第一話 朱雀推参 Part2
俺達が通う高校は中高一貫校。名は
なかなか大きい高校で、生徒数もそこそこ多い。部活もわりと強いところもあるらしい。
……俺は帰宅部だから関係ないのだが。
♢
いつものように、普通に、真面目に授業を受ける日常。
物騒な話は最近あるが……まあ、自分達には関係ないだろう。……そう軽く考えていた。
それは何も俺だけではないはず。テレビのニュースで見たり、聞いたりした事件なんて、だれも身近になど感じないだろうし。
だが今回は近所の話。人殺しが出たとかではないが、行方不明者が数人出ている……
それでも必要以上に気にするものは少ないと思う。
治安が良かった分、平和ボケしてるものが多いというのもあるのかもしれない。
所詮他人事……
そう思っても仕方ない。
――昼休み。
俺は友人達と食堂で、昼食をとっていた。
「なあなあみんな」
友人の一人、
……食べるかしゃべるか、一つにしろ。
北山はやや目つきが悪く、不良に見えがちな顔つき。とはいえ当人は明るく気のいい男。
背は190を越えており、ガタイはしっかりしてる。別に部活とかはやっていないのだが。
「最近よく聞く、行方不明事件。――どう思うよ」
「どうって何が?」
と、友人の女子。
「隣町で数人、行方不明になってるらしいけどよ~。なんか警察多くね?」
窓の外を見回す北山。確かに、最近よく見る。
「別に多いなら安全じゃん」
「そうでゲスね~。」
「う、うん」
他の友人達は、それがどうしたって態度。
「隣町じゃなく、なんでこの町に多いのかって話よ。オレが思うに、行方不明事件の犯人でも、この町に逃げ込んでんじゃねえか?」
と、ドヤ顔を見せる北山だか……
「それならもっと大騒ぎにでもなってんじゃん? 別に騒ぎにはなってないし、もしそうならもっと警察いるでしょ」
と、論破された。
否定されるとは思ってなかった北山は頭をかく。
「えぇ……間違いねえと思ったんだけどな。美波はどう思うよ、同じ考えか?」
――この時、俺は少し上の空だった。だが、はっとしてすぐに答える。
「……え? ああ、どうだろうな。まあ用心のため、しばらく登下校合わせるか……?」
と、提案してみる。
すると友人は北山をこづく。
「ほら北山がよけいなこというから、変に心配になってんじゃん」
「あ、いやそんなつもりなかったんだが……」
平和ボケしすぎるのもよくないだろうから、慎重になるのも悪くない。そう思っただけだ。
けして北山は、よけいな事を言ったわけではない。
妹二人も心配だし、これからは常に一緒がいいかもしれない。
ただ、莉邏は嫌がるかもな……
♢
――下校時間。
友人に待ってもらい、妹二人を呼びに中等部へ来たのだが……
キョロキョロしてる、詩良里ちゃんを俺は発見する。
詩良里ちゃんはこちらに気づくと、
「あ、おにいちゃん。莉羅、先に一人で帰っちゃったみたい」
昼休みにちゃんと妹二人に、下校を合わせると伝えていたのに……。どうやら無視されたようだ。
「……ちゃんと待ってろと、言ったんだがな」
「ごめんね。詩良里が目を離したすきに……」
「いや、気にしなくていいよ」
と、俺は詩良里ちゃんに優しく言った。
あいつにも困ったものだな……
まだ明るいし、大丈夫だとは思うが……
◇
俺は皆で下校した後、詩良里ちゃんと、遊びに来た北山と共に、自分の家に着く。
玄関のドアノブに手を掛けるが、開かない。
鍵がかかっている……
ということはつまり、
「莉羅、まだ帰ってないのか?」
「え、だいぶ前に先に帰ったのに?」
……なぜか胸騒ぎがする。
「……しよちゃん、俺は少し探してくるから、家で待っててくれないか」
鍵を開けて、家に入るようにうながす。だが詩良里ちゃんは、
「え、なら詩良里も……」
「……何かあったとしたら危ないし、待っててほしい。それと水斗さんが帰ってきたら、この事報告して。俺が連絡もせず、しばらく戻ってこなかったら、警察へ連絡も頼みたい」
「で、でも……。う、うんわかった」
納得いかなそうだが、しぶしぶ頷いた詩良里ちゃん。報告する者が必要なことも、わかるからだろう。
「美波、俺も手伝うぜ」
北山が協力を申し出てくれた。
……ありがたい。
「助かる」
俺達は荷物を家に放り投げる。
「……じゃあ行ってくるけど、ドアの鍵に部屋の窓とか、全部閉めて家で待っててほしい。誰か来ても居留守していいから」
「うん。気をつけてね、おにーちゃん」
俺は軽く頷き、家を出る。
「とりあえず来た道、戻るか?」
「そうだな……」
北山の提案にのる。
通学路を歩いてる時に、誘拐なりされたなら、その周辺が怪しいだろう。……ただ寄り道しただけなら、今その辺歩いてるかもしれないし。
そう思い、走り出した。
♢
それからあまり人気のない道に、俺と北山はたどり着く。
「こういう所だと、人さらいあっても気づかれづらいかもな」
北山の発言にはっとする。
そういう道があったことなど、考えたこともなかった……
平和ボケの弊害なのか?
……これから妹二人は、もう少し人気のある道で帰るよう、言ったほうが良さそうだ……
周りを見渡す……
人の気配は感じない。
「つーか、そもそも攫われたとしたらもう、この辺にはいねえかもな」
「……」
……あまり考えたくないことだった。ホントに攫われたのだとしたら……
周辺を歩き回り、探す。
すると大きな大樹が目に入る……
だからなんだと思うはずだが、突然俺は何を思ったか、その大樹の前でふと立ち止まる。
「……」
……俺自身、何故かはわからないが、ジッと大樹を見つめている。
風にあおられ葉が揺れる……
なにか……大樹が何かを伝えようとしているように感じる。
何を思っていると言われそうだが、俺はそうとしか感じなかった。
そして、大樹の葉が散る。
その1枚1枚が重なり、矢印を作り出す……
木が探し人は、この矢印の先にいる。と、言いたいかのように葉が道筋を示してくれた。
「北山、ちょっとついてきてくれ」
「ん? 怪しい場所でもあったか?」
「……ああ。わからないが行ってみよう」
矢印を俺達は辿り向かう……
――莉羅side。
神邏達が家に着く、数十分前……
莉羅の帰宅中に時は戻る。
「たく、いちいち気にしすぎだよ」
莉邏は危険なんてないと、高くくって一人で下校していた。
……今現在近くに、あまり人の影がない。
強がってはみたものの、少し不安になってきていた。
風の音、空き缶が転がる音。
そんなささいな音にまで、敏感になってしまっていた。
「ら、らしくないわね。あたしはホラー映画とかもビビらず、見れる女よ」
脇をしめ、キョロキョロして、少し挙動不審に歩いてる。
この道、住宅や店が少ない……
あるのは畑や木々くらい。おまけに今なんの偶然か、人もいない。何かあってもすぐ人、来てくれないかも……
「い、いやまだ明るいし……」
後ろから、地面をける足音が聞こえた。
……誰か後ろにいる。
早歩きしてみる。
すると後ろの足音も早くなってきた。
「う、嘘でしょ」
走る!
後ろの足音も走り出す音に変わる!
全力で走ろうとするも、時すでに遅し……
腕をつかまれた!
悲鳴をあげ、暴れようとしようとした瞬間――
「……君、一人?」
相手の顔を見上げると……
――警官だった。
内心ホッともしたが、イラッともした。脅かすなよと。
「今この辺物騒でね、一人で出歩くのは、」
「あーはいはい、気をつけますって」
「危ないヨ」
声が急に変わった気がした。
ろくに顔を見てなかった警察の顔を、確認しようと顔を上げると。
そこには世にも恐ろしい形相の、牛か、鬼のような怪物の顔が……
あまりの衝撃な光景に、莉邏は急に気を失った……
「フフフ連れていけ」
警察が集まってくる……
全員怪物の仲間のようだ。
「ちょっと!」
そんな連中に誰かが、大きな声で叫びかけた。
声をあげたのは義理の父親、水斗だった。天馬を抱っこしながら立っている。
どうやら一部始終見ていたようだ。
「あの! 何してるんですか? そこで倒れかけてる女の子、自分の娘に見えるんですけど」
水斗は息子の保育園へのお迎えの後、子供たちの通学路を通りかかったのだ。
そんな折、たまたま義理の娘が見えたと思ったら……
「聞いてるんですか? 自分の娘なんですよ、離れてくれませんかね!」
「面倒だ。他に誰もいないし、こいつも連れてけ」
「え?」
警察全員の姿が、異形の者へと変わっていく。
明らかに人間ではない、妖魔のような、鬼のような化け物。
こんなもの間近で見たら、恐怖で腰を抜かすなり、動けなくなるなり、はたまた悲鳴をあげて逃げ出すだろう。
だが、水斗はそのどれもしなかった。まず息子を下ろしてから、
――動く!
「む、娘を、返せ!」
拳をあげて、莉邏を助けに走り出したのだ。
もちろん驚いたし、恐ろしい気持ちもいっぱいだった。だがそんなことよりも、娘を助けないといけない……
それしか彼の頭にはなかったのだ。
しかしただの人間が、たった一人でどうにかできるはずはなく……
◇
「――はっ!」
莉邏は目を覚ます。
周囲を確認すると、どこかの倉庫のような景色だった。
特に今は使われてないような所だろうと思われる。
周囲を見渡すと、近くに気絶している水斗と、
「うわ~ん! あ~!」
泣きわめく天馬の姿が、確認できた。
「アーうるせえなア!」
大声が鳴り響く。
声がした方角を見ると……。異形の怪物が6体。
悲鳴も出ないほど、恐怖を感じる。今にも失禁してしまいそうな莉羅。
「う、う~ん」
水斗が目を覚ます。そしてすぐ、状況を把握。
「は、りっちゃん! だ、大丈夫かい!」
と、大声をだしたら、奴らにやられたのだろうか? 体の節々が痛みだす水斗。
「あっ! が、うう……」
「ちょ、だ、大丈夫……?」
「う、うんだ、大丈夫さ、こ、このくらい」
口から血がにじんでいる。
けして大した事ないわけない。
「よく分かんないけど、なんでいるの?」
「君が連れ去られそうな所を、見てね」
「は、はぁ? 天馬いるところみると、迎えの帰りでしょ? なんでこの子連れて逃げないのよ……」
少し困惑気味な莉羅。
水斗は幼い我が息子を見ると、
「確かに、天馬には悪いことしたかもね。でもそんなことしたら、りっちゃんが連れてかれてしまうし……」
「いや結局連れてかれてるし」
「う、情けないよね……」
でもなんか気が抜けて、少し落ちつけた莉羅。
怪物の姿も見なれたし、多少冷静に物事を判断できる状態に、二人はなれた。
二人共縛られたりしてはいなかった。
だから今すぐにでも走って、逃げることはできなくもない、が。
「まあ入口閉めてるよね」
倉庫は閉め切られているため、スキをついて逃亡……
なんてことは無理。
どうしようか考える……
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