第62話  ベスト4出揃う

――神邏side。


「さすがね。…とでも言えばいいのかしら?」


水無瀬はリングから戻ってきた南城に言った。対し南城は不満そうに、


「…別に大したことねえだろ。むしろ手こずりすぎたくれえだ」

「まあそうね。わりとボロボロみたいだし。なんならここでリタイアしても構わないわよ」

「ほざいてろ」


そう言うと南城も席に座る。


――残る一回戦は魔族同士。

誰が勝ち上がろうがどうでもいいが、実力をチェックするチャンスではある。


「けっ、まさかホントに他の連中殺られるとは思わなかったぜ」


最後の優勝候補、巨人ドゥパンがボヤいた。


「賭けは負けってわけかよ」

「そういうこった。…って言っても何賭けるかも言ってなかったし。どうでもいいがな」


と南城。

試合前にした賭けの事だ。

今のところ、南城の言った通り優勝候補は三人散った。

ドゥパンは優勝候補全勝に賭けたから負けは確定してる。


「まあ他の優勝候補も所詮敵だしなあ。奴らが死んだのはどうでもいい事だ」


ドゥパンはリングに向かいだす。


「奴は最後の優勝候補。…ハーベル並みにやれる奴なら、警戒しといたほうがいいだろうな」

「そうね。まあでも他三人が倒せるレベルだったわけだし、あいつだけ桁外れに強いってことはないでしょ」

「わからねえぞ。ハーベルは前二人よりだいぶ強かったからな」


南城と水無瀬は警戒していた。


一方、俺はというと、

もう片方の相手を気にしていた。


ドゥパンの対戦相手のことだ。


俺のそんな様子に気づいた水無瀬は、


「あら?どうしたの神邏」

「いや、もう一人の……岩絶とかいう奴は、どうだろうなと思ってな」

「ただの魔族でしょう?聞いたこともない奴だし、大したことないわよ」

「…それでも予選を勝ち残った相手だ。…それに」


「「さあさあこの試合が終わればベスト4が出揃います!優勝候補筆頭、巨人ドゥパン選手に新生の岩絶選手の試合だあ!」」


DJが会話を遮る大声を放った。


対戦する二人はリングに上がる。

一人は三メートル越える巨人ドゥパン。

もう一人は少し小柄の男。

見た目だけならドゥパンが有利に見える。


いや、そもそもドゥパンは優勝候補。対する岩絶は無名だから、勝敗は大体の人は読めているだろうが。


「かるーく仕留めてやるよ。おチビさんよ」

「……」


岩絶は黙っているだけだ。


「「それでは試合始め!!」」


試合開始のコールが鳴ると共に、ドゥパンは動く。


「オラあ!」


ドゥパンは電気の塊みたいな物質を岩絶に当てる。


それ自体にはなんのダメージもなかった。

――だが、


「ふん!」


ドゥパンが拳を握ると、突然岩絶は引き寄せられる。


そして引き寄せられる岩絶に、カウンターぶつけるように、ラリアットをお見舞い!


その重い一撃は、骨をも砕きかねない一撃。えぐい音も鳴り響いたし。

そし直撃した岩絶はリング外へと弾き飛ばされる。


勢い余って、観客席下の壁に激突。壁は崩れ、瓦礫に埋もれていった。

…凄まじいパワーだ。


「なんて威力だ……。それに電磁力かあれは?」


南城は推測している。

その推測はおそらく正解。


あの電気の塊は磁力を固めたもの。それを受けた岩絶は、全身磁石のようになったんだと思う。

そして奴の能力で、磁石のように引き寄せられたわけだ。


「雷属性の魔力の使い手、それも磁力を使って身動きを封じ、強大なパワーでねじ伏せる。…厄介な相手になりそうじゃねえの」


ふと南城は俺を見だした

…その時の俺は冷や汗をかいていた。そんな様子を見て南城は少し呆れ気味。


「おいおいビビったのか?確かに厄介な奴ではあるが、らしくねえじゃねえか」

「…違う」

「その割には冷や汗すげえぞ?」


とてもビビってないとは言えない

そんな表情をしていたんだと思う。驚愕し、冷や汗をかくその姿は、とても何も感じて無いとは言えない。

…なのだが……


「お前でも恐れとか感じるのか?それとも、それほどの強大な力と思ったのか?」

「…そうじゃない」

「別に恥じる事はねえって。ビビることくらい」


南城にしては珍しく、励ましてるつもりだろうか?


「そうよ恥じる事なんてないわ。そういう感情がまるでない方がむしろ危ないし」


水無瀬も続いて擁護してくれるが、…そうじゃないんだ。


「…俺はただ、驚いたんだ。あいつに……」

「まあ面白い能力ではあるけど、あなたの敵じゃないでしょう?」

「…違う」


俺はわかりやすく、指差す。


「俺が言ってるのは…」



「吹き飛ばされた岩絶の事だ」


その発言の後、二人はすぐさま岩絶を確認。

奴はゆっくりと立ち上がり、リングへと戻ろうとしている。


「あいつ……が?なんかあんのかよ」


疑心暗鬼な南城。俺は説明する。


「…今の一撃がまるで効いてないのは当然として、…何故か感じるんだ」

「何をだよ」

「奴の底しれぬ魔力を……」


俺だけが感じる強大な魔力……なのだろうか?

元々相手の力量を感知する力は疎いほう。…そんな俺が何故そう思うのかはわからない。



「「おおっと立ち上がってきてます。さすがは予選突破した強者!」」


褒め称えるDJ。ドゥパンも軽く拍手している。


「やるじゃねえか。ならもう一発全力を……」

「いや、お前にもう一撃はない」


静かに、岩絶は言いきった。


「何故ならここから先、貴様は何もできずに、この俺に殺されるのだからな」


岩絶は魔力を開放する。

とてつもない魔力が、ドーム全てを覆い尽くす。


…これは予選前に感じた強大な魔力そのもの……

ローベルトすら上回る強大な……

※55話参照。


魔力は一つの形を作り上げる。

大きな亀。尾は蛇の……

こ、これは……


頭に血が登ったドゥパンは飛びかかる。


「舐めやがって殺す!」

「だから死ぬのは……お前だ」


どこからともなく、鎖付き鉄球を作り出す岩絶。

その鉄球に魔力を送り、放つ。


鉄球は凄まじい速度で、ドゥパンに向かっていく。

あまりの速度に避けきれず直撃。


「のがっ!!」


その衝撃で吹き飛ばされる

――が、

その背後にはまたも鉄球が……

そしてまた直撃!


「ごばっ!!な、いつの間に後ろに……」


また衝撃で吹き飛ぶと、またも飛んだ先に鉄球の姿が!

また直撃!そしてまた飛んだ先に鉄球!さらにまた!


「ごっ!ぎゃっ!な、なん、で」

「さっきの磁力をこの鉄球に埋め込んでやったのさ。…で、他の設置した鉄球に磁力を移動させていく。コレによりお前は、鉄球に引き寄せられ何回も何回も、無限ループするように鉄球地獄を味わうわけだ」

「た、助け、げぶっ!」

「お前らはそう言われて助けた人間なんぞいないだろ?そんな下らん事言うのやめるんだな。せいぜい地獄の鉄球アトラクションを……死ぬまで楽しみな!」


親指を下に突きつけ、後ろを向く。


血が舞う、肉片も……

速度が増していき、一撃の重さも上がっていく。

抜け出せない無限ループ。


グロいのが苦手な俺はもう見ていられなかった。


……時間が刻々と過ぎていく。


「ん?」


岩絶が状況を確認する。

するとぐちゃぐちゃになり、死体と化していたドゥパンが、確認できた。


「死んだか。なら離してやるか」


指を鳴らすと、鉄球と死体のドゥパンが落下した……


ワンテンポ遅れてからDJは、解説しだす。


「「あ、ああ!な、なんという結末!実況も忘れて呆然としてしまいました!優勝候補がな、なんと全滅!ベスト4は無名だけになってしまいました!」」


「勝敗は?」


「「あ、はい。勝者、岩絶選手!!」」


観客がざわつく。

優勝候補四人が全滅は予期せぬ事態。


賭けをしていた観客達は全員負け確定で荒れてる者もいる。

南城の勝ちもなくなったな。


「「今大会も前回大会のように、無名選手の優勝は決まってしまいましたね。それでも前回は、圧倒的実力差での優勝で、今回は拮抗した試合多いので、皆様お楽しみはできるでしょう!」」


DJはなんとか盛り上げようとしている。

賭けは負けでも試合内容は楽しめますよと言いたいのだろう。


とはいえ大損したものは楽しめなどしないだろうが。



岩絶は俺達の元へとやってくる。


「次誰が相手かはわからんが、せいぜい楽しませてくれな。


…どうやらこちらの素性はバレてるようだ。


「…あんた何者だ?あの魔力が型どったものは……」

「すぐに、わかるさ。あとオレの本名は木田理暗きたりあんという。その名前から察してくれ」


理暗は控室に去っていく……


木田………北?


まさか……



つづく。


「木田……北。……西、東、美波……南……あ、」


「次回 玄武登場 そういう事ですか……」

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