーらーくーん!」


後方から声。この声はルミアだ。


俺は振り向くと、元気いっぱいに笑顔で手を降ってるルミアを確認する。

軽く手を上げて彼女に答える。


…心配させてしまったかもな。


「ところで…」


審判兼DJは避難してしまったわけだが、どうするのだろうか。


「…一応、俺の優勝でいいんだよな」



つづく。


「祝!神邏くん優勝〜!いや何より無事でよかったです!メインヒロインの応援あってですね!途中気絶させられてましたけど!今さっき目を覚ましたばかりですけど!」



「次回 木田理暗 ?玄武とお話でもするんですかね?」



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