第一話  朱雀推参 Part2

 俺達が通う高校は中高一貫校。名は麒麟寺学園きりんじがくえん。そのため莉羅も、詩良里ちゃんも同じ学校。


 なかなか大きい高校で、生徒数もそこそこ多い。部活もわりと強いところもあるらしい。


 ……俺は帰宅部だから関係ないのだが。





 いつものように、普通に、真面目に授業を受ける日常。

 物騒な話は最近あるが……まあ、自分達には関係ないだろう。……そう軽く考えていた。


 それは何も俺だけではないはず。テレビのニュースで見たり、聞いたりした事件なんて、だれも身近になど感じないだろうし。


 だが今回は近所の話。人殺しが出たとかではないが、行方不明者が数人出ている……


 それでも必要以上に気にするものは少ないと思う。


 治安が良かった分、平和ボケしてるものが多いというのもあるのかもしれない。


 所詮他人事……

 そう思っても仕方ない。



――昼休み。



 俺は友人達と食堂で、昼食をとっていた。


「なあなあみんな」


 友人の一人、北山乱きたやまみだれがご飯を口につっこみながら、話し出した。

 ……食べるかしゃべるか、一つにしろ。

  

 北山はやや目つきが悪く、不良に見えがちな顔つき。とはいえ当人は明るく気のいい男。

 背は190を越えており、ガタイはしっかりしてる。別に部活とかはやっていないのだが。


「最近よく聞く、行方不明事件。――どう思うよ」

「どうって何が?」 


 と、友人の女子。


「隣町で数人、行方不明になってるらしいけどよ~。なんか警察多くね?」


 窓の外を見回す北山。確かに、最近よく見る。


「別に多いなら安全じゃん」


「そうでゲスね~。」


「う、うん」


 他の友人達は、それがどうしたって態度。


「隣町じゃなく、なんでこの町に多いのかって話よ。オレが思うに、行方不明事件の犯人でも、この町に逃げ込んでんじゃねえか?」


 と、ドヤ顔を見せる北山だか……


「それならもっと大騒ぎにでもなってんじゃん?別に騒ぎにはなってないし、もしそうならもっと警察いるでしょ」


 と、論破された。

 否定されるとは思ってなかった北山は頭をかく。


「えぇ……間違いねえと思ったんだけどな。美波はどう思うよ、同じ考えか?」


 ――この時、俺は少し上の空だった。だが、はっとしてすぐに答える。


「……え?ああ、どうだろうな。まあ用心のため、しばらく登下校合わせるか……?」


 と、提案してみる。

 すると友人は北山をこづく。


「ほら北山がよけいなこというから、変に心配になってんじゃん」

「あ、いやそんなつもりなかったんだが……」


 平和ボケしすぎるのもよくないだろうから、慎重になるのも悪くない。そう思っただけだ。


 けして北山は、よけいな事を言ったわけではない。

 妹二人も心配だし、これからは常に一緒がいいかもしれない。


 ただ、莉邏は嫌がるかもな……





 ――下校時間。


 友人に待ってもらい、妹二人を呼びに中等部へ来たのだが……

 キョロキョロしてる、詩良里ちゃんを俺は発見する。

 詩良里ちゃんはこちらに気づくと、


「あ、おにいちゃん。莉羅、先に一人で帰っちゃったみたい」


 昼休みにちゃんと妹二人に、下校を合わせると伝えていたのに……。どうやら無視されたようだ。


「……ちゃんと待ってろと、言ったんだがな」

「ごめんね。詩良里が目を離したすきに……」

「いや、気にしなくていいよ」


 と、俺は詩良里ちゃんに優しく言った。


 あいつにも困ったものだな……

 まだ明るいし、大丈夫だとは思うが……





 俺は皆で下校した後、詩良里ちゃんと、遊びに来た北山と共に、自分の家に着く。


 玄関のドアノブに手を掛けるが、開かない。

 鍵がかかっている……

 

 ということはつまり、


「莉羅、まだ帰ってないのか?」

「え、だいぶ前に先に帰ったのに?」


 ……なぜか胸騒ぎがする。


「……しよちゃん、俺は少し探してくるから、家で待っててくれないか」


 鍵を開けて、家に入るようにうながす。だが詩良里ちゃんは、


「え、なら詩良里も……」

「……何かあったとしたら危ないし、待っててほしい。それと水斗さんが帰ってきたら、この事報告して。俺が連絡もせず、しばらく戻ってこなかったら、警察へ連絡も頼みたい」

「で、でも……。う、うんわかった」


 納得いかなそうだが、しぶしぶ頷いた詩良里ちゃん。報告する者が必要なことも、わかるからだろう。


「美波、俺も手伝うぜ」


 北山が協力を申し出てくれた。

 ……ありがたい。


「助かる」


 俺達は荷物を家に放り投げる。


「……じゃあ行ってくるけど、ドアの鍵に、部屋の窓とか、全部閉めて家で待っててほしい。誰か来ても居留守していいから」

「うん。気をつけてね、おにーちゃん」


 俺は軽く頷き、家を出る。


「とりあえず来た道、戻るか?」

「そうだな……」


 北山の提案にのる。


 通学路を歩いてる時に、誘拐なりされたなら、その周辺が怪しいだろう。……ただ寄り道しただけなら、今その辺歩いてるかもしれないし。


 そう思い、走り出した。



 ♢



 それからあまり人気のない道に、俺と北山はたどり着く。


「こういう所だと、人さらいあっても気づかれづらいかもな」


 北山の発言にはっとする。

 そういう道があったことなど、考えたこともなかった……

 平和ボケの弊害なのか?


 ……これから妹二人は、もう少し人気のある道で帰るよう、言ったほうが良さそうだ……


 周りを見渡す……

 人の気配は感じない。


「つーか、そもそも攫われたとしたらもう、この辺にはいねえかもな」

「……」


 ……あまり考えたくないことだった。ホントに攫われたのだとしたら……


 周辺を歩き回り、探す。

 すると大きな大樹が目に入る……



 だからなんだと思うはずだが、突然俺は何を思ったか、その大樹の前でふと立ち止まる。


「……」


 ……俺自身、何故かはわからないが、ジッと大樹を見つめている。


 風にあおられ葉が揺れる……


 なにか……大樹が何かを伝えようとしているように感じる。

 何を思っていると言われそうだが、俺はそうとしか感じなかった。


 そして、大樹の葉が散る。

 その1枚1枚が重なり、矢印を作り出す……

 木が探し人は、この矢印の先にいる。と、言いたいかのように葉が道筋を示してくれた。


「北山、ちょっとついてきてくれ」

「ん?怪しい場所でもあったか?」

「……ああ。わからないが行ってみよう」


 矢印を俺達は辿り向かう……



 ――莉羅side


 神邏達が家に着く、数十分前……

 莉羅の帰宅中に時は戻る。


「たく、いちいち気にしすぎだよ」


 莉邏は危険なんてないと、高くくって一人で下校していた。


 ……今現在近くに、あまり人の影がない。


 強がってはみたものの、少し不安になってきていた。


 風の音、空き缶が転がる音。


 そんなささいな音にまで、敏感になってしまっていた。


「ら、らしくないわね。あたしはホラー映画とかもビビらず、見れる女よ」


 脇をしめ、キョロキョロして、少し挙動不審に歩いてる。


 この道、住宅や店が少ない……

 あるのは畑や木々くらい。おまけに今なんの偶然か、人もいない。何かあってもすぐ人、来てくれないかも……


「い、いやまだ明るいし……」


 後ろから、地面をける足音が聞こえた。


 ……誰か後ろにいる。


 早歩きしてみる。


 すると後ろの足音も早くなってきた。


「う、嘘でしょ」


 走る!


 後ろの足音も走り出す音に変わる!


 全力で走ろうとするも、時すでに遅し……

 腕をつかまれた!


 悲鳴をあげ、暴れようとしようとした瞬間――


「……君、一人?」


 相手の顔を見上げると……


 ――警官だった。


 内心ホッともしたが、イラッともした。脅かすなよと。


「今この辺物騒でね、一人で出歩くのは、」

「あーはいはい、気をつけますって」


「危ないヨ」


 声が急に変わった気がした。


 ろくに顔を見てなかった警察の顔を、確認しようと顔を上げると。


 そこには世にも恐ろしい形相の、牛か、鬼のような怪物の顔が……


 あまりの衝撃な光景に、莉邏は急に気を失った……


「フフフ連れていけ」


 警察が集まってくる……

 全員怪物の仲間のようだ。


「ちょっと!」


 そんな連中に誰かが、大きな声で叫びかけた。

 声をあげたのは義理の父親、水斗だった。天馬を抱っこしながら立っている。

 どうやら一部始終見ていたようだ。


「あの!何してるんですか?そこで倒れかけてる女の子、自分の娘に見えるんですけど」


 水斗は息子の保育園へのお迎えの後、子供たちの通学路を通りかかったのだ。

 そんな折、たまたま義理の娘が見えたと思ったら……


「聞いてるんですか?自分の娘なんですよ、離れてくれませんかね!」

「面倒だ。他に誰もいないし、こいつも連れてけ」

「え?」


 警察全員の姿が、異形の者へと変わっていく。


 明らかに人間ではない、妖魔のような、鬼のような化け物。

 こんなもの間近で見たら、恐怖で腰を抜かすなり、動けなくなるなり、はたまた悲鳴をあげて逃げ出すだろう。


 だが、水斗はそのどれもしなかった。まず息子を下ろしてから、

 ――動く!


「む、娘を、返せ!」


 拳をあげて、莉邏を助けに走り出したのだ。


 もちろん驚いたし、恐ろしい気持ちもいっぱいだった。だがそんなことよりも、娘を助けないといけない……

 それしか彼の頭にはなかったのだ。


 しかしただの人間が、たった一人でどうにかできるはずはなく……





「――はっ!」


 莉邏は目を覚ます。


 周囲を確認すると、どこかの倉庫……?のような景色だった。


 特に今は使われてないような所だろうか?あまり物もないので、そう思われた。


 周囲を見渡すと、近くに気絶している水斗と、


「うわ~ん!あ~!」


 泣きわめく天馬の姿が、確認できた。


「アーうるせえなア!」


 大声が鳴り響く。

 声がした方角を見ると……。異形の怪物が6体。


 悲鳴も出ないほど、恐怖を感じる。今にも失禁してしまいそうな莉羅。


「う、う~ん」


 水斗が目を覚ます。そしてすぐ、状況を把握。


「は、りっちゃん!だ、大丈夫かい!」


 と、大声をだしたら、奴らにやられたのだろうか?体の節々が痛みだす水斗。


「あっ!が、うう……」

「ちょ、だ、大丈夫……?」

「う、うんだ、大丈夫さ、こ、このくらい」


 口から血がにじんでいる。

 けして大した事ないわけない。


「よく分かんないけど、なんでいるの?」

「君が連れ去られそうな所を、見てね」

「は、はぁ?天馬いるところみると、迎えの帰りでしょ?なんでこの子連れて逃げないのよ……」


 少し困惑気味な莉羅。

 水斗は幼い我が息子を見ると、


「確かに、天馬には悪いことしたかもね。でもそんなことしたら、りっちゃんが連れてかれてしまうし……」

「いや結局連れてかれてるし」

「う、情けないよね……」


 でもなんか気が抜けて、少し落ちつけた莉羅。


 怪物の姿も見なれたし、多少冷静に物事を判断できる状態に、二人はなれた。


 二人共縛られたりしてはいなかった。


 だから今すぐにでも走って、逃げることはできなくもない、が。


「まあ入口閉めてるよね」


 倉庫は閉め切られているため、スキをついて逃亡……

 なんてことは無理。


 どうしようか考える……



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