第58話  トーナメント開始

「小僧、不運だったのう…いきなりこの儂と戦うことになるなんてのう…」


仙人チバクはニヤニヤと卑しく笑っている。


「……いや、そうでもないさ」

「なんじゃと?」

「あんたの戦法は読めてる。なんなら戦闘前だというのに、仕掛けてきてる事も承知なうえだ」

「一一!!」


チバクは距離を取りだす。


「いや、まだ俺は仕掛けないさ。戦いのゴングも鳴ってないしな…」

「小僧め…」


唇をかみ、苛立ちをみせている。冷静さを失ってくれるなら悪くない。


「「レディースアーンジェントルメーン!!それでは初戦、サウス対チバクの試合を開始します〜……始め!!」」


DJの声が響いた瞬間、チバクは動く。


両手からなにかを投げるような素振りを見せるが、それよりも早く俺の烈風がうなる!


烈風はチバクを吹き飛ばして、リング外側まで弾き飛ばす。


「のわあああ!!」


なんとかリング外には落ちなかったチバク。

とはいえ本戦は場外負けはないので、落ちようが関係ないのだが。


勝敗を決めるのは死亡と10カウントだけ。


「「おおっと!先制攻撃かあ!?サウス選手の烈風に弾き飛ばされたチバク選手!」」


「ぐ、くくぐおのれ…」


なにか腹をたてた様子。

ただ吹き飛ばされただけにしてはやけに怒っているな。


「撒いたのは毒かなにかか?」


質問してみた。

……チバクは黙っている。

これは肯定を意味してそうだな。


そう、やつがなにか投げた素振りを見せたのは、目では捉えられないほど細かい猛毒の粉だ。


魔力によって作られたものなので、魔力を宿す者にも通用する代物かもしれない。とはいっても効かない奴には効かないか。

例えば魔力相性が悪い相手とか。


この粉は空気に乗って相手の体内へと侵入する。それにより相手は気づかずに猛毒によって倒れてしまうようだ。


予選で何もしてないように見えたのは、気づかれないよう周囲にばらまき毒で対戦相手を殺しつくしたからだったらしい。


即効性らしくかなり強力な毒。

奴の仙人の名、それは予選のように何もしていないのに敵を倒し、笑う危険なジジイの姿から呼ばれるようになったとか。



すでに試合開始前からチバクは毒を撒いていた。

開始すぐに俺を毒で殺すためだったのだろう。


だがチバクから目を離さなかった俺はなにかしたとすぐに気づく。

手を後ろに回して隠しながら毒を撒こうが無駄な事。

風の流れで、なにか空気中に流れたことも、指で毒を撒いた事もバレバレだ。


そして毒を吸う前に、烈風で吹き飛ばし、切り裂いて消し去って見せたのがさっきの一連の流れ。



「ふ、ふふふ。やるのう…瞬時に儂の秘密を暴くとは。今まで儂の特性の猛毒で、あらゆる者共を殺しつくしてきたが、魔族とはいえ人間界の者に破られるとは思わなんだ」


…どうやら魔族と思われてるようだな。作戦は見事成功してる。


「「よ、よくわかりませんが先制攻撃してたのはチバク選手でサウス選手が反撃した…と言う事でしょうか!?」」


「久方ぶりじゃぞ。儂自身が動くなんてのう」


直接かかってくる気だろうか?チバクは服を脱ぎ、上半身裸に。

ジジイながら体はムキムキ。


「だかのう…別に毒が効かないわけでもないのじゃろ?ならやり用はある!」


チバクが視線から消えた!

ワープでもしたかのように。


だが、見失ってはいない。

すぐにチバクの姿を確認…したが、


「ホッホッホホッホッホ。どうした?」


チバクが二人に分裂…いやさらに分かれ続けていく。

何人も何人も増え、リング外周全てにチバクの姿が見える。


「「な、なんとぶ、分身の術かぁ!!チバク選手が…な、何人だぁ!?20、いや30…もっといるー!?」」


何十人ものチバクに囲まれた。


「ホッホッホどうじゃ誰が本物かわかるまい?この何十人もの儂の猛毒攻撃防げるか?360°全てから襲い掛かる儂の攻撃が!」

「……」


俺は涼しい顔して眉一つ動かさないで黙っている


「どうした?諦めたのかのう?なら、望み通りにしてやろうかのう」


全てのチバクが毒粉を撒き散らす。量が多すぎるせいか、誰の目にも見えるほどの鱗粉だった。


「さっきみたいに風でかき消してみるか?この周囲全てを!」

「……そうだな」

「へ?」


両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、なにかをする素振りすらみせずに、体から魔力…というか烈風を放出した。

俺の周囲360°全てに。


「「ど、どわあああああああ!す、すごい風だあ!!」」


必殺技の絶華を撃つときでもないのに、周囲全てに風を起こす事ができるくらいの魔力のコントロールは可能になった。


これも魔力の聖霊イリスのおかげでもあるのかもな。


烈風は毒鱗粉だけでなく分裂、分身したチバクをまとめて、全員切り刻み消滅させた。


分身戦法は俺に通用しない。


烈風により全て消え去った……そう全て。


「「な、なんという烈風…全てを切り裂いてしまったのでしょうか!?チバク選手の姿もありません!」」


チバクの姿がない…?まさか今ので死んだわけないよな。


……つまり、本物は分身の中にいなかったわけか。


そこにいると思わせただけ、毒鱗粉も囮か。


キョロキョロ周囲を見回しながら歩く。どこにいるか探りながら。


数分時間が経過する。何も起きないし、気配もない。

そして俺は立ち止まる…


「…審判、奴は死んだのでは?姿も見えませんし」


DJに聞いてみた。


「「え、あーそうですね~何も感じませんし…10カウントして出てこなければ死んだと判断しましょうか」」


DJがそう言うと、観客席上の巨大テレビに1の文字が浮かぶ。

そして2、3と進む。


「「4!あれぇ?5!やはり死…6!んでしまった、7!のでしょう8!かねえ」」


数字を述べながら話してるDJ。

…器用な男だ。


「「9!…」」


10カウントが終わる…その瞬間!


「バカめ!!隙だらけじゃ!」


チバクは現れた。

どこからともなく俺の背後から!


床からいきなり姿があらわになって現れた……?

否!奴はリングの床に擬態していたのだ。つまり最初から奴はリング上にいたわけだ。


分裂に紛れて、リングの床を壊し、その壊れた部分に擬態して、床のタイルに化けていた。

カメレオンかこいつ……


そして俺がチバクの床を背にして、立ち止まりチバクを死んだと油断した。そのスキを奴はついたわけだ。



油断をせずこの場に赴いた俺が油断ねえ……

確かに死んだと勘違いしたなら、わからなくもないが…


ーーそれはない。



「が、がっは…」


チバクは吐血していた。


スキをついた…はずだったのだろうが、俺は振り向きもせず、瞬時に朱雀聖剣サウスブレイドを出し、チバクの腹部に剣を突き刺していた。


「な、なんで…じゃ」

「床に化けてたとは思わなかったがこの周辺にいるのは分かってた。…それでおびき寄せるために背を向けて、審判に10カウントを要求したんだ。俺が油断してるとおもわせるためにな…」


全部ブラフだ。

チバクはそれにまんまとかかってくれたわけだ。


「ぐ、ぐぞがあ!!だがこの距離なら避けられまい!」


猛毒の鱗粉と、それを存分に塗りたくった斧で切りかかるも。


「…遅い」


朱雀聖剣サウスブレイドで一刀両断!


「ぎゃあああ!!」


チバクも、斧も、毒の鱗粉も全て一刀でぶった切った…

きれいに半分に分かれ、血にまみれてたおれた。


「「お、おわあああ!!またしてもよくわかりませんでしたがぁ!半分に切り捨てられたチバク選手を見るに、勝敗はDJにもさすがにわかりました!」」


DJは俺を指し、


「「勝者ぁ!サウス!」」


歓声が鳴り響く。

ルミアの喜んでる姿が観客席から確認できた。


「「なんとなんと優勝候補の一人が無名選手に破れました!これは前回大会のようになる前触れかぁ!」」


前回大会は無名選手が優勝したのか。俺達がいる限り、その再来となるだろうな。



「ま、マジ?チバクのジジイ簡単に殺されやがったよ…」


リングから降り、参加者連中とすれ違うと、ハーベルら他優勝候補が驚愕していた。


「…さすが神邏ね」

「まあ奴なら当然だろ」


仲間の二人は納得の表情。

あっさり勝つとは思ってなかったかもしれないがな。


「問題はお前だかやれるのか?美波は余裕あるみてえだし、あいつに任せてもいいんじゃねえの?」

「バカ言わないで。私も神邏に続くわよ。少しでも試合数減らさせて神邏の負担を軽くさせないと」


水無瀬はレイピアをぶんぶん振るってリングへと向かう。


「神邏に私の強さ見せてあげないとね。未来の奥さんの」



つづく。


「神邏くんおめです〜怪我なくおえてよかったです~。なんか戯言ほざいてる女の人は無視ですね~」


「次回 シャイニング 眩しそ〜ですね」




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