第60話  覇王の子供

ダストside。


選手控室。


そこになんとか生き延びた、ダストがいた。


この大会に治療班などいない。

死のうが、傷だらけになろうが放置だ。


そのため、一応あった控室で天界軍の者から治療を受けていた。

あいにく誰もいないから魔族の視線を気にすることもない。


「しかし情けない。あんなあっさりやられるとは。ローベルト一味の幹部とはいえ、この程度というわけですか」


♡の十三キング風見が座ってるダストを見下ろしながら、呆れた。


「悪かったよ。ご期待に添えられなくてよ」


素直にダストは謝った。少し拗ねたような態度で、さほど悪いと思ってなさそうにしているが。


「…にしてもわざわざどうしたよ。小生を心配してきてくれたのかい?」

「バカいいなさい。魔族などを心配などするわけがない」


一応仲間なわけだし、嘘でもそうと言うべき所なのだが、風見はそういう嘘は嫌いな様子。


「手厳しいねえ。じゃあなんの用よ。手勢と一緒にさ」


風見の後ろには3人の天界人の姿があった。

一人は長髪、片眼鏡をかけた糸目の男。

二人目は白髪短髪に、グラサンをかけ姿勢悪く佇んでる男。

三人目は黒髪ツインテールで、凹凸ない体つきのロリっ子。


どれも今まで見覚えのない連中。ダストに限らず神邏も面識はない。


「彼らは特に関係ないですよ。ただおたくが相手した魔族の力量が知りたくてね。南城が勝てる相手かどうか」

「…あのハーベルって小僧か、とんでもなく強いぜあいつ。ローベルト……から貰った力を使えば勝てたかもしれねえが」


様をつけそうになったダスト。

恨みつらみあるが、クセというのはそうそう抜けないようだ。


「南城って小僧がどれくらいの実力かは知らねえけど、まず勝てねえよ。朱雀に任せたほうが無難だな」

「…それほどの相手と見たと?」

「まあな。底が見えねえ…小生との戦いでも本気じゃねえだろうしな」

「他優勝候補は、そこまでの相手ではなかったのですがね」

「小生も試合はここのテレビで見たが、あんな二匹とは訳が違う」


そうなると優勝候補はみな近い実力というわけではないのだろう。

見立てが間違ってなければ。


果たして、南城に勝ち目はあるのだろうか…




神邏side。


ーー試合会場。


リング上には南城とハーベルがすでに上がっている。

……そんななか、


「殿下〜!ファイト!!」


観客席から複数の魔族が、ハーベルに向かって応援していた。

横断幕を掲げて、なかなか気合の入った応援だな。どういう関係だ?


殿下って言われてるが、王族のものなのか?魔族にもそういうのあるかは知らないが。


「へえ応援団かよ。羨ましい限りだ。まあ奴らには悪いが、……勝たせてもらうがな」


そう言いつつも、まったく羨ましそうに見えない表情だな南城。

まあ、他人の応援を羨ましがるような男じゃないか。


一方のハーベルは応援団に対し、侮蔑的な表情をしていた。


「いいかそこのガキ!ハーベル殿下と戦おうなんざ、百年早えんだ!惨めったらしく殺られるんだな!」


南城に対し、挑発してくる応援団。……あまり褒められた態度ではないな。野次みたいなものだ。


「ハーベル殿下は覇王軍の…」


「「黙れ」」


ハーベルの言葉と共に、応援団全員が発火!


「うぎゃ!!」「な!なんで…」「のぎゃあああ!!」


応援団と横断幕は、燃えカスになって散った。


部下か仲間だったはず……

なのに殺した?


「…何やってんだてめぇ。仲間かなんかだったんじゃねえのかよ」


南城の言う通りだ。さすがに理解不能。応援されてたのだし、慕われていたようにも見えた。

なにせ対戦相手を煽るくらいだ。


……そんな仲間を何故?

さすがの南城もどん引きしている様子だった。無論俺も。


「余計な事いいそうだったし?それにウザかったから殺した。それだけだけど?」


なにか変?と言いたげだな。

こいつにとってはさほど大したことではないってことか。

ろくな奴ではないな……


「余計な事…?覇王軍がどうのって話か」

「そ、まあ君はここで死ぬから、教えてあげてもいいけどね」


死ぬのはてめえだ。と南城なら言いかねなかったが、素直に話を聞くみたいだな。

おそらく興味があるんだろう。


「大きい声じゃ言えないけどさ、覇王軍ってのは帝王軍に反旗を翻そうとしてる組織なのさ。他にもそういった組織はあるけど、その中じゃ一番大きな対抗組織なわけよ」

「…要は内乱起こそうとしてる、レジスタンスみてえなものか?」

「…あんま聞こえよくないけど、まあそんなとこかな」


帝王軍…というか、バラメシア帝国の統治はまさに恐怖政治みたいなものらしいな。

圧倒的武力で各国に侵攻、蹂躙、乗っ取りを繰り返し大きくなった組織。それを考えると、反抗勢力があるのは至極当然の話か。


そんな組織の者がこんな大会に出ているということは…

俺達と同じく、情報収集のため帝王軍の者の捕縛、もしくは軍に入り込んで、スパイ活動を企んでいるといった所だろうか?


「そこのお偉いさんが、帝王軍の中に入り込んでなにか企んでるわけか」

「まあそんなとこかな。俺としてはスキを見せたら帝王の首、とってしまおうと思ってるけどね」

「できるわけねえだろ。なかなか頭お花畑なやろーだな」

「まあそれはいいんだよ。で、話漏れると不味いから、口封じのために殺すよ」


ハーベルは構える。


…南城、というか天界軍もまた、帝王軍に対抗するため似たような事をする。

そう考えると争う必要ないのか?



…なんて考えにはならない。

そもそも協力なんてできるような奴じゃない。先程の行動からもわかる。


それにこの男は人間界のどこかを支配し、悪道を行ってる話があった。とても信用できる相手ではない。


よって、それは無しだ。


「最後に一つ聞く。てめぇはその覇王だかの子供ってわけか?」

「そう、覇王軍が天下をとればいずれ、この俺の天下となるわけよ。いやあ楽しみでねえ」

「戯言を」

「…君もわりと不快だよねえ。応援の連中といいさ……」


急に眉間にシワをたて、怒りの表情を見せる。そんな苛立たせるような事してたか?


「そもそもさあ……。俺がこんなカスに負けるわけないよね?なのに応援するって何?そうしなきゃ勝てない相手とでも?勝つのは当然だろ?」

「情緒不安定な奴。…そんな事でキレるのはお前くらいなものだぜ」

「うるせぇクソゴミ!ぶち殺したる!」


態度違いすぎるな。先程の余裕な言動はどこにいった。

いや、むしろこれが素なのか?


「「それでは第3試合、スプリング対ハーベル…始め!」」


DJがコールした。戦いが始まる。


ハーベルはいきなり炎を繰り出し、それを人の形へと作り変える。


「さあこの炎人の餌食となるがいい!」


ハーベルの指揮のもと、炎人は南城に襲い掛かる。


「ふん、こんなトロくせえデカブツの攻撃なんて、当たるかよ」


余裕かます南城は、バックステップをして距離をとる


「何も近距離戦しかできないとは限らないでしょ」


炎人は指を弾きだす。

炎の指が飛んでいく、つまり火の玉を飛ばしてきたのと同じか。


「は?何だこんなもの。初級技の火炎玉ファイアボールよりもちゃちな攻撃じゃねえか」

「だったら連射ならどうかな?」


まるでマシンガンのように、何発も何発も高速で撃ち放ってくる。

対し、走り回りながらそれを避けていく南城。


「はん、同じことだ。この程度で俺様を殺ろうなんて、それこそ百年…」


ドゴン!と鈍い音がなる。

背後から南城は殴り飛ばされた。


勢い余って、地面に叩きつけられた。


すぐに南城は背後を見ると後ろに炎人の姿がある。

…何故?

いつの間に移動したのか?と言いたげな南城。


目で確認すると、炎人が先程いた位置にはいなくなっていた。


「教えてやる。放った弾丸が炎人へと姿を変えたのさ」


つまり避けた弾丸が、すぐさま炎人として姿を変え、逃げてた南城を背後から殴りつけたというわけか。弾丸の速度なら、入れ替わることで、瞬時に移動できるだろうしな。


「この俺の異名、炎具、それは炎をあらゆるものに具現化し、操る故の名。君程度では相手にならないんだよ。残念ながらなあ!!」



つづく。


「覇王軍…なんか帝王軍みたいな名前でややこしいですね~」


「次回 炎対炎 そう言えば、同じ属性ですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る