第1話  朱雀推参 Part4

「さて、あたしの手伝いはここまで。あとは朱雀、あなたがやる番ですよ」


 そう言った後、九竜は下がる。

 

 ……俺は耳を疑った。

 誰もが助けに来てくれたと思うだろう。なのに、違ったのか……?


「あたしに助けてもらうつもりでしたか? まあホントに無力な方々なら助けますけど、あなたには力があると言ったでしょう」

「……何度も言うが、俺には覚えが、」

「忘れたとしても、体は憶えているはず。魔力の出し方を忘れたと言うのなら……とりあえず溢れ出せればいい」


 溢れ出す? どうやるんだ……


「四聖獣の覚醒は喜怒哀楽、四の感情のうち、一つの爆発がきっかけになる。今あなたは一つどころか、3つの感情が渦巻いて、今にも魔力が溢れそう。ならわずかでも、最後の一つの感情を起こせば……」


 さっき投げ入れた剣を指す。


「それ、元々あなたの武器なんです。聖霊界から呼んでおきました」


 俺の武器? 聖霊界?


「その剣で、敵を倒してみてください。楽しいですよ」

「――は?」


 楽しい……? こんな状況で楽しめとでもいうのか?


「ああ、哀しみが大きすぎるものね……」


 九竜は義父ちちの顔に触れると……


「お父さん、まだ助かるわ。ここから無事に逃がせれば、あたしが責任をもって治しますので。だから戦って、勝ってください」

「……本当ですか!?」


 義父がまだ助かると聞き、俺は安堵する。なによりも、それが気がかりだったから。


 ……それなら、やるだけやってみるか。どちらにせよ、戦うつもりだったしな……

 俺はそう思い、剣を取る。


「ケッなまくらデ、何がデキル」


 生き残りの怪物が舐めてかかる。


「あなた特撮ヒーローとか好きと聞きましたけど、どうです? そんなヒーローみたいな気分じゃないですか」


 ……なんでそんなこと知ってるんだ。どこ情報なんだ。

 けど、確かにこの剣でこの状況ひっくり返す事ができるなら、それはヒーローみたいなものかも……


 ごくわずかだが、俺に浮かぶ感情……


      【楽】


「――!!」


 ガクッと急に俺は膝をつく。急に力がぬけたような気が……。


 ――その瞬間、突如として俺の背中から、緑色の巨大な鳥を模した、オーラのようなエネルギーが急速に放出された……


「ぐっ……」


 その間、俺は動けない。


「成功ですね。使い方を忘れ、封印されているような状態だった魔力が、これをきっかけに復活。今再び朱雀が飛翔したのです」


 九竜は感慨深く、その光景を見ていた。


 オーラがゆっくりと俺の中に戻っていくと……


「――?」


 動けなかった体が落ち着き、何事もなかったかのように体が軽くなった。


 自らの手のひらをジッと見ると……緑色のオーラがゆらゆらと手を、いや全身を包んでいた。

 おまけに、右の肩付近から透き通った翼が一つだけ生えていた。


 ……何がなんだかわからない、


 だがなにか、すごい力を感じる。

 ……これが、魔力なのかもしれない。

 まだふわっとした感覚でしかないのだが。


 ――はっきりいって、その間俺はスキだらけだった。だが怪物達はその間攻撃しようなどと思わなかったのか、ただただ驚いていた。


「なるほど、そういう事かい。フフフ」


 ローベルトはなにかに納得するように不敵に笑う。


「お前たち何ビビっているんだい。早くその子を始末しな。戦わないというなら、今君達をここで吾輩が始末するよ」


 ニヤニヤしながら部下の怪物共を脅す。


「ヒャ、ハ、ハイ!」


 怪物共は脅しにビビり、行動開始。

 一斉に襲いかかってくるが――


 ……? なんか奴らの動きが遅く感じる。


 反応速度が上がったのだろうか?

 俺の目には、この怪物たちが、スローモーションでかかってくるように見えていた。


 巻き込むといけないので、とりあえず妹達から離れ、怪物達を自分の方へと引き寄せる。


「ニゲルな!」


 案の定奴らは追ってくる。


「別に逃げやしない」


 皆を巻き込まない位置まで引き寄せると、すぐさま剣で斬りかかる。

 その動きに怪物達はまったく反応できなかったようだった。


 そして俺の斬撃は、豆腐を切るかのように、あっさりと怪物達を切り裂いた。


「ヌギャアアアア!」


 怪物達の断末魔。


 こんなあっさりと!?

 自分自身、そう驚かずにいられなかった。怪物がいとも簡単に仕留められたのだから……


 この剣がすごいのか?

 ……というか重さもろくに感じない。持ってるという感覚がないほど。



 あまりにも軽く、切れ味抜群……。とてつもない剣だ。

 あまりに現実味のない剣……


 これに先ほどのオーラ、もとい魔力を集中したら、どうなるだろうか?


「クソ! かかれ!」


 怪物全員が飛びかかってくる……


 俺は剣に魔力を集中する。

 やったことないはずなのに何故か……できた。


 剣先に緑のオーラが、集まる。


 そして剣を軽く振り上げると……


 緑色の風の刃が飛び出し、怪物をまるごと全員一刀両断!


「「ギィヤアア!」」


 血しぶきが舞い、怪物がバラバラになって散っていく。

 あまり見るにたえない光景……

 普段は苦手だが、今のこの状況のおかげか、特に気にせずにすんだ。


 ……あっさりと全滅させてしまった。


 自分自身、恐怖を感じかねない力だった。なんなんだ一体……


 パチパチと大きく拍手しだすローベルト。


「いやあ素晴らしい。どうやらただの青少年ではなかったようだねえ」


 ……あまりに気に入らない態度。

 俺はそんなローベルトを指差す。


 すると突然地中から、樹木が生えてきて、ローベルトの体を縛りあげる。なんとなくやったことなのだが、体が覚えてるかのように、特殊な技が出た……


 これが体が覚えてるというものなのか?


「おや動けないね」


 焦りを感じずにローベルトは言った。だが完全に奴の身動きを封じたはず。


「さ、とどめをさしてやってください」


 九竜が急かしてきた。


 剣に集中した魔力が、突然烈風を引き起こす。

 無意識にやったことなのか、剣が自ら動いたのか、はたまた魔力の性質かはわからないが……


 急に頭によぎった名前を……口にだす。


絶華ぜっか一閃いっせん


 すると烈風が剣の形をつくり、伸びる。

 烈風の剣の一撃が自動的にローベルトへ向かっていく。


 ――まてよ、これ殺してしまうか?


 今までの怪物と違い、人間の容姿をした存在。人間の可能性もあるんじゃないか?

 ……憎たらしい相手だし、二度とこんな事を起こさせないためにも、始末するのは正しいこと……

 だが殺すのは少しためらいが、


 ――ザン! と、何かを切り裂いた音が鳴り響く。そう思うのは遅かった。

 もう切ってしまっていた……


 音の後にローベルトの体が真っ二つ……になったのだが。


 その瞬間スライムのように、全身が溶けきってしまった。


 ……一体どういう事なのだろうか?


「あら。どうやら人形だったみたいね」

「人形?」

「ええ。本物がダミー用に作ったものでしょう。本体はこの辺にはいなそうね」


 ようするに、ローベルト本人ではないらしい。偽物を操り、この場に来ていたというのだろうか?

 ……慎重な男だ。


「まあ親玉はいずれ捕らえるとして、とりあえずお疲れ様です」


 ニコリと笑いかけてきた九竜。

 その笑顔は大変美しく、多くの男性を虜にするかもしれない。花も恥じらうとはこの事なのだろうか?


 ……俺は興味ないが。


「そんなことより水、……いや、父を治してくれるんですよね?」

「ええもちろん」

「あと友人の治療も任せても?」

 

 すぐに倒されてしまった北山を見る。気絶してるだけと思うが……


「かまいません」


 ホッと胸をなでおろす。


 とりあえず皆無事で、誰も死ななかった。それはとても喜ばしい事……


「お、お兄?」


 莉羅が目をさます。

 俺は優しく声をかける。


「大丈夫か」

「あ、あれ、た、助かったの?」


 キョロキョロ見回し、怪物達がいないことを確認している莉羅。


「ああ。もう、大丈夫……」


 と、安心させた瞬間、莉羅は俺に抱きついてくる……

 ……らしくないな。


「どうした。怖かったか?」

「うん」


 やけに素直だ……


 ひねくれた妹と思っていた俺としては、少し意外というか、あっけにとられるというか。とはいえ茶化す気など毛頭ない。


「だってまた、家族が死んじゃうかもとおもったんだもん」


 ……うちの家族は実の父と兄が亡くなっている。


 莉羅にとってのもう一人の神邏あにと、新しい家族が死ぬかもしれなかったわけだ。もう家族が死ぬのは見たくなかったのだろうな……


「私のせいでおじさんや、お兄まで死んじゃったりしたら……。私自身が呪われてるんじゃないかって不安にもなって……」


 呪われてる。非科学的な事を想像し、自分に責任があるのではと思い込んでいたのだろうか?


「別に二人の死も今回の件も、お前のせいじゃないって」


 頭を撫でてあげる。……こんなこと、だいぶしてなかったな。

 莉羅は震えて泣いている。


 生意気言っても、女の子だもんな……

 ホントに怖かったんだろう。


「兄妹愛、確かめあってる所悪いですけど、怪我人をどうにかしたら例の件についてお話いいですかね」


 九竜が呆れるように言った。


「……ええ。こっちも少し知りたいことがあるんで」


 自分の身に起きたこと。

 今回の敵について。

 そもそもあんたは何者なのか。


 気になることはいくつもあった。 


 ――つづく。


「神邏くんの身になにがあったのか、これから彼にどんな試練が起きるのか……とても心配ですね」


 ………?


「あ、私はこの物語のヒロインのルミアちゃんで~す! 一話では出番なかったですけど、メインヒロインなのでよろしくお願いしますね。これから次回予告と一言、私が毎回話すのでお楽しみに~」


「次回 四聖獣朱雀。神邏くんの事ですね」




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