第69話  新技

渾身の一撃――


それにより、明らかに理暗には怯んだ様子があった。

切り傷もないし、血も出てはいないが、ダメージはあったと思われた。


――そこで手は緩めない。

ダメージがあったのなら尚更。


盾は奴の手から離れた以上、絶好の機会。

むしろもう一度たりとも反撃のスキを与えない。


背後からまた強烈な烈風!

理暗を後ろに下がらせないための風圧だろうか?


神邏は前にいるのに後ろからの烈風。…どうやっているのだろうか?

…などと理暗に考える暇などない。


神邏の高速の剣撃が、右から左から下から上から斜めから……

何発も放たれる。


それだけではない。

剣圧によって放たれた、かまいたち。剣の振るう場所とは逆からのかまいたち。


おまけに地中からまたも樹木が襲い掛かり、理暗の動きを封じにかかる。


これら全てが襲い掛かる……ものの数秒の間にだ。


「があああ!!」


たまらず拳を突き出す。

拳からは拳圧……

いや、重力波が放たれている。

見た目では飛ぶ拳のよう。


だが効かない。


神邏の剣圧などにそれは、あっさりと切り裂かれてしまう。

理暗の攻撃など何も許さない。

そうとれるほどの怒涛の攻撃。


そしてついに、血しぶきが舞う。


出血するほどのダメージを、理暗は受けたのだ。


最硬。…四聖獣最大の防御力を持つ玄武の鎧をついに砕いた。


連撃はつづく……


「がっ!はっ!」


吐血もしだす理暗。

まずい、そう判断した理暗は、


「かあああああああ!!」


突然理暗の周囲全て、それもリング全てを覆うほどの距離にまで、とてつもない重力波が発生。


…リングそのものはもう壊れてなくなってるが。



これは避けられない。

反撃する素振りもなく、無動作でこれほどの重力波を周囲に放った。

万が一気づかれても、瞬時に離れ躱せるほどの範囲ではない……


…躱せないのならば、重力に押しつぶされた神邏の姿があるはず……なのだが、


いない。


すぐその状況に気づく理暗。


(地…いや!地属性のオレなら地中に逃げたら気づく!…となると……)


「空!」


この間一秒にも満たない。

それでも遅かった。


上から降ってきた神邏の、渾身の斬撃が理暗に直撃……



理暗の予測はあっていた。

神邏は確かに空にいたのだ。


だが空に逃げたとて、重力から逃れられるわけはない。

重力は空にも発生しているのだから。


だが、理暗が作った重力には射程距離がある。

空にも発生してるとはいえ、はるか上空となれば話は別だ。


だが神邏はあの一瞬でそんな天高く、空になど飛んではいない。

いたのならこんなに早く降りて、理暗に一撃加えるなど不可能だから。

つまりはるか上空にいたから、というわけではない。


…なら何故、神邏は重力を受けなかったのか?



…それは理暗の頭上だったから。


理暗は確かに全方位に重力を放った、だがそれは自分を中心とした範囲だ。


その中心には重力は発生していない。そりゃそうだ、自分に重力をかける必要なんてないから。


かかってないのは理暗の立ち位置までの狭い範囲、その範囲ないに入り込むスペースはない。


だがそれは地上の話、上のスペースとなれば、ガラガラだ。簡単に入り込める。


神邏は今までの理暗の重力発生プロセスを理解し、発動タイミングを読んだ。

そして飛ぶように理暗の頭上へ移動、そして斬撃を今、上から放ったのだ。


完全に裏をかいた。

反応も遅れていた。

この一撃で理暗に致命傷を与えられたはず……



――神邏side。



今の今まで、俺はほぼ無意識だった。一連の動きのほとんどが。


よくもまあ効率よく動き、戦えたものだと、俺にしてはよくやったと思う。


血まみれで、追い詰められたこの状況だからできたのかもしれない。火事場のバカ力とか、イタチの最後っ屁みたいな。


なんにせよ、無意識ながら今の一撃で決まったと思った。

思ったんだが……



「…さすがに想定外、だったな」


俺はふと言葉をこぼす。


今の斬撃……受け止められていたんだ。

いつの間にか理暗の手元に戻って来ている、玄武闇盾ノースシールドによって。


伊達に武器聖霊スピリットウエポンではないな。

俺の渾身の一撃を簡単に受け止められた。

さすがとしか言えない。


「…武器聖霊スピリットウエポンにも意思がある、それなら自分で主の元に戻ろうとするくらい、できるよな……」


多分、これは理暗が呼び出したわけではないと思った。

あの時、盾自体が飛んできたんだ物理的に。


一撃が当たる瞬間、理暗の左腕に装着されガード。

そしてその後すぐに……レーザーを発射していた。


攻撃がくると想定してなかったからな……

まともに当たりはしなかったが、その一撃のせいで、完全に連撃がとまってしまった。


「亀良々……助かった」


自らの武器聖霊スピリットウエポンに感謝すると同時に、理暗は拳圧を飛ばして俺を吹き飛ばす。


重い一発だが、耐え凌ぐ。

しかし距離が離れてしまった……


理暗を倒すには近距離戦しかない。遠距離技のかまいたち程度の一撃では防がれてしまう。


…とは言うものの。

理暗の受けたダメージもデカいはず。先ほどのように戦う力は奴には残っていないかも。


それは俺にも言えるかもだが。


「…正直、ここまで手こずらされるとは思わなかった。大した奴だよお前」


称賛してくる理暗。…おそらく心から思ってくれてると思う。


「できれば使いたく……なかったんだがな。そうも言ってられまい」


盾……玄武闇盾ノースシールドに魔力を送り込む理暗。


盾に?防御する状況ではない。

となると、攻撃に使えるのか?


「悪いが、観客連中も巻き込まれるかもしれない。おい実況!」

「「は、ハイ!?」」


本分の実況が出来てなかったDJ。この戦いに驚愕していたからだろうか。


そんな唖然としている状況で、いきなり声かけられたものだから声が裏返っての返事だった。

理暗は言う。


「…これからオレはとっておきの技を出す。あんたも観客もどうなるかわからん。…避難警告しといたほうがいいぜ」

「「え、え!?」」


動揺し、あたふたするDJ。

仕事を投げだしていいのかと迷っているのかも。


「口だけと思ったか?ならまず見てみるか?その目で」


玄武闇盾ノースシールドに集められた魔力に、プラズマが発生。そしてどす黒くにじんでいく。


その瞬間、辺りの石や瓦礫などが理暗に引き寄せられていく。

引き寄せられた物質は、その魔力によって塵となってつぶれていく……


その後も、いろんなものが引き寄せられる。

そして範囲はどんどん広くなっていく。


DJの座ってる実況解説席の机なりなんなりも、引き寄せられ、砕けていく。


……次はDJの番かもしれない。


「「わ、わああああああ!!か、観客の皆様!失礼ながら私めは避難します!皆様も避難を!!」」


DJは一目散に、ドームの外へと逃亡しだす。


――それを見た観客達も、


「「う、うわあああああああああああああ!!」」


大パニックとなり、逃亡に走る。


「押すな!」「早く行け!」「出れないだろうが!」


出口は大渋滞となっている。


残るのはルミア達といった天界関係者だけかも。


というか、ルミアは大丈夫か?避難させたほうが……


そう俺が思った事に気づいたか、観客席の水無瀬は親指をたてる。


…よくわからないが、大丈夫なのか?

…でもここは彼女を信用するしかないか。



一呼吸おく。


次に放つ理暗の一撃はおそらく、前の重殴撃を上回る一撃。


となるとこちらもとっておきの奥義、…絶華・一閃しかない。


だが、


チャージに時間かかる上に、この重力……魔力を集めるのも大変かもしれない。


「「ならば神邏、四聖獣の奥義を使うべきだ」」


聖霊イリスが提案。俺は問う。


「四聖獣の奥義?」

「四大秘技とも言われるものでな。それをお前流にアレンジすればあるいは」

「勝てるかも……か?」



つづく。


「佳境ですね。…果たして新技の四大秘技とは一体?」


「次回 暴風烈波弾ストームパニッシャーす、すごそうです」

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