第66話  決勝始まる

四人の会話を聞いていた男、それは……


やや長めの青い前髪。

端正な顔立ちをしたこの男は、



青龍、東龍次だ。


東国はそんな東の容姿を、じろじろと目文するように眺めて聞く。


「…たしか、青龍よねあなた」

「御名答。東って言うんだ。よろしく」


キザったらしくピース。


「いやあ、天界も権力争いしてたりするんだね。まあおかしな話でもないか」

「聞かれちゃマズイ話してたわけでもねえから、どうでもいいけどさ、一応朱雀や司令には黙っておいてもらえるかね?」


沼坂は眉間にシワをたて、まるでヤクザかのような態度で凄む。

対し東は怯むどころか不機嫌そうに、


「別にどうでもいいんだけど、なんか気に入らないから言っちゃおっかな〜」


と、東はくるりと振り返った瞬間、彼の足が地中に沈みだす。


「へ?」

「こっちもてめえの態度が気に入らねえわ。ってなわけで少し痛い目見てもらおうか?」


まるで底なし沼に落ちたかのように、ズルズル沈んでいく東。

沼坂の能力だろうか?


「抜け出す事は不可能だぜ?どうする?泣いて謝るか?」


足をだんだん踏みつけ、威嚇するように問う沼坂。

東は、両手を上げ、軽く呆れるようなポーズ。


「…アホくさ。こんな下らない能力で僕をやれると思ってるの?」

「は?」

「凍れ」


東は沈みゆく地面を全て、一瞬で凍りつかせてみせる。

地面が氷と化したことにより、沈む事はなくなる。

そしてその氷をぶち割って、あっさりと脱出。

あまりにもあっさりと脱出されたため、沼坂は驚愕。


「な!なにい!?」

「何驚いてんの。この程度で」

「と、東国!」


沼坂の合図に東国弓は動き出す。


武器の弓を、どこからともなく取り出し、矢を東めがけて放つ。


東は首だけ動かして回避。

東国は続けて何発も放つが、全て回避。


…だが!


放たれ避けられた矢は、くるりと反転し、背後の東めがけてまた飛んでいく。


「何、追尾?めんどいな」


東は振り向きもせずに、背後から矢が襲って来ることに気づき、後ろに向かって手を伸ばす。


すると矢は全て凍りついて、すぐ砕けた。


「嘘!ウチの百発百中オールヒットがあっさりと防がれるなんて!」


東国は信じられないような表情。


「名前からして、どこに放とうが絶対当たるみたいな能力かな?そんな力あるならもっと強力な技でも作れば?」


能力の推察のあと、バカにするかのような態度の東。

実際見下しているのだろう。

沼坂と東国の天界軍の上位ランカークラスの能力を、あっさりと防いだのだ。

この程度か、と思ってもおかしくない。


「こっちばかりやられっぱなしなのも癪だし、反撃でもしよっかな?」


東が一歩前に出ると、沼坂と東国の二人は後退りする。

明らかな実力差を感じ、先程とは一転し、恐怖を少しおぼえたのだろう。


東は二人に標準を合わせ、指をはじく。


すると二人が反応できないほどの高速で、氷の弾丸が放たれた。


弾丸は、二人の顔の肌をわずかにかすめる。

ほんの少しの切り傷と、微量の出血。


「今はわざと外したんだけど、君ら程度なら頭にでも当てれば、貫通して死んじゃうかもね」


東の魔力の圧を感じる。

二人はビビって尻もちついてしまう。


「あ、あ、ま、待てよ!わ、悪かった!」

「え?なに?聞こえないや」


沼坂の謝罪に聞く耳持たずに、近づこうとする東。


すると背後から肩を掴まれる東。


「まあ待ち給えよ」


鏡だ。いつの間にか東の背後に、奴はいた。


「すまなかった。あの二人にはちゃんと言って聞かせるから、勘弁してもらえないだろうか?」


…東は謝罪する鏡を睨みつける。


わずかな時間、二人は視線を合わせて動かない。

そして東は言う。


「…まあ、いいか。この程度で怒るのも大人げないしね。とはいえまだ子供なんだけど」

「わかってくれて幸いだ」


ニコリと笑う鏡。


「…あんた名前は?」

鏡凛月かがみりつき一応十三キングだ」

「ふ~ん……。憶えとくよ。天界軍にも骨のある奴いたんだね」


東はテクテク歩いて去っていく。




「鏡、お前ならやれたろ……なんで」

「どうだろうな。あの青龍、かなりやるようだし。互いにただではすまないかもしれん」

「まさかそんな……。おめえに限って」

「だがまあ……いずれ奴とは戦う運命にある。そんな予感がするな。確率では測れないが」





――神邏side。


「「ついに、ついについについについについに!!始まります決勝戦!サウス対岩絶!優勝し、帝王軍への入隊を決めるのは一体どちらなのか!」」


DJのアナウンスが響く。

決勝が始まる。


俺は、ルミアの用意した弁当を食べてる途中だった。


「…仕方ない。ルミ、後で食べるからとって置いてくれ」

「はい。もう少し休憩時間くれてもいいのに……」

「まあ、仕方ないさ」

「勝ち負けはどうでもいいですから、怪我しないでくださいね」


…どうでもよくはないがな。

無事を願ってくれるのは嬉しいけど。


「…まあ、死ぬような怪我はしないから」

「危なくなったら、棄権して下さいね」


俺は頷いて戦場へと向かう。



会場に入ると、観客の盛り上がりは最高潮。

大声が鳴り響き、耳障りだ。


…理暗はすでにリング上に立っている。


俺はゆっくりとリングに上がる。

そして対戦相手に話しかける。


「待たせたか?」

「いや?どうだ、オレの対策は練ってきたか?」

「…それなりにな」

「四聖獣同士の戦い、オレも楽しみなんだよ。血沸き肉踊る、激しい戦いを所望する」


殺気立ち瞳孔が開いてる。

戦いを前にして興奮してるのだろうか?

俺は少しだけ呆れ気味に、


「変わった奴……戦いが好きだなんてな」

「お前はすきじゃないと?それほどの実力を持ちながら」

「…俺が強いというのなら、その力は守るためにあるだけだ。別にそれを振りかざしたり、意味もなく誰かに振るおうとは思わんさ」

「オレから言わせれば、変わってるのはお前の方だ。他人のためにしかつかおうと思わないと?強大な力は、振ってこそ意味があるというのに」



得た力を人のためだけに使う俺。

持った力を自分のためだけに、戦うためだけに使う理暗。


まるで違う二人。


相反するがゆえに戦う運命だったのかもしれない……なんてな。



――観客席side。



「マズイ始まっちゃう!」


水無瀬が走って観客席につく。


「…全く、あの3人に捕まらなければ神邏とご飯食べられたのに」

「静かにしてくださいね」


隣の席にはルミアが。


空気が重い。


「…あまり気に入りませんけど、同じ神邏君を応援する同士ですし〜?ここは大人しく観戦しましょう」

「…そうね。許嫁、いえ未来の妻として、大人げない事はできないものね」

「未来の神邏君のお嫁さんは私ですけどね」


――女二人はピリピリムード。



一方少し離れた席では……


「あれあれ〜?決勝だったのに覇王陛下のご子息いなくない〜?」


前髪で目が隠れてる女子が、リングを眺めて言った。


「そ、そんなまさか。ハーベル殿下は……?」


リーゼントヘアーの、三ツ目の魔族がうろたえている。

そして電光掲示板に書いてある、トーナメント表を確認。


ハーベルは初戦で南城に破れた。

その為バツ印を付けられていた。


「な、な!?ハーベル殿下が負けたというのか!?亡くなられたのか!?応援団の奴らの姿もみえんし!」


応援団……

ハーベルを応援してた、ガラの悪い連中ならハーベルが焼き殺していたから、いないのは当然。


「負けたなら帰ろーよ……」


あくびして面倒そうにしている前髪の長い女は、その後、リングに目が止まる。


「…あれ?波ちゃん?」


リング上の神邏を見て、女は言った。

この女、神邏を知っているのだろうか?


覇王軍の者なのだろうが、一体何者……



つづく。


「決勝……。神邏君の勝利を願います!」


「次回 朱雀対玄武 いざ決戦!」



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