第65話 玄武闇盾
静まりかえる観客とDJ。
「な、南城……」
俺と水無瀬も唖然としていた。
こうもあっさりとやられるとは想定外だった。
水無瀬は冷や汗をたらして口を開く。
「…ホントにマズイ相手かもしれないわね。南城が疲弊させるどころか、一瞬でやられるなんて思わなかったわ」
「…あいつ、無事だよな?」
「そう簡単に死ぬような奴じゃないとは思うけど……」
沈んだ鉄球がいきなり消失する。
それにより凹んだ地形があらわに。そしてその穴の中には、吐血して気絶してる南城の姿が見受けられた。
理暗はそんな南城の姿を確認すると、
「…息はありそうだな。おい審判」
「「は、はい?」」
「この場合はテンカウントか?」
「「え、ええっとですねえ、どう見ても気を失ってますし、戦闘不能とみなします。よって勝者は岩絶選手!」」
勝者は決定した……
俺と水無瀬は南城の救助に向かう。倒れている南城を確認すると、腕が変な方向に曲がってる……
それ以外の骨も、何本か折れていそうに見える。
かなり重症かもしれない……
「「それでは準決勝第二試合……」」
「私は棄権する!」
水無瀬はDJに大声で宣言して、俺と共に、南城を控室に運ぶ。
「「え、ええ!?き、棄権?そんなことする人なんて、前代未聞なのですが…」」
ホントに棄権するの?と聞きたいところだったのだろうが、もうすでに水無瀬はいなくなっている。
「「ま、まあなら仕方ありませんな。では決勝はサウス対岩絶となります!少しの休憩の後、始めます!ついに次で優勝者がきまります。そして帝王軍への入隊の切符を手にするのは一体誰なのでありましょうか!」」
♢
控室に運び、直ちに天界の救護班により、治療をしてもらっている南城。
救護班によると命に別条はないとのこと。それがわかっただけでも大分安心だ。
俺と水無瀬は治療の邪魔になるので控室外にいる。
水無瀬は少し心配そうに、俺に問う。
「…勝算はある?」
「…どうかな。…まあ、やるだけやるさ」
「無理そうなら棄権するのもありよ。重要な任務だけど、朱雀であるあなたを失う事は天界にとってはかなりの損害よ。…私個人としてもね」
「まあ、俺も死にたくはないからな。ヤバくなったらそうする」
…試合を降りるつもりはない。
なんにせよ、ここで降りたらダストと南城はやられ損だ。
彼らのためにも無駄にはできない……
「降りるなんてつまらん事は、オレが許さん」
声がした方角を見ると、木田理暗の姿が……
「雑魚ばかりで飽き飽きしてたとこだ。やっとまともに戦えそうな相手と戦えると、ワクワクしてるところなんだからな」
「…俺などをずいぶん評価してるんだな」
「噂になってるぜお前。少なくとも人間界にいる魔族共からはな」
「…噂?」
「突如現れた四聖獣朱雀が、人間界では一大勢力となっていたローベルト集団を壊滅させた、厄介な敵とな」
今回の優勝候補達もそうだが、ローベルトも勢力を率いていた。
天界がわざわざ動くほどの勢力だったし、魔族達に一目置かれてても不思議じゃない。
そんな奴らを壊滅させたとなれば、嫌でも名は知れ渡るか。
「安心しろ。別に帝王軍の連中にチクるつもりはない。その代わりオレとは戦ってもらう。試したいんだよ、今の実力をな」
「…別に逃げるつもりはない」
「そうか。それなら安心だ。お礼に教えてやるよ。…オレの
「…なに?」
「
理暗の耳に付けられていたピアスが光る。
光は理暗の左手の中に向かい、形を作り出す。
大きい鉄板のような分厚さ……中央部に赤い宝玉、亀の甲羅のようなゴツゴツさをした、肩から足までも見えないほどの、大きな盾だった。
「
「…盾……か」
攻撃武器じゃないとは驚かされた。…だがだからといって油断はできない。
四聖獣の武器聖霊だ。
ただ守るだけの代物とは思えない。
「盾だと拍子抜けしたか?こいつの恐ろしさは決勝で教えてやる。…せいぜい楽しませてくれ。フフフ。はーっはっは!」
笑いながら去っていく理暗。
…理暗の姿が見えなくなるのを確認すると水無瀬はホッとするように言う。
「盾とは意外すぎる武器だったわね。…でも攻撃武器じゃないのなら」
「いや、なにかあると思う……」
「…そうね。四聖獣最強の玄武の武器がただの盾じゃないわよね」
どことなくシリアスなこの状況……
それを打破するかのように、
「し~ん~ら君!」
背後から、幼なじみの神条ルミアがそ~っと引っ付いてきた。
…彼女の凄まじい超爆乳が、俺の背に……
…冷静になれ。
「ルミか……どうした?」
無表情ながら、優しく声をかけた。気を張ってたさっきの状況とはうってかわって、穏やかな感情になる。
ルミアがいれば自然とそうなる。
「少し休憩なんですよね?お弁当作ってきてるんで、一緒に食べましょう〜」
彼女はニコニコ笑顔で、さらにギュッと引っ付く。
…さすがに照れる。
まあ確かに、食事をとるのも悪くはないか。
「…そうだな。行こう」
「あ、神邏!なら私も……」
ついてこようとする水無瀬だったが、ふと彼女は誰かに気づく。
視線の先には風見さんが連れてきてた三人。
その中の一人沼坂さんが水無瀬を手招きしてる。
「…呼んでるみたいですよ?」
ルミアがやや冷めた目で言った。
いいからそっち行ってろと言いたげに見えてしまう。
水無瀬としてはついていきたそうだが……
しぶしぶ三人の元へ向かうようだった。
「…ごめん神邏。ちょっと呼ばれたから。…後でね」
「…ああ」
とぼとぼ歩いてく水無瀬。
急用か?
「さ、行きましょう〜神邏君」
ルミアに腕を引っ張られ、その場から立ち去っていった。
水無瀬side。
三人と水無瀬だけになる。
「…なんです?せっかくの神邏とのランチタイムが……」
「わりーわりー」
両手を合わして軽く謝る沼坂。
本気で悪いと思ってるかは怪しい。
「ただよ、その許嫁さんを殿下の派閥に入るように、ちゃんと説得してるかなと思ってよ」
「…その話ですか。個人的には神邏をハメた過去がある、あんなクソボンボンの派閥なんてまっぴらゴメンなんですけどね」
「そうは言っても、そのクソボンボンの派閥に、お前の親が入ってる以上仕方ないべ。そして許嫁をそのよしみで入れろってだけよ」
嫌ってる素振りのある水無瀬はともかく、沼坂すらそれを咎めるどころか、真似して同じ事言う時点で、別に尊敬なりしてるわけではないようだ。その殿下とやらに。
「別にオレっち達だって、あんなバカを最高権力者でもある光帝になんざ据えたくねえよ?ただ殿下が光帝になれば、甘い汁すすれる可能性あんだから、お前にとっては悪くねえ話だと思うがな」
「そんな権力振りかざすような事、私は嫌いです。…あなた方は風見さんが実質的な権力者になれれば、それでいいのかもしれませんが」
どうやら光帝候補の派閥争いについての話をしているようだ。
水無瀬の言い分だと、その殿下とやらはろくでもない奴のようだが……
それに過去に神邏になにかした?
それは神邏が忘れた過去になにかしらあったという事だろうか?
「オレっちは詳しく知らんけどよ、過去にあった事朱雀は忘れてんだろ?なら都合もいいじゃねえのよ」
「私個人の気持ちとしても嫌なんですよ」
譲れないようだ。
一体殿下とやらはなにをしたのだろうか?
「ねえゆかりんそう言わないでよ。水に流してやれば?美波だって別に……」
「弓、友達だからって勝手な事は言わないでよ」
東国が言おうと聞く耳持たない。
「「へー天界もそういうゴタゴタあるんだね」」
この場の四人以外の声。
四人の会話を聞いていた者がいたのだ。その男を一斉に見る四人。
「あ、あなたは確か……」
…何故奴がここに?
つづく。
「なんか今回、私の性格悪そうに見えてるのは気の所為なので、気にしないでくださいね」
「次回 決勝始まる いよいよ……ですね~」
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