第59話  シャイニング

 水無瀬は俺の元へ来る。


「さすがね神邏。あなたの相手としては不足すぎたわね」


 ボディータッチして、やけに顔を近づけて褒める水無瀬。

 ……俺は顔をそらす。


「不足……ってほどでもないが」

「謙遜しないでいいわよ」


「「大番狂わせはつづくのかあ!第2試合の始まりだぁ!アールオン対ナナセ!こちらも一人は無名選手だぁ!」」


 DJが次の試合を宣告した。


「あら、出番みたい。じゃあ軽く倒してくるわね」


 くるりと回転して、リングへと向かう。


「……なんというか、つかめない子だな」

「とかなんとかいって嬉しいんじゃないの〜おにーさん?」 


 聖霊リーゼが聞いてきた。


「……いやまあ、好意をもってくれるのはもちろん嬉しいが」


 参加者の座る椅子へと俺は腰掛ける。南城の隣だ。


「さすがだな……とでも言っといてやるよ」


 目線を合わさず、話しかけてきた。


「……どうも」

「で、見立てじゃどうだった優勝候補は?容易な相手か?」


 戦った限り、余力を残しつつも完勝できた。そう考えると、


「まあ、そんな厄介な相手じゃない。と言っても、あの爺さんに限る話だが」

「四人揃って優勝候補だろ?さほど力の差はねえと思うがな」


 一人が圧倒的に強かったりしたら、その一人が優勝候補筆頭になるだろう。そう考えると四人の力は拮抗してると判断してもいいが……


「……そもそもなにをもって、優勝候補と言われてるんだ?別に魔力を測ったりはされてないが……」


 魔力を測定とかしてたら、それこそ俺達が優勝候補に躍り出るだろうしな。


「……例えるなら前回大会の好成績者だとか、人間界でどれだけの功績をあげてるか……ってとこじゃねえのか?」

「……前者ならともかく、後者の場合だと四人の力事態は測れないはず……」


 人間界で支配地域がデカい……それだけなら、確かに強いと判断まではできない。


 魔界ならともかく、人間界なら魔族の力を持ってすれば、どうとでもできるはず。

 天界軍の裏をかいて、逃げ回りながら組織をでかくすることも可能なわけだし。


「まあどちらでもかまやしねえ。相手がどれだけ強かろうが、ぶちのめすだけだからな」

「……そうだな」


 とりあえず話は置いておい、て水無瀬の試合を見ることにするか。


 次の相手の力量で判断も可能だろうし。



 水無瀬はリングに上がっている。

 対するアールオンもゆっくりと上がってきた。


 手が異様に長い。やや猫背になっているとはいえ立ったままで、地面に手のひらをつけるほど長い。


「なんというか……テナガザル、って感じね」


 フフと上品に笑う水無瀬。


「小娘さあ、舐めた口聴いてるとさあ、殺すよお!?」


 上着を脱ぎ捨てるアールオン。

 薄着になると胸の膨らみに気づく。


「あら?女性だったの。まあ女みたいな顔してるとは思ったけれど、ガタイがしっかりしてたから男性かと」

「うるせぇうるせぇ!黙って殺されな!」


「「それでは第2試合開始!」」


 試合開始のゴングがなると、アールオンがいきなり仕掛ける。


 長い腕をムチのようにしならせ、ぶんぶん振り回す。


 水無瀬はそれを軽く躱し続ける。


「「なんとなんと!すごい攻撃範囲だ!でもでも当たらなーい!」」


「伸打の……って異名から、どんな戦法かと思ったのだけれど、大したことなさそうね」

「黙ってろ!」


 ムチのような腕はどんどん伸び、逃げ場をなくすようにぐにゃぐにゃ動いて水無瀬をねらう。


「……ただ攻撃範囲は相当なものね。ていうか腕伸びてるけど、どういう事……?」

「そらそらそらそらそらそらそらそらそら!!」


 流れるように続けてくるアールオンの攻撃。


 ……ふと何かに気づいた様子の水無瀬。


「あれ?手のひらはどこ?」


 水無瀬の視界には腕の部分しか見えない。

 まだ伸び続けているのだろうか?

 いや、違う! 


「……地面だ!」


 俺は叫び、合図を送った。

 読み通り地中を突き破り、手のひらが水無瀬をねらう!


 が、間一髪反応し、ジャンプして避ける事に成功。


「神邏、ありがとう!」


 俺を見てウインクしてきた。

 ……礼とかいいから目を離すな。


「避けたつもりか?」


 ぐるぐると長すぎる腕が、水無瀬の周りを包む。

 円形の形を作り上げ、その中に水無瀬を閉じ込めた。


「あら?真っ暗」

「腕の中に閉じ込めてやったまで!中は空気がなくなり酸欠を引き起こす……とはいっても魔族はそんな事じゃ死なないけどねえ…」


 アールオンは笑っている。

 …水無瀬が魔族じゃないと気づいているのか?


 とはいえ人間でもない天界人なわけだが、奴は人間と判断したのかもしれない。

 そうなると酸欠で殺そうとするのもわかる。


「「あまりの出来事に実況ができませんでしたー!地中から手が出たと思ったら、取り囲んでナナセ選手は閉じ込められております!」」


「硬質化!」


 閉じ込めてる腕が、鉄のような色に変色した。


「これで腕を切るなんてことも無理」


 金属性の魔力で、腕を固くしたように見える。

 自信を持ってるようだから、相当な硬さなのかもな。


「さぁてと」


 腕が水無瀬に近づいてくる。

 酸欠狙いなだけでなく、このまま押しつぶす気のようだ。


「甘いわね……チョコレートよりも甘いわ」


 水無瀬は魔力を集中……すると。

 突然発光!


 腕の中に閉じ込められているのに、外にいるアールオンが眩しさで、目を閉じずにいられないほどの光が放たれた。


「ぬわっ!?」

「「ま、まぶしー!!」」



 観客や参加者のほとんどが、目を背けたり目を閉じた。


 ……しばらくして発光は止む。


「な、なんのつもりだよ。そんなことしてウチが腕の拘束解くとでもおもったのかよ」


 アールオンは目くらましされた間も、腕の集中を途切れさせてはいなかった。

 魔力の集中もしていたし、緩めてなどけしてない。


 ……けしてないのだが……


「ハロー」


 声のした方角に手を振る、水無瀬の姿が!

 拘束は解いてないのに、外に水無瀬がいる?


「「お、おっとー!?ナナセ選手脱出したのかあー!!」」


「な、な!?ど、どうなってる!?」

「そんな事で私を閉じ込めたつもりだなんて笑えるわね」


 クスクス上品に笑う水無瀬。


「お、おのれ!」


 アールオンはどうやって逃げ出したのか検討もついてなさそうだ。

 だがなんにせよ、逃げられたのは事実。

 そう思ったか、円形を作った腕を解く。解かねば攻撃できないから当然なのだが……


 解いたその中心部に、水無瀬の姿があった!


「なに!?」


「「あれ?ナナセ選手がいる?」」


 水無瀬は閉じ込められたままだった?


「え?じゃ、じゃあこっちのは」


 外に見えていた水無瀬の姿は、徐々に薄くなって消えていく。


「に、偽物か!?」

「遅いわよ気づくの」


 水無瀬は瞬時にアールオンの目の前に移動。


 長い腕も懐に入られれば、対応できない!


熾天使セラフィム!」


 水無瀬の背後に多くの羽を生やした、美しく、きらびやかな天使の姿が映り込む。彼女の聖獣か?


閃光突破シャイニングショット!」


 光り輝くレイピアによる、超スピードの突き。

 その突きは衝撃波を生み。アールオンの体を貫いた。


 ポッカリと大きな風穴が空いた。

 音もなく静かに……


 しばしの静寂の後、血が飛び散っていく。


「が、がっ……」


 ……まともに声も出ないようだ。

 そして白目をむき、倒れ伏せて、死亡した。


 そんなアールオンの姿を確認するDJ。


「「な、なんということだ!またも大番狂わせ!か弱き乙女な姿は見せかけ!そんな勝者はナナセ選手だぁ!」」


「何が見せかけよ。失礼ね」


 少しご立腹な水無瀬。怒った顔もかわいらしいな。

 スンとしてリングから降りていく。



「……強いじゃないか。不安みたいに言ってたが」


 俺は南城を見て言った。


「敵が大したことなかったからだろ。まあ十二クイーンを名乗るならこれくらいはしてもらわないと困るがな……」

「……素直にほめてやれよ……」


 水無瀬は俺に手を振って近づいてくる。


「そういうお前はちゃんと答えてやれよ」

「……わかってる」


 俺は手を上げる。

 水無瀬はその手にタッチ。


「簡単に勝ってきたわ。どう?強いでしょ私」

「そうだな。さすが十二クイーン

「当然よ」


 誇らしげな水無瀬。

 俺と同じく無傷に近いし、実力は疑いない。

 あの最後の一撃の威力はかなりのものだったしな……


「あの外にいたのは分身か?」


 閉じ込められていた時、外に見えた水無瀬の姿……それについて質問してみた。


「あれは私の能力・陽光分身シャイニング今度二人きりの時に説明するわ。神邏」


 そう笑顔をみせる水無瀬。

 ……くるりと今度は南城のほうを見る。


「……で、私の後に続けるの?南城」


 私は勝ったけど?と言いたげに挑発するように笑う。


「たりめえだろ。俺様の実力とくと拝んでるんだな」


 南城は立ち上がり、対戦相手のハーベルを見る。


「舐めた口聞いてたよね君。謝るなら命だけは助けてやってもいいけど?」


 ハーベルの言葉に南城は鼻で笑う


「ほざけ。てめえの命日は今日この日だ」


 二人はにらみ合いながら、リングへと向かって行った。



 ――つづく。


「……あ、終わりました?見てなかったですよ~」


「次回 覇王の子供  覇王?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る