第68話  重殴撃

「小手調べは終わりだ。…本気でやろう」


…この男。まだ本気じゃなかったとでも言う気か?


「なかなか楽しめたぞ。さすがは朱雀、オレと同じ四聖獣なだけはある。…だがこれまでだ。手加減はできんからそのつもりでな」


理暗は全身から魔力を放出。

巨大な大亀の姿が現れる。

尾はこれまた巨大な蛇。


これが、玄武の姿……?


それに加えて玄武に寄り添うように別の者の姿が見受けられる。


小さな小人みたいな聖霊だった。

帽子を被っていて、こちらを見ながら震えている。

小心者というか怖がりに見える。



「「あれは魔力に宿る聖霊……ノーム」」


俺の木属性魔力に宿る、聖霊イリスが言った。俺は聞く。


「イリス、君のような存在って事?」

「「ああそうだ。木が私のようなシルフィードなら、奴は地属性に宿るノーム。まさか魔力の聖霊まで宿しているとは……」」


武器聖霊スピリットウエポンに魔力の聖霊。互いの条件は同じって事か。


「はあああああああ……」


理暗の頭上に、漆黒の魔力の塊が出現。プラズマのように光り輝いている。


周囲のリングの破片などが、引き寄せられチリとかしていく……


凄まじい重力の塊といったところか……


それを一体どうするつもりだろうか?

そのままそれを下ろし、ぶつけるつもりだろうか……


グン!!


俺の周囲、三十メートルほどの範囲にとてつもない重力波が発生!


逃げる暇すらなく、その重力によって、俺は地に這いつくばりそうになる!


片膝ついて、動けない!

立ち上がる事など、とてもできやしない。な、なんだこの重さは……!?


とてつもない重力……

常人なら一瞬でぺちゃんこだ。


属性相性のいい、木属性の俺ですらこれほどなんて……

いかに異次元な重力かがわかる。



「動けないか?まあそうだろうな。なんせオレの秘技だ。将来的に帝王軍……いや、帝王カオスを仕留めるために鍛え上げた技の一つだ。お前程度に防がれてなるものか……」

「――!」


声も出ない。


内心マズイと感じている……

ここまで動けない重力波…

あの重力の球体が、それを発生させているというのなら、球体そのものを受けでもしたら……

ただですむとは思えない。


俺は魔力を全身から解放する。

重力に抗おうと必死に。


そんな俺の抵抗に笑みを浮かべながら眺める理暗。


「無駄だ無駄」


「お、おにーさん。て、手立てないの?」


武器聖霊スピリットウエポンのリーゼが問うが、答えられない……

これだけ魔力を解放しても、口を開くことすらできない。


「「神邏!」」


イリスが叫ぶも……


「終わりだ……。重殴撃じゅうおうげき


重力の塊が、拳のような形になって……


急速で俺めがけて落下!


落ちた拳は、ドパアアアアアンと水が大きく弾けるような音と共に、俺にかかっていた重力波を割り、リング全てを押しつぶした!


リングは全てひしゃげ、大きな風穴を地面に開けた。

落下の衝撃で魔力が舞い、観客席にも爆風が吹き荒れる。


吹き飛ばされた観客の姿も確認できた。



――観客side。



実況のDJにいたっては……


「「うわああああああああああ!!た、たすけてえ!!」」


吹き飛ばされ、電光掲示板に直撃!


「「いったああああああああい!!」」


痛みに悶えているが、わりと大丈夫そう。


「し、神邏君!神邏君は!?」


荒れ狂う爆風にまみえながらも、一人神邏の身を案じるルミア。


「だ、大丈夫よ!神邏がそう簡単にやられるもんですか!少しは信用しなさい!」


負けじと水無瀬が反論。


わりとこの二人は余裕がありそうだ。

まあ余裕なくとも、神邏の事を第一に考えるのだろうが。



風が止み、砂埃もなくなった事で周囲の確認ができるようになった。


戦場のリングはというと……



何もない……

リングは跡形もなく潰されたようだった。

残骸すら見あたらないほど、ものの見事に押しつぶされたのだろう……


人影が、見える。


一人は理暗……

そして神邏の姿も確認できた。

よかった……と、安堵しようとしたのもつかの間。


「――神邏君!?」


ルミアの目に映る神邏の姿は……


前髪が血で真っ赤に染まるほどの、大量の出血。ダラダラと血液が流れ落ちている。


そのせいか、服も真っ赤。


ぴちょぴちょと、血の垂れる音が聞こえてくるかのようだ。


「棄権、棄権させないと!」


ルミアは慌てふためく。


「傷は酷いけど……多分、まだ大丈夫よ」


水無瀬は震える手を抑え、唇を噛みしめて言った。対しルミアは、


「何が大丈夫なものですか〜!!…あんなに出血してるのに!無理してるに違いないです!私止めに……」


勝手な行動を取ろうとするルミアに向かって、水無瀬は武器のレイピアを取り出し、持ち手の部分で後頭部を思いっきり殴りつけた。


ガン!!


「うっ……」


ルミアは椅子に倒れ込んだ。

…気絶してる。

なかなか容赦ない子だ。


「…ごめんなさい。こうでもしないと、何しでかすかわからなかったから…」


水無瀬は視線を神邏の方へ戻す、


「勝つと……信じてるわ」


水無瀬もけして平常心ではない。

先程震えていた事でわかること。


それでも自分の気持ちを留め、軍のため、そして神邏を信じ切ると決めていたのだ。


そしてリング上はというと……


「…よくもまあ五体満足、いや違う、よくもまあ生きていられるものだな、朱雀」


理暗はさすがに倒したと確信していたのだろう。

だが現実は違う。

ボロボロではあるが、神邏はこうして生きて立っている。

…ただ、意識は朦朧としてるように見えるが。


「…だがその出血量にそのダメージ。ろくに動けやしないだろうな。オレの勝ちはゆるぎない……」


気を抜いたその瞬間!


神邏は一瞬で理暗との距離をつめ、朱雀聖剣サウスブレイドで切りつけ、眉をかすめる。


理暗はギリギリで気づき、反応して避けたのだ。


「こ、こいつ、まだそんなに動けるのか……!?」

「「り、理暗、なんなのこの子……化け物かなにか?」」


理暗の武器聖霊スピリットウエポン、亀良々が恐れをなす。


神邏の攻撃はつづく!

剣の連打連打連打連打!


理暗は盾でガードしていくのが精一杯……

うってかわって、押され始めている。


かたや死にかけ、かたやほぼ無傷。それなのに無傷のほうが押されているのだ。


理暗は先程の秘技、重殴撃で魔力をだいぶ使い、疲弊はしてる。故に無傷とはいえ力は落ちている。


…だがそれを考慮しても、ズタボロの神邏が押してるのは説明ができない。

ダメージは大きいはずなのに……


怒涛の攻撃を防ぎながら、神邏の様子を見る理暗。すると何かにきづく。


「ば、バカな……!?」


神邏の出血は、何もしていないのに止まり始めている。

そして傷跡も小さな煙をだしながら塞がっていく。

つまり勝手に傷が治り始めているのだ。


「高速治癒回復能力。…朱雀の能力だと聞いたことあるが、早いにもほどがあるだろ……!」


神邏の回復力が増して来ているようだ。

それにより、本来不利なはずの神邏が、逆に疲弊した理暗を押すという、考えられない出来事が起きているのだ。



「ち、…だがこの程度で」


理暗の背後から突然凄まじい風圧の烈風が吹き荒れた。

不意の方向からの烈風……それにより、持っていた玄武闇盾ノースシールドを、手が滑ったかのように離してしまう。


「しまっ……!」


そのスキを逃すはずもなく。

神邏は朱雀聖剣サウスブレイドに、渾身の木属性魔力を込めた斬撃を、理暗に直撃させた……



つづく。


「…気絶させられました。野蛮な女ですね。神邏くんが無事みたいだから良しとしますけど……」


「次回 新技 え、それは楽しみですよ~」

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